僕は無実だァっ!!!   作:ラトソル

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無気力ってこういうこと言うんだな〜

 人間とは、本来の実力を100%発揮することの出来ない生き物だ。

 

 緊張、準備不足、怪我。要因は様々であるものの、全てが完璧に揃った状態においてなお、本来の20~30%の力しか発揮することは出来ない。

 それはひとえに脳がセーブをかけているから。力の全て……100%を解放した時、筋肉と節々は崩壊を始める。要は、身体を守る為に、無意識的に実力を制限しているということ。

 

 ゾーン。

 

 それは不可能とされる100%の実力を発揮することの出来る可能性のある状態。

 極限の集中状態によりリミッターの解除。全ての動きが止まって見えるほどの情報処理能力向上。

 これらにより、80%近くまで実力を解放することを可能とする奇跡の状態となる。

 

 しかし、これを100%まで持って行けるのは世界でも有数。ほんのひと握りの上位者のみ。

 ゾーンに入るというのは極端な話、『集中している』と言うだけの状態である。擬似的なゾーン状態に入ることは誰でも出来よう。意図してではなく、偶発的に起こり得る現象と言える。

 

 その上となれば、ゾーンに入るのは才能がものを言う。

 そしてそれ等の人物達も意図してゾーンに入ることの出来る者は例外を除き存在せず、そしてこちらは例外なく、100%を超える力を出せる人間など存在しない────筈だった。

 

 この世に、二人の異端者を除いては。

 

 水野悠の普段の実力は例に漏れず30%程。本人もそのことを自覚している。

 

 そしてゾーンに入るにあたり、ルーティンや環境に左右されるのが一般的ではあるものの、水野悠はその枠組みから逸脱している。

 

『ゾーンに入ろうと思うこと』

 

 それが、水野悠が極限の集中状態(ゾーン)に入るための唯一のトリガー。

 

 これにより、水野悠の基礎能力、情報処理能力共に急激な上昇を見せる。

 

 その上がり幅は100%を優に超える。

 

 ゾーンの決定的なデメリット。

 脳が許す範囲を大幅に超えた動きをすることにより身体の負担が極端に大きく体力の消耗が激しいという点。

 ゾーン状態時は痛覚、疲労を感じないが肉体には蓄積していき、ふとした時に限界を迎え体が動かなくなるというデメリット。

 故にゾーン状態はひと試合全てで使えるわけがなく、最終局面に偶然入り逆転……これが定説。

 

 そして……その常識にもまた、二人の異端者が存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 視野良好、思考クリア。

 

 ノアにより決められたポジションへと到達。

 

 前を向く。相手選手が定位置へと着き、ボールの側に立つ俺を見つめてくる。

 そして俺も相手チームを傍観……全ての人間のポテンシャルとパラメータを作成。

 

『KICK OFF!!!』

 

 ノアが求めてきた本気……つまり、俺の持てる全てを見せろと言ってきた。

 俺はその解答として、可能な限りの得点をするという結果を示そうと思う。

 

 この試合は3点先取。その全てを俺がゴールすることで示す……そのための最短ルートを設定。

 

 自チームの海外勢は俺達にパスをする気は無いようで。それでは俺の見せることが出来る姿はオフ・ザ・ボールの動きだけになってしまうから。

 

 だから俺は、普段では絶対にしない……味方のパスを強奪するという手段を一手目にとった。

 

 気配を消すのではなく、殺す。

 目の前にいるのに、見えているのに、気づかない。無害な存在であると誤認させる。

 

 あとはパスの軌跡上に割り込むだけ。そして試合は想定通り進んでいく。

 

 これほど簡単な作業は他にないだろう。

 

「……ぅぇ?」

 

 高めのパスの中間地点へと割り込んだためにヘディングでトラップ。そのまま初速から最高速で走り抜ける。

 

「速っ……!?」

 

 もうゴールへの道筋は確定している。目を瞑っても得点することが容易だ。

 

 一点目はシンプルに決めると決めていたから。

 

 だから相手選手の妨害も、何もかもの干渉を受けないよう、追いつけない速度で走り、独走を続ける。

 

