僕は無実だァっ!!!   作:ラトソル

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水野のゾーン状態のイメージは黒バスと同じで目から水色の閃光が迸ってる感じです。もちろん肉眼では見えないよ。


私生活中継はあたおか

 右ポケットから感じる震え。等間隔で震え、止まり、そして震えるのは着信の知らせ。

 ノアの連絡先を知っている存在は限られてくるが人数は少なくない。クラブチーム、コーチ、一部サポーター。しかし大抵はメールでの連絡が主であるために着信となると急を要する事柄だと思われノアは何を考えることなくスマホへと手を差し伸べようとして寸前で手が止まる。

 

 ────違和感。

 

 強烈な既視感。何かが起こる前兆。今まさに新英雄大戦の真の姿、その全貌の説明を水野悠の落札金額の提示をキッカケに絵心がモニター越しに説明を始めブルーロックランキングなるものが公表された辺り。

 

 今回のバスタード・ミュンヘン対FCバルチャの試合で出場した選手につけられた推定年俸は少ないものであり、高額がつけられていたのは元々下部組織で活躍して下積みを積んできた現地の選手達。

 それ以外のブルーロックスは付けられたとしても判断材料が少ないために少額であるために水野悠という超越者の存在に畏れ震える。

 

 その光景を他所に、ノアは冷や汗を流し震え続けるポケットを見つめる。まるで純黒のオーラがポケットから流れ出しているかのように、触れた瞬間感電死してしまうかのように死よりも恐ろしい何かが待っているのだと生存本能が訴えかける。

 

 ────スぅー。ハァー。スぅー、ハァー。

 

 2度の深呼吸。リーグ直前の比にならない緊張感。見るなと叫ぶ本能は逆に好奇心を擽り一思いにポケットからスマホを取り出し──誤って発信のボタンを押してしまった。

 

『あ、ノァ』

 

 通話を切り、電源を落とすまでに掛かった時間は驚異の三秒だった。

 

「……フゥ」

 

 ────俺は何も見ていない。

 

 スマホを元いたポケットへと仕舞い、何も無かったかのように足を組んで前を向いた。

 

「二億……四千万!?」

 

 映し出された数字。力の差が目に見える数字として表示され明確に水野悠という存在の頂の景色を垣間見る。

 

 それらを踏まえ、ブルーロック内でのランキングが発表される。

 一位が水野悠、そして二位に糸師 凛が六千万。潔は今回の試合では見せ場は無く、日本代表戦と十日間のバスタード・ミュンヘンでの練習を考慮され1700万の値がついた。潔から見て凛の六千万ですら遠く及ばないのに、その四倍という差を生み出した水野悠の落札価格に恐怖からの震えを起こす。

 

 そして、ブルーロックでも5つのクラブチームの選手という訳でもなく、エクストラ枠としてP・X・Gに加わっている糸師冴が四億六千万という金額をたたき出していた。

 

「カイザーが三億……」

 

 それは驚異的な金額。現在の潔とは比べ物にならないひとつの頂点の指標。

 水野悠という男が居なければ全員の注目はカイザーに引き寄せられていただろう。

 現にイガグリや雷市といったベンチだった選手たちは水野の金額への驚愕に続き、その額を超えるカイザーという男の見ることのなかった実力に理解不能の怪物を目の当たりにした只人のように体を硬直させていた。

 

 だがしかし。

 実力者たちは、両者に充てられた金額の意味を正しく理解する。

 

(たった一度の試合で。話題性なら日本代表戦も考慮に入れたとしても、水野を評価する材料はたった二試合だけ)

 

 試合で流すことのなかった汗が、ここに来て頬を伝う。

 

(レ・アールが特別過大評価だと言えばそれまでだ。けど、多分他のクラブも似たような金額を提示してるはず。そしてその金額がMAXな訳がなくて、試合を重ねる毎に年俸は変動するのは見るに明らか)

 

 ラヴィーニョを軽くあしらう天性の怪物。ワールドクラスの集まるこのフィールドでハットトリックを当然のように行ったフィジカルとテクニック、それら全て。

 

 三点目、カイザーインパクトを脚へと吸い付かせるパーフェクトトラップからのゴールが拍車をかけ異常な年俸が生み出された。

 

(カイザーは何年と積み重ねた実績から出たバスタード・ミュンヘンからの年俸だからほぼMAXで変動はカイザー自身が成長しない限り起こらない。だからこそ────カイザーの年俸を水野が上回るのは時間の問題)

 

