僕は無実だァっ!!!   作:ラトソル

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次は期間開きます


【傑物】は魅せ、【天才】は産声をあげる

「こ……後半開始、僅か10秒!! 水野悠独走ッ、たった一人で"青い監獄"を抜き去り、ゴールをものにしましたっ!!」

 

「いや、いやいやいやヤバいでしょっ!? あんな独走見たことないよ!? 誰、水野悠って。無名の選手でしょ聞いたことないよっ!?」

 

 後半戦を迎え立ち上る歓声は、ものの数秒でゴールへの大歓声へと変わる。実況席において、照朝熱人と夏木春太郎が目を見開きながら解説に勤めていた。

 

「前半戦に青い監獄が作り出した三点リードは既に二点差へ! 事前情報の一切が不明なダークホース、水野悠が魅せました!! 観客総立ちの大歓声です! 夏木さん、今のプレーはいかがでしょうか!!」

 

「えぇ! わっかんないよ今の速すぎ! 糸師 冴が棒立ちしてたからそっちに意識向けられてて気づいたら決まってたよ!!」

 

「リプレイ流れます……これは、DFの僅かな間を通す神業シュート! 等速では脚の振りが速すぎて全く見えません!!」

 

「ていうか、予備動作全くないのヤバすぎでしょ!! なんで無名だったのこの選手!?」

 

「ええ! 水野悠を加えた後半戦は波乱の展開! 前半に圧倒的な実力を見せた青い監獄はあの謎のストライカーにどう対処するのか!!」

 

 場面は変わり、青い監獄側ベンチ。盛大な歓声が鳴り響くスタジアムで、この場所だけは異様な静けさを見せていた。

 

「は……いや、え? チートだろ、あれ」

 

「中央突破のごぼう抜きって……つか、あのシュートやべぇって! 速すぎんだろ! もう二点差だぞ!?」

 

 本来なら青い監獄側として力を見せるはずだった水野悠が日本代表側として、糸師 冴を上回る壁となる。暴力的なまでの圧倒的な実力に、前半ではお祭りムードだったイガグリを始めとしたベンチメンバーが驚愕に震えていた。

 

 タブレットを胸に抱き、目の前で繰り広げられた一瞬の蹂躙を目に焼き付けた帝襟アンリもまた、不安な様子を隠さず絵心へと口を開く。

 

「絵心さん、これはかなりまずいんじゃ……」

 

「いや、想定内」

 

「っ……三点差が安全圏内なのは、楽観視しすぎていたんじゃないですか? 彼はあの世界選抜から五点もぎ取ってるッ……あと二点取られるのは、時間の問題ですよっ!?」

 

「そんなこと分かってるよ」

 

「絵心さんっ……」

 

「ねぇ、アンリちゃん」

 

 絵心だけは唯一、今のスーパープレーに驚きは見せず、むしろ当然だと腰を深くおろし、足を組んでタブレットを操作する。その画面に映るのは、水野悠の暫定的な筋力や技量の数値。

 

「どうして水野悠が世界選抜に勝利できたか、分かる?」

 

「それは……単純に、水野くんの実力が相手五人を上回っていたからでは……?」

 

「浅い」

 

「あさっ……!?」

 

 バカにするような目で横目にアンリを見る絵心に、結構な言われようをされたアンリは仰け反って顔を歪めた。

 

「水野悠の実力は確かにあいつらより上だった。でも総力では流石に勝てないよ。5対1ならまず点差は変動すれど、世界選抜が勝ってた」

 

 タブレットの右上には小さく映像が流れている。それはいつかの世界選抜戦において、水野がロキを始めとした相手選手と1on1を繰り広げる場面。

 

「世界選抜の奴らは、水野相手に一人ないしは二人でしか挑まなかったし、逃げることもなかった。水野に触れられないようにパスを回せば勝てていたのに、そうはしなかった。水野悠は最強だ、でも万能じゃあない。コート全域をカバーするなんて、そんな神の領域には踏み込んでないよ」

