ソレを見つけたのは、偶然だった。
日本サッカーが糞だと感じたのは何時だっただろうか。俺、絵心甚八は日本サッカーに絶望し、才能の原石を腐らせていく環境に憤怒した。
だから、俺が作る。
日本に最強の1を創りあげることの出来る最高の環境を。それが、ブルーロック・プロジェクト。未来のある300人の高校生FWを集め、299人を犠牲にして究極のFWを創る。
人選は俺自ら行った。アンリちゃん達にも探させたが、最終判断は俺。既に300人の才能の原石共をピックアップし終え、あとはプロジェクトを予定通り進めるだけだ。
あの日の衝撃は忘れない。
仕事が一段落着いて、気分転換にでもと辺りを歩いていた時だ。
人通りの少ない少し田舎だった。空気が美味いやらのどかだやらは俺には興味なんてない。
飽きたな、と感じ、そろそろ戻るかと思ったその時、音が聞こえてきた。
耳を澄まさなくても分かる程に聞き慣れた音は、ボールを蹴る音。そして、そのボールが何かに当たるような甲高い音だった。
普段の俺ならさほど興味も湧かないようなものだ。壁当てをしているヤツらなんぞごまんといる。しかしその時は自分でも不思議なくらい、足が自然とそちらに向かっていた。
近づくにつれ大きくなっていく音は先程から不自然な程に等間隔だ。中々やるな、と思い……そして、見つけた。
俺は、身体の芯から震え上がった。
そこは公園だった。滑り台と鉄棒が少しある程度の小さな空間だったが、そこにいたヤツの存在感に震え上がる。
壁に蹴り続けていたのだと思っていた。だが、実際は違った。
アイツは、鉄棒に当て続けていたんだ。それも、見る限り20mは離れた地点から。
狙って当てることは……まあ、簡単ではないだろうが、トッププレイヤーならば数回で当てられるだろう。それを奴は当て続け、そしてその全てが足元に帰ってきている。
ブレない最高のシュートフォーム、そして右脚から放たれるボールは美しい回転がかかり鉄棒に吸い込まれるように弧を描いて着弾する。命中したボールはワンバウンドしてから主人の元へと舞い戻り、そしてその工程が繰り返されていく。
圧巻だ。奴は涼しい顔をしてやり遂げている。つまりこの程度奴にとっては遊びでしかないんだ。
なんだアレは。
誰だ。
何処のチームだ。
俺はアレを見落としていたのか?
俺が選んだ原石共の中に奴は入っていなかったはずだ。
いや、アレは原石じゃあない。
アレは。アレこそは。
奴が、俺が思い描いていた理想のエゴイストだ、と。
興奮が隠せない。口角が自然と上がる。
欲しい、欲しい、欲しい!!!
こんな場所に置いておく人材じゃあない!!
調べなくては!! 奴は何者なんだ!!
あんな逸材、話題になっていないはずもない!!
ということは、やはり環境が悪いのか?
試合にも出られない環境が、奴を阻害しているのか?
