カズサにとって一番大切なものって何でしょう?

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カズサとデザートを食べに行く話

杏山カズサはトリニティ総合学園の学生だ。

インナーカラーをピンクにした煌めくような黒髪は、クールな顔立ちをさらに魅力的にしている。しかし、同色の大きめの猫耳は、彼女の愛らしさと可愛さも際立たせている。

彼女はこの学園で放課後スイーツ部に所属しており、この部では文字通り放課後にスイーツを食べることを活動内容にしている。

部員の伊原木ヨシミ、栗村アイリ、柚鳥ナツの三人とともに、毎日のように町へ繰り出しては他種雑多なスイーツを楽しむのがカズサの日常だった。

 

カズサは人探しをしている。

といっても、放課後スイーツ部の誰かではない。

最近このキヴォトスにやってきた、先生を探している。

先生とは連邦捜査部シャーレの担当顧問のことで、このトリニティ総合学園含めさまざまな場所へと視察に来ている。

カズサがキョロキョロと学園内を見渡しながら廊下を歩いていると、他の学園生たちに囲まれている例の人物を目で捉えた。

 一瞬だけ眉をひそめると、先生の背後へと近づいていく。

 「先生」

 談笑中、後ろから急に話しかけられた先生は、目を丸くして振り向く。

 そこには不満げな態度でこちらを直視する仏頂面があった。

 「今日、デザート食べに行こ」

 カズサは表情を一切変えない。

 オッケー、と先生は半ば引きつった顔でカズサからの誘いを受け入れた。

 「ん、じゃあいつもの大階段で待ってる」

 そう言うと、踵を返してすぐにどこかへと立ち去って行った。

 他の学園生は、突然やってきてはさっさとどこかへ行ってしまった嵐のような存在に、全員が面を食らう。

 先生はカズサの背中を数舜見つめていた。

しかし、ハッと何かに気づいたようにして元に戻り、生徒に向き合った。

そして一言二言話した後、ごめん、と断りを入れてカズサが待っている場所へと向かいだした。

 

 「あ、カズサちゃん!」

 「アイリ」

 来た道を戻り、階段を下っていたカズサは、その道中で例の部活メンバーと遭遇した。

 「なかなか部室に来ないから探してたんだよ~」

 「ごめん、ちょっと寄り道」

 「カズサ、何か不機嫌じゃない?」

 「別に」

 アイリとヨシミに対して、手短な返答をするカズサ。

 「そだ、私たち今からケーキバイキングに行くんだけど、行こ」

 するとナツからのスイーツ食べ放題のお誘いがやってきた。

 「ごめん、今日は先生とデ…スイーツ食べに行くから」

 「ほほう、デートね」

 「ちがっ…そんなんじゃないし」

 「今言いかけてたじゃない」

 カズサの言葉にナツとヨシミが反応する。

 「じゃあ、カズサちゃんは今日の部活に来れないってことですね」

 「うん、いつか一緒に行くから」

 アイリが残念そうに目線を下にやる。

 「せっかく美味しそうなチョコミントケーキを見つけたのに…」

 「アイリのチョコミント好きはいつも通りね」

 カズサがアイリに対してツッコむ。

 そうこうしているうちに、後ろからカズサを呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ってみると、何十段もある大階段を焦った様子で降りてくる先生の姿が目に入った。

 先生は何とかして下り終え、息を切らしてついにたどり着いた。

 「じゃ、そういうことだから」

 三人にそう一言言うと、カズサは背を向けて街の方へと進み出した。

 じゃあね、と先生も続き、カズサの横に並ぶとお目当てのお店に向かって歩き出した。

 そして、カズサは猫耳を斜め後ろに倒し、他愛もない話をし始めたのであった。

 

 カズサと先生が出立した後、残された放課後スイーツ部の部員は、話し合っていた。

 「何を食べに行くつもりなんだろう?」

 「私たちを置いてまで行きたい店はなんじゃー!」

 もちろん、カズサと先生についてである。

 アイリもヨシミも、それぞれ気になることを口に出している。

 「二人の関係性…うん、トクベツだねぇ」

 ナツもどこか悟った感じである。

 「でも、ホントにどこへ行くんだろ」

 「それよ!」

 「あとを追っかければいいんだよ」

 アイリに対してのナツの回答は至極単純なものだった。

 思わずアイリもヨシミも顔を見合わせた。

 「そんなことして、バレちゃったらどうするのよ」

 「バレなければ問題な~し」

 ヨシミへの回答もまた、シンプルである。

 「尾行かいし~」

 ナツがそう言うと、物陰に隠れながらカズサと先生の後をつけ始めた。

 こうして、ナツの勢いに押され、ストーキングすることが決まった。

 

 一定のペースでお互いに合わして二人は歩いている。

 部活に行かなくて良かったの、と先生は気になっていたことを聞く。

 「まぁ今は先生との時間が大切だし」

 カズサが微笑と共に答える。

 恥ずかしげもなくストレートに気持ちを伝えてくる様子に、先生の心がざわつく。

 言葉に詰まっている姿を見て、カズサは先生の言葉を嬉しそうに待っている。

 俺も、と先生が口を開きだす。

「先生」

突如、カズサが話を遮った。

「まずは、スイーツを食べにいこっか」

一瞬の間が生まれる。

先生は、話を止められたことへの戸惑いとともにカズサの発言の意味を理解しようとしている。

 やがて、わかった、と先生は残念そうに少し眉を下げて返事をした。

 「安心して。デザートはその後」

 あからさまにテンションが下がる先生。

その様子を確認すると、カズサは安心させるようにニコッと笑みを浮かべた。

 

