以前とは打って変わり、外の世界はどうやら冬に差し掛かっているようで肌寒い気温が続いている。
謎の仮釈放を受け、冴って権力者なのかっ!? とテンションが上がっていると深いため息をつかれて心底バカを見る目で見られたことに疑問を覚えたのは記憶に新しい。
そして、冴と二人で乗せられたリムジン的ななにかに連れていかれること数時間、辿り着いたのはこれまた謎の施設。そして連れられた謎の部屋。その部屋で待っていたのは謎の人物達。向けられるは謎の警戒心と何故か見下す目。謎が多くて吐きそうだった。
「私がこのチームの監督だ!」と意気揚々と言ってきたおっさんに反応する暇もなく、冴が俺の前に躍り出てメンチを切っていたのを後ろから動画を撮影したことくらいしか印象に残っていないが、どうやら俺はここにいるヤツらとチームを組むことになったらしい。なんで?
冴からは深く考えるなと言われた。いや、全然あの人ら歓迎してないじゃん。髭生やした人めっちゃ睨んでんじゃん。腕サムズアップしてんじゃん。え、この人ら20歳以下? 嘘つけ、明らかヤベェやつら何人かいるぞ。今にも「ナマステ」とか言いそうなやつとか、噛み付いてきそうなやつとか、目が点な奴とか。
「ハッ、ハッ……ッァ」
こいつらはあれか? 前いた監獄のライバル監獄なのか? 貫禄はそれ相応だが……いや、アイツらの方がやばかったな、うん。殺人鬼に美人局にハッカー、ママ活パパ活果てには二重人格。触覚BLと、属性を盛りすぎた場所だった。あれに勝てる監獄はないだろう。
あそこに居たことが要因となっているのかは定かでは無いが、最近インスタに外国の人からフォローが二件来た。一方からは謎の熱烈なラブコールが届いた。やれ『素晴らしい時間でした』やら、『また一緒にシましょう』やら……明らかに男からのDMだったため、とりあえずブロックしておいた。
もう一方からは、『殺す』『潰す』『ぐちゃぐちゃにしてやる』。とりあえず通報しておいた。
「で、まだやんの?」
シャバの空気を吸い始めて数日。現在俺は、目の前で膝に手をついて荒く息を整えようとしている男から誘われて室内サッカーコートへと足を踏み入れていた。
程よいダンディな髭を生やすオッドアイの男の名前は愛空。X時代に俺が愛用していたキャラと同じ名前だったのでとりあえず着いてきた。色んな女に手を出してそうな見た目と軽薄さを持ち合わせていたが、まあなんとかなるだろう。
「ッ……ダァー! 降参だ降参!」
限界が来たのか、遂に膝から崩れ落ちるようにして地面に腰を下ろし、両手で上半身を支えながら天井を見上げている。向こうから終了を告げられたために、消化不良を感じながらも俺は足元にあるボールをフワリと上げ、ゴールポストへ向けて蹴りだし、その跳弾でカゴへと入れた。
謎の施設へ連れられた初日に外面フレンドリーに話しかけてきたこいつは、しかし内面はその場にいる誰よりも警戒や疑念を抱き接触してきた。そして品定めをするような目線を晒し、今日ここへと呼ばれ、ミニゲームを提案してきた。
単純な1on1。具体的なゴール数は決めず、向こうが納得のいくまでゲームを続けるという制約の元、俺は蹂躙を始めた。
結果、相手は汗をダラダラと流し、呼吸も乱れ、短時間で蓄積するとは思えないほどの疲労を与えていた。
「ははっ……バケモンかよ」
苦し紛れの笑顔を見せながら、俺の目を見てそう言ってくる。失礼な、なんてやつだこいつは。上BでTEN・CHU☆するぞ。
「んで、何がしたかったんだよ」
「言い方は悪いが、品定めってやつだな……上からの指示とはいえ、急に入ってきた訳分からん奴をすんなり受け入れるのは出来ないんでね」
ほーん。何言ってるか全然分からん。
「天才君が選んだストライカーとは聞いてたが、一応、な……結果はこの通りだが」
天才君……冴、そんな異名あったのか……日本の至宝といい、あだ名多いなあいつ。今度さりげなく呼んでやろうかな。多分無言×真顔×マジ殴りで来るだろうな。
「俺はあんたのお眼鏡にかなったってことでいいのか」
「くっははっ……かなったかなった! 想定以上……ていうか、バグだろ。お前みたいなやつが居たのかよ、日本に。まじで怪物だな、ナニモンだよ」
「ただの高二だよ」
「お前みたいなやつが普通なわけないだろ、馬鹿が」
愛空とはまた別の声が聞こえ、振り返るとそこにはボールを蹴りながらこちらへ歩いてくる、ジャージを着た天才くんだった。
「天才君じゃん」
正解は、無言×真顔×顔面マジシュートでした。とりあえず避けるのはあれかなと思ったので、軽く跳躍して肩でトラップする。うわ、舌打ちつきでした。
「二度と呼ぶなよ」
「怒んなって、日本の至宝様」
どこから取りだしたのか、2発目の顔面シュートを繰り出してくる。いや殺意高いなこいつ。まじでどっから取りだしたんだそのボール。腰にベルトあんのか?
