ぼっちちゃんが好きでなにがわるい!   作:かりめろす

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遅くなりました。
前回反応くれた方々、ありがとうございます!


#2 芽吹き

楽器ケースを背負った女の子はブランコから立ち上がり、重い足取りを引きずってどこかへ行こうとしていた。

 

 

「ギターーーーッッ!!」

慌てて声をかけようとした私は、あまりのタイミングの良さとこのチャンスを逃がすまいという気持ちから人じゃなくて楽器のほうを呼び止めてしまう。

棚からぼたもちならぬギタリストとはこのことだ。多少の失礼は許してほしい。

 

 

「それギターだよね?弾けるの!?」

「・・・!・・・・・・・!!」

肝心の棚からギタリストは、もちがのどに詰まったようなリアクションしか取れないようだった。

そのままへなへなと地面に座り込み、前髪に隠れた大きな目だけがこちらを見ている。

そ、そんなに怖い顔しちゃってたかな…?

 

 

「あ!いきなりごめんね、私の名前は伊地知 虹夏。下北沢高校の2年生なんだ!」

「あっ後藤ひとりです」

一呼吸おいて自己紹介すると、食い気味の反応で名前を教えてくれた。

ひとりちゃん、か… 

この子のことまだ全然知らないはずなのに、強烈に名が体を表している気がする。

 

 

「私バンド組んでてドラムをやってるんだけど… ひとりちゃんはギターどのくらい弾けるの?」

「あっそこそこ…」

「そっ、そうなんだ!…あのさ、今日だけバンドのサポートギターしてくれないかな!そんなに難しい曲じゃないから!」

「えっ、むっ、今日っ」

「お願い!!」

「……」

 

 

はじめましてから突然の滅茶苦茶なお願いに考え込んでいるが、不思議と嫌そうな顔はしていない。

こんなに自信がなさそうなのに自分でそこそこ上手いと言うくらいなのだから、腕前もあるのだろう。

ええい、焦れったいなもう!

 

 

「ありがとう!!早速ライブハウスへGO!!」

「あっ、私…」

ひとりちゃんの返事を待たずに強引に手を引っ張る。

すべすべで柔らかく、でも確かに弾力のある指は私の期待を膨らませるのに十分だった。

 

 

 

 

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「______でね、出演するのは私の家のライブハウスで、お姉ちゃんが店長してるんだ!」

「最近オープンしたばっかりで、私もドリンクバイトしてて~」

「見たかんじ高校生だよね!敬語ってことは1年生かな?」

 

 

STARRYに戻る途中、私はひとりちゃんにいろいろな話題を振ってみたけど返事はどれも「あっはい…」と言うばかりだった。

前を歩く私が顔を覗き込もうとしても露骨に避けるし、それどころか私のサイドテールが風になびく度にハァハァと呼吸を荒げている。どうやら相当な変質者に依頼してしまったらしい…

声をかけたことをちょっぴりだけ後悔しつつ、改めてこの女子高生の見た目をしたコミュ障なおじさんを横目でこっそり観察してみる。

 

 

 

ド〇キで売ってそうなピンクのジャージにスカートをはいたファッションはロックンローラーそのものといった具合の尖り方をしていて、なぜか防虫剤のような匂いを放っていた。

腰元あたりまで伸ばしたピンク色の髪はキューティクルが剝がれているのかやや傷んでいる。白すぎる肌からわかるように本人の好みというよりは出不精なせいに違いない。

 

そんな奇抜な見た目にもかかわらず、ひとりちゃんは横からでもわかるくらい綺麗な顔をしていた。

髪で隠れていても存在感のある形の良い目。

すっきりとして目立たない鼻。

桜の花をそのまま置いたようなピンク色の唇。

 

 

 

「もったいない…」

「えっ…」

ほとんどため息のように漏れた言葉にひとりちゃんが反応する。

 

 

「い、いや!ギター弾けるのにバンド活動はしてないみたいだったからさ!なんでなんだろーって」

「あっそういう意味でしたか。ずっと組みたいなとは思ってるんですけどメンバーが集まらなくって」

身をかわすように口から言葉が出る。

ひとりちゃんの話しやすい話題だからか、初めて会話らしい会話を成立できた。

とっさの嘘にしては良い判断だったけど、失礼なこと考えててごめんね…

 

