僕は無実だァっ!!!   作:ラトソル

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【至宝】の一撃、【悪魔】の胎動

 青い監獄VSU20日本代表。新世代11傑でもある糸師 冴を織り交ぜたこの試合は地上波で放送され、日本国民の話題をかっさらっていた。

 

 そしてそれは、日本に留まる話ではない。

 配信サイトを通じて、世界各国に配信されているこの試合。サッカー大国などからすれば小さな島国の国内試合に興味のそそられない者たちも多い。中には糸師 冴のネームバリューから少しの興味が湧く選手たちも居るだろう。

 

 ……世界の最前線で戦う選手は、世界を揺るがす選手の胎動を目撃する。

 

「ユウ……あハッ、ユウっ、ユウ!!」

 

 将来有望とされる未だ若き少年は、かつて見た光景を思い出し頬を赤く染めながら画面に食いつく。

 

「……『ミズノ』、だと?」

 

 世界一という評価をモノにしたストライカーは、画面上で圧倒的な存在感を放つ選手の名前を聞き、既視感を覚える。

 

「──素晴らしい」

 

 一時帰国した青年は、数日前に感じたかつてない興奮の要因となった青年のプレーに目を離せない。

 

「あちゃー、詰めが甘いなあ」

 

 飛行機の中でスマホを眺め、馬狼が点を決めた場面を目撃した才能の権化はケラケラと笑いながら水野のプレーを見守る。

 

 そして、日本。

 

「ふふっ」

 

 ソファに座り、ぬいぐるみを両腕で抱きしめながら目の前のテレビ画面を見つめる。右上には『LIVE』の文字、そして両者の点数と、一度ゴールが決まったことにより攻守が切り替わる間の時間に解説がリプレイを見ながら弾んだ声で水野悠の神プレーの数々を振り返っていた。

 

「真面目な顔……ふふ」

 

 テレビに映る彼の表情は真剣そのものだったのだが、内情をなんとなく察している少女は笑みをこぼす。

 

 美しい栗毛の髪は腰まで伸びている。画面に映る水野を見る少女の微笑みは万人を虜にしてしまう甘い甘い劇毒。

 

「頑張ってください、悠くん」

 

 淹れたばかりであることから湯気が揺らめく紅茶の注がれたティーカップを持ち上げて口に運ぶ。ふぅ、と一息着いた少女の瞳は、慈愛のこもった眼差しを画面に映る青年へと向けていた。

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

「おい」

 

 歓声がスタジアムを揺らす。ユニフォームを脱ぎさり観客を煽る馬狼の元へと青い監獄側の選手達が集まり覆い被さる。この1点は前半のものよりも価値があり、士気を向上させるのには十分すぎる起爆剤となっていた。

 

「あの時、なんでパスを出したんだよ」

 

 愛空は流れる汗を拭いながら、好戦的な笑みを浮かべて青い監獄の盛り上がりようを眺める。仁王を始めとしたDF陣は馬狼を止めることが出来なかったこと、そして凪に出し抜かれた事実。閃堂は水野に齎された大チャンスをものに出来ない自分自身を強く責める。

 

 汗ひとつ流さない水野は疲労から来るものでは無いため息を零し、こちらも疲労を見せない冴が不機嫌であることを隠さずに水野へと詰め寄る。

 理由? と小さく呟く水野は少し考える仕草を見せるとなんてことないように答える。

 

「ボール欲しそうにしてたしな」

 

「……はぁ」

 

 一年という時間を過ごした事で水野の性格や思考をある程度は理解しているために冴はこれ以上の追求が無意味であり、水野が考えを変えることは無いことを悟る。

 

「あのヘタレが外した瞬間、俺らの盤面は詰みに限りなく近くなってたんだ。決めれるゴールは自分で決めろ」

 

 強引に行けば水野自身が決められた局面。水野との一年の交流、僅か一週間ながらに冴の記憶に刻まれた理不尽の象徴たる才能の権化との邂逅。それらを経て、冴のスキルは磨きがかかっており、水野が視ている世界に限りなく近いものを視ている。

 

 故にこそ、決められたシュートを決めずに客観的に確率の高い閃堂へとパスを回した結果が失点に繋がったという事実を冴は認めたくはなかったのだ。

 