そうだとしたら、奴は窮屈だろう。
数分、数十分と俺の足は動かない。ようやく我に返ったのは、奴が飛んできたボールを足に吸いつかせるような絶妙なトラップを見せた時だった。
シュート技術だけでは無いことに更なる歓喜を覚えた俺の瞳に映ったやつの姿は、"諦め"だった。
おもむろに俯いた奴はつくづく思っていたのだろう。
【対等な敵が欲しい】、と。
だからアイツはこんなところで鉄棒へと蹴り続けているんだと当たりをつける。実際にそれは正しいんだと思った。
一目で分かった。奴は『天才』だ。そして、他人との違いを明確に理解しているんだろう。それ故の、『諦観』。
まずい、と思った。
このままではヤツという才能の塊が消えてしまう。後から調べあげてプロジェクトに組み込むにしては奴に伝わるまでが遅すぎる。その間に奴がサッカーに失望しないとは限らない。
俺は速く、しかし悠々とした姿を崩さないようにヤツへと近づいていく。
俺の足音に気づいたのだろう。奴は近づく俺を鋭い眼差しで見据える。警戒されているな。
「落ち着け、怪しい者じゃない。俺は絵心甚八。腐った日本(サッカー)に革命を起こす者だ」
言葉選びを間違えたらこいつは消える。そんな予感が俺の心を駆り立てる。俺の言葉にやはり奴はさらに目を細めた。
「お前の名前は?」
奴は口を堅く閉ざしたまま。それもそうだ。見ず知らずの、それも絶望しかけていたサッカー関連の話を持ち込んできた俺に不信感を覚えないわけがない。
だから俺は、奴の目を見据えながら口にした。
「お前の探し物を、見つけてやる」
「────」
俺の言葉に、奴の目が見開かれる。やはり俺の予想は当たっていたようだ。思わず口が歪むが、一瞬で元の形に戻す。
「……見つかったところで、意味なんかないっすよ」
初めて口を開いた奴の声は澄んでいた。しかし何処か暗い印象を抱いてしまうその声に、期待と失望が半々で混ざっていることに気付く。
『俺に匹敵する奴なんて居ない』とこいつは確信しているんだろう。変な期待などさせるな、と奴は怒っている。
ああ、こいつだ。
こいつこそ、俺が求めるエゴイストだ。
「安心しろ。初めは退屈かもしれんが、すぐに満足させてやる」
俺の言葉に、期待の色が奴の瞳に灯る。まだ警戒心が解けないが、今はこれでいいだろう。
名前は聞けなかったが、また調べればいい。俺は満足気な気分のままに自室へと戻った。
そして、先程の近辺の高校を調べあげた。
調べるのは弱小校だ。強豪に居てやつの名を聞かないはずがない。
時間はかかったが、見つかった。
水野悠。
ギリギリ11人のサッカー部に所属していた。
こんな腐った環境に居てはダメだと焦燥感に駆られてしまった。
次に、奴の試合動画を漁った。
弱小の試合なんて残っていることなどないと半分諦めてはいたものの、奇跡的に一本だけ見つかった。
弱小故に、逆シード。
奴らの地区で一番の強豪との試合だった。
俺はその試合に釘付けになった。
いや、試合に、ではなく、水野に、だ。
敵チームのパスをカットした途端、爆発的に加速する脚。敵が束になっている難しいルートを切り裂くドリブルセンスと発想。そして離れた距離からでも正確なゴールへと放たれるシュート精度。
全てが完璧だった。そして、気付く。
あれらは凡人からすれば、奇跡だと口にするものだ。しかし、違う。俺には分かる。
あれは、再現性のあるものだ、と。
偶然見つけた才能、その価値に手が震えてしまう。そして奴を見つけた過去の自分を手を叩いて賞賛する。
奴がワールドカップでコートを駆け回る姿を想像するだけで口角が上がる。
そして、水野悠という『才能』をブルーロックに解き放った時、才能の原石共はどんな反応を見せてくれるのか。
ああ、楽しみだ。
才能の原石共300人、そして水野悠を加えた計301名のストライカーに招待状を送り、その全員が集まった。水野に関しては来るかどうか不安だったが、後方にその姿を確認できて内心安堵する。
「やあやあ、才能の原石共よ」
マイクをONにし、演説を行う。俺の視線は周りにいる原石共を見渡しているようで、しかし常に水野の姿を映していた。
奴は俺の計画にどう反応するのか。期待か? 失望か? 諦観か? 興奮か? 憤怒か?