手で受け止めるには痺れそうなので、足を振り上げて足裏に吸い付かせるようにボールを止め、足元へ落とす。2つあっても意味は無いと判断し、うち一つを軽く蹴りあげてカゴへと直接放り込んでおいた。散らばったら後々だるいからね。
「相変わらずきっしょい身体してんな」
「毎回罵倒から入らないと死ぬのかサエサエ」
「うぜぇ……」
今度はボールは飛んで来ず、顔を歪ませるだけで済んだ。嫌そうにしながらも、サエサエは許容している感じからもツンデレ加減が見てとれる。本人に言ったらまじ殺しが来そうなために絶対に言わないが。
「お前ら、まじで知り合いだったんだな」
そんな俺たちのやり取りを見て、ようやく呼吸が整ってきた様子の愛空が少し驚いた表情を見せながら俺たちを見渡し笑みを浮かべる。疲れすぎて変なテンションになっているのか、どこか面白そうな笑みだ。今にも手を叩いて笑いだしそうで怖い。
「ああ。尤も、この馬鹿が何も言わず勝手に消えたせいで鬱憤は溜まってるがな」
「相変わらず目死んでんなあ」
「会話も出来ねぇのかお前は」
いやいや、本当に目死んでるんだもんしょうがねぇだろ気になったんだから。
帰国に関してはまじでごめんとしか言えないんだよなぁ。「そろそろ帰国するぞぉ!」って親に言われて一時間で荷物まとめて空港向かったもんなぁ。仕事の関係とはいえ、突然過ぎて冴に伝える暇がなかった。連絡先知らんし。まあリムジンの中でスマホ強奪されて交換した訳だが。
「ハハッ! 仲良しかよ!」
「声太いミッキー居たぞ今」
「お前はもう喋るな」
冴からの辛辣なツッコミに大ダメージを受けた。普通にショック。
気分が下がりながらリフティングで暇を持て余していると、冴から「おい」と王様的呼び掛けを受けた。へい、なんでい!
「消化不良だろ。俺が相手してやるよ」
なんてことないように言いながらジャージを脱いでいく冴はいつもと変わらない様子でありながらどこかワクワクとした雰囲気を醸し出していた。
なるほどなぁ。向こうでは週2、3回はサッカーを一緒にしていたし、それが冴的には割と楽しかった思い出だったわけで。帰国してから今までやってこなかった反動が来ちゃってるわけか。んだこいつ可愛いなおい。
でも、俺はそれを指摘したりはしない。俺は人の気持ちが分かるタイプなんでな。冴はその思いを隠しているのだろう。もし俺が察していることに気づいたら恥ずかしい気持ちになるのかもしれない。だから俺は知らないフリをしてこう言おう。「冴とサッカーすんの久しぶりだな」、と。
「チワワとサッカーすんの久しぶりだな」
「殺す」
やべっ、言葉間違えた。愛空のやつ隣で爆笑してやがる。もっと虐めてやろうかなアイツ。
この後1時間ぐらい戯れた。久々に汗かいた。
◇◇◇◇
U20日本代表戦に向けた、レギュラー選抜戦が終わりを迎え、生き残ったブルーロックのストライカー達がセントラルルームに集められていた。
そして、様々な気持ちを胸に佇むエゴイストたちの前に、ブルーロックプロジェクトの説明となる最初期以来の登場である絵心 甚八が姿を現し、緊張が走る。
「水野くん居らんなぁ……トイレ?」
「迷子じゃないですかね」
「お前ら水野の扱い雑すぎんだろ……」
期間を置いたことで冷静になり、メンヘラ属性が無くなりつつある氷織と、水野の師事を受け急速に成長した潔、そして練習の度に胃を壊していた二子が固まる。その疑問の声に答えるものは居らず、絵心からの日本代表戦に出場する11人のレギュラーが発表された。
チームの先頭を駆け抜けるストライカー。主軸となるFWは……二人。
「糸師凛……そして、潔世一。このツートップで試合を壊せ」
「ッ!!」