 糸師冴の年俸を考えればそれは当然の帰着。

 その事実に辿り着いた潔は試合で存在をアピール出来なかったカイザーの姿を探し、目に収める。

 

 口元は笑っているが、血管が浮かび上がり見るに明らかに苛立つ主人の姿に忠犬ネスもおどろおどろしく後を追う。

 

 話題の渦中の水野といえば、試合中に見せていた絶対君主の風格とオーラを鎮め、ベンチのノアの隣に座りドリンクを片手につまらなそうに背にもたれかかっていた。

 

「────いま、なんて……?」

 

 人工芝を踏みしめる音が聞こえる程には静かな空間。

 ザッ、ザッと遠ざかる足音は着実にベンチへと向けられていて。弱々しく、今にも掻き消えそうな声が聞こえたためにそちらを向けば同じく試合に出場していた氷織が瞳を揺らしながら水野へと歩を進め少し離れた位置で止まる。

 

「なあ……なんて言ったん今……」

 

「? 何が────」

 

「いいからっ!!!」

 

 普段、どちらかと言えば気怠げな部類に振舞っている氷織の慟哭。

 ベンチの真後ろにある無機質な壁に反響して響く共鳴がいやに耳に残り音に乗って伝わる悲壮感。

 

 琴線に触れた箇所が分からないと眉を顰める水野に対して、氷織はその様子さえも起爆剤となって感情が掻き乱される。

 様々な感情が入り交じり、言い表せない気持ちの濁流。それが涙という目に見える形となって右眼から流れ出す。

 

 ギョッと目を丸くする水野。どうした、と口にする前に氷織が詰め寄り胸ぐらをつかみあげるほうが早く言葉に詰まる。

 

「なんで……なんでっ!!」

 

 氷織にとって、サッカーは決して楽しいと思えるものでは無かった。

 両親からの期待の重圧。幼い頃から向けられてきた夢の代行。自分達では辿り着けなかった頂きを見ることを強要されてきたからこそサッカーとは子供ながらに親の機嫌を損ねないために行っていたものだった。

 

 子供の将来を勝手に押し付けられ、自由が無い人生であり、これまではゲームこそが逃げ場だった。そして迎えた青い監獄プロジェクト。

 隔離された空間は親の束縛から開放される数少ないユートピアとなった。帰りたくないから生き残るために奮闘した。そしてその意識が変わったのは第二段階────水野悠との出会いだった。

 

「僕のことこんなにしといてっ! こんな身体にしといて勝手なこと言うんかっ!!」

 

「おい待てお前の容姿でそのセリフはヤバい!!」

 

「ヤリ捨「確信犯!!!」」

 

 手を離し涙を拭いながら走り出しコートを後にした氷織の後ろ姿を眺め、追いかけることなく座り込んだ水野は一度深呼吸をして脚に肘を置き手で口を覆うように顔を支えながらノアに声をかける。

 

「どうした」

 

「────なんか、こんな人間にはなりたくないなと思ってた男の構図になっちゃって絶望なんですけど。今すぐここ出れません?」

 

「諦めろ下半身」

 

「おいコラ冗談でも言うな」

 

(何の話なんだ?)

 

 水野の宣言は氷織だけが耳にしたことであり、聞いていなかった潔は突然起こったドロドロ系の恋愛ショーに呆然としていた。

 

「ふふ。いじるネタが増えましたねっ」

 

 紅茶を飲みながら不敵に笑う天使が一人、画面に映る男の姿を見つめながら微笑んでいたのは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「水野くん、パス練付き合ってや」

 

「こいつ怖っ」

 

 クソつまらなかった試合から30分ほど。

 相も変わらず静まり返った俺だけ個室なために手持ち無沙汰にスマホを弄っていたらノック無しに入ってきた氷織が開口一番そう告げてきた。

 

 あれ、こいつなんか泣いてなかったっけ? 俺の胸ぐら掴みあげて罵声上げてなかった? と間違いないはずの記憶を疑うほどに自然体でやって来た氷織の姿に恐怖すら感じたがスルー。

 

「水野くんが独走してたから不完全燃焼なんよ。だから責任取って」

 

「毎回言い方に含みあるのなんなの? まあいいけど」

 

 SNSのトレンド一位に俺と同姓同名が書かれていたから興味が湧いていたが責任とやらを取らなければならないらしいので布団へ投げ捨てて立ち上がる。

 

「てかずっと思ってたけど監視カメラ多くね?」

 