今の奴は興味のなさそうな表情を浮かべている。眠たそうなやつの顔は期待なんてしていないように見えた。
焦る。なんとか奴の興味を引かなくては、世界級の才能を壊してしまう。
「──これがそのための施設……"青い監獄"、通称ブルーロックだ」
ようやくプロジェクトの概要に入ろうというところで、水野の目が見開かれ、画面へと食いついた。
よし、と俺は歓喜し、思わず拳を握る。
それからプロジェクトについて説明するところで、馬鹿が割り込んでくる。
全国大会? チーム? やっぱ重症だな、こいつら。
見ろ。水野も心底どうでもいい顔をしている。むしろお前の発言が気に触ったようだ。
俺は奴らの考えを否定する。会場が恐ろしい程に静まり返るが、そんなことは気にしない。
演説を終え、飛び出した一人のエゴイストを皮切りに300人のストライカーは俺の後ろに開かれた扉をくぐった。
残っているのは一人だけ。それが有象無象ならさっさと帰れと言うところだが、今回は別だ。
「不安か? 水野悠」
マイクを通さず、直接奴に語りかける。水野の表情には不安が見えた。
それもそうだろう。チームやら全国大会やらとほざいていた奴らのせいで水野は今思っているのだ。
『こいつらが俺の相手になるのか』と。
そのままではダメだ。俺がその不安を解消しなければ。
「お前の探し物は見つかる。絶対だ。俺が保証しよう」
「……見つかんねぇっすよ」
小さく零した奴の諦めた声を俺は聞き逃さなかった。奴はゆっくりと俺の横を通り過ぎ、扉へと向かう。
「なら、お前は何をしに扉をくぐる?」
「──俺が俺であると、証明するために」
ああ、やっぱりお前は最高だ、水野悠。
そして、才能の原石共よ。
俺を……水野悠を失望させるなよ。
公園で遊んでたらコンタクト落とした。
いやまじかぁ。コンタクト落とすとか初めてなんだけど。試合中もズレたことも無いけどなー。
俺は裸眼になったら視力の差になれないんだよなぁ、普通にぼやける。うわぁ、この視界の中探すのきちぃ。まだ1週間使ってねぇよ。ママ上に怒られるっての。
サッカーボールをひとまず置いて、コンタクトを探そうとしたら足音が聞こえてきた。
知り合いかな? と思ったけどマジで見えない。もっと近づけや。目を細めてやっと見えたのはおカッパ頭にやべぇ目。
あ、こいつヤバいやつだ。
「落ち着け、怪しい者じゃない。俺は絵心甚八。腐った日本(サッカー)に革命を起こす者だ」
あ、こいつヤバいやつだ。(二回目)
革命家ってやつか? そんなやつマジで存在するのかよ。ワンピくらいだろそんなの。
顔がぼんやりと見えないからはっきりとは分からないが、こいつ目がいってやがる。
「お前の名前は?」
教える訳ねぇだろ馬鹿が。常識的に考えろや。今のところ俺の中でお前はやべぇ奴かマジでやべぇ奴の二択なんだよ。
「お前の探し物を、見つけてやる」
え? コンタクト探してくれんの? めっちゃ良い奴やんコイツ今まで疑ってごめん。
いや、待て。冷静に考えてみろ。仮にコイツがマジのマジでただの優しいやつだったとして、だ。
コンタクト砂だらけじゃね?
うわ、気づきたくないことに気づいちまった。
何ついてんのかわかんねぇよそんなの。そんな怖いの目に入れたくねぇわ。うん、諦めよっと。
「……見つかったところで、意味なんかないっすよ」
なんか申し訳ないけど、見つかってもコンタクト捨てるだけだしな、うん。
「安心しろ。初めは退屈かもしれんが、すぐに満足させてやる」
え? いやいや、探す速さとかじゃなくて、もういいんだって。見つかっても汚ぇコンタクトに満足しないし。
いや〜、でもそこまで言われたら断れきれんな。とりあえず探してもらって、見つかったらお礼でもいってしれっと捨てるか。うん、そうしよう。じゃ、お願いします〜。
と思ったら、自称優男は振り返ってどっかに行った。
あ、そういう感じの嫌がらせっすか。
性格悪っ!!!
