僕は無実だァっ!!!   作:ラトソル

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弟子を持つという言葉の響きは良いかもしれないがそれはそうとヤンデレの目が痛い

 次のデスゲームまで一週間そこら。

 血気迫る表情と気迫で練習に臨んでいる周りのヤツらの様子を見るにやはりこれは生死をかけた勝ち残りのデスゲーム。汗を滝のように流してガンギマリの目を見開いてボールを追い続ける暫定チームメイト達の様子は見ていて楽しいものではなく一歩引いて関わらないように撤する。

 

 たまに絡んでくる青薔薇オネェの手を振り払い、身体を寄せてくればひらりと交わし、ミニゲーム形式の練習では相手になればボコボコにするという日々を過ごしていくうちにいつしか青薔薇オネェから向けられる感情がドロドロとした殺意のようなものに溢れていたために今すぐ家に帰りたい衝動に駆られる。

 

 そしてノアに課せられるトレーニングは俺以外の奴らに有効であり、トレーニングルームが別れていることこそあれど基本的に全員が同じ時間に練習を行っているのだが数日前から潔がたまに抜けるという事態が起こっている。

 

 そして1時間ほどすると顔面蒼白フラフラの状態で戻ってくるという既に見慣れた光景。その度に俺になんとも言えない視線を向けてくるために俺はただただ首を傾げるばかりではある。

 そして廊下を歩いている時、うつ伏せで倒れている冴の姿を何度見た事か。友達だと思われたくない趣味を発見してしまったために他人のフリをして素通りしている。もちろん合掌しながら。

 

「ねえ」

 

 そんなことを考えながらふと思う。俺は無実を証明するために再びこの監獄へと足を踏み入れた訳だが、どのようにして自らの身の潔白を証明することが最善手なのだろうかと。

 あの河童は頭がいかれているためにそんじょそこらの普遍的な思考では太刀打ちできない。俺はやってないと訴えかけてはいそうですかとなるようなやつはデスゲームなんて開催しないし私生活を全世界生配信なんてしない。あたおかだ。

 

 俺が罪を犯したなんて言う過去がないことは自明。しかし第三者からの視点で言えばナノミクロンくらいの可能性として考慮されてしまうが故に、俺は完全潔白を訴えかけ、そして理解させる必要があるのだ。

 自称革命家の腐りきった思考に少しのアクセントを込めたウイルスを流し込み、思考を入れ替えさせ自らの過ちと俺という存在の認知をさせる。そう考えれば、革命家の行動を防ぐという点で俺自身革命家のような行動をしているのかもしれない。

 

「ねえってば」

 

「その言い方男から言われても嬉しくないんだよ出直してこい」

 

「俺に当たりキツくない??」

 

 小腹が空いたために一人孤独に食堂へと赴きスマホをバーコードのようなものを翳すだけで任意の定食やら料理やらが出てくる神仕様に震えながらご飯を食べているといつの間にやら隣に座り「ねぇねぇ」と声をかけてくるゆるふわ系怠惰人間。

 少女漫画並の目の大きさな為に幼少期はさらに顔面に対する比率が大きかったのだろうとよく分からない思考になりながら食事を中断し目を向ける。

 

「俺の事鍛えてよ」

 

「めんどい」

 

「え〜。俺このままじゃ水野どころか、潔にも勝てないんだよ。何とかしてよ」

 

「なんだこいつ」

 

 いつの間にやら俺も凪の絶コロ対象だった件。ただし相手が凪なら遠慮せずにボコボコにしてもいいという免罪符があるのは何故だろうか。ああ、こいつだからか。

 

「マスターストライカー(笑)に頼ったらいいんじゃねぇの?」

 

「クリスは水野の名前出したら俺たちの練習放り出して自己練始めちゃうから使い物になんないんだよね」

 

 誰だよクリス。そんなやついんの。

 

「だからまあ一番チョロそ……頼りになりそうな相手に頼みに来たわけ」

 

「ゴミカスが死ね」

 

「もうちょい言い方無いわけ?」

 

 言い方を途中でかえるなんて失礼なことはしてはいけません。だから俺は凪に見本を見せるべく思ったことをそのまま口に出した。

 凪は何も食べていないようで、机に突っ伏して溶けるように顔を横に向けて俺の方へと目を向けてくる。

 

 久しぶりに凪を見た訳だが、基礎スペックは上昇しているようだ。想像の範囲内すぎてクソつまらんが。

 

「……ま、今のお前じゃ潔には勝てんわな」

 

 死にそうな眼を浮かべながら練習に励む潔は指数関数的な技量の飛躍を日々見せてくる。元々のスペックが高い訳ではなかったからではあるが、環境が変わったと言うだけでは説明が付かない練度の上昇。

