六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~   作:アルポリス

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サブタイは凄そうに見えてそこまでではない話。


始まりを告げる福音

 久しぶりに私はこの道を歩いている。長いようで短い茂みの覆う道をゆっくり歩いていれば私の第二の故郷、正確には第三となる故郷が今も変わらず迎えてくれた。

 

 家々が僅かに建っている俗に言う田舎町、名をマサラタウンと称するこの町は私に帰郷の念をよく起こさせる。要は静かで落ち着く良い町なのだ。

 

「とりあえず、研究所に行くとしますか」

 

 私の肩に座る他者には見えない相棒が頷く。

 

『久方ぶりの故郷、存分に楽しんでください、我が主』

 

 静かでいて威厳の込められた念波が私の頭に届く。

 

 五年前、虫モドキと呼んで泣かれたポケモンはこの五年でよく分からない成長をしてしまった。

 

『いかがなさいましたか?』

 

 堅い、何もかもが堅いよ。あの頃は語尾に『の』などをつけて胸をキュンとさせられたのに今じゃその欠片すらも見せてくれない。五年の月日は私に色々なものを喪失させたようだ。

 

「アイ、お前は頼もしくなったな」

 

 私が皮肉を僅かに込めて賞せば、アイと呼ばれたセレビィはどこか誇らしげにビィと鳴いた。

 

 私たちはこの五年でいろいろな場所に行き、そこで大いに学び、成長の糧とした。その中には自身の命の危険を感じさせたものも多く、相棒のアイは私の片目となって共に良く着いてきてくれたと思う。この子がこういった成長をしてしまうのも仕方が無いのだと思う反面、少し残念に思ってしまうのは我侭だろうか。

 

『主が私のこの口調をよしとしていないことは理解しているつもりです』

 

 相棒のお前には余り隠し事が出来なくなったのもこの五年で得たものの一つだ。

 

 一心同体とはこういったことを言うのだろう。片目での生活を支えてくれた一匹として誇りに思うがまさか片目の代わりになろうとはあの時の私やアイも考え付かなかったはずだ。

 

『ですが、他の仲間たちの手前、私が見本にならなければならないことはご了承していただいたはずですよ』

 

 アイがこのような口調になったのは他のポケモンを手持ちにした頃だったか。

 

「私の仲間は曲者ぞろいだからな」

 

『目に余るものは私が制裁を行わせていただきましたね。だからこそ私が主を立てなければ序列が崩れてしまうのです』

 

「本当にお前は私に対して過保護だな」

 

『何をおっしゃる、そうさせたのは主です』

 

「私としては楽しかったけど」

 

『言ってくれますね、私は何度泣いたことか』

 

 私が怪我をするたびに大きな瞳からポロポロと涙を零していたな。そうか、結局は私の自業自得というわけか。むしろアイを悲しませた極悪人と呼ばれるべきだな。

 

『ですが、後悔はありません。あの時、主をあの世界から連れ出したことを含めなければ』

 

 苦笑するしかない。この子は未だにあのことを後悔しているのだ。端から私は恨んでなどいないのに。

 

「お前は私が恨んでいないといっても後悔せずにはいられないのだろうな。本当に真面目だよ。だから私は何度も言おう、この世界に連れてきてくれてありがとう、と」

 

『もったいないお言葉です』

 

 いいさ、私かお前が死ぬまで言い続けよう。お前は私の相棒で失った片目のような存在で掛け替えの無い半身なのだから。

 

 

 

 

 

 

 ><><><><

 

 

 

 

 

 

 この町の中で一際大きな建物がある。そこが私の目指す研究所だ。五年前、病院と勘違いしていた場所でもある。

 

 勝手知ったる、なんとやら。研究所の中に入っていけば何人かの研究員が私を見て僅かに驚き苦笑を浮かべて中に行くことを薦めてくれる。むしろ雰囲気的には逝けと命令されているような感じだ。

 

 どうやら一年もの音信普通は我が祖父をいたく憤慨させたようである。

 

 研究所としては決して狭くは無く、かといって十分な広さとはいえない部屋を通り抜け、個人的な目的のために作られた研究室に辿り着けばキツイ眼差しを向ける我が祖父とご対面である。

 

「祖父不幸の馬鹿孫がようやく帰ってきたようじゃのう」

 

 これはまたキツイお言葉で。

 

「して、何か反論はあるかの?」

 

 ええ、ございませんとも。とある地方で伝説級のポケモンと対峙していたなんて言えませんとも。

 

「お前さん、もう少し落ち着いてはどうじゃ。それじゃあ、命がいくつあっても足りないじゃろうて」

 

 何のことやら?

 

「ダークライ」

「申し訳ございませんでした」

 

 尽かさず私は頭を下げた。なんてこったい。ばれてぇら!

 

 しかし、誰が乙女の秘密をばらしたと……

 

「相棒、謀ったな」

 

『主についてのことは逐一オーキド博士に報告するのが私の務めかと』

 

「その通りじゃ。いくら旅慣れした元チャンピオンとは言え、お前さんはまだ、未成年だからのう。おっと、アイを怒るのはお門違いじゃぞ」

 

 私はそこまで子供ではないつもりだ。ただちょっとお話という決闘をしようかと思っただけですが、なにか?