 

 多分、と。小さく呟いていたのを、アンリは聞き逃さなかった。

 

「三点差を安全圏だとは思ってないよ。アイツらが後半も点を決めまくってくれないと流石に勝てない。水野悠……いや、糸師 冴の二人にボールが渡った瞬間。まあ、99%止められないだろうね」

 

「えぇ……じゃあ、どうするんですか……?」

 

「正直、俺はこの試合、負けてもいいとさえ思っている」

 

「え……えええ!?」

 

「うるさっ……」

 

「いや、いやいやっ!? 負けてもいいってどういうことですか絵心さんっ!? 負けたら青い監獄プロジェクトも水の泡ですよっ!?」

 

「いいや消えない。水野悠は青い監獄(俺たち)の理念の完成形だ。あいつの実力を全国……いや世界に見せることは、『世界一のストライカーを誕生させる』という目標の達成に他ならない」

 

 ポカンと口を開けるアンリは、少ししてから、あっ……、と思い至ったかのように声を漏らす。

 

「青い監獄は解体されるかもしれないが……この試合の後、水野悠は日本代表のエースとして世界に名を馳せ、次いで糸師 凛、潔 世一達が別ルートから名声をあげるだろう。そうなれば、実質俺たちの勝ち。月並みな言葉だが……意思は消えない」

 

 それは、水野悠が相手側へと移った時に脳裏で描いた勝利の道のひとつ。負けても勝つ。そんな唯一の道筋が、しかし一番成功率が高く、効果も絶大なものだった。

 

 実際問題、水野悠がどちらに付くかどうかでパワーバランスは容易に傾く。それほどまでの圧倒的な力。加えて、糸師 冴の存在が大きすぎた。

 

 とある時期から、急速にストライカーとしての才覚を見せ始めた糸師 冴はそのまま行けば新世代11傑のFWは間違いないと言われるも、しかし周りからの期待を無視する形で、突然MFへと転換した。

 

 糸師 冴一人でも手に余る現状、水野悠が加わってしまったことにより、勝ち筋はもはや無いに等しい。仮に一点取り返したところで、相手側からのスタートとなったボールは即座に水野へと渡され、一瞬で点をもぎとられることだろう。

 

「────まあ、でも」

 

 どれほど負ける確率が……いや、既に負けが決まっているとさえ錯覚してしまうほどの絶望的な現状で。

 

「アイツらは負けるつもりなんてサラサラないんだろうけどね」

 

 ピッチに立つエゴイスト達の目は、ギラギラと迸るばかりだった。

 

「絵心さんには、この状況を破る秘策が……?」

 

 期待を込め、身を乗り出しながら聞き出したアンリに対し、絵心はタブレットから視線を逸らすことなく「そんなのは無い」と即答する。ええっ!? というアンリの叫びを無視した絵心は一人、誰に聞かせるわけでもなく声を漏らした。

 

「もし、あの二人に勝とうとするのなら、必要となってくるのは糸師凛、潔世一、そして……凪誠士郎の覚醒だ」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

『……ねぇ、水野悠。あんた本気だしてないでしょ。それでも勝てない。凄いや』

 

 それは、適性試験における一幕。序列七位となった凪が二回参加することを許された、二度目の試合の終了後。

 

 水野悠と対戦し、そして一点も決めることが出来ず、完膚なきまでに大敗した凪は地に伏しながら、汗ひとつかかずに佇む水野を見上げる。

 

『どうしてそこまで強くなったの? 何があんたをそこまで押し上げたの?』

 

 突然話し始めた足元に転がるチワワみたいな何かに不気味さを覚えつつ、しかし呑気な口調から害意はないと悟った水野は話し相手になってやるかと見下ろす形で凪を見る。

 

『お前、目標とかあんの?』

 