 冴の叱責。それに全く反応を示さない水野を見ると珍しく考える顔を作っている。現状で水野が悩むことといえばこれくらいだろうと、理解者である冴は正確に水野の思考を読み取った。

 

「『あの人』なら止められたってか?」

 

「キッショ。なんで俺の考えてること分かんだよ」

 

「俺からすれば、お前の思考は読みやすいんだよ」

 

 上裸になった馬狼がイエローカードを貰い、所々から笑い声が聞こえる。青い監獄のベンチではアンリが表情を綻ばせて喜び、絵心は予定調和であることで気持ちを抑え、次の盤面を正確に見つめる。その背後で、褐色の悪魔のボルテージが高まりつつあった。

 

「凪のシュート。あの人なら弾くなんて愚行はしない。仮に弾くとしてもそれは味方にわたる最善の箇所にボールを落とすはずなんだよ」

 

 先程のプレーの甘さに嫌気がさす。冴はあの人ならやりかねないなと考えながら眉をひそめて息を吐く。

 

(『あの人』の影響が大きすぎるか。悠の中での揺るがない絶対的な『天才』の定義。『天才』とはあの人のことであり、それ以外は全て『凡才』。自分と相手の実力を正確に把握出来ているにもかかわらず決して自分を『天才』だと認めない理由。あまりにも圧倒的な才能を見てきたが故に世界トップの実力を持っている自分自身でさえ有象無象だと思っている)

 

 まあ、過度な勘違い云々はこいつの生来のものだろうがな、とシリアスな空気漂う水野の首元を右手で鷲掴みにして引き摺り自陣へと戻る。

 ぐえっ、と蛙の鳴き声のような音が水野の口から漏れ出る。それを聞いても冴の表情は変わらず無表情でむしろ力を込めていった。

 

「またパスでも出す気か?」

 

「ケースバイケース」

 

「だろうな」

 

 水野悠は青い監獄でも異質。こいつは決してゴールに飢えたエゴイストでは無い。気分次第でパスも出すだろうし、特に何も無ければ自分で決める。

 ストライカーとしての矜恃は持ちつつも、しかし絵心 甚八の望む究極のストライカーとは少しズレた位置に存在する別種の究極の一。

 

 それを理解した上で、尚も冴は水野を王にすると決めた。この性格を矯正しようとは思っていないし、冴の中では水野は特別枠。肯定はしないが、否定もしないという少し歪な関係性。

 

 まあ、そんなことは関係なく。

 

 U-20日本代表FW陣の体たらく。既に冴の許容範囲を超えつつある失態の数々は、もう少しで爆発しようとしていた。

 

 

 

 馬狼へと乗りかかる選手達から少し離れた地点。

 

 凪は神がかったシュートを無理な体勢で放ったことにより体勢を崩し、尻もちをついた状態から今の今まで地面に座り込んだままでいた。

 片手で口元を覆い、騒ぐ観衆の姿は映らない。

 

(あれが今の俺の最高到達地点)

 

 文句無しのパフォーマンスだと思っていた。実際に今もあれ以上は無かったと感じている。しかし、師匠たる水野からの辛い指摘を受けて自身のプレーをフィードバック。

 

(1回目で穴……あったか? いや。確かに今思えば無いとも言いきれないけど)

 

 うっすらと見えた道筋。しかしそれはあまりにも細く弱く輝いた道筋であり、わかっていてもそのルートを通せるかと聞かれれば、答えはノー。

 

 当事者ですらないにもかかわらず、一瞬でゴールコースを見極める観察眼と、その無理難題を遂行出来てしまう技術。確かに踏み入れた領域には既に水野の姿はなく、姿が見えないほどに遥か先を歩き続ける男との距離は計り知れない。

 

「──潔には見えてた? 水野と同じ景色」

 

 独り言のように呟かれた問いかけはいつの間にか隣に歩み寄ってきていた双葉のような癖毛が印象的なエゴイストの耳へと届く。凪からの問いかけに考える素振りも見せずに「いや」と言い自陣へと戻る水野の背中を見る。

 

「俺が見えてたのは凪のフィニッシュまで。水野の介入は完全に想定外だったし、なんなら水野は馬狼の強襲もわかってた風だった……てか、やっぱバケモンだよ、あいつ」

 

