無実の罪で犯罪者予備軍集団に仲間入りさせられた俺は、無実を証明するべく扉をくぐった。てか、扉でっかっ! 門じゃん。
その先には5台のバスが並べられており、うち1台は出発しようとしていた。
さて、俺はどのバスで連行されるのかと思っていたら陰の方から一人の女性がこちらに近づいてくる。
なんか色々言っていたが、俺はその女性──アンリさんというらしい──のビッグサンダーマウンテンに意識が集中しており、全く内容が入っていなかった。多分相槌も「ああ」とか「おー」とかしか言っていなかった気がする。
「着きました」というアンリさんからの声でようやく意識を取り戻した俺は彼女に案内されるまま、なんかでかい建物に入れられた。
そこで俺はハッとする。なるほど、ここが監獄か、と。
アンリさん先導のもと、監獄内の設備、トイレや食堂、あとは俺の部屋に案内してくれた。なんかめっちゃ丁寧だった。
ていうか、俺の部屋が一人部屋だったことに驚いた。こういうのって狭い部屋に大人数で雑魚寝とかさせるんじゃねぇの? 一人部屋だとしてももっとこじんまりした硬い布団とも呼べない布切れしかない部屋じゃねぇの? 知らんけど。それに比べ、俺の部屋はめっちゃ広い。実家の部屋より広かった。
疑問が絶えないままに、着替えを渡された俺は言われるがままに着替える。なんかピッチピチの服だった。なんだこれ? なんで俺のサイズピッタリなんだよ。てか隙間すらないしデザインダッサッ。
なんかワンポイントみたいな感じで左肩に【001】という数字が書かれていた。なんだこれ? と思っていたら突然壁にカッパが映し出された。
「やぁやぁ、水野悠」
カッパじゃなくて自称革命家だった。相変わらず目がイってやがる。
諸悪の根源であるヤツの顔に思わず目を細めてしまったが「まあそう焦るな」とよく分からないことを言い出した。焦るに決まってんだろうが、煽ってんのか。俺は無実なんだよっ!
「お前には予定されていた一次選考を免除とする」
何言ってんだこいつ?
「他の才能の原石共の一次選考が終わるまでの間、実装予定のブルーロックマンの調整に付き合ってもらう」
何言ってんだこいつ?
終始意味のわからないことを言っていたものの、ブルーなんちゃらの調整というのが俺に課せられた労働、ということなのだろう。
俺、機械とかあんま得意じゃないんだけどな。ミスったらペナルティとかあったらクソだりぃ。
画面が消えるのと同時に後ろの自動ドアが開く。そこにいたアンリさんに連れられ、広い空間に一人入れられた。
こんなとこで作業するのか? と思っていたら、突然現れたサッカーゴールとゴールキーパー。え、いつから居たのお前? という疑問が生じた途端に壁からボールが飛び出してくる。なんかよく分からんが、反射的にそのボールをトラップし、直接ゴールへとシュートする。
するとゴールの上に『残り 99GOAL 29分53秒』という文字。おい、説明しろよ。なんだこれ?
よく分からないがまたボールが飛んできたので先程同様にゴールを決めると『98』へと数字が減っていた。つまり、30分以内に100ゴール決めろ、ってことか?
なんで急にサッカー?
いや、え? どっからサッカーに繋がった? ここ監獄だろ? 監獄サッカーチームでも作るのか? 全く分からん。
これと労働がなんの関係があるのか全く分からないが、30分で100ゴールか。
楽勝だろ。
蜂楽のサポートもあり、ブルーロックの入監テストに合格した俺達は3日間の体力テストを終えた。
俺のランキングは変動し、274位。つまりブルーロックには俺の上に273人ものストライカーがいる。
部屋に集められた俺達に絵心はブルーロックのシステムについて説明していく。
ブルーロックは五つの棟で構成されており、B〜Zのチームに分けられる。俺達は五号棟のチームZ、つまり最底辺のチームであること。
自分が底辺であると言われたことに雷市は声を荒らげていたが、それは当然として、俺は困惑していた。
体力テストを通して、俺はチームの身体能力をある程度把握していたが、優秀なこいつらが最底辺であることが信じられなかった。
なら、他の棟にはどんな化け物がいるんだ、と想像もつかない強敵に武者震いしているところで、絵心はある動画を見せてきた。
「見ろ。これが現ブルーロックランキング一位……水野 悠だ」
そこは、全国大会が行われるようなコートではなかった。設備の整った高校のコートで行われる予選だろう。
動画はとある選手がパスを受け取ったところから始まった。センターラインから駆け出したその男が見せた……いや、魅せたプレーは衝撃的すぎた。
足下を一切見ず、ボールが足に吸い付いているようにさえ見える、敵を寄せ付けないドリブルセンスで、一人で中央突破を成し遂げる。
よく見れば、相手選手に知った顔がいる。雑誌にも取り上げられている有名な選手だ。彼が所属している高校は、全国経験も多数あったはず。つまり相手は全国にも届く強豪校。それをたった一人で相手取り、完封している。
3人に囲まれたとしても、彼の足は止まらない。流れるような動きで隙を潜り抜け、ゴールへとボールを捩じ込む。
そこからの映像は彼の……水野悠のダイジェスト。
彼のドリブル、パス、シュート、トラップ。その全てが詰まったその映像に、俺、いや俺達は水野の力に魅せられ、そして格の違いを理解させられた。
嗚呼、これなら俺の順位にも納得がいく。そう思ってしまうほどに、水野は強かった。
映像だけでこれ程なのだ。実際に見てしまえば、俺はどう感じてしまうのだろう。互いの格の差に絶望するのか?
