六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~   作:アルポリス

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 レッツポケモンバトル!!


中篇の下

 最初に動きを見せたのはピカチュウだ。電光石火の速さで女王の懐に飛び込んで稲妻の形を思わせる尾を振りぬいた。衝撃と共に女王が1メートルほど飛んで体勢を崩す。

 

「電光石火と叩きつける」

 

 レッドの言葉通りの攻撃をピカチュウは行っただけ。ただ、その力は当たり前のように殺傷能力を秘めているのが恐ろしい。

 

 体勢を整えようとした女王に尽かさずブラッキーが覆いかぶさるとその鋭い牙で顔面に噛み付いた。

 

「噛み付く」

 

 グリーンはただ一言。弟は戦闘になると途端普段隠している冷静な部分を覗かせる。そしてブラッキーは趙著なく急所を狙う。その様はよく訓練された軍用犬のようだ。

 

 女王から僅かに苦悶の念波が送られた。相手の攻撃は悪である、エスパータイプも併せ持つ女王には相性が悪い。それでも決して鳴き声に出さないのが女王たる吟地なのだろう。

 

 剥がそうともがき苦しむ女王と死んでも離さないとばかりに食らいつくブラッキー、その両者を尻目にピカチュウがその体毛を逆立てる。次の瞬間、全身が稲光り包まれ、強力な電撃が放たれた。

 

「ブラッキー」

「十万ボルト」

 

 両者の合図で食らいつくブラッキーはあっさりと女王から距離をとり、電撃が女王に襲い掛かった。

 

 時間にして三分、強力な電気を浴びせられ、黒い煙を上げる女王の頭上にブラッキーは飛び上がっていた。

 

「ダメ押し」

 

 グリーンの無慈悲な言葉通り、ブラッキーはその身を捻り重力に逆らうことなく落下した。

 

 轟音を響かせ、研究所の地面は陥没する。かなり深いのか、女王とブラッキーの姿は見えない。

 

 数秒後、ブラッキーだけが飛び上がって華麗に着地した。

 

 呆気ない幕切れに試合を見ていた若い研究員達は呆気に取られていた。元チャンピオンが今日飛び立つはずの新米トレーナーに負けたのだから。

 

「おいおい、話が違うじゃねぇか。お姉さまよう」

 

 グリーンが悪態をつく。

 

「………メリー姉さん、どういうつもりですか?」

 

 レッドも消化不良なのか不満を口にする。

 

「いやさ、私に問われても女王様が決めることだから……おかしいなあ」

 

 私はといえば、惚けた振りして震える体を摩るしかない。既に女王は最後のシナリオに手を掛けているのだから。

 

呼吸をすれば口から白い息が吐き出される。私のそばだけ急激に温度が下がり始めている証拠だ。

 

「まあ、なんだ。伊達に女王なんて呼ばれてないわけよ、だからすぐに復活すると―」

「いや、それはねぇぜ、お姉さまよう。こいつは相手が完全に止まるまで食らい突くからな。あの穴から飛び出してきたとなると、お姉さまの自慢する仲間はお陀仏ってことだ。運がよければ瀕死、悪ければ…言わなくても分かるよな?」

 

 無邪気な装いで残酷な宣告をするグリーンに浮かべていた苦笑が更に深くなる。

 

「女王の立派な墓が立つわけだ」

「こいつはかなり怒ってたからな。下手に挑発するお姉さまが悪いんだぜ」

「それがルール違反だって事は理解しているのか?」

 

 私がそう問えばレッドはため息を吐いた。

 

「普段ならここまでしません」

「そういうこった、強者が弱者をいじめるのはかっこ悪いからな」

 

 苦笑を浮かべていた私は僅かに目を見開く。

 

 こいつらは駄目だ。いくら可愛い弟で、可愛がっている弟みたいな存在でもこれは駄目すぎる。完全に力に溺れているじゃないか。

 

『ここまでとは思いませんでした。オーキド博士の心中をお察しします』

 

 アイは完全に呆れている。私も同じく呆れているが同時にふがいなく思う。ここまでほったらかしにしてしまったのは完全に私のせいである。身近にチャンピオンという肩書きを持つ存在がいて、なおかつバトルにおいて強くなれる可能性を十分に持ち合わせた若き原石、誰かが導かなければ容易くその原石は翳ってしまう。

 

『まだ間に合うでしょう。私たちがこの日に戻ってきたのは必然だったのかもしれません』

 

 アイが優しく諭してくれる。私はそれだけで現金にも気持ちを浮上させられた。

 

「悪餓鬼共、頭を冷やせ」

 

 私が怒気を持って吐き捨てれば、それに同意する念波が四方に放たれる。

 

『その通りじゃ、愚か者ども、お前たち如きの攻撃で我を屠れると思うな』

 

 突如、私の真横に姿を現す女王にレッドとグリーンは驚愕している。

 

 そう、女王はやはり、女王なのだ。

 

 彼らが突出した才能を持ち合わせていようとも所詮始めて旅立つルーキー、対戦相手がいかな能力を持ち合わせているのか経験者は必ず予想して尚且つ冷静に判断、勝利を目の前にしての油断は決してしないのが必定、それは上級者になればなるほど求められる。かつてチャンピオンに至るまでに私は数多の敗北を持ってそれを否応なく痛感させられた。

 

