「水野くん、これなんて訳すん?」
「ん〜『ウンコの大きさをいちいち報告してくる男は超一流の会社に勤めているエリートだ』」
「どういう状況??」
「水野くん、これはどう訳しますか?」
「『俺は道徳心の欠けらも無い勘違いクソ野郎だ』」
「いや自己紹介は要らないですよ」
「訳した結果だわ」
よく分からん外国人煽りクソ野郎集団の尊厳を踏みにじった俺たちは、今英語の勉強をしている。何故かって? 知らん、俺が聞きたい。
試合終了後、いつものように部屋に戻ろうとした俺たちはその途中にあるなんか広い部屋に呼び出され、そこには河童がモニターに映し出されていた。案の定爆笑している河童は手を叩きながら「おめでとう」やら「素晴らしい」やら謎の賞賛を浴びせてきたが、相変わらずのガンギマリの目つきに一周まわって少し心配になった。ガリガリじゃねぇか、飯食え。
河童の隣に立つアンリさんに同情して黙祷を捧げていると話のほとんどが終わっており、なぜだか英語の習得を命じられた。なんで?
まさか、海外からの刺客が続々と現れるというフラグ? いや、海外のガチガチ刑務所に移転する……とか。いや待て、落ち着け。俺は何もしてない。善良な一般市民だ。流石にやべぇ奴の集まりでもある海外の刑務所に入れられるなんてことある訳……いやダメだ、あいつ自称革命家だったわ。何するかわかんねぇ。く、クソっ……!! 読み切れない……だと!?
「急に頭抱えだしましたよこの人」
「そういう時期なんやろ。ほっといたり」
幸い、英語なら普通に使える。つまり英語習得のために設けられたどれだけかは分からない期間、俺は自由に行動できる。そこで暴く、暴くんだ。奴の意図を!!
用意された勉強机を四人で囲いながら、俺はこれからの方針を頭の中で組み立てる。あ、ネッシーは帰ってきてない。多分湖に沈んでそのまま底に着いてしまったのだろう。さらばネッシー、お前のことは忘れないよ。特に印象ある訳でもないけど。
勉強と言っても、俺は英語を話せるので基本的には教える側な訳だが。渡された教材もペラペラめくってポイしたし。把握。
分からないところを聞かれたら答える。発音やら、文法やら、和訳やら。まあそれも時々だから、やることも無く暇を持て余した俺はスマホを適当にいじっている訳だが。
そんなこんなで一時間ほど暇な時間が続いていた頃で、氷織が話題を振ってきた。
「水野くん、英語ペラペラやなぁ。世界選抜戦の時も凄かったし」
「本場の人みたいな発音でしたよね。ほとんど聞き取れませんでしたよ」
「しかもサッカーも上手……えー……サッカーもしてるし。逆に何が出来へんのって感じ」
「人の心を読むこと」
「あー、それや」
「なんでその流れで俺罵倒されたの?」
失敬な。人の心を読むことなど容易いことよ!
「高二で英語ペラペラとかスペック高すぎやろ。凄いな」
「凄い……??? 何が??」
「いや……高校生でそこまで英語話せる人なんて居ませんよ。専攻な訳でもないでしょうし」
「???」
「何その「何言ってんだこいつら」みたいな顔」
「何言ってんだこいつら」
「ほんまに言いおった」
本当に何言ってんだこいつら? 英語が話せることが凄いって……何?
いやいや、え? どういうこと?? どこも凄くないだろ。だって。
「勉強したんだから……話せるのは
「「……はあ?」」
何を当たり前のことを聞いてんだこいつらは。勉強したんだから英語を話せるようになるのは
サッカーも一緒だろ。
練習したからリフティングができるし、シュートの練習をしたからゴールが決まる。
試合の展開を想定した練習をしたからこそ、試合でミスをすることはないし。キーパーはやったことないから出来ないけど、練習すれば誰でも出来るだろう?