 ゴールまでの距離、30m強。

 遮蔽物無し。キーパーの身体能力参照、オールクリア。

 

「──()()()()

 

 最近は使うことが減っていた左足の解放。

 万に一つ触れられるという事象が起こらないための最適経路を五パターンのうちから一つ選出し、なぞるように脚を振る。

 

 次のプレー。つまり二点目、三点目の動き方をどうするか考えながら自陣へと戻る。どうすればノアと、そして俺自身が納得する本気を出せたという結果を生み出せるかどうかを。

 

 ネットの揺れる音は聞こえない。既に自身の中で確定した結果を確認するまでもなく、それすら不必要な情報であるからカット。周りの目も目に入らない。刺さる視線を受け流す。

 

 ざわめきは、聞こえない。

 

「────次」

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

 誰もがその姿に気圧されていた。

 

 最早その男以外コート上にいないのではないかという、圧倒的なまでの存在感。覇気と言ってもいいだろうと錯覚するオーラ。

 

「いや、いやいや……は?」

 

 ゴールを告げるホイッスルが木霊する。それ以外の人間はただ反り立つ案山子が如く、示し合わせたように息を潜ませ気配がまるで違う王者の進行を妨げないように頭を垂れる。

 

「水野、くん……?」

 

 鋭い眼光、余計な言動さえもはばかる無言の圧力。

 普段の姿とは似ても似つかない……先日行われたU-20戦すらも霞む、重圧と絶対君主の威光。

 

「────ハッ」

 

 敵も味方も、ベンチも等しく静まり返る中、そんなものは認めないと青薔薇の貴公子がビリビリと震える肌を無視して歩み寄る。

 

「独断専行か? 躾がなってないようだなぁ、ユ────」

 

 首筋にナイフを突きつけられたような、自身の心臓に触れられているかのような悪寒。

 無意識的に息が漏れ、息を吸うという行為を忘れさせられる。

 

 一瞬だけ視線を向けられた瞳。煩わしそうに、それでいてなんの意味もないような目配せ。それだけで、手を伸ばしていたカイザーの行動は停止する。

 

 主を心配するようにネスがカイザーの名前を口にする。別段止まることのなかった水野の歩み、離れていく彼の姿をただただ呆然と眺める。

 

(──なんだ、この震えは)

 

 伸ばした手を戻し、眼前に収める。

 五指がピクピクと痙攣したかのように震え、握ろうとしても上手く動かない。

 

 らしくないカイザーの挙動にネスが戸惑いながら声をかけるか迷い、カイザーはその震えを手を振り無くなったことに対して高く一息で笑いとばす。

 今の震えは生理的な現象なのだと。水野悠とは何の関係もないモノなのだと自己解釈しその現象を捨て置いたカイザーはニヤニヤと笑みを浮かべ水野を見つめる。

 

 今までのように、同じストライカーを捩じ伏せ、格の違いを見せつけ潰す。さながら力の加減を覚えていない子供がぬいぐるみを破ってしまうように。

 

(──気づいてないのか、あいつ(カイザー)

 

 近い未来に自身の前に跪く水野の姿を想像し嗤うカイザーの姿を見て、潔はため息を零す。

 未だ数日と関わっているだけの間柄。ライバルとすら呼べない関係性しか築けていない中でも、潔はカイザーの思考を読み取ることが容易に出来た。

 

 無意識かもしれない。それでも潔は見ていた。

 

(後ずさってたんだぞ、お前)

 

 水野から一歩足を下げたカイザーの姿を。震えにしか意識を向けなかった道化の愚行。

 それは忠臣ネスさえも気づくことのない僅かな一歩。されど一歩だった。

 

 そして、そんな思考はこの場面において不要なものだと切り捨て、今するべき模索を始める。

 

(今までの水野ですら俺達が束になっても敵わないような相手だった。でも、今のあいつは俺の目から見ても明らかに違う。完全な別物。完全にリミッターが外れてる)

 

 潔が目を惹かれたのはゾーンにより研ぎ澄まされた技術ではなく。

 