潔を凛の最良のパートナーとするのではなく、あくまでも二人がそれぞれチームのメインとなることを告げられ、凛の表情が歪み、潔は好戦的な笑みに口角を上げる。
そして氷織、二子の両名もレギュラーに選ばれ……水野の名前は呼ばれることは無かった。
レギュラーに選ばれ昂る者、名前を呼ばれず、口を噛めしめるもの。それぞれの感情が入り乱れる中、しかし水野の名前が呼ばれない不可解な事実は共通の認識となり、それらを代表して雪宮が手を挙げる。
「なんで水野くんが入ってないんですか? NO.1ですよ?」
NO.1ではなく、No.2と上位6名に入っていない潔が選ばれる。勝ちを狙うならば、水野のレギュラー入りはベターだろう。
頷く周囲を見渡し、絵心はその質問が来るのを想定していたのか、淡々と説明を続けようとし、しかし顔色は少し青い。
雰囲気が変わった絵心を見て、潔達は目を見張り、そして絵心からの説明へと意識を向けた。
「水野悠の実力は青い監獄の中においてずば抜けている。それは世界選抜戦にて5ゴールを奪い取ったことからも明らかだ。奴はまず間違いなく、
絵心の声色が明らかに下がる。
「JFUからの電話が入った。内容は、糸師 冴が日本代表のFWに不満を持っており、糸師 冴の条件を呑まなければ試合は中止……青い監獄は自然消滅となるということだ」
その場にいる誰もが声を出せず、予想される内容に冷や汗が流れる。
「その条件はただ一つ────水野悠を、Uー20代表に加えること。糸師 冴はここにいるお前らではなく、水野悠を選んだ」
「────は? 」
メンヘラ爆誕である。
「……加えて、どうやら糸師 冴は水野悠と過去に関わりがあったらしい。お互い、かなり砕けた様子だった。即興のペアだとは思うなよ」
「────は? 」
ブラコン爆誕である。
(あ〜……あの人、今度あったらまじで鼻先殴ってやる)
瞳孔が開き、吹雪が周囲をチラつかせる隣にいるメンヘラを横目で捉え、二子は一人拳を握り脳裏で笑う怪物へと拳を振るった。
そして、数日後。
Uー20日本代表vs.
世界を変える怪物が誕生する激戦が、幕を開けた。
◈◈◈◈
寒い寒い、サブリナ! どうも水野悠だよ!
ジャージじゃ足りないのでダウンも着させて頂きました、もう真冬です。目の前で走り回っている人達は風の子なのでしょうか。俺も早く走って暖まりたい。
気が付けば、諸悪の根源たる監獄に向けて出発していたため、俺は騙されたのかと冴に非難気味な視線を向けたら無言でチョップされデコピンされ背中にアルミ製の冷たい何かを当てられた。理不尽が過ぎるんよ。
どうやら向かったのは本当にあの監獄のようで、「黙って着いてこい」と明らかに格好つけたクサイセリフをサエサエから頂戴し、ついて行くとそこは監獄に囲まれた巨大なサッカーコート。テレビで見たことあるような巨大ステージには既に所狭しと観客が詰め込まれ、日本コールが鳴り止まない。なんで?
反社に対して処刑でも始めるの? 俺反社じゃねぇよ? えぇ……囚人候補に厳しすぎだろこの国やっべ。まだ高校生だぞアイツら。遠慮してやれや……あ、俺のケツ狙ってたヤツらは干して大丈夫ですよ。あと河童。
河童の公開処刑が始まるかと思いきや、河童は何やらタブレットを持ちながら悠々とベンチへと深く腰を下ろしていた。まるで監督のようだ。アンリさんもその横にダウンに身を包んでちょこりと座っていた。可愛い。
どうやら今からサッカーの試合が始まるようだ。そういえばそんなこと言ってたな。監獄とバカボコするとかなんとか。俺はサエサエと同じ愛空側のようで、相手は潔達だ。なに、革命家の新しいビジネスでも始めんの? サブスク? イカゲームサッカー版でもやるつもり?