『お主らは我が硬直し、体が冷たくなったことで殺したとでも思ったのだろう、じゃが、お主らは愚かであったな。我は告げたはず、氷の女王だと』

 

 女王は自身の身体を急激に冷やし、仮死状態にすることで誤った判断をブラッキーに植えつけたというわけである。そして、テレポートを行い、私の隣に降り立ったのだろう。私の傍だけ、凍えるような寒さだったのは自身の生存を教えるため、パートナーにいらぬ不安を抱かせない処置だ。いかに横柄な態度であっても私と女王は共に戦う仲間なのである。

 

 女王が白い息を吐き出す。それは氷の息吹と呼ばれる技だ。

 

『さて、始まりがあれば終わりがある、お前たちには我の作り出した技で止めを刺そう』

 

 そう言って女王が手を掲げれば吐き出された白い息吹がそこに収束、小さい礫が形を成していく。ものの数秒で出来上がったものは女王の背丈の倍はある氷の剣だった。

 

 念動力で剣の形にする、氷とエスパーのタイプだからこそ出来る女王得意の合わせ技。しかしながら、凄いのは器用に作り出された氷の剣ではない、女王自身が血反を吐くほど訓練して手に入れたその卓越した剣技にある。

 

『光栄に思うが良い』

 

 そう念波を対する二匹に送ると女王が動き出す。

 

 寸胴とは口が避けても言えないが、あるかないかの腰を据えたかと思えば一気に飛び出した女王の一歩は既に二匹のポケモンの眼前にあった。

 

 決してテレポートを使ったわけではない。かといって、電光石火でもない。努力によって会得した縮足、並みの上級者やポケモンでは捉えられない速度で動く妙技である。つまり新人ポケモントレーナーに見えるはずもなく、辛うじて反応を見せたポケモンたちも残念ながら避けるなどの動作には至らなかった。

 

 次の瞬間には倒れ付す二匹のポケモンと刃を振りぬいた女王が佇んでいる光景、二人にはそう見えただろう。実際のところ女王は確かに一閃を持ってピカチュウを沈め、返す手でブラッキーも切り捨てたのだが。

 

 この動作は瞬きの間のひとコマである。

 

 倒れたパートナーの下に駆け寄ることすら思い浮かばないのか呆然と立ち尽くすグリーンとレッド、目を見開いて驚愕する若い研究者たち、しかしながら古参の研究者は結果が分かっていたのかはたまた私の凄さを知っていたのか苦笑を浮かべていた。

 

 静まり返るこの場において爺様だけが暢気な声を上げ『流石じゃのう』と私と女王を褒めながらその眼差しは女王の作り出した剣をつぶさなく観察しているのだから、この状況でも捨てない研究者魂に感服する。爺様は爺様だった。

 

 女王は作り出した剣を粉雪のように分解して消し去れば観察し終えてないのか爺様が悲嘆の声を上げて悔しがっていた。それを軽く無視して私の前まで王者の如く堂々と歩み寄れば威圧を込められた念波が送られてくる。

 

『メリーよ、そちの願いは叶えた。完膚なきまでにきゃつらの自尊心を圧し折って遣ったわ。後はそちに領分じゃ、存分に潰してやるがよい』

 

 そういわれても私にとって可愛い弟分と弟なわけで……。

 

『そちは我と共に歩むことを約束したものだ、そのような無駄とも取れる情けを見せてくれるな、そちをぶち殺したくなる』

 

 わぉ、怖いですよ、女王。

 

『ぬかすな、心が篭っておらん』

 

 いや、まじで怖いですから勘弁して下さい。あと、あの子達は大丈夫ですから。

 

『だがな、あの者たちに下手な優しさを与えてはならん。あやつらの心には常にそちがおる。尊敬と畏怖が心を締めておったわ』

 

 え、もしかして心を読みましたか?

 

『読まずとも直に肌で感じれば理解できるわ』

 

 女王が戦って感じたのは実に単純だった。彼らは私が強いのだと心の底から理解していたからこそ、己の中にある禁忌とも呼べる願望を叶えようとした。ポケモンによる全力の攻撃。公式の大会で行われる全力とは違う、ポケモンと呼ばれる種族のもつ最大の力をぶつけようとしたのだ。それは相対するものを殺してしまいかねない暴力、主を崇拝するパートナーポケモンはそれに全力で答えようとした。それが、先ほどの戦いを意味する。

 

 女王は理解したのだ、彼らは私に甘えていたのだと。

 

 私ならどんな結果もすべて受け入れて許してくれると彼らは無意識に思っていたのだろう。そしてそれは残念ながら当たっているかもしれない、私なら万が一女王が瀕死になろうとも己を恥じることこそすれ、彼らを最終的には許すだろう。

 

『だからこそ理解させねばならん、そちが愚か者共にとってどういう存在か。我は教えて遣ったぞ、我らの種族が持つ力をどう扱うか、やつらの下僕に身を持ってじゃ』

 

 そう言って、女王は倒れ付す、二匹のポケモンを一瞥する。

 

 浅い呼吸を繰り返す二匹は瀕死ではあるが息の根は止まっていなかった。

 

 

 

 

 二匹から与えられた明確な殺気を持つ攻撃を受け入れながらそれを超える力の使い方を女王は文字通り体に刻み込んで教えたのだ。

 




バトルが終わるの早っ!!
と、思った方申し訳ない。圧倒的を表現したかったのです……嘘です、戦闘描写難しい(泣
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