六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
爺様が入れてくれたコーヒーを飲みながら旅の思い出を語っていると部屋の外が俄かに騒がしくなっているに気づいた。
「何事か起きたんじゃないか?」
私がそう問えば、今思いだしたといわんばかりに目を開き、次いで苦笑を浮かべた爺様が椅子から立ち上がる。
「お前さんが帰ってきたことですっかり忘れておったわ。わしも年かのう」
「ボケるにはまだ早いだろうさね、それで?」
「お前さん、良いときに帰ってきたのう。よいか、わしが合図するまでこの部屋を出てはならんぞ」
そう言って、爺様が部屋を出て行った。残った私としては理由も告げられず、爺様のあくどい笑みを見せられ、なおかつフェードアウトされて呆気にとられるしかない。
「何なんだ?」
『どうやら、あなたの可愛い悪童達が騒いでいるようですよ』
「なるほど、私は当て馬というわけか」
アイの言葉で爺様の目的が理解できた。
『それだとオーキド博士の思惑から外れてしまいます。超えることの叶わない絶壁であって頂きたい』
呆れたような念波を受けて私は笑う。
「爺様もあの二人には手を焼いているようだねぇ」
『そのようです、私の未来予知も馬鹿にならなかったでしょう?』
「お前が珍しく故郷に帰ろうと言い出したから何事かと思えばこのことだったのか」
アイは滅多に意見しない。私のそばを離れずただ、着いてきてくれる。そのアイが進言して来たのだから何かあるとは思っていたのだが、どうやらその通りだったようだ。
「お前はあの子達を高く評価していたからな」
『ええ、彼らはこの世界において一つの中心のような存在ですから』
「確か、前に話してくれたポケモンと歩むべきものたちだったか」
旅のさなか、アイが語ったこの世界に存在する変えられない事象、ポケモンと人の切れない繋がりを見せ付ける運命の子達の物語。そのプロローグこそが変えられない事象なのだとアイは自嘲を交えて語っていた。
『ですが、それは始まりだけに過ぎない。運命とは人とポケモンの可能性の数だけ存在しますから』
「単純な話、この世界にポケモンと人がいる時点で決められているようなものだろ」
ポケモンと人はいわば種族の隣人同士、出会わないということは決してないのだから。それならば共に共存するかどちらかを滅ぼすしか道はなく、今この世界がポケモンと人で溢れている事実があるならば過去の彼らは共存を選んだということだろう。
『その通りです、神がこの世界の仕組みとして作り上げたもの。ですが、その中でも彼らは特に重要な位置を示している』
「あの子達はそこまでなのか?」
『これはポケモンの中でも特殊な一族と特異なポケモンだけが知りえた真実、いかにこの世界が残酷なのか突きつけられる太古からの神話、残念ながら私にそれを語る資格はありません。私自身がこの世界の特異点だからです』
つまり、根拠は述べられないということを言っているわけだ。特異点とはアイの能力によるものかと当たりをつけて問いを流すことにした。
『唯一つ言えるのは彼らがこの世界の始まりを告げる福音だということです』
過去から連綿と続いてきた今の世界、しかし今こそが始まりなのだと告げる意味は一体いかなる理由なのか、深く思考するために目を瞑ろうとしたその時、爺様のわざとらしい咳払いが聞こえた。
「どうやらこの話はここまでのようだ。アイ、すまなかったな」
『私こそ、お話出来なくて申し訳ありませでした』
「構わないさ、そういった制約なのだろう」
『制約ですか……なるほど、あれだけの話でそこまで飛躍させますか、恐れ入ります』
仮に彼が一族と同じ能力を有していた場合、彼はその力を使って実際その目で見てきただろから。そしてそれが、制約をクリアするたった一つの方法なのだ。
そう、制約とは己が体験したものだけを語らなければならないというシンプルなもの。未だに研究途中のポケモンだからこそある制約。
「果たして、伝説級と呼ばれるポケモンのうち、いくつぐらいが語れるのか……そうだ、語られるには資格が必要かもしれないな」
再び思考に潜ろうとする私をアイが止める。
『そろそろ行かなければ、オーキド博士の喉を痛めることになりますよ』
研究所全体に響き渡る咳き込みが少し物悲しく思わせる。私は思考を戻して不敵な笑みを浮かべた。
「さて、行くとするか」
『どのように?』
「エンテイはわが子を奈落に突き落とすという」
『捏造はいけません』
ツッコミが早いです、アイさん。
いったん仕切りなおしてアイに視線を送る。
「……彼らに試練という名の屈辱を味あわせ、彼らの心に一つの高みとは如何なるものかを焼き付ける」
『初めからそう言って頂きたい』
ごめんなさい、小言は勘弁して。
「この世界に彼らの屈辱にまみれた悲鳴を盛大な福音として鳴らそう」
そう言って私は扉を開いた。
深く掘り下げず、さらっと流してくれたら嬉しいな……どうしよう、拾えるかなぁ。