どうやら俺はベンチスタートのようで、冴はレギュラーなので、ちょうど入口から選手たちが入場してきた。相変わらずつまらなそうな目をしている冴の横には殺人鬼。しかし並んでみるとやはり似ているなぁ。兄弟だったりするのか? 身長的に冴が弟かね? また後で聞いてみるか。
見知った顔がどんどん見えてきて、氷織と二子がこちらをガン見してきたから目を逸らした。いや、だって可笑しいだろ。氷織の目は結構やばめにガン開きしてたし、二子は殺意やら何やらこもって握りしめた拳が悲鳴をあげていた。なんかごめん。身に覚えは無いです。
試合が始まった。寒い。室内で見たい。中継してないのかな、帰っていいですか? ダメ? ダメでした。
「……うん、使い方上手くなってるな。やっぱ空間認識能力はあいつらの中じゃ頭ひとつ抜けてる」
潔が二点目のゴールを決めていた。まだ完全とは言えないが、俺が言ったことはだいたいクリア出来てるらしい。
ただ、今までとは世界の見え方が変わっていることによる全能感にも似た何かの影響なのか、歯止めが効くのか気になるところではある。要約すればテンション上げすぎて倒れそうで怖い。
その後、パスを出したFWがシュートを決められなかったことに分かりやすく機嫌を損ねた冴が一点決め返し、殺人鬼と凪が一点ずつ決めて前半終了。4ー1で三点差から後半を迎えることになった。途中、ベンチ前を通った二子からすごい目で見られたけど気にしない。反対側にいる氷織からすごい眼光を向けられたことも気にしてない。だからこの身体の震えはただの寒さから来るものなのである。
◇◇◇◇
『希望的観測だが、水野悠は後半から出てくるはずだ』
それは、試合が始まる直前に行われたミーティング。
『あちらは青い監獄を潰すために動いてる。糸師 冴からの要求とはいえ、青い監獄の理念である水野を使うことを嫌うだろう』
そう言うと、絵心は右手を前に突き出し、親指を折り曲げる。
『四点……最低でも3点は差が欲しい。前半、水野がいない相手チームから3点奪え』
俺達に与えられた指示はシンプルなものだった。
前半に引き離し、後半で逃げ切る。
与えられた最低条件である3点差をつけることに成功し、イガグリが唾を撒き散らして喜んでいたのを思い返す。でも、俺は全くと言っていいほどに余裕も安心もなかった。
そして、後半戦が始まろうとし、選手達がフィールドに姿を現した。
「……やっぱ、来るよなッ」
前半では見えなかった顔がそこにはいた。
緊張した様子は見せず、ただ立っているだけで伝わる強者の覇気。
ブルーロック最強。糸師 冴が選んだストライカー。
水野悠が、そこに居た。
「ハッ。ビビってんのか、潔」
水野の姿を眺めていると、隣にいる凛がこちらを見下ろしてくる。
「うっせぇ。なわけねぇだろ」
水野から眼の使い方を教わり、改めて俺はあいつの凄さに気付かされた。常にフィールド全体を見渡し、最適解を導き出す、まさに神の視点……
『……厨二病属性もあるのかよ』
そう名付けた俺のつぶやきを聞き、水野が何かを言っていたが、それは置いておく。
前半はフル稼働とは言わずとも、ほとんどをその眼で進めていたが、やはり消耗が激しすぎる。体力は簡単に着くことは無いので、今の俺ではフルタイムで使うことはまず不可能。しかし、水野はこれを日常的に使っている。怪物だ。
味方としては、この上ないほどに強力で、頼もしい存在だった。でも、それが今、糸師 冴と言うこれ以上ない相棒を隣に置きながら、敵として目の前にいる。
「お前……弟に身長負けてんのかよ……まあ、うん。ドンマイ」
「何回続けんだよこのやり取り」
「飽きるまで」
「飽きた」
「やめた」
「きめぇ」
恐怖は……思っていたよりも無い。それよりも感じるのは、自分がどこまで通用するのかという挑戦的思考。
「サエサエ、もうちょい感情増やせよ。アンリさんを見習え」
「知らねぇよ。誰だその女」
多分、糸師 冴も俺と同じ視界を持ってる。前半で感じたあいつの動きがまさにそれだった。糸師 冴だけでも、怪物。