(神速ロキに匹敵……違う、遥かに上回る初速と最高速)

 

 常軌を逸した、身体能力の向上。

 

(今まで手を抜いてたのか? いや、そんな風には見えなかったし、手を抜いた状態であれはまじバケモン……てか、あいつの事を推し量れる領域に到達してないってことかッ)

 

 人工芝を踏みしめる音が響くほどに静まり返った空間。

 ベンチに座る選手たちは驚愕、あるいは畏れを表すかのように息を潜める。

 

「────あ〜、ダメだこりゃあ」

 

 それはなかば当然の選択で。しかしいざ直面してみれば恐ろしい迄の決断の速さと実際にプレーを見ることの出来る高揚。

 

「出るつもりはなかったんだがなぁ。このまま行けばなんの面白みもなく終わっちまうからよ──使うぜ、3分間!!」

 

 羽織ったジャージを脱ぎ捨て、ベンチから飛び出して来たのはスペイン、FCバルチャのマスターストライカー、ラヴィーニョ。

 このリーグにおいて許された、スターチェンジシステムが早速使用されたことに日本人勢は興奮を隠すことが出来ない。

 

(だれ?)

 

 1人を除いて。

 

「ラヴィーニョが出る……!!」

「てことはまさか……見れるのか、世界一の戦い……ッ」

 

 全員の期待は集約され統合。一様にノエル・ノアへと視線が向けられる。

 

 マスターストライカーにはマスターストライカーを。

 世界最高峰の戦いが見られるのではないかと、1サッカープレイヤー並びに、サッカーファンとして血が滾る思いでノアの出場を今か今かと待ち望む。

 

 対するノアは……体勢を変えることなく、徐に脚を組み深々に背もたれに背中を預けた。

 

「あぁん? オイオイ、出ねぇのかよノアちゃぁん?」

 

「出る必要が無い。それだけだ。お前も分かってるんだろうラヴィ」

 

「ハッ! そーでちゅか!」

 

 静観することを選んだノアは無機質な視線をラヴィーニョへ向ける。受け取った本人も本気の質問ではなくただ揶揄うだけの言葉だったことからそうそうに会話を切り上げて本命を瞳に映した。

 

「つまんねぇ顔しやがる────バケモンが」

 

 好戦的に目を輝かせ、口を軽く弾ませながら意識を深く沈ませていき集中を高める。

 さながらリーグ決勝戦のラスト5分を駆け抜けるかのように。全神経をこの3分に集約する。

 

 そして試合がリスタート。蜂楽から受けたパスそのままに駆け抜けるラヴィーニョは最初から決めていた目標へ向けて真っ直ぐに疾走……誰に接触することなく接敵。

 

「──お前に俺の自由が奪えんのか?」

 

(だれ)

 

 異なる思いを胸に抱き、両者が衝突する。

 

 ラヴィーニョは舞踏会で舞うように華麗なドリブルテクを披露する。右へ左へ。腕を突き出し牽制、無数のフェイントで織り成すラヴィーニョの動きの可能性。

 

 その動きに、相対する水野を除く全員が魅了された。興奮を隠すことなく、喉を酷使し応援、あるいは罵倒をもって自身から発せられる高揚感を発散していく。

 

(あれに入ったら──死ぬ)

 

 潔、カイザー、蜂楽が水野とラヴィーニョの1on1を囲むように一定の距離を保ち二人の一挙手一投足を見つめる。

 3人に共通して幻視されたサークル。そこに踏み込めば自分は喰われてしまうと直観的に理解し、綻びが生じるのをひたすらに待ち続ける。

 

 そして、このフィールドに立つ中でもトップ選手達は気づく。

 その観察眼を持って、あるいは直感に委ねられた違和感に既視感、それらから導き出された異常(必定)

 

(ラヴィーニョが動いてるのは横の動きだけ。前には一歩も踏み出してない)

 

 白い牙を剥き出しにして口角を吊り上げるラヴィーニョに対して水野はあくまでも集中を切らすことなく細く研ぎ澄まされた瞳で戦況を俯瞰する。

 