 

「だから普段は売れ線バンドのカバーをネットにあげてるんです」

「へー!ギターヒーローさんみたいだね!ひとりちゃん知ってる?」

「?……!!」

「すっごくギター上手でかっこよくってね、こんな人とバンド組めたら良いなーって思ってるんだー …おーい?ひとりちゃん?」

「な、なんでもないです!もちろん知ってますよ…へへ…」

思い出したかのような顔をしたと思ったら今度は顔が赤くなり、かみしめるように返事するひとりちゃん。

口角が上がりきっていてだらしないことこの上ない…もしかしてギターヒーローさんの大ファンだったのかな?

相変わらず情緒不安定だけど、少しでも仲を深められたのならよかった!

 

 

 

 

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「着いた!ここだよ~」

「やっと帰ってきた。虹夏、勝手に抜け出したから店長怒ってたよ」

「ひいっ 後で謝っとくよ~…」

STARRYに戻ると入り口からリョウが待ちくたびれた顔で出てきた。

 

 

「ひとりちゃん、この子はベースの山田リョウだよ」

「こんにちは。この子が我々の救世主か」

「よっよろしくお願いします…」

ひとりちゃんは表情の出にくいリョウにとまどったのか、おずおずと挨拶している。

 

 

「探す気もなかったくせに調子いいこと言うな。ばかばか…あほ~」 

私の苦労を知らないマイペースすぎるリョウをポカポカと叩く。

走り回ってほんとに大変だったんだぞ~。

 

 

「語彙力なさすぎ。それよりまだ時間あるからスタジオで練習しようよ」

「そうだね、ひとりちゃんもほら!」

「あっはい」

全てが予定通りとはいかなかったが、何はともあれ実力のあるギタリスト(自称)が間に合ったのだ。

ロックバンドとして駆け出しの私たちだけど、今日はそれなりの演奏ができるはず!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だったんだけどね~…

「……ド下手だ」(君は最高のギタリストだ!)

「虹夏。逆、逆」

…はっ!私はひとりちゃんになんてことを!

期待値が高かったせいか、驚きのあまり本音が出てしまった。

 

 

スタジオ入りした私たちはセットリストの曲を合わせていたのだが、ひとりちゃんのギターはお世辞にも上手いと言えるものではなかった。

基礎的な技術はあるようだけど、コミュ障な性格のせいかずっと下を向いて一人で突っ走るような演奏になっている。

 

 

「どっどうも…プランクトン後藤で~す…」

私の言葉はひとりちゃんを食物連鎖の最底辺にしてしまったらしい。

地面を這って部屋の隅に移動し、謎のポーズのままゴミ箱にすっぽり収まって動かなくなった。

出会って1時間もたってないのにこの奇行に慣れ始めてる自分が恐ろしい…

 

 

「ご、ごめんごめん!即席バンドだからしょうがないよ!私も人に言えるほど上手くないし!」

「私は上手いよ、私は」

「リョウは黙ってて!」

 

 

ひとりちゃんへのフォローとそれを面白がってるリョウへのツッコミをいれる。

ドラムはバンドの屋台骨なんて言われるけど、人間関係もそうなのだろうか。

 

 

「ところでライブMCは虹夏がやるの?」

「やったことないんだけど、名前の自己紹介だけでいいかな?」

「それは残念…ダダすべりしてるところ、見たかった」

言い返す代わりに軽く肩パンチする。

リョウはライブMCのアンチなのだ。持論によるとバンドの人気がMCの盛り上がりに直結するらしい。

 

 

「ひとりちゃんの紹介はどうする?本名か、あだ名でもいいよー」

「あっ私家族以外に名前を呼ばれた記憶がないんで…あだ名とかは…」

また変なところで地雷を踏んでしまったようだ。もはや髪の毛すら見えず、声だけが返ってくる。

もうマインスイーパー後藤とかでいいんじゃないかな…と思考放棄していると

 

 

