六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
そこでの光景を見て私が最初に思ったことは一つ。
なにこのカオス、である。
対峙する二人の少年と二匹のポケモン、数千万はくだらない機材が煙や火花を上げ、壁や床が所々粉砕、研究者が部屋の隅に集まって見守っている。私を呼んだ爺様は腕を組み、ため息を吐いて現実逃避。ほら、カオスでしょ。
二人の少年は互いに睨み合っていて私の登場に気づきもしない。かなり疎外感を抱くが、これも日常だと思って諦める。この二人は切磋琢磨するライバルであり、バトルなどでは互いしか見ておらず、その他は端にかけないのだ。
黒髪の赤い帽子がトレードマークの少年――名をレッドという少年は寡黙で多くを語らない。一見年齢の割には大人びた印象を見せるが、その心にはポケモンマスターという壮大な夢を持つ、クール系熱血少年である。そしてそれを行えてしまうのではと思わせる実行力と運も持ち合わせているのだから末恐ろしい。
そしてもう一人、茶髪の逆立った髪がトレードマークの少年――名をグリーンと呼ぶ私の可愛い弟は表面上年齢相応のワンパク少年といった態度を見せながら内心では冷静に相手を見据え、爺様譲りの頭の良さで分析する。徹底して見定め敵対するものには容赦をしない傲慢さも持ち合わせた我が弟は姉ながら末恐ろしい。
冷静に見えて理想論者のレッドと子供特有の愚かさを演じながら内心嘲笑う現実主義者。
この二人を見て水と油のような関係とはまさにこのことなのかと一つ賢くなったほどである。
そしてそんな二人の相棒を自負するポケモンたち。私のアイのように彼らが今より幼いときから一緒にいたポケモンたちは相棒の望みを叶えるべく常に共にある。
レッドの相棒を自負する黄色い電気ネズミ、ピカチュウ。元々、マサラタウンの近くで大怪我をしていたところレッドに拾われ、献身的の介護されたことで懐き、いまにある。いや、懐くとは可愛く言い過ぎた、あのピカチュウはもうレッドを崇拝している。私に過保護のアイですらドン引きさせるほどレッドに心酔しているのだ。
では、グリーンの相棒を自負するポケモンはなにかと問われれば、漆黒に彩られた体毛と血のように赤い瞳と夜の月を思わせる模様が特徴のブラッキーである。ちなみに元はイーブイだ。
グリーンが小さい頃、私がたまたま旅先で手に入れた卵をあげたのが始まりだった。グリーンはそれを研究所の機材を己の容姿が持つ魅力で巧みにおねだりすることで使わせてもらい大切に育て上げ、孵化させた。昔から計算高いやつである。
孵化したイーブイはグリーンを親のように慕い異常に懐いていた。その為、親であるグリーンのために強くなろうと努力し、結果、生まれて僅か二日でブラッキーに進化したのである。ちなみに私と爺様は知っているが、すべてグリーンの計算だ。卵のときから親が誰かを語りかけ、昼夜問わず、自分の特徴を動かない卵につぶさなく教え込んでいるところ見かけたときは我が弟ながら怖かった。
生まれる前後は家族だろうと会わせてもらえず、見せられたときにはブラッキーだったのだから、爺様は驚愕して科学者モードになるわ、私は飯を食わずに何していたのだと呆れたものだ。
さて、この二匹のポケモン、相手を心酔しているのはもちろん、その強さも並とは比べられない。偏に自分たちの相棒を満足させるため研鑽してきたのだ。
ちなみに彼らは十一歳。ようやくポケモンを持って旅に出られる年齢になったばかりである。
『まったく持って末恐ろしいものですね』
アイの念波に私は頷く。
だからこそ、ここで止めさせなければならないのだ。彼らに生まれてしまった傲慢さを。
『アイ、蔓のムチを』
私の念波を受けて、アイがその姿を晒すと背中から直径一メートルほどの蔓を伸ばし、二人の少年が対峙する真ん中に振り下ろした。
およそ、蔓とは思えぬ轟音を奏で、地面が抉れる。不意の衝撃と音で対峙していた二人と爺様、研究員たちが一斉に私を視線に捕らえた。