『目標……潔を、倒したい』

 

『……お、おう。そうか』

 

 急に様子がおかしくなった水野に少し首を傾げながらも、凪は水野からの返答を待つ。その視線を感じとったのか、少し考える素振りを見せながらも、水野は真摯に答えを口にした。

 

『お前は潔を倒すために何をしてんの?』

 

『え……練習とか、面倒臭いけど、筋トレとか?』

 

『それは潔を倒すための最適な方法でやってんのか?』

 

『え〜……分かんないや』

 

『……はぁ』

 

 ため息を零した水野は、またしても考える素振りを見せて少し悩んだ末、結論を出したのかもう一度凪へと向き直る。

 

『潔を倒したいってのは……サッカーで、って認識でいいのか?』

 

『え……うん。当たり前じゃん』

 

『あ、そう……なら、教えてやるよ』

 

『え?』

 

『潔に勝ちたいんだろ。なら、それ相応の練習に付き合ってやるよ。筋トレは指示した奴適当にやっとけ』

 

 どこから取りだしたのか、水野から投げ渡されたタオルで顔に流れる汗を拭い、首にかけて水野を見上げる。その返答が予想外だったのか目を丸くしていた凪に反応するでもなく、水野は話を続けていた。

 

『で、やるのかやらないのか』

 

 それに、凪は迷う素振りは見せなかった。

 

『うん、やるよ。よろしく師匠(マスター)

 

『は? ……何その呼び方』

 

『教えて貰うってことは、水野は俺の師匠でしょ?』

 

『あ〜……お前名前は?』

 

『凪誠士郎』

 

『OK、凪。二度とその呼び方すんな。ゾワゾワする』

 

『なんかごめん』

 

『んじゃ、今日からやってくか、弟子(my.student)

 

『え、発音良すぎ。ていうかキモっ、何今の?』

 

『さっさと戻れ、凪』

 

『え、うん……え?』

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

「爆発的な初速、どっかで見たことあると思ったら世界選抜戦の……ロキだっけ? あいつの走り方に似てる。あれは流石に俺じゃ真似出来ないからパス。そこから囲まれる前に状況判断、すかさず最適ルートに最速のシュート。予備動作は全く見えなかったていうか実際に無い? ドリブルは自分の走りを妨げないボールタッチと大きめの歩幅。視野は広くコート全体を見渡して……いや、後ろは見てないな」

 

 自陣に戻る水野を見ながら、誰に語りかけるわけでもなく独り言のように音を漏らす。

 

「なんだっけ……そうだ、『毎秒溢れるインスピレーションに序列をつけろ』だ」

 

 わずか数日とは言え、密度の高い指導を受けた凪はその内容を思い返す。

 

「『実現可能な想像は誰でも出来る。ギリ無理な理想を実現出来る準備をしろ』。脚の再現は普通に無理だけどあの視野の使い方ならワンチャンあるか……? いや、潔の視野を参考にするか。アレは無理。水野の眼が異常だ。あのコンタクトつけた状態で死角なしとかバケモンでしょ」

 

 脳内で繰り広げられる自分が今出来得るであろうプレーの限界と、ギリギリ出来ないであろう理想のプレー。無限に湧き出るインスピレーションを場面に合わせて最適化し、序列化を図る。

 

「俺はドリブルが特段うまいわけじゃないから水野を越そうと思ったらやっぱりパスを受けてのファーストタッチしかない。トラップとフェイントでアイツの中の理想を超えるパフォーマンスが出来れば勝てる」

 

 歓声が止むことなく、後半開始直後とは思えないボルテージの上がりようを見せる中、試合が再開されさらに歓声が沸きあがる。その中でも、凪は常に試合展開に合わせて情報の更新を続ける。

 

「コート上の全ての選手にパラメータを振り当てて常に更新し続けて試合展開を先読み……出来るわけないでしょ馬鹿なの? まだ無理、今こだわることじゃない。でも、俺がコントローラーを握るならこう動かすっていう予想はできるか」