 誰とは言わないが、名前の呼び方に悩みそうな人が関わっていそうだ。

 

「でしょ? だから俺を鍛えてって言ってんの」

 

 それはこいつも分かっていたのか、煽りとも取りかねない俺の言葉をスっと受け止め、凪は変わらず俺に要求を告げてくる。気にしてないからこそのスルーでは無く、理解しているからこそ流したのだということはいい傾向ではあるものの、やはり興は乗らない。

 

「お前の今の目標は何?」

 

 気づけばそう口にしていた。意図せず口にしていた言葉の真意を俺は正確に理解している。

 

「潔を倒すこと」

 

 知ってるよ。前にも聞いた。

 

「その先は?」

 

「水野」

 

 なるほどと、間髪入れずに答えた凪の言葉に俺は頷くだけにとどめる。どうやらこいつの目標に俺も設定されていたようだ。

 あいつの中では俺>>潔という力関係のようで、凪は更にその下だと言う。

 

 本当にクソつまらん。

 

「凪と親しげに話しやがって距離近ぇよ凪に目を向けるな目を向けられるな同じ空気を吸うな隣に座るな見下ろすな会話するな息するな目を開くな師事すんなよ俺を捨てたくせに次はそいつに行くのかよ」

 

 メンヘラ怖い。

 

 俺らの後方に激ヤバガチ恋勢面の男が扉から覗き見てきている。念仏も泣き叫びながら逃げ出すような怨念の数々にドン引きである。

 

「わかったよ。次の試合まで見てやるよ」

 

「! 、まじ?」

 

 こういう輩は身を引くと逆に「凪の誘いを断るとかチョーしのんなよ死ね」とか言い出すのであえて承諾するのが吉。ソースはどこか。

 

 まだ寝るには早い時間ではあるために凪が急かす表情を向けてきたのも相まって残りの夜食をかきこみ二人でコートへと向かう。その間ずっとドロドロとした視線を感じてはいたものの流石に練習まで着いてくる気はないのか気配が近づいてくることは無かった。

 

 一時間もしない内に凪はシャワーを浴びたかのように全身を濡らし、仰向けに倒れ荒く息をしている。それを見下ろす俺は欠伸を噛み殺して座り込む。

 

「あと一週間で水野と潔とやるんだね」

 

 いちいち言い方が気持ち悪い。俺はノーマルだと何回言えばわかるのか。潔とだけヤってくれ。

 

「言っとくけど、イメージ出来ない時点でお前はそこまでだぞ」

 

 俺の言葉に凪はボーッとした腑抜けた顔をしながらも、無作為に広げられた拳が握り締められていた。本人も自覚しているのだろう。

 

 この前の試合が響いているのか、それとも積み重ねからの考察か。凪は自分の立ち位置というものを理解してしまっている。本来なら必要なその思考は度が過ぎれば元も子もない足枷にしかなり得ない。だからこそこいつは前回からの成長幅が想定の範囲内で収まってしまっているのだ。

 

「お前、自分の武器がトラップだと思ってんの?」

 

「え?」

 

 ぽかんと丸く開かれた目をこちらに向けてくる凪はようやく呼吸が整いつつあるのか息の音が聞こえてくることなく、ゆっくりと上体を上げ手を地面につきながら座り込む。

 

 どうやら図星だったようだ。というか当然のものだとさえ思っているのかもしれない。

 サッカー歴一年未満。こいつの性格からしてろくに練習をすることもなかったのだろう。他者との関わりという経験の浅さ。凪の思考の視野を狭めている要因の一つ。

 

「あんなもん、手段の一つにしかならねぇよ」

 

「そんなこと……」

 

「お前の武器は別にある」

 

 凪へのアドバイスのようなものを口にしながら、俺は自分自身の行動に僅かな違和感を覚える。

 こんなことをするキャラでは無いだろう。何を語っているんだ、どの目線から言っているのか。まるで俺がサッカーにおいて世界一だとでも言うような言動、そんなことはありえないと辿り着いた不正解をゴミ箱へと捨て去る。

 

「水野には、それがなんなのか分かるの?」

 

 凪の問いかけを頭の中で解釈する。むしろ俺はなぜあいつがトラップに重きを置いていたのか一目見た時から疑問に思っていた。

 それじゃないだろう、なんでもっと上手く使えない、気づかない。アドバイスの一つや二つしても良いかと一瞬考えたが、このタイプはアドバイスよりも自力の方が伸びしろが大きくなる傾向にあるために俺は口を閉ざす。まあ、知れた伸びしろではあるものの。