「ひとり…ひとりぼっち…ぼっちちゃんとか?」

「なっっ!」

おそらくこの手のタイプの人が一番気にしてるところをリョウは踏み抜いていった。

いたずらな目で私を見ているが、キラーパスすぎて言葉が出ない。

人によって態度を変えないヤツだとは知ってたけど、恐るべし幼馴染だ。

 

 

「ぼぼぼぼぼ、ぼっちです!」

しかしひとりちゃんはこのあだ名をいたく気に入ったようで、勢いよくゴミ箱ごと倒れながら出てきた。

同じぼっちどうし、リョウとはひかれ合うものがあるのかもしれない。

でも本当にそれでいいのか、後藤ひとり。

 

 

「よ、よし!あだ名も決まったことだし、張り切っていくよ!」

本人が喜んでるみたいなので、ほとんどいじめに近いあだ名を採用する。

ちょっと抵抗あるけど、私もそう呼ばせてもらうね。

さて、もうそろそろ時間だ。何分もしないうちに私たちの出番が来る。

 

 

「…やっぱり大丈夫かな…」

後ろでぼそっとつぶやく声が聞こえる。

ひとりちゃ…ぼっちちゃんはまだ人前に出るのを怖がっているみたいだった。

無理もない、この性格だ。私が強引に連れてきて心の準備ができてないせいでもあるだろう。

考えるよりも早く、言葉が口に出ていた。

 

 

「ぼっちちゃん、下手でも怖くても楽しく弾くことだけ心がけよっ!今日は私たち結束バンドの初ライブだよ、きっと思い出になるから。」

「はっはい…!即席なのに結束、面白いバンド名ですね…」

 

 

せっかく励ましたのに嫌味か!という言葉を飲み込む。

私が考えたバンド名だと思われてるのかな、顔が熱くなる…けど、

 

 

「にっ虹夏ちゃん、頑張りましょうねっ…!」

「! そうだよ、その意気だよ! 頑張るぞー、おー!」

それよりも不意打ちで名前を呼ばれたことで上ずった声が出た。ごまかすように大げさに腕を上げる。

私だっていきなり名前で呼んでたけど、ぼっちちゃんのコミュニケーションは遠すぎたり近すぎたりもする独特な距離感だ。

そのくせ妙にまっすぐなところがあって、油断してたらドキッとさせられる。

…私も緊張してるみたいだな!

 

 

『結束バンドさん そろそろ出番ですよ~』

 

気持ちが落ち着かないまま、ライブスタッフさんから呼び出された。

そうだ。私たちはこれから初ライブで、不安材料ばかりだけどなるようにしかならないんだ。

今はこの3人でできる最高の演奏をしよう!

 

 

 

 

 

「ぼっち、怖いか。なら終わるまでこれを被るんだ。先輩命令だぞ」

「あっ、これ…すごくいいです…!」

 

 

…やっぱりすごく不安だ。

 

 

 

 

 

 

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ライブの疲れが残っていたのか少しだけ頭が重い。

電気を暗くした部屋で、私は天井をぼーっと見つめていた。

 

 

今日の演奏は素人が見てもひどいとわかるものだった。

テンポもずれまくりだし、調味料を入れすぎて味がぼけたお姉ちゃんの料理のような音量バランスだし。

リョウがアドリブでぼっちちゃんに段ボールを被せたせいで、自己紹介もすべりにすべり散らかしたし!   

クラスの友達もいたのに、覚えとけよ!

 

 

…でもぼっちちゃん、か。

今回みたいなハプニングはもうこりごりだけど、なかなか面白い掘り出し物を見つけちゃったな。

コミュ障ですぐ奇行に走るけど時々すっごく女の子っぽい表情を見せる。

流されやすいのか芯が強いのかわからない、なんだか不思議な子。

あのリョウとも上手くやっていけそうだし。

 

私の夢が、ようやく動き出したような気がした。

肝心のギターは…まあこれからなんとかなるよね。

 

 

 

次会ったら、なに話そうかな。

ゴミ箱に入った3人目のバンドメンバーを思い浮かべながら、私は目をつぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




急に冷え込んできましたね~
出かける人はお気をつけて。
筆者はこたつと一体化しました。
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