 

 僅かな短期間で、空間把握能力が高まる訳では無い。水野の視界に手が届くわけでもなく、かと言って潔達の視界にすら到達することはこの試合内では不可能。ならば、凪なりのやり方で未来予知にすら匹敵する展開予想をする水野に食らいつく。

 

「水野と糸師 冴にボールが渡った瞬間負け確の無理ゲー。かと言って2人だけに集中して数人で相手できるほど相手は弱くない特にDF。個人技じゃちょい厳しいか。なら……ん〜……もう一回くらい見たいかな」

 

 血流が脳を駆け巡り、熱を帯びて沸騰するのではないかと錯覚するほどに頭を回す。今まで感じたことの無いほどにクリアになった視野、思考。羽のように軽い身体と、今ならなんでも出来るのではないかと思ってしまう故に無限に想像出来てしまうゴールピース。しかし、最後のピースが浮かび上がることはなく、全てを水野によって壊される想像しか出来ない。

 

「──あ、指南代、払ってないや」

 

 瞬きすら忘れ、凪は走り出す。観客は視界に入らず、耳にも声は届かず、コート上の全てを感知する。

 

「ま、俺のゴールを魅せる、ってことで許してくれるかな」

 

【天才】は、【才能の権化】の指導を受け……僅かに、その領域へと足を踏み入れようとしていた。

 

 

 潔のボールから再開された後半戦。日本代表は安易に飛び出る様子は見せず、冴と水野は一定の間隔を保ちながら漠然と周囲を観察する。

 

 潔自身も個人技でのゴリ押しは選択肢になく、凛や凪、烏とパスを回しながら着実にゴールとの距離を縮めていた。

 

(水野に取られたらもう止められない。かと言ってそっちに意識を向けてたら糸師 冴がボールをカットにしくる……クソっ、人数足りてねぇよ!!)

 

 潔にとって、厄介なのは三人。水野、冴、そして愛空。しかし裏を返せば、この3人以外は現状脅威ではなく、危なげなく避けられる障害物である。現に前半戦において四点のゴールを決められたことからもその事実は明らかだった。

 

 しかし、その三人……いや、水野と冴がイレギュラー過ぎた。二人に勝てる存在はブルーロック側には居ない。人数で制圧すれば可能性はあるだろうが、それをするには他のマークが甘くなる。当然の事実ながらに、潔は奥歯を噛み締めて頭を回す。

 

 溢れ出すゴールへの道筋。無限に作られていく軌跡は、しかしそのほとんどが道半ばで掻き消されてしまう。

 

(ダメだっ、強すぎる! 俺の想像があの二人に通用しない!)

 

 凪へとパスを出し、ボールを奪いに来た閃堂を躱す。そして目の前に現れた水野を見やる。

 

 明鏡止水。全くの乱れを見せず、思考が読めない。超越視界において水野の動きだけがノイズがかかり、先の展開が全く見えないでいた。

 

 水野の眼は、潔を見ているようでしかし焦点は合わず、その先さえも見回しているのではないかという底知れない瞳の奥行きに恐怖を抱きながら潔は勝負を捨ててパスを回し水野から距離をとる。

 

 水野にボールを触らせないこと。この鉄則は不変であり、共通認識となっている。

 

(凪の調子良さげだな。凛はなんか焦ってるか? いやそのルートはまずい。烏いい位置、氷織なら抜けるか。いやここは蜂楽ていうか氷織なんだあの顔怖っ)

 

 高速で回る思考。空間認識能力に優れた潔の視界に映る情報全てを取り入れ最適解を模索する。切り捨て、切り捨て、切り捨て……そして手元に残った僅かな手札で勝負を挑む。

 