 

「考えろ。得意だろ」

 

 こいつはあれだ。

 一夜漬けタイプの人間だ。

 授業は聞いてないがテスト前日に教科書捲っとけば満点取れる系男子だろう。俺は別に授業聞いたら全部分かるが。

 

 まあそんなことはいい。

 凪はあの見た目で190超えてるなかなかの巨人である。詐欺もいいところだ。

 磨けば光るものは持っているだろう。それを手伝うほど期待はしていないが、まあこいつなら何とか出来るだろうと、俺は責任から逃れることにした。だって面倒臭いし。

 

「今日俺三回しか吐かなかった!!」

 

「フッ、甘いな。俺は1回も吐いてねぇ」

 

「おい、こいつらを元に戻せ。会話のレベルが終わっているぞ」

 

「え〜? いいじゃんいいじゃん! 何事にも、数で競い合うっていうのはモチベーションの増幅にピッタリなんだぜ!」

 

「帰っていいか?」

 

 なんだろうか。廊下を歩いている時にやっべぇ会話が聞こえた気がする。

 諦めることを受け入れたが故のキャラ崩壊を起こしている冴のような声が聞こえたが気の所為だろうか。そうだそうだ、気のせいに違いない。あいつは吐いた回数でドヤるほどメンタルやられてないはずだから。

 

「むぅ。ノリ悪いよノア。昔に『俺を高めてくれる最高のライバルが欲しい』とか言ってたくせに」

 

「その後に『お前を除いてだが』という言葉を忘れるなよ」

 

「ありゃ、じゃあサエサエ?」

 

「確かに、現時点で俺を最も脅かす存在は水野悠という規格外を除けば糸師冴だろう。以前の俺ならその存在に歓喜していただろうが……」

 

 俺はそっと耳に手を当てて外音を消滅させる。あー、聞こえないー。かーえろっと。

 

 現実逃避をしながら、俺は自身に宛てがわれた個室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「第二試合は様子見。多分悠は気力ゼロだろうから、とりあえず今出来るキミの成長を見せてみなよ」

 

 憧れの選手、ノエル・ノアに連れられ、紹介されたのは一人の女性。

 日本人の、特筆するようなことがない人畜無害な風貌の綺麗な人。一瞬見蕩れてしまったけど……そう、一瞬()()

 

 俺は初めて会った日の夜、自室に戻って真っ先に『人畜無害』という言葉の意味を調べた。

 

「そうだなぁ。次の試合での目標はとりあえず一点決めることね。あと二点は多分カイザーって子と悠が決めるだろうから」

 

「ウス」

 

 まだ一週間と関わってはいないものの、俺は既にこの人の本質を理解してきてしまっているのかもしれない。ノアのことをあんなに軽々しく扱う人は後にも先にもこの人だけだろう。

 

 何か質問があるかと聞かれたために、隣で死んでいる糸師冴に触れることなく俺は良い機会だと聞くことにした。

 それは最強、水野悠について。

 

「一戦目の水野……は、あれがあいつの本気ってこと?」

 

 思い出す圧倒的プレッシャー。

 何も出来ず、気づけば全てが終わっていた蹂躙劇。

 その場にいた全ての人間が水野悠という男を引き立てるモブでしか無く、あいつ以外は顔すら描かれることの無いエキストラ。

 

 今まで見てきた水野のプレー動画のどれとも繋がらない、規格外の一試合。

 サッカーという競技の枠組みに入れていい存在ではないほどの埒外の化け物の豹変に、思わず思い出したことにより身が震えるのをこらえているとなんてことないように彼女は答える。

 

「全然?」

 

「は?」

 

 俺の驚愕を置き去りにして、その人は淡々と事実を告げていく。

 

「あれはゾーン。極限の集中状態。まあ悠が入ったのは一般的なソレとは比較にならないものではあるんだけどね? けど、それはあくまで悠のギアを上げる要素に過ぎない」

 

「ゾーン」

 

 キーワードを復唱する。

 ゾーン。聞いた事がある。というか、スポーツに関わっている人間なら知っていて当たり前の事か。

 トップ選手達はほとんどが経験しているであろう状態。当たり前のように奇跡のプレーを量産するような最高のパフォーマンスを生み出すそれは、俺は果たして経験したことがあるのだろうかと考える。

 

「先に言っとくけど、キミじゃ無理だよ」

 

 過去、現在、そして未来に思いを馳せていた時、そう考えていることが分かっていたかのように突っ込んできた言葉に思わず体が強ばる。

 