「え?」

 

「凪のシュートに間に合う脚力もそうだし。あれは本当に紙一重。体勢だって崩れながらのシュートカットだったのに……あいつは馬狼のシュートを()()()()()()()()()

 

 きょとんと目を丸くする凪を置いて潔が説明を続ける。

 

「あいつは馬狼のシュートにつま先なら触れたんだ。でも、伸ばした足を止めて触るのをやめた。多分、キーパーの位置と馬狼のシュートコース。そして、仮に水野がボールに触れた時のシュートコースをあの一瞬で計算して最もゴールを防ぐ確率の高い手段として、伸ばした脚を止めたんだ」

 

 コンマ数秒。ゴールが決まり充分な思考時間を与えられた今だからこそ気づけた異常に潔の表情は硬い。潔の説明を聞いて凪は驚愕を通り越して若干引いていた。

 

「え……やっば。ていうかキモっ。人間やめてない?」

 

「最初から分かってたことだろ。水野は既に世界トップクラスの化け物だ」

 

 伸ばされた潔の手を取り立ち上がる凪は現時点での最高のプレーを行ったことによる興奮状態から乱れる息を整える。

 

(ていうか、状況が厳しすぎる。俺の超越視界も完成して無いから試合時間フルで使えるわけないと思ってたけど。オンオフを切り替えてももう限界が近い。明らかに精度が落ちてきてる)

 

 身体的疲労以上に、他の選手以上の眼の行使と思考加速による精神疲労がピークを迎えようとしていた。

 

(後半からとはいえ、俺以上の情報処理を行っているはずの水野がなんで疲労見せないんだよ。汗ぐらい掻け)

 

 悪態をつきながら、視線を冴へと変える。

 

(一番予想外だったのは、糸師 冴が想定の遥か上をいく実力だったこと。まだ本気を見せてないだろうし、このフィールドで水野に限りなく近い視界を共有してるのはあいつ。MFだからか、水野に拘ってるのか、積極的な行動は少ないから助かってはいるが)

 

 要所要所で垣間見える冴の実力を考慮し、いつか見たはるか上の高みと比較した結論を下す。

 

(まず間違いなく──世界選抜の誰よりも、糸師 冴の方が強い)

 

 潔からすれば、両者ともに数値化不能の実力者達。下から見上げることから高さの違いは明確にはできないが、どちらが優れているのかは自然と結論が出た。

 

 冴本人がMFを強く希望したことにより、新世代11傑のMFの座に冴は君臨したのである。しかし、本来なら世間の評価では冴はFW……ストライカーとして新世代11傑のエースに君臨する筈であった。故にこそ、冴はFWとMF、二つの技量が世界トップレベル。

 

 潔達が知る由もない、『あの人』との僅か一週間の邂逅と水野悠という運命との出会いが、冴を最前線で戦える選手へと昇華させていた。

 

 試合が再開されようとしている。それぞれが任意の位置へと戻った辺りで、ようやく一名が動きを再開した。

 

 深呼吸。そして一歩踏み出す。ただそれだけの動作で、遠く離れた位置にいる愛空は息を呑んだ。

 

「まじ、か……!!」

 

 溢れ出る殺意、燻る闘争本能。自分の枷を外し、実力を数段階上へと跳ね上がらせるトリガーたちを、今は不要だと排除する。

 

「凛……だよな……」

 

 深呼吸。内側に潜む己の天井を定める不純物を体外へ放つように凛の思考がクリアになっていく。

 

 いつの間にかボールは足元に。そして隣に立つ潔の僅かに緊張している声を聞き、歓声に消えていくほどの小さな声で「……あ?」と答えると、前髪をかきあげてなんてことないように潔へと視線を向けた。

 

「他の誰に見えんだよ。俺は、糸師 凛だ」

 

 凪の覚醒は点に繋がったとはいえ水野に届かず。第一の刺客は狩人の乱入により捕食された。

 

 そして今。

 本来ならば、まだ少し先で至るはずだった境地へと凛が到達。

 第2の刺客が牙を剥く。

 

「おい、悠」

 

 試合再開直前、不機嫌である様子を隠そうともしないワガママ王子こと冴からの呼び声を聞いた水野は能天気に「なんじゃい」と返す。

 