 凛にボールが渡ると潔は凛の周りを目立つように駆け寄り、敵にパスの選択肢を予感させる。一瞬の誘導により凛のドリブルで一気に抜き去る。凛から氷織へ渡ったボールはそのまま蛇来との1on1にもつれ込み、愛空のヘルプが来るのを見てからすかさず潔へとパスが渡りそして凛へ。

 

 最終防衛ラインへと突入し、迎え撃つのは仁王、そして、糸師 冴。

 

 潔、凛、凪の三人に対して相手は二人。愛空がヘルプに走ってきているが間に合わないことを察知し潔は短期決戦へとシフトする。

 

 一気に抜き去り……いや、ここはシュートか。その二択が思考を埋めつくした中、冴は不意にボールを持たない凪の方向へと一気に走る。

 

「あえ、俺?」

 

 仁王ですらその奇行とも言える冴の行動に顔を歪めるも、潔はその行動の真理を理解しようと頭を回す。

 

(ボール持ってない凪に付いた? 選択肢を強引に潰して仁王に任せたのかいやそれなら糸師 冴が残ってた方が勝算高いはず何が目的)

 

 音は一切聞こえることはなく、むしろボールを失うことこそが自然かのように錯覚する。それ故に、後ろから迫ってきた傑物にボールを奪われたという事実に気づくのに、潔は二秒費やした。

 

(つか、狙いは凪じゃないのか? あの感じ、凪を通り越す勢い────)

 

「ゴール前だから油断したか? 言ったろ、初めは常に視界はコート全域を意識しろって」

 

「いや……は?」

 

 潔よりも僅かに気づくのが早かった凛は驚愕に目を開きながらもすぐに水野からボールを奪おうと進路を塞ぐも、潔の体を利用して壁とし、凛の視界からボールが見えなくなった一瞬をついてロキの初速で抜き去った。凪は止められない事実を受け止め全速力で自陣へと走る。氷織が水野の元へと辿り着くもその前には既に中央ライン手前まで走っていた冴へと鋭いパスを出していた。

 

「お前もだ、氷織。視野が狭いぞ」

 

「ッ……結構な言いようやんか」

 

(てか、冴……自分で決める気ねぇな。あくまでも俺にパス出そうとしてんのかよ……謎なんだが)

 

 本気の冴ならば既にペナルティエリアに侵入し、シュートの機会も増える頃合いだろうに、わざわざ相手側の選手との駆け引きを長引かせているあたり水野を待っていることが容易に理解出来た。

 

 最高速はロキに及ばないながらも、爆発的な速度で水野がピッチを駆け抜ける。

 

「へいっ、フリー!!」

 

 閃堂がゴール前で冴へと声を掛ける。しかし冴はチラリと視線を向けるとすぐに興味を失ったかのように視線を逸らした。

 

「ッ……おいっ!」

 

「熱の無いストライカーにパスなんか出す訳ねぇだろ」

 

「なっ……」

 

「死んでも御免だ。それなら俺が決めた方がマシだ」

 

 右サイドを走る冴は烏の妨害をものともせずに芸術的なまでのドリブルテクニックで翻弄する。

 

(嘘やろっ!? 前半と比べもんにならん技のキレっ、本気ちゃうかったんかい!!)

 

 餌をまかれ、本能的に前のめりとなった烏を華麗に舞いながら置き去りにし、時間稼ぎの成果もあってゴール前へと現れた水野に笑みを浮かべる。

 

「──最高だ」

 

 放たれたパスは異次元なまでの曲線を描き、寸分違わずに水野が求める地点へと繰り出された。

 

 水野は既にゴールの方程式が完成したのか飛び込んできた蟻生を無視する超速の超低空シュートを放とうとして。

 

 ────ねぇ。

 

 視線を感じた。僅かな眼球の動きで捉えたのは右後ろでこちらを見やる丸い瞳。

 

 ────もっと見せてよ、師匠(マスター)

 