「正確には、世間一般的に語られているゾーンには入る事ができるけど、私がゾーンと呼ぶモノには入る事は出来ない。極論、前者は誰でも入れるものだけど、後者は違う。ここまで来れば才覚の問題だ。キミは天才じゃない、秀才だ」

 

『天才』と『秀才』。似ているようでその間にあるのは絶対的な溝、または壁。

 決して超えることの出来ないモノが、その間には立ち塞がっている。今までブルーロックで見てきた才能の原石達の輝き。俺じゃあたどり着けないと思ってしまった境地を何度見てきたことか。

 

 それでも俺は乗り越えてきて、勝って、今生き残っていた。だから俺は自分が天才側の人間なのではないかと思ってしまっていた。

 けれどそれは思い違いなのだと。そのような事はないのだと、残酷にも、しかしそれが救いであるように、バサりと事実を突付けてくる。

 

「────だからこそキミなんだよ、潔くん」

 

「は……?」

 

 下げてから上げるとはこの事か。

 コロコロと意見が変わるその人の言葉に困惑と苛立ちが募るが言葉の続きを促すように視線を向ける。

 

「U-20戦のラストプレー。キミは入口に辿り着いていた」

 

 要領を得ないその表現。しかし俺の中に確かに残る違和感が答えへと導いてくれる。

 満身創痍。体力も気力も限界の状態で、しかしゴールを決めることが出来た俺が体験した全能の領域。

 過程を吹き飛ばして無理やり結果へと足を運ばせた世界の視え方がその入口とやらなのだろうか。

 

「あの時、あの瞬間だけ、キミは『手を抜いた悠』に並んだんだよ」

 

 これは凄い事だ、と。どこか感傷に浸るように呟く言葉は称賛されているのだろうか。

 

「ゾーンとは違う。全く異なる『潔世一だけの到達点』。それが欲しい」

 

 俺の瞳を覗き込む、空虚で暗い底なしの闇を纏う瞳に恐怖を覚え、ゾッとする。

 全てを見透かされているような、俺も知らない俺の全てを覗き込んでいるような。許可なく土足で俺のテリトリーに入ってくるようにその人は事実を言葉として告げてくる。

 

「天才じゃない。秀才であるキミだからこその可能性。ノアも、絵心さんもソレを見て感じ取ってる」

 

「え……?」

 

「絵心さん、結構凄い人なんだよ。才能を見抜き、導くという点においては天賦の才があるかもしれない。だからこそ、あの試合で彼は凪誠士郎ではなくキミを残した」

 

 私もノアも、その立場なら同じ判断をした。そう語る彼女の言葉を肯定するようにノアは目をつぶっていた。首を振って肯定の意を示すことをしないのが実にノアらしい。

 ここで俺は、あの時の疑問が期せずして解消されたことにスっと何かが落ち着いたような感覚になると同時に巻き起こる疑問。

 

「どうして、俺の代わりに凪だったんですか」

 

 凪誠士郎は天才だ。

 敵として、そしてチームとして戦ってきたからこそわかる、あいつの類稀なる天性の感覚。決してサッカー歴一年未満という男が出来る領域を軽く踏み越えてなおも成長を続けているあいつが俺の代わりに下げられた意味が分からなかった。

 

 単純に相性だろうか。

 個人の技量などではなく、あの時はチームのバランスを考えてのメンバーチェンジというのなら納得はいくだろう。

 

 そしてその疑問にもまた……その人は躊躇いもなくあっけらかんとした声で答える。

 

「だって……ただの『天才』だもん」

 

「は────」

 

「絵心さんは可能性に賭けたっぽいけどね〜……ま、あの時に覚醒しないんじゃ、所詮はその程度」

 

 ────つまんないでしょ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、玲王」

 

「……んだよ。話しかけんなよ」

 

「俺、お前に謝らないといけない」

 

「今更何を────」

 

「俺はずっと、お前と世界一を目指してる。今も、昔も」

 

「は……?」

 

「ライバルリーの時も、潔について行った方が強くなれると思ったからだし、イングランドを選んだのだってそうだ。俺はあの時から、お前との約束を一回も忘れたことは無い」

 

「……自分勝手なこと言いやがって」

 

「────だから、ごめん」

 

「あ?」

 

「今だけは、二人でW杯優勝だとか……そんなもん全部無しにしたい」

 

「何を言って……」

 

「潔に……水野に勝ちたい」

 

「────」

 

「だから……俺の勝利の為だけに、次の試合手を貸してくれ」

 

「……それは、お前のエゴか?」

 

 

 

 

 

「────そうだよ。俺の、俺だけのエゴ」

 

 

 

 

 

 

「……はっ。上等ッ」

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