「はははっ!!」

 

 ラヴィーニョの目の前に映し出された一筋のライン。

 彼と水野を両断するようにいつの間にか生み出されていた光の線に、ボールを後ろに保持したままに試しに反対側の脚で僅かに触れる。

 

 瞬間的に迸る悪寒。全身から吹き出す危険信号と震え。

 

 このラインは自身が無意識的に作り出したセーフティゾーンなのだと。これを越えた瞬間に待つのは死だけなのだとラヴィーニョはその線を越えるように動くことは無かった。

 

 だがしかし。

 

「──最初からパスなんて選択肢はねェよ!!」

 

 馬鹿正直に正面突破なんてことは犯さない。越えられないなら壊すのみ。いつかのリーグでのノアとの直接対決を遥かに上回る緊張と高揚。品定めをするような視線は対面した瞬間に剥がれ落ち、ラヴィーニョに割り当てられた役目は挑戦者(チャレンジャー)

 

 慢心もなく、驕りもなく。本能的に認めてしまった強者を打倒する悦びに浸るために今だけはチームなど眼中になく、一人の男を打ち倒さんと今の自分を超越する。

 

 潔達に見えていた不可侵のサークルが膨張する。それはラヴィーニョの選択肢が増えたことを意味し、反射的に三人は一歩飛び退いた。

 

 神の決戦。そう表現して誇張なしの攻防。息をすることを忘れ、既に無くなった唾液を飲み込む。もはやこの二人以外に役者はおらず、二人以外は全て観客。

 

「──あぁ、クソ野郎が」

 

 ボルテージが跳ね上がり、コンディションが最高潮にまで高まったラヴィーニョに対し、水野が行ったのは単純なこと。

 

 距離を詰めて無理やりテリトリーに入らせることでもなく、1度引いて仕切り直すようなことでもない。

 

 ただただ────守備範囲を拡張しただけ。

 

 ラヴィーニョの目の前に引かれたセーフティゾーンが一気に膨張。瞬間的にラヴィーニョを飲み込んだ。

 

 喪失感、次いで敗北を悟ったラヴィーニョは楽しそうに笑いながらも忌々しげにベンチに座るノアを睨みつける。

 

「お前の方が千倍マシだぜ……チートが」

 

 水野が一気に駆けだしたのと、ラヴィーニョが背中から倒れ伏したのは同時だった。

 

「────自由なヤツめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 あと2点、どうすっかなぁ。

 

 そんなことを考えながら、おっさんからボールを奪い走る。

 

「ラヴィーニョが負けたッ!?」

 

「嘘だろ!? どうなってんだよアイツ!?」

 

 一人で突っ込んでゴールを決めるのも良いが、それはもう一点目に行っている。俺は別に独裁者になりたい訳では無いし、後で犯罪者たちに文句言われて後ろからナイフで刺されるようなことになっても面倒だしな。

 

「あははっ。やっばいね、水野!」

 

 笑顔で走ってくる相手を検出、必要な動作をアウトプットするのに時間的なラグは生じず、脊髄反射的に最適解を導き出す。

 3動作で相手を脚をほつれさせ、前へと倒し跪かせる。フィールド全域の情報を余すことなく処理し、予備動作を見せずして左を走り視線を向けてくる氷織へとパスを出す。

 

 何故か味方の一部も俺目掛けて走ってきたり敵意増し増しだったりとするが現状脅威となる存在はコート上には居ないために微々たる差だと切り捨てる。

 

「なんか久しぶりな感じするわァ……うん、分かってるよ」

 

 相手は俺を最警戒しているようで。

 ボールを持っていなくても俺の進行を止めようと道を阻んでくるがその全てをいなして速度を落とすことなく走り続ける。

 

「ここやね」

 

(違ぇよ)

 

 けれど、俺の求めている地点よりも短く、そして山なりで遅いパスが来ることを予見したことで速度を意図的に低下。

 前にいる相手とは距離が離れているからいいものの、後ろから濃密な気配が走り込んでくる。

 

「──リベンジマッチだクソ野郎がっ!!」

 