「ストレス溜まってしょうがねぇ。交代だ」

 

「なに、お前監督の権限も強奪しちゃったの? おれ強制交代? まあいいけど」

 

「ちげぇよクソボケが」

 

 慣れたように言葉を返して首を鳴らす。

 

「一点俺に寄越せ」

 

「おけまる」

 

 相変わらずの無表情で死んだ目つき。しかしストレスから怒りなどの感情が分かりやすく見える。

 威圧感の籠った口調で命じてくる冴の様子をいつも通りの事だと特に狼狽えることもせず水野は軽くストレッチをしながら盤面を見据えた。

 

(あいつを入れてくるとしたら、あと二点決まったくらいか。まあ、どうでもいいが)

 

 潔の隣に佇む凛の変貌を観察し振り当てたパラメータの調整を行う。

 

(ポテンシャルはあるっちゃあるが。まあ想定を超える程じゃない。正しく導けば伸びるが今じゃないな。冴もそれがわかってるからブラコンのくせに弟にだいしゅきホールドしに行かないんだろ)

 

 ドーム状に囲まれているスタジアムなので風が吹くことは無いものの季節の肌寒さは感じる。ようやくその寒さがマシになってきたこともあり水野のボルテージが一段階上がった。

 

 試合が再開され、水野から閃堂へとパスが渡る。冴ではなく自分へとパスが出されたことに驚きを顕にしながら切り替えてプレーを再開。冴と水野はあまり前に出ることなく本来の日本代表FW達主体に攻めに出る。

 

 正確なパラメータ調整の為に一時的に場を俯瞰。パスが渡ったとしても一人攻めることなくまたパスを返しを繰り返す。

 

(だいたい掴んだ)

 

 修正が完了したのは、凛が相手のパスをカットした時だった。

 冴の機嫌が最底辺まで下がりつつあった。

 

 ボールを受け取った凛は先程までの暴走を見せず、しかし想定よりも早いテンポに潔は苦しい表情で付いていく。

 

(──このぐらい付いてこい、って顔してやがるっ。相変わらずクソ生意気)

 

 高速のパス回し。潔、凛、凪の三角形での陣形。その脇には烏や蜂楽が付随しており無限のパターンに対応する。

 

 蜂楽がサイドから切り込む。高速シザースなどテクニカルなプレイで場を魅了し自由なサッカーで相手を翻弄する。

 

 そしてその五人の連携の中に、異分子として組み込まれる馬狼。先程の暴力的なまでのプレーを見ている日本代表側は当然警戒。余程のことがない限り馬狼の選択肢にパスがないことは共通認識となっていた。

 

「先に行ってるぞ」

 

 ディフェンスに回る選手達の中、タイミングを見計らった冴が飛び出し、潔達の横を素通りして前線へと飛び出る。潔の中での計算不能の異分子である冴と水野。その行動を無理矢理そういうものであると定義して予測を行うも疲労からか精度が低下。

 

 常に全体の情報を取り入れようとする潔の呼吸は早まる一方であり、アドレナリンの分泌により騙し騙しのプレーが可能となっているがいつ倒れてもおかしくはない。潔の眼の補助として氷織が控えるが一人付いていることから容易に動くことが出来ずにいた。

 

 凛の覚醒──厳密に言えば成長過程だが──により広がるゴールへの選択肢。明確な一本が描けずとも可能性の見える道筋を虱潰しになぞっていく。潔へ、烏へ、凛へ。ボールが目まぐるしく回り、流石の日本代表DFも対応が困難であった。

 

 フリーの凪へとボールが渡る。潔のビジョンにノイズが走る。いち早く凛が察知して自陣へと振り返り走り出す。

 

「──え」

 

 触れたボールに感触はなく、何かが横を通り過ぎる風をふわりと感じ取った凪は自然と足元へと視線を下ろすと、あるべきボールが無いことを確認。そして確信のないままに後ろを振り向けばそれが当たり前であるかのようにボールを保持する水野と、遅れて走り出す凛の姿。

 

 さらに遅れて状況に気づいた潔が歯を食いしばりながら切り返し足を酷使させて戻る。

 

(いつの間にっ……つか、どこに居た!? 最警戒である水野の位置取りは常に把握するように動いてたのに! 真正面から突っ込んで凪が気づかない自然な足取り、気配の消し方が異常すぎる!)

