六対目は最後まで取って置く ~これでいいのだ!~ 作:アルポリス
女王は役目を終えたとばかりにモンスターボールの中に帰っていった。きっちり、私の弱い部分を指摘したのだからアイに続いて古参なだけはある。
ああ、本当に嫌だ。私にとっては可愛い弟なのだ、誰だって嫌われるより好かれたほうが良い。家族ならなお更、その想いは強い。
それでも私は元チャンピオンで、だからこそ彼らがこの先、道を踏み外すことが理解できる。それは家族として、姉貴分として許せない。
それならば心を鬼にすることも厭わない、覚悟は女王に指摘された時から決まったけれど、私はこれから酷い言葉を、最高の侮辱を彼らに与える。
「なにこれ、最高に“ツマラナイバトル”だ」
酷く冷淡な声でそう告げれば、呆然としていた彼らが私に視線を向けてきた。
悲嘆にくれた表情の中に紛れる屈辱と恐怖、彼らの心は折れかかっていた。
「逆に笑えるほどツマラナイ、こんなバトルは初めてだ」
わざと冷笑を浮かべて吐き捨てれば、彼らはわかりやすいほど体を震わす。
「力の使い方の何たるかを理解できないならまだしも、力自体に溺れて振り回されるなど、パートナーポケモンに有るまじき失態だ」
私の隣に浮かぶ、アイも深く頷く。
瀕死だった二匹のポケモンはオーキドによって処置を施され、私の声を嫌がおうにも拾っているだろう。
「けれど、何より悪いのはそれを好としたトレーナーの方だ」
私の言葉と鋭い視線を受けて彼らの瞳から幾重の雫が零れ落ちている。嗚咽を漏らさないのは男子が持つ最低限のプライドだろう。
「はっきり言おう、爺様から与えられたポケモン図鑑を即刻返還して家に帰れ」
言って私が彼らに歩み寄れば、二人は絶望にも似た暗い影を落とす。そしてそんな表情を浮かべた彼らの眼前まで近づいて心を折るべき決定的な言葉と、彼らが認識しているだろう根本的な間違いを指摘する。
「お前たちが私のライバルに至り、やがて超える存在になりえることは万に一つとしてない。そんな面白みのないやつらとバトルするほど私は暇ではないし、何より全ポケモントレーナーに対する侮辱行為そのものだ」
囁くように告げて、彼らに向けた視線を爺様に向ければ、僅かに笑みを浮かべて言葉なく頷いていた。
そう、彼らは新人にしては強い。だから彼らは相手を傲慢にも弱いと見下して対峙する。そして仮に彼らがその相手に負けたとき、見下した態度から悔しさを持ち合わせた尊敬に変わるだろう、私に対する様に。
相手を尊敬することは何も悪いことじゃない。むしろ尊き精神だ。けれど、彼らはきっとそれで止まってしまう。そうして幾度目かのバトルで今度こそ勝利した時、彼らはまた同じように無意識で見下すのだ。
私を含めまだ見ぬトレーナーはすべてライバルといえる。グリーンがレッドに抱いている気持ちと同じく、その逆もまた然り、結局彼らは互いにのみ意識を向けているだけだ。その他は、見下すか、しないかその単純な二択でしかない。
それはこれから出会えるライバルに対して何と最低で侮辱ともいえる行為だろう。私はそれを教えるために辛らつな言葉を選んだ。一度出来てしまった固定観念を払拭するのは難しい。家族のために身を犠牲にすることが当たり前だと思っている私のように。
心が折れきった彼らには思いのたけを泣き叫ぶといった行為で発散させた方が良いだろう。泣かした張本人の私がいればそれも間々ならない。
私は彼らに背を向けて先ほど寛いでいた部屋に引き返すとドアを思いっきり閉めた。
がちゃんという音が鳴ると少年たちの泣き声がドア越しに聞こえてきた。それを聞いて私は自身の顔に手で覆うとしゃがみ込んだ。
少年たちは卵の殻から出たばかりのポッポのように泣き叫ぶ。その声のなんと不器用なことか。まだ12歳なったばかりの少年とは思えない泣き方に私は知らず一筋の涙を零す。彼らの慟哭はすべて私に返ってくるのだから。
彼らの周りには良くも悪くも突出した大人ばかりが存在する。爺様や私、レッドの父親はかつてシンオウ地方のチャンピオンだったという。そしてグリーンの姉は名のあるコーディネーターだ。そんな中で育った二人は妙に大人びてしまったのだろう、爺様は六歳のグリーンとレッドを見て予見される未来を危惧していた。そこに私という存在が現れ、一つの賭けに出たのだ。血の繋がらない他人を家族に迎え、トレーナーにすることで一石を投じる。仮に私がチャンピオンになろうとなかろうと、彼らに変化を起こそうとした。ちなみにこの話を聞いたのはチャンピオンになった時だ。
しかし、先ほども言ったように家族と慕ってくれるものに嫌われたくない思いがあった私は彼らに何度も甘い対応を取り、その結果が今の状況に至ってしまったというわけで、すべてとは言わないが原因の一端を担っていたともいえるだろう。だからこそ、彼らの想いは私の不甲斐なさの裏返しなのだ。
『どうやら、始まりの福音は彼らの生まれ変わりを示す慟哭となりましたね』
自身の不甲斐なさを嘆いていた私に相棒が優しい念波を送ってくれる。
『主もまた教わりました、過ぎた優しさは時に相手を甘やかすだけだということを』
「まったく、その通りだよ」
『僭越ながら、主が更なる成長を遂げたことお喜び申し上げます』
「おいおい、過ぎた優しさは駄目なんじゃないのか?」
そう言って苦笑を浮かべる私の眼前にアイが飛び寄ると私の失った片目にその小さな手を押し付ける。
『僕はアイ、メリーのeye、だからメリーの成長は僕の成長なの。自分の成長を喜んで何が悪いの?』
昔のような話し方で言われ私は笑う。
「ふふ、そうか。お前が成長したなら喜ばなければならないな」
『ありがとうなの、僕はこれからも成長していくの、だから同じようにメリーも成長していけばいいの。嘆いている時間がもったいないの』
「そうだな、お前の言う通りだ。ありがとう、私の相棒」
今の話し方ではなく昔の不器用な言葉で慰めることで初心を忘れるなと言いたいのだろう。その想いは十分伝わった。私は昔らから後悔を成長に変えて常に生きてきたのだから。
その後、二人の新人トレーナーは泣き腫らした目を隠しもせず、憑き物が落ちたような表情でマサラタウンを旅立ったと爺様が教えてくれた。そして同時に彼らは私にメッセージを残していた。
「首を洗って待ってろよ、姉貴」
と生意気にもそう残したのはグリーンで。
「あなたと再びバトルが出来るよう、たくさんの勉強をこの旅でしてきたいと思います」
律儀にもそう残したのはレッドである。
どちらも私をただ一人のトレーナーなのだと認める言葉だった。
アイが告げる始まりの福音は鳴らされた。
彼らの冒険は始まったばかりでどういったものになるか私には分からない。それでもトレーナーの私は彼らと時に離れ、時折交わる螺旋のような関係でありたいと思う。
完……?
いや、まって、まだ終わらん、終わらんぞ!! byオーキド
今終わったらタイトル関係なくなるから!! by新人ルーキーs
もう少しだけ私に付き合って欲しい。
僕とメリーの旅はまだ続くの!!
そして、これからもよろしくお願いいたします。