「ちょっと、アイリ!そんなに体を出しちゃばれちゃうわよ!」

 「えー、でも見えにくいよ」

 咄嗟に、ヨシミがアイリを物陰の方に引っ張る。

 「というか、スイーツの後にデザートって、はしごするつもりなの…」

 「おなかもお財布もすごいことになっちゃうね」

 「べつばら…」

 一方で、陰からこっそり話を聞いていた三人の放課後スイーツ部員たちは、二人の食い意地と懐事情に驚嘆していた。

 「…まぁでもバレてなさそうだよ~」

 ナツが物陰から片目だけ出すと、特段こちらを疑うわけでもなく、相変わらず歩きながら談笑している二人の姿を確認した。

 「バレてないなら良かったわ…」

 「それに、ほら、あそこのお店に入るみたい」

 ナツの指さした先には、風情のある洋菓子店があった。

その洋菓子店は、アンティーク調のインテリアで統一されており、いかにもお洒落かつ豪勢な様子である。店の横にはカフェがあり、そこで注文して食べることができるようだ。

 カズサと先生はそこへ入店し、カフェのテーブルに座ってメニューに目を通し始めた。

 「できるだけ顔を隠して行こう」

 ナツの指示で、近くのコンビニで急いでマスクや帽子を購入した。三人はそれらを着けると、できるだけ自然体になるようにして入店した。

 

 「うん、良い雰囲気だね~」

 二人から少し離れた場所に陣取った。

 ナツがそう言うように、カズサの笑顔が普段よりも多く、とても輝いて見える。先生の方も、楽しそうに話をしていた。

 「ここ限定のタルト、すっごい美味しい!」

 「チョコミントが無くて残念です…」

 ヨシミとアイリは、放課後スイーツ部の活動に専念しているようだ。

 「失礼いたします」

 二人を監視しつつもスイーツを堪能していると、店員から声がかかった。

 急な来訪に、三人は目をまん丸にした。

 「こちら、クッキーの詰め合わせでございます」

 「ええと、あの、すいません、私たちこれ頼んでないんですけど…」

 ヨシミがすかさず聞き返す。

 「とある方からのプレゼントです」

 「それって誰からですか?」

 「申し訳ございません。誰かは決して言わないように、と言われたもので…」

 アイリも質問するが、店員は困った顔のまま詳細を語らない。

 「とにかく、プレゼント、ということを伝えてほしいという要望でございます」

 そう伝えると、店員は接客に戻っていった。

 「やっぱりバレちゃってた?」

 カズサに見られていたのか、とヨシミが周囲を伺う。

 「でもなんでプレゼントを?」

 アイリは疑問が大きい。

 仮にカズサからだとすれば、なぜ名乗らないのかがわからない。また、カズサでないとすれば、それはもっと不可思議だ。

 「…んー、もう帰ろっか~」

 黙ってクッキーと睨めっこをしていたかと思うと、ナツは突如気だるげに帰宅を促した。

 「ナツちゃん、どうしたの?」

 「ナツが一番やる気あったじゃない」

 アイリとヨシミが、急にやる気を無くした様子のナツに詰め寄った。

 ナツは少し寂しげな顔をして答えた。

 「ねぇ、クッキーの意味って知ってる?」

 

 「よし、これでついてこなくなったね」

 カズサの言うように、後ろからにいたストーカー三人衆は付きまとうことを止めたようだ。

 何をしたの、と先生は不思議そうに言った。

 「ちょっと、プレゼントをね」

 カズサはどこか含みのある顔で答える。

 「それよりさ、デザートだよ、先生」

 カズサは体を斜めにすると、先生の方をのぞき込んだ。

 先生はその言葉に対して思わず生唾を飲み込んだ。

 「お預けするようなことしてごめんなさい」

 カズサは再び先生の横に並んで歩き出すと、ペコッ、と軽く頭を下げた。

 「じゃ、変装して」

 そういうと、カズサは慣れた手つきでサングラス、マスク、ニット帽といった小物を取り出して先生に渡した。

 うん、と先生もそれらを受け取り、使い慣れているように着けた。

 「あ、先にドラッグストアに寄ろう」

 

 買い物を済ませて数分歩くと、明かりが燦然と輝く小路へと出た。

 左右どちらを向いても、ネオンの看板が発する光に眩暈がするほどだ。

 「着いた」

 二人はとある建物の玄関の前で歩みを止めた。その建造物はライトアップされており、時々どこかしらから男女の嬌声が聞こえてくる。

 「今からは、デザートの時間だよ」

 カズサが耳元で囁く。

変装越しでも、カズサが妖艶にこちらを見ていると容易に想像できた。

二人の手の甲同士が触れる。

 そして、どちらからともなくお互いの手を絡めあわせた。

 「うん。やっぱこれが一番いい」

 


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