 

 僅かに後方に居た馬狼が止めに入る。水野は足元を全く見ないドリブルでルーレット。激しく変わるドリブルは、魔法のように馬狼の視界からボールを消す。

 

 唖然とする馬狼を置き去りに前へと踏み出し、弧を描き馬狼の背中側へと落ちるボールを足に吸い込ませながらトラップし、速度を上げながら駆け出す。馬狼の足止めにより僅かに距離を縮めた凛だが障害物を無くし走り出す水野との距離は秒ごとに広がり、ドリブルをしている相手の方が速い事実に舌打ちを零す。

 

 水野の味方である日本代表達も水野の驚異的な特攻に追いつくことは出来ず、前を走る冴は離れていることから水野単身で青い監獄の待つ敵陣へと突っ切る。

 

(寂しい)

 

 後ろを見ずに前へ前へと走りパスを待つ冴の後ろ姿を見ながら場違いにそんなことを考えてみたり。

 

 バックパスは凛達が潰すことを考慮して二人で水野を囲う。それに対し水野は誰も居ない左前へとボールを蹴りだし自身は右側から抜き去る。

 あらぬ方向へと蹴り出されコート外へ出るはずだったボールは驚異的なスピンにより最高速で走る水野の元へと舞い戻り、フォームを崩すことなくボールを拾いドリブルを再開。

 

 冴は既にゴール前へ。そして難なくラインを越える水野は自然と交差する視線により冴が求めるパスを実現。DFがポジションにまとまることができる直前に冴の足元へパスを出す。

 

 一度のトラップを挟み、ふわりと上がったボールに向けて左足を構える。

 

「させっかよ!!」

 

 玲王が走り、ボールをトラップした冴にプレスする。その対応が想定内だったのか焦る様子を見せず冴はシュートを中止し軽くボールに触れて前へと押し出す。ボールカットが叶わなかったことに声を漏らす玲王。しかし僅かな時間の遅延から蟻生が冴のシュートコースを塞ぐ。

 

「──追い付いたっ!!」

 

 水野に目もくれず、誰よりも真っ直ぐに冴へ向けて走っていた凛がギリギリで間に合い、強引に横から冴へと体を寄せて芯を揺らす。ギリギリだったこともあり、勢いそのままにプレスしたため冴の体は大きく反転。もはやファウルを取られてもおかしくは無い程の衝撃を与える。

 

 プレスした凛は自身への衝撃があまりないことに気づく。冴は横からの凛の特攻にも対応し、逆に力を利用して凛の背中に手を置き身体を反転。ボールは凛と冴の真上に上がる。

 

「────クソナルシスト青薔薇野郎のオマージュだ。受け取れ」

 

 振り絞られた左足を振り切る。上空にあるボールをオーバーヘッドで上から下へと叩き落とし、遮られたはずのゴールへの道筋を蟻生の股下を通すことで強引に開放。臥牙丸の飛び込みも僅かに届かず、ゴールネットへと深々と突き刺さった。

 

 それはまさに……皇帝衝撃波(カイザー・インパクト)である。

 

 電光掲示板の数字が変わる。それと同時に観客の歓声は最高潮に。水野のスーパーゴールと遜色のない冴の神ゴールが世界へと放送された。

 

「焦るなよ」

 

 埋めた点差は即座に返され点差は再び1点に。ベンチで騒ぐいがぐり、そして口を押さえるアンリを横目に、彼らに向けてでは無い言葉を絵心が呟く。

 

「もうすぐ出してやる」

 

「──キヒッ」

 

 ベンチに座る中では異質。目の前で繰り広げられるプレーに絶望するでもなく、ただただ闘争心を滾らせる悪魔の胎動が静かに響いた。

 

 青い監獄VS U-20日本代表

 

 5対4

 

 日本サッカーの歴史が変わるまで、あと────

 

 

 

 

 




『あの人』
天が二物も三物も与えた才能の権化。理不尽の象徴。
単純な身体能力以外の全てにおいて水野悠を上回る。
冴はこの人が苦手。嵐よりもタチの悪い災害だと思っている。
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