練習したから。勉強したから。
だから……出来るということは、ごくごく普通のことだ。
誇ることなんて一切ない。ただ、当たり前のことが出来るだけ。何も難しいことは無い。普通のことを普通にできる。ただそれだけだ。
二人が英語を話せないのは、話そうとしなかったからだろ? だって、勉強をしていたのなら、英語が話せないなんてこと、有り得ないんだから。
そっと息を呑む二人を他所に、俺はスマホへと視線を戻す。ん? 『糸師 冴』? へー、あいつと同じ名前じゃん。苗字知らねぇけど。元気にしてるかねぇ、あいつ。相変わらず敬語使えないんだろうなぁ。開口一番の「誰だテメェ」には痺れたね。
それから数日。と言っても一日二日だが、勉強タイムは割と直ぐに終わりを迎えた。革命家の河童からの招集を受けて、俺たちは今、何時もなら勝手に開いてくれているであろう重厚感のある自動ドアの前に立たされている。いや開けよ。
あ、ネッシーはまだ帰ってきていない。よっぽど湖の奥深くに潜っているのだろう。浮上するのに時間がかかっているらしい。知らんけど。
言われた通りに扉の前に立たされて数分。飽きた。
「帰るか」
「「帰るな」」
来た道を戻ろうと振り返る俺の肩と顔面をそれぞれが鷲掴みにして来た。最初は抵抗した俺だったが徐々に戻っていく体がロボットのようで少し惨めになったので大人しく前を向く。いや力強っ。マフィアのタックルより強いんじゃね? お前ら人間じゃねぇ。
そんなやり取りをちらほら。全く扉は開かない。まじで帰っていいか? どういう嫌がらせだよ、小学生でももうちょいましな嫌がらせ思いつくぞ。
「──今日は天気が良いな」
「ここ室内やで? 窓なんか無いよ?」
「話題が無くなって気まずくなったあとの一言やめてください」
そういえば、ここに収監されてから、久しく空を見ていない。というか太陽の光を浴びてないんだが。時間感覚がバグりそうだ。人間って日光浴びないと死ぬ呪いとか無かったっけ? 早く外に出せよ。海外でももうちょいまともだぞ。
そういえば、俺はここで俺達を監視している奴らをカッパとアンリさんしか見たことがない。あの外国人達も雇ったのだとすれば七人だが、その可能性は低いだろう。あいつらは一時的な雇用だと見ていいと思う。なら、今実質的にこの施設を運営しているのは二人だ。
あの日。俺が無実を証明すると誓ったあの場所には300人近い人間がいた。あれが全て犯罪者予備軍だと仮定し、全員がここに収監されているとする。
二人で300人の管理。
あいつら死んだわ。
あー。だからあんなに目がイッてるのか。納得納得。過労死手前か? 日本人の鏡だねえ。少しカッパに同情してしまった。まあ俺も
『それではラスト。7thクリアチーム、入場してください』
両手を合わせ目を瞑り、二人から引かれたところでアンリさんの声で放送が聞こえてくる。『7thクリアチーム』? 誰それ。何言ってんだあの人。そんなのいいから早く扉開けろや、真剣に帰るぞ。
「ほら、行きますよ」
二子に背中を押され前のめりになる。するとタイミングを図ったかのように、今までうんともすんとも言わなかった扉がウィーン、とロボットのような音とともに開き、奥の景色を見せてきた。
まさか……二子……!!
「ハッキン────」
「「早く行け」」
二人に蹴り飛ばされた俺は、キレてもいいかもしれない。ダメか? ダメか。
◈◈◈◈◈
ブルーロックのストライカー達は、世界選抜戦を経験し、語学学習に励んで数日、二次選考通過者が中央ジョイント・ルームへと集められた。
クリアチームはのべ7チーム。300人……いや、301人いたストライカーは、現在では35人にまで減少。
見知った顔、知らない顔。まだ見ぬストライカーが集結し、潔 世一は一喜一憂していた。
6thクリアチームの入場において、國神の敗退が告げられ、士道と一悶着起こり、遂には暴力沙汰に発展するというところで、残された最後のクリアチームの扉が開いた。
今までまばらだった視線が一点に集中する。それはその場に居るもの全ての関心がラストチームに向けられた故。
それも当然か。居るはずのストライカーが、未だに姿を現していないのだから。
扉が開いて行く。異様な程にスローペースで開いていく扉の中央に見えてきたのは、ユニフォームの中央に大きく書かれた【1】の数字。
両手をポケットへ入れ、俯きながらゆっくりと進んでくる男。