 止めに来る気配はない、止められる距離でもない。もはやランニングのような駆け足で凪はプレゼントボックスを前にワクワクを隠せない子供のように水野の一挙手一投足を観察していた。

 

「……はぁ」

 

 飛び抜けて長い脚を伸ばし、長髪を靡かせながら蟻生が水野の前へと飛び込む。体のどこかに当てたら儲けものとでも言うように、自身のからだを壁として飛び込んだ。

 

 脚の間は空白。予定通りの低空シュートを放てば得点は容易であった。

 

 ……だが。

 

「一回だけだぞ」

 

 右サイドからの冴の鋭いパスに合わせてダイレクトシュートを放とうと、右脚を振り上げ、打つ────的なトラップ。

 

「なっ……」

 

 ボールの真下を掠らせるように振るわれたシュートは横方向の動きを完全に殺し、ボールを真上へと打ち上げる。それは水野の頭上からちょうど人が一人入るだろうかという高度。

 

「凪のトラップッ!?」

 

 目を見開きながら蟻生は体勢を崩して地面に手を付き、ベンチに座る玲王は自分の宝物でもある凪の技が再現されたことに声を荒らげた。

 

 初めて見る神業トラップに観客、実況が言葉を失っていた。

 

(……いや、止めれる!!)

 

 そんな中、驚きを抑え二子が一歩を踏み出す。

 

(凪のシュートに比べてトラップが高い!! あれなら足元に落ちる前に二子が間に合う!!)

 

 同じ視界を持つ二人だからこそ共有し合える認識。潔が読み取ったことを同じく気づいている二子は、水野との距離から到達時間とボールの落下を較べ僅かに此方に分配が上がると判断し、水野の足元へボールが到達する前に空中でヘディングによるカットを試みた。

 

 凪だけは、観察を辞めることなく静かに水野の行動を追う。

 

 脚を振り切り、ボールが上へと舞うのと同時に、流れるようにボールに背を向けた水野は、その勢いを止めることなく脚を振り上げて空中を舞い、上下を逆転させる。

 

「は?」

 

 伸びた前髪により外からは見えづらい双眼が丸く開かれ、半開きとなった口から漏れ出すように弱い音が空気に紛れる。前へと踏み出した足からは自然と力が失われ、二歩目ではもう膝はたいして曲がらずに停止する予兆が感じられた。

 

 理解不能の光景に時間が停止したように錯覚する中で、水野の周りは緩やかに時が進む。しかし我牙丸は水野とゴールに遮るものが全くなく完全に1対1のシチュエーションにより一か八かの直感による飛び込みを決意する。

 

(右、左、下、上? いやど真ん中? 見ろ見ろ、分からん、直感信じろ!)

 

 見て、見て、見て、見て……そして自分に対して右側へと飛び込んだ。

 

 水野は、バク宙しながらも姿勢を崩すことは無い。まるで水野の世界だけが反転したかのように思えてしまう異次元の体幹。

 

 水野はボールを一切見ることは無い。それは今回に関しても例外ではない。水野は我牙丸を観察し続ける。周囲に自身を害する存在がいないことは確認済みであるために意識をゴールのみに集中した。

 

 そして、ボールに脚が触れる寸前、我牙丸が動く。それは奇しくも水野が放とうとしていた方向。野生の勘がシュートコースを察知しルートを塞ぐ。

 

 水野は我牙丸が飛び出したのを目撃する。ボールに足が触れる寸前での軌道修正。脚を右へと振り横向きの回転をかける。そのシュートは後半戦一発目の直線とは全く別物の、弧を描き元々描いた道筋を否定するように我牙丸が飛び込んだ逆方向へと向かい、そのままネットを揺らした。

 

 伸ばした脚は届かず、無慈悲に揺れるネットとまたしても沸き立つ歓声を耳にし、我牙丸は戦慄を隠す事無く水野を見やった。

 