「試合だけじゃなくて私生活とかも配信されてるらしいで」

 

「正気か?」

 

 俺らの私生活まさかの全国配信? いや、メンツからして世界? 馬鹿か。誰得なんだよ。今のところ撮れ高氷織の涙しかねぇよ。あとは何? 刺青オネェが潔を顎クイしてるくらいか。是非とも潔だけに絡んで頂きたい。

 

 そこで俺は思いつく。もしや、真昼も見てるのでは? と。金持ちだけの限定配信なら問題は無い。いや大ありだが。けれど仮にあのクソ不健康河童がお金欲しさにサブスクとかはじめて月額払えば見れるとかにしていたとしたら真昼は絶対見てる。そして帰ってからネタにされる。

 

「ファンサしてあげたらいいやん。イェーイ」

 

 グイッと腰に手を回してきて引き寄せられる感覚とともに氷織の体がピタリと俺の横へとくっつく。プリクラ待ったなしのポーズを監視カメラに向けて行っていたが俺はもう虚無顔だ。これからの生活がもう嫌になってきた。一秒でも早く出たい。

 

「ほら、ピースピース」

 

「あ、はい」

 

 なんだろうか。何かが急激に変化している気がする。

 例えばSNSのトレンドが高速で変化していたり、イラスト投稿サイトに腐向けカプイラストが投稿の嵐を巻き起こしているような、そんな予感がする。

 形容しがたい悪寒が駆け巡る。これは……きょうふ……? 

 

「え””」

 

「「違います」」

 

 丁度俺らがいる道へと合流するように潔がひょこっと双葉と共に顔を出す。そして俺らの姿を見た途端見てはいけないものを見たように引き攣った顔を向けてきたために俺と氷織はノータイムで否定する。

 

「いや、え? お前ら喧嘩別れして」

 

「ほんとそれな……おい、言い方が可笑しいな」

 

「あ、ああ。そっか、水野彼女居たもんな。うん、そうだそうだ」

 

「僕それ知らんのやけど」

 

「「面倒くさっ」」

 

 どうやら潔もトレーニングルーム、その中でもサッカーコートへと向かっていた途中らしく、丁度いいかと三人で向かう。不完全燃焼だと俺を見て言ってきたからとりあえず首を傾げてみた。変なやつを見る目で見てきた。

 

 まあ俺も不完全燃焼ではある。時間制限では無く点数制限でありしかも3点と少ないから試合は一瞬で終わりクソつまらん後味悪い結果に終わったために分かってはいたけれど不満は多い。

 それを二人に言えば潔は化け物を見るような目に切り替えて冷や汗を流していた。おい、俺は人間ぞ? 

 

「ラヴィーニョ倒しといて何を言ってるんやこの子」

 

 だから誰。

 

 そしてコートに着いたわけで。色々あって二対一をやったり普通に練習という名目で二人を扱いたりしたが、ここで問題が生まれる。

 

 クソつまらん。どうしよ。

 

 久々にゾーンに入ったからその感覚がまだ抜けてないのか、本気で試合に臨むと決めたのに点数制限により消化不良に終わったからなのかは分からないが。

 今までは別に二人の相手してても練習やら遊びという枠組みとして楽しめていたが今に限って言えば刺激が欲しすぎて寝そうなくらいに面白くない。やっべぇ、部屋戻りたい。

 

『水野悠選手。至急セントラルコートへ向かってください。繰り返します────』

 

 30分しか経過していないが、息を切らしてシャワーでも浴びたのかという程に汗を流す二人が仰向けに倒れてるのを無感情に見下ろしていると、俺の名前がアナウンスされたためにこれ幸いと向かう。

 

「んじゃ、俺行くから」

 

「オエッ……」

 

 嗚咽で返事された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

 BLTVは今世界で最も注目されているコンテンツと言えるだろう。

 

 月額500円を支払えば、世界トップクラスの集まる試合をLIVE配信で見ることが出来、話題性の強い青い監獄プロジェクトの超新星達の誕生を間近で見ることができるからだ。

 

 サッカーファン、学生、プロ選手もこのサブスクに登録し今や8000万人を超える会員数を誇る。

 記念すべき第一戦。2つの試合が同時中継され、顧客の過半数は水野悠の試合を観戦した。

 

 ニュース番組ではこのプロジェクトが連日報道され、特別コーナーも用意されるほど。そして水野悠という名前が突如浮上し今や日本で……世界で最も注目されている選手と言える。