コンタクトの件はママ上にはあまり怒られなかった。しかしその後に問題が出てきた。
なんか、『強化指定選手』ってのに選ばれたらしい。なんこれ?
いやいや、なんで俺? そりゃ俺のサッカー部の中じゃ俺は一番かもだけど、全国いったらもっとすごいヤツらいっぱいいるでしょ。動画見ないから知らんけど。
詐欺かな、と思って無視しようとしたけど、チームメイトからは「絶対行った方がいい!!」「ついにお前を見つけてくれる人がいたんだ!!」とか大騒ぎ。なんか満場一致で俺が行くことになってたので、まあ行くだけ行くかぁ、と思い説明だけ聞きに行くことにした。
会場にはめっちゃ人がいた。モヒカンやらもじゃもじゃやら目隠れやら下まつげやらロン毛にムキムキなどオンパレード。会場間違えたかな? 何人か人殺してそうな顔してっけど。
そう思ってたら突然会場が暗転。誰かがステージ上に立っていた。ああ説明始まる、と思ったところで突然の睡魔が襲ってくる。
そういや昨日スペインの友達と電話してて寝れてねぇわ。説明始まったけど、まあ後でパンフ貰えるだろうしそれだけでいいや。
半目になりながら説明は言葉とならずに耳を通り過ぎていく。ただ、ふとした瞬間に眠気が一瞬だけ消えた。ああでも眠いかも……
「これがそのための施設、青い監獄」
……ん?
今あいつなんて言った?
"監獄"?
…………
ふぁっ!?
眠気は四散した。
いやいやいや何言ってんの!? 監獄!? へ!? 俺捕まったの!? なんもしてないっての!?
どうなってんだ……ん? アイツどっかで見たことあるな……
自称革命家やんけ!!!!
あ、アイツ……!! そういや腐った日本とか言ってたな!!
じゃあなんだ!? 犯罪者予備軍一斉投獄ってか!? 俺なんもしてねぇわ!! 強いて言えばこの前コンタクト落としたくらいだわっ!!
そういえば、さっき殺人者みたいなやつとか目が逝ってる奴とか狂ってるやついたな。
俺、手違いで入れられたのでは……?
おいっ! 出せ!! 今すぐ!!
なんで俺が犯罪者予備軍と一緒にされなきゃ行けないんだよ!! 善行の塊だろうがっ!!
俺犯罪なんてやったこと……やったこと……え、ないよな?
なんか自信なくなってきた。え、やってないよね!? 姉ちゃんのプリン盗み食いって犯罪にはいる!?
いや、昔スペインにいた時に友達の顔面にシュート決めたな……
………………
ソレだ!!!
暴行罪か!? やっべぇ、俺犯罪してるわっ!!
いや、落ち着け。時効だろコレ。しかも友達許してくれたし。「やっぱお前は俺のパスを受け取るべき選手だ」とか厨二病発言してたのには引いたけどそれくらいだっ!
「不安か? 水野悠」
ハッと我に返り周りを見るとそこには俺と諸悪の根源しかいなかった。え!? みんな逃げたか!? いや、既に投獄されちまったのか!?
ってか、「不安か?」ってなんだよ!! 不安に決まってんだろ煽ってんのか!? 身に覚えのない罪で胸が張り裂けそうだわっ!!
「お前の探し物は見つかる。絶対だ。俺が保証しよう」
「……見つかんねぇっすよ」
コンタクトはもう新しくしたっての!! お前そういえば探すって言いながらすぐに帰りやがって……こいつ、俺で遊んでやがるな!!
なんか笑ってるし、キモっっ!!
あと目が逝ってんだよ!! 何徹してんだてめぇ!!
あ〜、あったまきた。そっちがその気なら俺も抵抗してやるよ。
なんか扉空いてっけど、あっちが監獄か? いいぜ行ってやるよ。
「なら、お前は何をしに扉をくぐる?」
は? 決まってんだろ。
「──俺が俺であると、証明するために」
俺はっっ!! 無実を証明するっ!!!