潔 世一が、この男を生で見るのは二度目。しかし、一度目は眠る彼の姿しか見ていない。故に、彼の現在のチームメイト以外にとって、これが初顔合わせと言えるだろう。
扉が完全に開き、彼のチームが全員入場を果たす。そのチームに二子がいることに僅かながら驚きと喜びを感じながら、潔をはじめ、その場は無音の時を過ごす。閉じていく扉、そして西岡の不在を伝えるアナウンスでさえ、彼らの耳には入ってこなかった。
目が、離せなかった。
世界選抜のような、わかりやすい圧があるようには思えない。ずば抜けて身長が高い訳でもないし、筋肉が発達している訳でもない。にもかかわらず、彼から目が離せないのは、ストライカーとしてここで生き残ってきた彼らに付随的に備わった第六感のような何か。
その時、ブルーロックスの認識は一致する。
────コイツはやばい、と。
「水野、悠……」
思わず声が漏れたことにも気づかない潔の声が耳に届いたのか、水野はチラリと視線を向ける。ただ向けられただけなのに、全身がブルりと震えたものの、それは一瞬のこと。興味なさげに視線を外した水野は全体を見渡したあとにため息をひとつ零す。
ブチリ。
潔は、隣から血管が切れたような音を耳に拾うと、案の定と言うべきか、糸師 凛は青筋を大きくさらけ出しながらドスの効いた声で「あ"?」と呟いていた。
「狭くね? てかカッパ何処だよ。帰っていいよな? いいよね? よし、帰ろう」
「めっ。まだ此処に居なさい」
「もうちょっと待ちましょうね」
「あれ、俺今煽られてる?」
「今周りを煽ったのは貴方ですけどね」
「見てみ、あのイケメン。凄い顔して……ブハッ!」
ボソボソと、離れたこちらには聞こえないような声量で会話をする三人。会話の内容が気になりはすれど、先程の溜め息が頭を過ぎる潔は水野を注視する。と。
「ヤッホー、NO.1♡」
見ているだけしか出来なかった中、潔の近くに居たはずの士道が身を乗り出して駆ける。先程の煽りに触発されたのか、脚力を活かして大きく飛び跳ね、水野の顔に向けて右足で横薙ぎの蹴りを放つ。士道の身体能力の高さを実感している潔は思わず手を伸ばしてしまうも、それは無用の心配で終わった。
後ろから迫る士道の蹴りに視線を向けることなく、頭を下げて回避した水野はそのままに空中に漂う士道の体を掴みあげると、勢いそのままに地面へと叩き落とした。
背中から地面へと叩きつけられた士道は肺の空気が全て漏れだし、口を大きく開けて空気を欲する。上手く空気が入らずに悶えながらも視線だけは獲物へと向けようと本能のままに水野を見やる。
「……首輪くらい付けとくんだな」
士道には一切視線を向けることなく、いつの間にか画面に映っていたカッパ……絵心に向けて口を開く。
面白可笑しそうに歯を見せて口角を上げつつ、両手を上げて落ち着くように促した。
「そいつはこの中じゃお前を満足させられる可能性を秘めている一人だ、水野悠……今は相手にならないだろうがな」
「────
大して大きくはない、呟くような言葉。しかし、この空間にはやけに響く冷たい声音はストライカー達の警戒度を上げるもの。
視線を初めて士道に向けるも、その瞳に温度はなく、道端の石ころを見るようにたまたま目に入ったとでも言える瞳の色。
そして視線を外すと、もう一度後ろに控える潔達へと今度は品定めするような目で見渡すとすぐに興味をなくしたように視線を切った。
「話にならないな」
「────どういう意味だ」
水野の後ろで肩を揺らす二人とは対照的に、他の
「俺は眼中に無いってか?」
「それ以前の問題だろ」
「言ってろやクソが……屈服させてやるよ、暫定一位」
持ち前の身長から、見下ろす形になる凛の眼圧に対しても、水野の対応は変わらず。全く引く様子の見せない両者が睨み合うこと数秒。さすがに待ったをかけた絵心はこれからのスケジュールについて話していく。舌打ちを零しながら一歩引いた凛に合わせ、水野も数歩後ろへと下がり絵心の話を聞く姿勢をとる。
「絶対あの人────って思ってますよ」
「間違いないな。ほんま飽きひんわあの子」
予定していたスケジュールを繰り上げ、U20日本代表との試合を組んだことを告げ、それに向けての方針を話す。
「今から名前を呼ぶ6名を中心に青い監獄はチームを形成する」
総合評価のTOP6の選手を呼ぶ。ハングリー精神の強いストライカー達……特に潔はその中に選ばれたいという欲を見せ、絵心からの発表を待つ。
「まずは総合NO.1────水野悠」
(水野……やっぱりアイツがNO.1……!!)