『き……決まったァッ! 後半戦二点目、やはり水野悠ゥ!! 糸師 冴からのパスに応える神業シュートを魅せました!!』

 

「二段式フェイク……頭上蹴(オーバーヘッド)!?」

 

 後ろから走ってきていた潔は立ち止まるも、目の前で起きた異常なまでのプレーに脳が理解をしようとしない。

 

(トラップ高かったのはわざとなのか!? いや、高くなったからオーバーヘッドに切り替えたのかっ!? わっかんねェ! 分からないけど……)

 

「やり過ぎだろ……っ」

 

 スタジアムの視線は、もはや水野に集中されていた。ダークホースは弱者に非ず、糸師 冴というビッグネームが霞む圧倒的存在感。既に、日本全国に水野悠の名前が刻み込まれ、『日本』コールと『糸師 冴』を応援する声は、次第に『水野悠』一色に染まり、青い監獄への声援は掻き消えていく。

 

「なるほどね、そっちの方が早くボールに触れるし、効果的なのかもね」

 

 そんな中。

 

「……うん、わかった」

 

 白き天才は、傑物の神業を脳裏に焼き付け。

 

「凪……?」

 

「潔、俺にパス頂戴」

 

 僅かに滲む汗をユニフォームで拭い、そのまま視線を自陣に戻りながら冴と拳を合わせる水野へと向ける。

 

「お礼……今度は俺が見せてあげるよ」

 

 凪誠士郎が、産声をあげた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

【水野 悠】

 

 誕生日 11月27日

 年齢(学年) 17歳(高校2年生)

 星座 いて座

 出身地 不明

 家族構成 父・母・姉・自分

 身長 182cm

 足のサイズ 26.5cm

 血液型 A型

 所属 青い監獄

 利き足 左利き(右練習中)

 好きな選手 特になし(怒られそうなので一応ノアって言っている)

 サッカーを始めた歳 12歳(中学入ってから)

 二つ名的なもの 天才(アホ)

 自分が思う自分の長所 人並みに勉強やら運動ができるところ(これを言うと毎回冴に殴られる)

 自分が思う自分の短所 人並みにしか勉強やら運動ができないところ(これを言うと毎回冴に殴られる)

 座右の銘 『押してダメなら多分引き戸』

 好きな食べ物 マグロ(美味いよねっ!)

 嫌いな食べ物 わさび(お前は許さん)

 BESTご飯のお供 納豆

 趣味 アニメや漫画(時間が進むのが早い)

 

 好きな季節 秋(気温が丁度いい。何より虫が少なく感じる)

 好きなテレビ番組 手越がいた頃のイッテQ

 好きな音楽 sister’s noise

 好きな映画 るろうに剣心(実写で成功しすぎだろ)

 好きな漫画 「呪術廻戦」(もし転生したら十種影法術使いたいなああ! ( ))

 キャラカラー 水色

 好きな動物 犬(吠えないタイプ)

 好きなブランド ミズノ(シンパシーを感じた)

 得意科目 全体的にそこそこできる(全国模試満点)

 何フェチ 太もも(なんかいいよね!)

 されたら喜ぶこと プレゼント

 されたら悲しむこと 化け物を見る目で見られること(最近多い)

 初めて告白されたエピソード 幼稚園かそこら辺

 昨年のバレンタインチョコ数 袋二個分だから2個? 

 睡眠時間 8時間

 お風呂で最初にどこから洗うか 前髪の生え際

 きのこ派orたけのこ派 たけのこ

 最近泣いたこと タンスの角に小指ぶつけた時

 サンタからのプレゼントは何歳まで 12歳

 サンタからのプレゼントで要求したのは PS5(冴はキモイこと言ってたので鼻で大爆笑した)

 地球最後の日に何をする? テレビ壊してみたい

 1億円もらったら何をするか とりあえず震えて寝る

 休日の過ごし方 ぼーっとする

 

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