正門を通って、たづなさんに挨拶をして、スズカさんと、一緒に……
「明後日はチームスピカに移籍して以来の初レースか…… またあの大逃げか?」
「うん」
「そうか、……あぁそうだ、今日の体育は合同だろ?私が組んでやる」
「ありがとう、エアグルーヴ」
……
アイシャドウの入った意志の強い目が、優しい光を帯びている。
エアグルーヴ先輩、スズカさんと仲良しだったんだ。知らなかった。
ちょっと後ろから見えるスズカさんの口元が緩んでいる。なんでだろう、見たことがあるのに、知らないような。
二人とも楽しそう。
……
なんだか周りの音がよく聞こえる。歩く男、楽しげな喋り声、枝葉の擦れる騒めき。周りで私を追い越していく他の人に目移りする。
そして、最後にはスズカさんに戻る。
でも、隣にはエアグルーヴ先輩がいる。
……
……
……
「スペシャルウィーク」
「えっ!?あっはい!!」
ギョッとして顔を上げると、エアグルーヴ先輩の優しい表情が、今度は私に向けられている。
少し駆け寄って歩調を合わせる。
「スズカとの生活はどうだ?」
「そ、それはもう、スズカさんが気を利かせてくれて……」
「そうか」
二、三こと言葉を交わしたら、もう正面玄関の中の下駄箱置き場。どやどやと押し寄せる人たちでごった返して、当然のように騒々しい。
もう、ここで一旦お別れ。
「スペちゃん、また後でね」
そう、笑顔で言って、スズカさんはエアグルーヴ先輩と一緒に、人の波の中に紛れていく。
私もまた、人の流れに押されて、スズカさん達とは別の流れに乗る。
でも、私の心にこびりついた違和感は、この程度では流れ落ちる気配が無い。
こんなの私の勝手なのは百も承知なのに、だめだ。
嫉妬してるんだ、エアグルーヴ先輩に。
せっかく二人で楽しくおしゃべりしようとしたのに。
……
悶々とする。もし、私が教室で一番後ろの席じゃなかったら、後ろの席の人に何回怒られただろう。
お母ちゃんと一緒に見ていた青春学園物ドラマの、主人公に声をかけられないけど傍から見ている女子学生が今の私。
でもスズカさんだって、私と一緒に登校しようって言ってくれたのに。
……
違う、スズカさんは私に気を遣ってくれていた。むしろ、最近、知り合ったばかりなのに、私がそこに寄りかかりすぎているんじゃないか。
友達のエアグルーヴ先輩と話すことになんの悪いことがあるのか。
やっぱりただの嫉妬じゃないか。
「これは東北地方の海岸でよく見られる地形で____」
いろんな雑音が入ってくる。今日は集中できる気分じゃない。芋づる式に気分が落ち込む。
だって、こんなの初めてだから。すごく小さなことなのに妙に目移りする。雲の多い青空がくすんで見える。
昼休みになっても、頭の片隅に残るしこりが気になって仕方ない。
「スペちゃん、なんだか張り詰めた顔してるね。ご飯もいつもより少ない」
ふと、いつものみんなと、カフェテリアの一角でご飯を食べていたら、セイちゃんが鋭く切り出してきた。思わず私は口角を上げる。
でも、他のみんなを見渡すと、きらりと目を光らせてる気がする。
「悩み事デスカッ!!」
「相談ならいくらでも乗りますよ〜」
「ケッ!?」
机に乗り出したエルちゃんに、お淑やかにエルちゃんの脇腹を突くグラスちゃん。みんな、言えば何か答えてくれるんだろう。
でも、これは口に出すほどの問題じゃない。
「大丈夫!なんでもないことだから」
「……ま、ほっとけば、案外気にならなくなるものかもねぇ」
セイちゃんの言葉には、不思議な重みを感じる。
「えー、特に連絡事項はありません。じゃ、もう放課後にしてどうぞ」
担任の先生のキリキリした声の後、少し教室がざわっとする。
あっという間に一日が過ぎて、もう太陽が若干傾いている。ガタガタ椅子を引く音が重なって、他の子たちが耳をピンと立てて、各々教室から出て行く。
私もそれに倣って、鞄を手にスピカの部室へ向かう。
練習すれば、こんな雑念も忘れられる。
キングちゃんとウララちゃんに見送られて、教室の戸を引く。
「っ! スペシャルウィーク、少しいいか」
その瞬間、朝に聞いた声がした。
正直スペちゃんの抱く感情は嫉妬とも違う気がすんだ
これってなんなんだろうね