否。
俺は震えていた。それは恐怖か?
否。
俺は水野に魅せられた。あの圧倒的なまでに、暴力的とも言える強さに釘付けになった。
そして。
(あいつを、倒したい……!!!)
あいつを超えた先には、何が見えるのか。何があるのだろうか。
俺は、一人のストライカーとして。
水野選手を特別枠としてブルーロックに招集するという話を絵心さんから聞いた時、私は疑問に思っていた。
水野悠。
有名な選手の名前は大方頭に入っているが、そんな選手は聞いたこともない。絵心さんによれば、地方の弱小校の選手だと言う。
既にブルーロックには300名の才能に溢れた高校生FWが決まっている。当初の予定を崩してまで招集するような選手なのかは腑に落ちなかった。
それでも、例外というものは存在する。
現に私がノーマークだった凪 誠士郎、御影玲王というブルーロックでもトップクラスとなるであろう選手を見つけたのも偶然だった。
絵心さんからは「実際に見たら分かる」と言われた。試合映像ではなく、生で見た方がいいとの事だった。だから私は彼の過去の映像を見ることなく、水野君を彼専用に整備された特別棟へと案内した。
第一印象は、爽やかな好青年だった。
目鼻立ちも整っていて、身長も180ほどだろうか。実際に車内で話してみたが、相槌もしっかりしていて好印象を抱いた。
私たちが求めるストライカーは究極のエゴイスト。己のゴールを追求することに全てを注ぐ、そんな存在。彼からは、そんな片鱗を感じなかった。
今まで数多くの選手を見てきた。高圧的な選手、笑顔を振りまく選手、様々な選手がいたが、彼らには共通して、ストライカー独特のオーラというものを感じた。
しかし、彼からはそういったものを全く感じない。
絵心によれば、彼の一次選考をパスすると言う。予定外の301人目とはいえ、それはあまりにも特別待遇なのではないかと一度抗議した。
が、そんな私の抗議に絵心さんは、ただ一言。
「奴は、既に宝石だ」と。
今なら、その言葉の意味がわかる。いや、分からされた。
目の前で行われている、圧倒的なまでの技術に。
二次選考で実用予定のブルーロックマンの試運転という名目で行われたテストは、着々と進んでいた。
不自然な程に、すんなりと。
ブルーロックマンは段階的に難易度が変化する。
Lv1はキーパーのみ。それでも、ブルーロックマンは各国のGKのデータを元に作られているため、生半可なシュートは防がれる。
それを、彼は一度も外すことなく決めた。
Lv2。DFが追加され、パスの難易度も跳ね上がる。
汗ひとつ垂らすことなく、全てを決めた。
そしてLvMAX。DFが不規則に動き、妨害してくる。パスには乱回転がかかり、スピードも跳ね上がる。ここからが本番だと言うような、デタラメな難易度。
全て、完璧に決めた。
圧巻の一言。いや、そんな言葉ですら表せないような高揚感。私は今、何を見せられているのだろうか。設定を誤ったのか? 違う。あれは自分でも引くくらいにはデタラメな難易度設定だ。実装前だからという理由で、LvMAXの難易度は予定よりも高めに設定してある。それにも関わらず、彼は全て決めて見せた。
Lv1、いやブルーロックマンのテストが始まった時、彼の表情は明らかに歪んでいた。離れた位置からでも分かる。怒りだ。
こんな低レベルなものに俺は付き合わされているのか、そんな感情が窺えた。それはLv2になっても変わらなかった。
LvMAXでは怒りの感情は消えていた。彼の中では及第点だったのだろう。それでも、歓喜とは程遠い。彼にとっては大した差は無かったのだろう。
そんな彼とは打って変わって、私は歓喜していた。彼だ。彼こそが私達が求めていた存在なのだと。絵心さんの言っていたように、彼は恐ろしいまでに「宝石」だった。
「アンリちゃん、気付いた?」