 

「ばかもん、その時点で子供じゃ。そして不用意に力は使ってはならん。お前さんの世界を狭めてしまう恐れがある。祖父としてそれは見過ごせん」

 

 おっしゃるとおりで、私の力を善悪関係なく欲しがる輩は際限なく沸いてくる。そのせいで一時期人間不信に陥ってしまったこともあった。あの頃は家族やポケモン仲間、人間の親友たちの支えで何とか立ち直れたものだ。懐かしい。

 

「お前さんの力は使い勝手が良いからのう。欲しがる組織は多い。お前の相棒たちを含めての。お前さんが望むなら、わしは何も言わん。じゃが、それ以外に関しては許すつもりはない。覚えておくことじゃ」

 

 ほんと、こんなことを血の繋がらない私に言える爺様マジリスペクト。かっこよすぎでしょう。あの頃の信用していない私をマジ殴り飛ばしたい気分ですな。相棒に頼んで過去に飛ばしてもらおうかしら。

 

『無理です』

 

 早速の突っ込みありがとう。でも、本当に爺様は私を孫にしたかっただけだと言われたときは驚いたもんだ。

 

「お前さんは手負いのニャースみたいなものじゃったからな。取引を持ち出さなければ頷きはしなかったじゃろが」

「私は猫ポケモンか!」

「同じようなものじゃろうが。わしはな、お前さんが血だらけで庭に現れたときから孫にしようと思っておったよ」

「さては爺様、昔犬猫ポケモンを連れて帰っては親に反対された口だな? そんで捨ててきなさいとか言われて泣きべそかいていたわけだ」

「恥ずかしいなら、素直にそう口にしなさい。顔を赤くして悪態ついても可愛いだけじゃ」

「もう勘弁してください。私の羞恥心が爆発します」

 

 素直に負けを認めれば爺様は苦笑を浮かべて私の頭を撫でてくる。だから、それを止めてくれとは言えないんだよね…うれしいからさ。

 

 ホント、私の人生良き縁に巡りすぎだよ。

 

「生き物は縁によって巡り合い、縁によって袂を分かつ。人もポケモンも同じじゃ。わしはお前さんに縁を感じ受け入れた。仮にそれで手痛いしっぺ返しを食らってもそれもまた縁が与えたものじゃ、後悔はせん」

「いつか騙されるよ、爺様」

「これでも人やポケモンの見る目はあるつもりじゃ。現にお前さんはわしの家族になったしの」

「それを言われると何もいえなくなる。だからこそ、聞きたいもしもの話。私が今も爺様の家族を騙していて、いつか傷つけるようなことをしたら爺様はどうする?」

 

 爺様は少し考えてやはり苦笑した。

 

「法にのっとり対処するかのう。それが出来なければわしのすべてを使ってでもお前さんを止めるだろう。じゃが、先ほども言ったように後悔はせんじゃろうな」

 

「その考え、あの子達に話したらだめだから。そこまでの心意気はある意味残酷だよ」

 

 けど同時に気づくんだよ。他を省みない天才が世界を作る礎になるのだと。ポケモンという不可思議な生き物が跋扈する世界で第一人者と呼ばれるだけの物を持っているのだと。

 

 爺様はポケモンを深く愛している、どんなポケモンも自身の心に受け入れるだろう。仮に爺様自身や大切なものを傷つけられてもそれは微塵も揺るがない。揺らいでいたら研究など出来ない。

 

 もっとも爺様はその中で別格にお人よしの部類に入るけどね。

 

「お前さんじゃから言ったんじゃ。これはわしの人格形成から今までの長い人生で出してしまった答えで、それはこれからも変わらんじゃろう。じゃから、お前さんが守っておくれ」

 

 ほらね、これがある意味お人よしの天才が行き着く選択だ。

 

「そこで私に投げるか?」

「お前さんはわしとは正反対に位置する存在じゃ。大切なものを自身の犠牲にさせることを嫌悪する。だから任せられるのじゃ」

 

 自分に出来ないことはそれが出来る相手に丸投げする。実に理にかなった選択だ。私の性格を見抜いた上だから性質が悪い。

 

「まあ、私の出来る範囲でそうさせてもらうよ」

 

 ああ、本当に性質が悪い。私が家族を愛していると理解していて、答えなど決まっていると理解されて口にされるのだ。これはある意味詐欺と変わらない。

 

「当然じゃ、お前さんもわしの家族。無理のない範囲で頼むよ。ただ、自身を省みない行為は慎むようにの、わしや妹たちを泣かせるだけじゃて」

 

 しくじった。話を戻してしまったようだ。

 

「わしらは正反対でありながら根本は同じ、どちらも突き詰めれば自己犠牲に分類すると思うが、どうじゃ?」

 

 愛する家族を持ちながらもすべての事象を受け入れ探求してしまう爺様と愛するものを守るためなら自身の犠牲をいとわない自分。

 

「少なくとも私は頷いてしまうな」

「今はそれで良い、お前さんはまだ若いからの、いくらでも変われる余地があるというものじゃ。……言っておくが前世は換算してはいかんぞ、そんなものに意味はない」

 

 ここでようやく意図に気づいたわけで。ここまでの話から何が言いたいのかというと。

 

「私は説教をされていたわけだ」

 

 そう言えば、爺様は、それはもういい笑顔で頷いた。前置き長すぎだよ!

 

「これからは気をつけます。家族に泣かれるのはあの時だけで十分だ」

 

 私の答えに満足したのか爺様は一つ咳払いした。そして本来なら初めにやらなければならない行動を再開した。

 

「おかえり、メリー、アイ」

 

「ただいま」

 

『ただいま帰りました。オーキド博士』

 

 メリーこと、私は満面の笑みで爺様に抱きついた。

 




そしてまだ触り……だと!?
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