 彼の存在は台風の目となり、今までサッカーに興味関心のなかった人達すら魅了し、サッカーグッズの販売数が激上。一種の社会革命となりつつあった。

 

 初戦が終了し、次の試合は十日後。

 今か今かと待ち侘び、興奮が抑えきれずに早く始まってくれと名残惜しそうに選手のトレーニングの様子や生活を眺めるファン達は多数居た。

 

 そんな時……ピコン、と。

 

 突如訪れた通知音。それはBLTVから全ユーザーに発信された告知。

 内容は簡潔に、『10分後、スペシャルマッチ』と。マスターストライカーとして集まった五人の世界トップランカー達の夢の共演が見られるのでは無いかと、瞬く間にその情報は拡散され、同接は驚異の4500万人。

 指数関数的にその数値は未だに跳ね上がっていき、万単位で数字が上がっていく。

 

 そして告知通り、10分の時間が経った時、黒く染められた画面が明るく表示され、BLTVのロゴが表示されるとひとつのコートへと映像が切り替わる。

 

 そこに立つのは六人の選手と審判を勤める一人の女性。緊張からガチガチに固まるのはその女性だけでありほか六名はかなり楽に身体を解しているが、真に自然体なのは一人だけ。

 配信ではあるがカメラ目線な人は誰もおらず、画面越しにも感じる張り詰めた空気は1対5の構図が生まれている空白で別れていた。

 

『────それでは、ルール説明を始めます』

 

 ボードを片手に持つ女性が今から行われる催しの説明を行う。視聴者はそこに集まるメンツの豪華加減に軽く目眩を引き起こしそうになるがグッとこらえて三対三のスペシャルマッチが行われるのだろうと誰もが予想を固めていた。

 

『内容はシンプル。十点先取の1VS1』

 

 なるほど、と視聴者の意見が合致する。三対三では無いが、総当たりが見られるのだと。この6人の中に入っている一人の日本人に注目しながら説明を聞く。

 

『組み合わせは──水野悠選手VSマスターストライカー五名の計五戦とします』

 

 は? と、置いてけぼりにされる視聴者達に見向きもせず、準備は滞りなく進んで行った。

 

 

 

 

 

『──驚いた』

 

 同接が6000万人を超えた時、全試合が終了した。

 瞳から迸る閃光はそのままに、純粋なる驚きを持ってして敬意を持って言葉を紡ぐ。

 

【水野悠VSラヴィーニョ→10:1】

 

『一点目は様子見だと思ってたんですけど』

 

【水野悠VSクリス・プリンス→10:1】

 

 計5試合の結果が画面の右端へと表示される。試合が終わったにもかかわらず視聴者の興奮はおさまることを知らない。

 電車で見ていた人は思わず席を立つことを忘れ、駅を逃し。

 講義中に見ていた人は、授業が終わったことを知らずに誰も退出はしない。

 

【水野悠VSマルク・スナッフィー→10:1】

 

【水野悠VSジュリアン・ロキ→10:1】

 

 けれど、そのことに対してとやかく言う人は誰もおらず。その反応こそが正しいのだと、誰もが共感を示し画面へ釘付けにされる。

 

『流石に強い……3点取られるとは思わなかった』

 

【水野悠VSノエル・ノア→10:4】

 

 見た、見てしまった。神の一戦……いや違う。神による蹂躙劇を。

 圧倒的だった。美しかった。誰よりも自由で、誰よりも速くて、誰よりも勇ましかった。

 

 ルール改定は必定。しかし水野悠の活躍を望むのは全てのユーザーであるために水野悠の制限をすることは出来ないから絵心 甚八が取る手段は一つだけだった。

 

 ──水野悠の所属、バスタード・ミュンヘンとの対戦チームはスターチェンジシステムを一時的に撤廃。マスターストライカーは水野悠との対戦時に限り、時間制限無く出場が可能とする。また、マスターストライカーに許される得点は一点までとする。

 

『俺の姉、知ってます?』

 

 ノアにだけ向けられた呟きは。

 

『思い出させるな』

 

『──なるほど』

 

 マイクに拾われることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっ!」

 

「……どうやって入った」

 

「むふー! ちょちょいのちょいってネ!」

 

「……スぅー、ハァー……」

 

「説明ヨロシクゥ!」

 

「……胃薬を寄越せ」

 

「ナイヨー」

 

 




読者の九割九分に嫌われていようとも!水野姉を俺は愛する!
何故かって?
水野姉が介入しないと悠に驚きを与えられる展開が生まれないから。
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