「河童の隣にいるだろ。監獄の管理者側唯一の良心。ちなみに管理者側は河童とアンリさんしか知らん」
「……ああ、あの無駄にデカい胸か」
「黙れ尻フェチ」
そこに、遥かにやばい怪物が加わるんだ。前半の比じゃない。糸師 冴も、前半は様子見だろう。後半からは、本気の怪物が牙を剥く。
(楽しみだ)
そう感じてる俺は、とっくに狂ってるのかもしれない。
「あ〜……悠」
「何?」
もう笛がなる。待ちきれないとばかりに俺の心臓が鼓動を早める。口角が上がり、歯がむき出しになっているだろう。
「おい、凛」
「あ?」
相手ボールからのスタート。必然的に水野がボールを保持して始まるだろう。全く展開が予想できない。常に眼を使え。この試合が終わってぶっ倒れてもいいから、だから。
「簡単に置いてかれるんじゃねぇぞ」
「ハッ……お前の方こそ、着いて来やがれ」
凛の好戦的な笑みを見て、俺は眼に意識を集中し、世界を数式化した。
「……あの女、ハニトラだぞ」
「潰すか、あの監獄」
ゾクリと、殺気が肌を刺激されたのを感じ、糸師 冴がパスを出し水野ボールから後半戦が始まった。
表情をなくし、ロボットのようにも見える水野が駆け出す────。
「────は?」
意識を切り替え、目の前に迫る怪物に集中する。隣から聞こえてきた掠れた声を聞き、俺はようやく水野に抜かれたという事実に気づいた。
(え、は? なん……俺と凛の間を、ただ走っただけで抜いたのか!? つーか、あの速さ……)
爆発的初速。弾丸のように止まらず突き進むその姿は、世界選抜戦において脅威だった、同年代の天才を連想とさせるフォームと速度だった。
(流石に最高速までは真似出来ないが、初速の出し方くらいは参考になった)
いつか見た戦闘狂の走りを思い出しながら、俺は怒りを感じながらピッチを駆け抜ける。
(ハニトラ……くそっ、完全に騙されたんだがっ!! あの笑顔は嘘なのか……人間不信なりそう)
冴からのカミングアウトを受け、ショックを受けながらも、最終的にはとりあえず河童のせいにしといて結論を出す。
(あの河童マジで殺す)
「アカンっ、止まらんぞ! 囲め!」
事前に冴が一点目は一人で決めてこいとか寂しいことを言ってきたので萎えていたが、今では単独で蹂躙できることに喜びを感じる。河童に当てたら百点とかない? ていうか点失ってもいいから当ててもいいかな?
まじで冴が後ろから一歩も動いていないのを把握し、俺は後ろの情報を全てカットし、脳内再生している展開だけで背後の情報を把握する。どうやら俺の足に着いてこれるやつがサイドにいるお嬢だけなようで、こちらに向かって走ってきているが、まあ問題は無い。
後ろで関西弁がギャーギャー言っているのもカットし、俺の前に集まる二子と髪の長いヤバめのやつとお嬢を捉える。
「俺、止める」
「行かせねぇよ!」
「まじでぶん殴る」
一人別の部分にやる気を出している奴がいたが、そこは置いておこう。後が怖い。
前から3人が俺を囲むようにやってきて、右側からも一人ニッコニコしながら走ってきている。ヘルプに着くのも時間の問題だろう……が。
五歩、遅せぇよ。
「"ロック"」
前三人が俺を囲み切る前に、ノーモーションから鋭いシュートを放ち、二子と髪長の間を貫く。
カーブを一切かけない、ただひたすらに最高速で真っ直ぐ突き進むシュートは、前三人を壁にしたことでキーパーから俺の最低限のモーションさえも見ることは出来ず、突然湧き出てきたかのようにも錯覚する超速のシュートは相手に動く暇さえも与えずにゴールへと突き刺さった。
後半戦を告げたホイッスルの10秒後に鳴り響いたゴールの音は、観客達を一瞬困惑させ、一拍置いた後に爆発的な歓声が響き渡る。
味方、敵、観客。冴以外の全てを置き去りにしてゴールを決めた俺は、振り返るとこちらを見つめる全ての視線を受け止めてため息を着いた。
「お前らはどうでもいいが……まあ、ただの八つ当たりに付き合ってくれ」