「はい?」
不意に、隣にいる絵心さんが私に問いを投げかけてきた。気付いた、とはどういうことなのだろうか。彼の技術には驚愕した。ブルーロック内では彼は頭一つどころか、数個抜けているだろう。
だが、絵心さんの質問はよく分からなかった。いったい何について聞いているのだろうか。
口ごもる私を見て絵心さんは先程まで行っていたテストの映像を巻き戻す。そこに映っていたのはLvMAXのパスをトラップしている時の映像。いくつかのパターンの映像を見せられる。シュート精度もさることながら、トラップ技術も一級品だ。目を輝かせながら映像を注視していると、不意にあるところに気がついた。
「……ボールを、見てない?」
私の言葉に、絵心さんは首を縦に振る。
「そう。水野悠はこのテストが始まってから、シュートの時以外、一度もボールを見ていない。パスの場所は毎回違うにもかかわらず、だ」
怪物だよ、と続ける絵心さんを横に、私は歓喜に震え、そして恐怖した。
視野が広い。そんな言葉では言い表せない。空間認識能力が冠絶している。彼は本当に人間なのだろうか。
そんな人間離れした神業と言ってもいいものを30分という短い時間の中で100回をも繰り出した彼から疲労は窺えない。むしろまだ終わりでは無いんだろうとこちらに語りかけてくるようだ。汗ひとつ見せない彼に対して絵心さんは「お疲れ様」という中身のない言葉を告げ、退出させる。
私は己の口角が上がっていることを自覚しないままに、彼の過去の試合映像を漁ることを決め、自室へと戻った。
あのゴールキーパー弱くね? 全部入るんだけど。
上にでっかく【BLUEROCKMAN】って書いてるけど、あいつの名前か? ださっ。
十回くらいゴールを決めたが、既に作業ゲーみたいになってきて飽きてきたな。と思っていたら、ブルーロックマンに目がいった。首と手首、足首には錠がつけられ、ちぎれた鎖も付いていた。そこで俺はハッとした。なんてことだ。
あいつ、ここで強制労働させられてやがる。しかも、顔まで布で包まれてるから前も見えない状況で、だ。
俺はそんな人権を無視した非道な扱いに怒りが込み上げてきた。可哀想に、つまり奴は視界が塞がれた状態でGKという名のサンドバックにさせられているんだ。
なぜ俺が執行人みたいな立場になっているのか知らないが、どうせカッパの娯楽だろう。巫山戯やがって……!!
安心してくれ、名も知らない人……適当にブルーノでいいか。ブルーノ、あなたには絶対ボールは当てないからなっ。早くこんな茶番は終わらせよう。
少し経ってから、Lv2とかになって、障害物が増えた。だからどっから出てきてんだよ。
まあ対して難易度は変わらん。それよりも非人道的な行いが俺には許せない。
おそらく、今回のようなことはまだ軽い方なのだ。あんなにガチガチに縛られているやつがこの程度の労働で済むはずもない。目隠しキーパーとか意味の分からない労働だが、ここは特別なのだろう。あのカッパの娯楽に付き合わされるブルーノはたとえ囚人であろうとも同情してしま……ん?
ちょっと待て。ここは監獄。俺は無実だとしても、他の連中は犯罪者予備軍。それに、元々収監されていた囚人、つまり犯罪者もいるはず……
あいつ犯罪者じゃね?
しかもあんなに厳重な拘束、半端な犯罪じゃねぇ。
ブルーノお前……連続殺人鬼かっ!!!
なんか障害物が動き始めたが、どうでもいい。さっきまでの怒りと同情を返せ!! このクソ異常者がっ!! 顔面にシュート決めてやろうか!!
いや、落ち着け。そんなことしたら俺も糞の仲間入り。あいつの奇行による被害者に変わって俺が裁きの鉄槌を下したいが、必死に抑え、この茶番を終わらせよう。
100ゴール決めた瞬間、ブルーノを含めた障害物どもは一瞬で姿を消した。逃げやがったなあいつっ!!