「お前たち随分と威勢が良いじゃないか、私とも遊んでおくれよ」
決まった、私かっこいい。
『主、口には出さないでくださいね。それだけで残念になりますから』
分かってるよ、ちょっと中二病を出しただけじゃないか。
爺様と研究員は苦笑、二人の餓鬼共は珍しくポカンとした表情を浮かべている。
「これから旅立つお前たちにこの姉からささやかなプレゼントを贈りたいと思うのだが受け取るか」
レッドが僅かに口の端をあげて言う。
「…メリー姉さん、帰っていたんですか」
「何だよ、姉貴。俺たちの華々しいデビュー戦の邪魔しないでくれよな」
言って、グリーンは私をにらめつけた。
「おう、怖い。グリーンは万年反抗期に突入か。レッドは礼儀正しいねえ、内心でどう思っているかは分からないけど」
レッドもきっと内心ではご立腹だろう。グリーンの場合は私のプレゼントが何か考えているといったところか。
「……メリー姉さん、僕たちにプレゼント頂けるのはありがたいですが、まずは勝負をつけたいのですが」
「そうだぜ、要は邪魔すんなってこと」
おうおう、この餓鬼共は言ってくれるね。まあでも。
「子犬のじゃれあいを見ても私が面白くないわ」
私が挑発すれば二人と二匹のポケモンの気配がガラッと変わる。
「言ってくれるじゃねぇか、元チャンピオンのお姉さま」
グリーンが鼻で笑う。
「そうですね、元チャンピオンのあなたからすれば、僕らなどじゃれあいにしか見えないのかもしれませんね」
レッドが無表情で私を見据える。
ぴかぁっと鳴いて黄色いネズミがレッドの前に躍り出れば、ブラッキーが静かにグリーンの前に佇んだ。
思わず、いい気迫だと感心してしまう。私をかみ殺さんとばかり睨み付ける二匹に、私の行動を一つも見逃すまいと見据える二人。これがまだ、トレーナーでもないのだから末恐ろしい。
私が与えるプレゼントを理解したのだろう、その上で挑もうとするのだから心が震える。
腰から一つのボールを取り出すと二人と二匹の前に掲げる。
「この子を沈めたらお前たちの勝ちだ。私から子犬たちに送る華々しいデビュー戦だ」
暗に一体しか出さないという私の言に二匹は殺気を迸らせる。本来公式選などではあってはならない殺気を平然と出すのだから爺様もほとほと困り果てていたのだろう、私の帰郷は渡りに船だったはずだ。
だから、私の仲間の中でも古参を出さなければならない。いかに元チャンピオンとはいえ、殺す気で来る二匹とそれを諌めもしない二人を相手に完膚なきまで潰すには新参では荷が重い。
「さあ、その目でしかと見るがよい、アイの次に仲間となった氷の女王様を」
モンスターボールと呼ばれるボールが開き、中にいたものが飛び出した。
三頭身の体に合わせた血の滴るような赤いドレスを身に纏い、シルクのような白銀の髪は表情を覆い隠すほど長く、それでいて髪の隙間から僅かに見える黒耀の瞳は光など反射されず、射抜かれれば深き絶望を相手に味合わせるような錯覚を起こさせる。
「ジュラァ」
低い重みのある鳴き声を一つ発すると何故か対峙するべき二匹の前ではなく私の前に立ちはだかる。
『メリーよ、我の目覚めを促したのは如何なる理由があってか?』
威圧するような念波が私を襲う。すぐにアイが身構えるもそれを私は止め、命を預けるかのように深々と頭を下げる。
「強者の格をあの二人と二匹に刻み付けるため、どうかお力をお貸しください」
私の行動にレッドとグリーンは驚きを見せていた。二人にはこの子を見せたことはなかったから当然だろう。
『それがそちの望みなのだな?』
私が深々と頷けば、女王はようやく相手を視界に捕らえた。
『そういうことか……無粋だな』
吐き捨てるような念波に私は苦笑を浮かべるしかない。
『良いだろう、戦いにおいて、いかにして強者が弱者を下すか、その身に刻むがいい』
彼女の念波が相手の二人と二匹に向けて放たれればそれが戦いの合図となった。
女王ルージュラでした。
そして、あの少年たち登場の巻でしたとさ。