 刈り上げ金髪が俺の背中に手を差し伸べる。そこから数歩後ろに刺青ナルシストが明らかに俺を狙って走ってきていた。おい、お前は向こうにいる潔の方行けよ、マジで。

 

 初速を上げなくては。

 肩を掴まれても振りほどけるけど。なんか凄い顔してるから爪たててきそうで怖い。だから俺の初速を後ろのヤツらの最高速を超えるものにしなければならない。

 

 イメージしろ。俺は深く沈みこんでいる。脚に力を貯めている。

 実際にはコンマ一秒にも満たないけれど、脳内では俺は5秒ほど足を曲げて力を貯める、要はクラウチングスタートを行っているんだ。そう思い込め。

 

 ボールを強めに前に蹴り、出来上がったストレートルート。

 地面を抉るほど……では無い。音を発することなく、気づけば消えていたと錯覚するように。

 無音のジェットスタートを切る。

 

 ──くっそ、肩に指掠った。

 

 完全に振り切るはずが、思いのほか脚を溜め込みすぎたようで。

 ユニフォーム越しに僅かに触れられた感触を残しながら、追いついたボールの中心を真っ直ぐに捉える。

 

「チェック」

 

 放たれたシュートは不規則に揺れ始め、全く回転がかかっていないことをキーパーが気づいた頃には想定を超える動きを見せたボールに足を動かすことが出来ずに容易くネットを揺らす。

 

 こんなものは単純作業。達成感なんてないし、想定通り動いたのだから結果が付いてくるのは当たり前。感動も感嘆も、揺れ動くものは何も無い。

 

 自陣へと戻る最中、俺はベンチに座るノアへと視線を向ける。相変わらずの無表情で俺を見つめ返してくる。

 俺は視線で「もう十分か」と訴えかける。これ以上見せるものは代わり映えしないものだし、俺自身既に飽きてしまった。何も感じなかったから。

 

 もう十分見せたはずだ。時間にしては短いものだけど、ノアが求める姿は見せれたはず。というか、これ以上見せて何になるというのか。雑魚しか居ないこのフィールドで、俺が普通をこなしたところで相乗効果で上手く見えるだけであり正常な判断が彼にできるだろうか。

 

 俺の訴えを正確に読みとったのか、その上でノアは顎をクイッと動かしポジションへ戻るように促してくる。鬼か。

 

 

 

 

 

 

(────あ、コンタクト付けたままだったな)

 

 漠然とそんなことを考えた水野は、しかしどうでもいいかと考えることをやめ、ゾーンを解いた。

 

 鳴り響く電子音は試合終了を告げ、同時に彼の中にあった何かが閉ざされた鎖の音が響く。

 期待は薄く、けれど少しは存在していたものが打ち砕かれ、予想出来た結末を当たり前に迎えたことに諦観し、失望し、納得する。

 

 コート上で一部の人間は息を切らし汗を流すが、過半数は疲労を見せず消化不良を感じるも魅せられたプレーに息を潜め驚嘆する。

 

【offer club→レ・アール】

 

 疲れたからではなく、喉が渇いたから。ベンチへと歩き、スポドリを手に取り軽く喉へ流し込む水野はノアを一瞥すると自然と空いたベンチにポスンと座り込む。

 

【入札 MIZUNO】

 

「満足ですか?」

 

 ちょっとした確認。そう思いノアへと告げた言葉は正しくノアへと伝わることなく、水野の顔に刻まれた感情を読み取りノアは頭を悩ませる。

 徐にノアは水野の名前を呼ぶ。相変わらずのフルネームに愛着が湧いてきたと感じた水野はなんだと顔をかしげる。

 

「何を思った」

 

 端的に告げられた言葉。主語なんてなく、どのようにも解釈できる情報量の薄い一文とも言えない質問。

 

 だからこそ、水野は自己解釈を詰め込み、自分なりの解答を告げる。

 

「──ここ出たら、サッカー辞めます」

 

【¥240,000,000】

 

「……そうか」

 

 ノアの持つ携帯が着信を告げるバイブを行った。

 

 

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