「何処だ、ここは」
彼は古代にネーデルラントの王子として生まれた。彼は輪廻転生の中で過去に流れた魂に過ぎなかった。
「……転生とは違うようだな」
聖杯からのバックアップも無く、霊体化することも叶わない。彼、ジークフリートはかつてルーマニアにて行われた聖杯大戦に参加していた。
一人のホムンクルスの少年を救う為に自身の心臓を与え、仮初めの生を全うした筈なのだ。
しかし、現在まるで生きているかのように血が巡り、心臓が鼓動を繰り返している。
「何処なんだ……ここは」
段々と自身の鼓動が早くなるのをジークフリートは感じていた。
「これは……」
「助けて……誰か」
「嫌だ!死にたくない!」
人間の筈、だが虐殺している彼等から感じる気配は魔そのものだった。
「死ね!」
魔が子供に自身の腕を振り下ろす、死ぬだろう。だが、英雄がその場にいた。弱者を見捨てられない、正義の味方がそこにいたのだ。
「大丈夫か」
「え……」
その肉体は邪竜の血にて、呪われた肉体。
悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファブニール)
それを貫く事は魔の者達には不可能だった。
「…貴様……何者だ!」
「俺は……ネーデルラントの王子!ジークフリート!!お前達を倒す男だ!」
ジークフリートは剣を構える。その真名を開放し、魔の者達を一人残らず塵へと返した。
「『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!」
その一撃はかつて彼が邪竜を屠った一撃に等しい。大英雄とよべる一人の男の一撃だった。
「……ジークフリート?ニーベルンゲンの歌の」
「……さらばだ」
「待ってください!せめて、旅の御方、簡単な物しか渡せませんが、どうかお食べ下さい」
村人達はジークフリートがまともな荷物を持っていない事を見抜いていた。簡単なキャンプキットと、食料、旅費を渡されたジークフリートは一言「すまない」としか言えなかった。
ここまで彼を支援してくれた村人達、ジークフリートはただただ謝るだけだった。
「…ここはドイツ、私達は貴方様の事をよく知っています。ジークフリート様、我々を救って頂いた事。けして忘れません」
ジークフリートは純粋な感謝を受けたのは何時ぶりかと考える。しかし、それでも暖かった。
「ふむ、テントはこうして建てるのか」
地図と貰ったコンパスを眺めながら、ジークフリートは生前を思い出した。彼はただの人形だと、ジークフリートが人に慣れたのはかの聖女、英雄、そしてホムンクルスが居たからだと。
「うぅ…お腹が……空いたよ」
「クァァ」
「ごめんってヒポグリフ……うぅ……」
「……クァ!クァァ!!」
「もう、ヒポグリフ……一体どう……し?」
「……ライダーか?大丈夫か」
「ジークフリート?!どうして居るのさ!まさか、聖杯戦争だって言うの?!やだよ殺し合いなんて!」
ジークフリートは頭を抱えながらも、ライダーアストルフォを自身のテントへと連れてきた。
「食べるといい」
「え?良いの!!」
「食べながらでいい、聞いて欲しい」
ジークフリートは自分の持っている情報、そして予測を細やかにアストルフォに伝えた。
「確かに……聖杯からのバックアップも無いし、マスターも居ないし……」
「そうだ、今俺達は生きている。理由は判らないが……ライダー」
「うん、ジークフリート。僕の事はアストルフォだよ!」
「…わかった。アストルフォ、ヒポグリフに乗ることはできるか」
「うん、大丈夫だよ。それで……」
翌朝、ジークフリートはドイツのベルリンに居た。キャンプキットをアストルフォと分けて持ち、街を歩いている。
「それで、お金はどうするのさ。僕達、ちょっとの資金はあるけど」
「安心してくれ」
ジークフリートはアストルフォを連れてスクラッチを行うと
「なんで簡単に1等当たるのさ」
「すまない、俺のスキルの力だ」
貪欲なる黄金、そのスキルによりジークフリートは基本的に資金難には陥らないが、かわりにステータスの幸運は最低値となっている。
「う~ん、換金したけどこれじゃあ盗まれるだけだよ」
「……そうか」
「ねぇ、ジークフリート?君、落ち着いてね。色々とさ、大丈夫だよね?」
「……大丈夫だ、多分」
「君ってそんなやつだったっけ?!」
結論から言えばジークフリートは問題なかったとは言えない。だが、何故か自身の身分証をいとも簡単に発行できたのだ。
「う~ん、作為的な物を感じる」
「……俺もだ、アストルフォ。他の仲間達は見ていないか?」
「う~ん、僕も目覚めたときからヒポグリフだけだったし、他の皆は見てないよ」
「そうか」
「どうか、日本に連れて行ってもらえませんか」
ドイツ語でヒッチハイクを行う修道女、年齢は14か15ほどだとジークフリートは予想した。
「…そういえば、ジークフリートはルーラーを助けに行ったんだよね」
「あぁ、そこで俺は赤のランサーと対峙した」
似ていると感じたのか、ジークフリートの行動にアストルフォも何も言わなかった。
「…日本で良いのか?」
「え?あの、貴方は」
「僕はアストルフォ!こっちはヒポグリフ!」
「俺は…ジークフリートだ」
「まぁ、シャルルマーニュ十二勇士に伝説の龍殺し様ですね!素晴らしい御方から名前を頂いたのですね」
(これ、本人って言ったら驚いてくれるかな?)
(アストルフォ、止めておけ)
悪戯に笑うアストルフォをジークフリートは諫める。
「俺達も旅をしている最中だ、日本か。良いかもしれないな」
「それじゃあ!行こうか!」
「え!」
「旅は道連れ、世は情け!日本ではこういうらしいよ!」
「そうなのか、そうだ。名前を聞いていなかったな」
「アーシア・アルジェントです!アストルフォさん!ジークフリートさん!よろしくお願いします!!」
こうして、サーヴァントと人間の日本への旅路が始まった。