青い監獄の中でも異質な待遇を受けていたことから予想はしていた。しかし、同じチームとなった凛のプレーを見ていた潔は、凛が一位になるのではないかという予感も秘めていた。しかし、呼ばれたのは言うなれば予想通りの水野。舌打ちを零しながら睨む凛とは対照的に、水野は何も驚いた様子を見せずにただ悠然と佇んでいた。
「あの人多分なんの順位かわかってないですよね」
「どうしたらいいかわからんからとりあえず黙っとこ見たいな立ち方おもろっ」
そしてその以下は順に凛、士道、烏、乙夜、雪宮となった。
TOP6が発表されると、6位に選ばれた雪宮が順位の選定基準について問う。
「上位3名は世界選抜戦でそれぞれゴールを決めている」
あとは一次選考からの得点数と世界選抜からの個人評価に基づいたものだと言う。納得の色を見せる雪宮が下がると、今度は凛が画面に映る絵心へと鋭い声で問いかける。
「俺と
それは凛にとっては当然の疑問。彼らは水野のプレーを生で見たことは無い。更には映像越しに見たのも入寮テストが終わり、数日してからの一度きり。それもダイジェストであったため、いまいちその差が理解出来ていなかった。
凛の鋭い目を受けた絵心は可笑しそうにフッ、と笑いが込上げる。それを受け、眉間に皺を寄せる凛に大したアクションは見せない。
「長く話しても面倒だ。結論だけ言おう。納得しなかったら水野悠の世界選抜戦の映像を見てから文句を言いに来い。モニタールームに各チームの世界選抜戦の映像を置いてある。自由に見ろ」
そして一呼吸。静まり返ったルーム内には僅かに混乱しながらも絵心の言葉を待つ選手。そして、ニヤリと笑って絵心は口を開く。
「糸師 凛、士道龍聖が世界選抜戦で決めたゴール数はワンゴール。そして────水野悠は、ファイブゴールを叩きだし、世界選抜に勝利している。以上だ」
「なっ!!?」
「嘘だろ!?」
絵心から告げられた内容に、全員の思考が停止する。数瞬の後、ようやく噛み砕いて理解した彼らは、一様に水野の方へと顔を向け、驚愕の表情を浮かべた。
潔は思い出す。今まで感じたことの無い壁。それを体験した。世界の広さ、高さ、圧倒的な力。諦めてすらいた程の力量差。
油断をついた凛のワンゴールでも凄いと思った。その後は蹂躙と呼べるものだったが、その経験は今でも……生涯忘れることの無い強烈な思い出。
あの凛が、目を見開いて驚愕を隠していない。それにも納得してしまう強烈なインパクト。
自分達では本気を引き出すことも出来ず、ただ遊ばれてバイト感覚で試合をされた屈辱的なまでに強いあの5人を相手に。
どれ一つとっても勝っている箇所が思いつかなかったほどに圧倒的だったあの5人を相手に。
アイツは、勝利したのである。
(水野悠……アレを、越えないといけないのか……!!)
冷や汗が頬を伝う。思わず笑いが込上げる。
しかし、そのような理不尽で怖気付くような弱腰はここにはおらず。
最高の獲物を見つけた狩人が如く。
「絶対、俺が喰うッ!!」
ゾワリ、と水野に悪寒が走った。
◇◇◇◇◇
【悲報】俺、貞操の危機。
語尾に♡が浮かんでいそうなやつからの急襲をとりあえずあしらった後に事件は起こった。モニターに写ったカッパからの一言。
「そいつはこの中じゃお前を満足させられる可能性を秘めている一人だ、水野悠……今は相手にならないだろうがな」
その言葉の意味が、最初は分からなかった。アイツは何を言ってんだ? 満足? なんの話? 監獄に娯楽品なんてあるわけないし、サッカーは労働っていう形になってるし、他にそんなもの……。
…………………………………………………………まさか。
突如脳裏に過ぎった一つの可能性。いや、待て、落ち着け。そんなことあるはずがない。流石に有り得ない。あのカッパが性格終わってるカスだとしても、そんなわけないだろ。
そんな────「性的に満足する」、なんてこと。
うん、有り得ないな。だってこいつ、敵意バチバチだっただろ? だから蹴りに来たんだろ? ねぇ? そうだよね? なんか言えよ? 語尾に♡着いてそうだったとはいえ、流石に……。
というか、俺はノーマルだし? 全然お断りですし? 別に否定するつもりは無いけど、押し付けられるのはちょっと困るし? 普通に迷惑だし? まじで僕は違うんです。
そういうことで、無理です。そもそも土俵に上がってないので。「話にならない」ので! たとえ俺の事気絶させてから美味しく頂こうとしてる奴がいたとしても、僕はノーマルなので!!
ん? なんか来た。
「俺は眼中に無いってか?」
オワッタ
「絶対、俺が喰うッ!!」
ヒェッ
氷織、二子!!! 早く帰るぞ!!! ていうかなんで笑ってんのお前ら!!!
世界選抜からの水野の評価
ロキ「また戦いましょう」
ソバカス「オイラが一番可愛いんだよだよ!!」
マフィア「殺す」
重戦車(笑)「潰す」
ナチュラルサイコ「へし折ってぐちゃぐちゃにしてやる」