現代に召喚されたのにマスターがいない   作:影後

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墜ちた聖騎士への祝福|ギリシャから来たるもの

「…くそ……ガッ………」

 

フリード・セルゼンはその肉体を何とか動かしていた。

 

(何とか……この街からでないと)

 

過去の亡霊の追跡すら振り切り、闇に紛れた彼は死に行くファブニールを見た。

 

「……結局、俺は紛い物かよ」

 

フリードはシグルド機関という研究機関により産み出された試験管ベビーである。

自分の出生を理解し、全てに呪った。

だが、悪魔を殺せば褒められた。

人間として扱われた、だが……彼は強すぎた。

彼と共に悪魔狩りを行った部隊が全滅したのだ。

一重に実力不足だ、だが……彼等の家族はそれを受け入れなかった。

 

「人殺し!」「仲間を見捨てたクズ!」

 

その言葉は次第に教会を呑み込み、フリードは塵のように棄てられた。

 

(糞ったれな人生だったぜ)

 

最後には親友達にも裏切られ、狂ってしまった。

死ぬ間際には自分が犯してきた事が走馬灯の様に蘇る。

 

「…縁切って何処かの田舎で過ごせば違ったのかもな」

 

眼の前で運命を変えた存在である木場と言った男は聖剣計画という馬鹿げた実験の被害者だ。

俺と似ていたとフリードは考えた、同じ場所まで落とそうと考えた。

だが……木場には仲間がいた。

自分には居なかった、だがもう憎いとすら感じない。どうでも良かった。

 

「……お兄ちゃん、大丈夫?」

 

震える声で5、6歳程度の少女が話す。

フリードも子供に対する情を失ってはいない。

何も知らない子供を何も考えず殺せるほど、彼の血に、遺伝子に刻み込まれた意思は狂う事を良しとしない。

 

「大丈夫だ、それよりもさっさとパパとママの所に帰りな」

 

「……駄目なの……パパとママね、起きないの。誰も、誰も居ないの。皆……皆おかしな人に……」

 

フリードはどうでも良かった。

見ず知らずの子供の相手なんてする気はなかった。

 

「……見せてみろ」

 

フリードは腐っても神父であった。

巡回神父として、医師の居ない村に診療に赴く事もあった。何時の時代と言えるかもしれないが、未だに巡回神父の診療というのが必要な地域は存在したのだ。最低限だが、医学の知識もあるフリードは少女に手を引かれ家に入った。

 

「いやぁぁぁぁぁ」

 

それは悲鳴だった、少女は「お姉ちゃん!」と叫ぶと走り出す。

 

「綾!来ないで!来ちゃだめ!」

 

「ひっ…」

 

それは2体のゾンビだった、女性は今にも襲われそうである。

 

「……安らかに眠れ」

 

フリードは懐のホルスターから拳銃を取り出すとゾンビの頭を撃ち抜いた。

 

「……大丈夫かよ」

 

「あの……ありがとうございます」

 

「良かったな、生きてて」

 

「…パパ?ママ?」

 

「綾だめ!」

 

必死にパパ!ママ!と叫ぶ少女を見てフリードは理解した。目の前の2体のゾンビが何者なのか。

 

(……俺達の蒔いた種だ)

 

フリードはかつて神父だった頃に教わった弔いを行うと遺体を寝かせる。

 

「……」

 

(俺のせいだ)

 

かつてから悪魔の匂いがする人間は殺してきた。

だが……目の前の一家はどうだ、悪魔の匂いもせず、ただ普通の日常を暮していたに過ぎないのに。

 

「………」

 

「教えて下さい、何でお母さんとお父さんがこんな事になったんですか。何故!」

 

「この世界の裏だ、この世界には人智の及ばない存在がいる」(俺のせいだ)

「俺の名前はシグルド。シグルド・フリードセル。隠退予定のデビルハンターだ」

(せめて、守ってやる。この二人ぐらい)

 

この日、フリード・セルゼンは死に。

シグルド・フリードセルが生まれたのだ。

 

 

 

翌日からシグルドは忙しかった。

自身の身分証の偽造から二人の両親の弔いまで一人で疾走したのだ。

今どきあり得ない事に駆落ちという理由から親戚づきあいはなく、二人共祖父母は知らないという。シグルドは両親の友人という事にし、二人の代わりに葬儀を最後まで執り行った。

身内だけの葬儀だ。シグルドはすすり泣く二人を最後まで見守った。

 

「……誓おう、二人を最後まで守り抜くと。狂うのはもう止めだ。俺はシグルド。借りるぞ、英雄」

 

自分の元になった存在から名を借りる、それは自分の誓なのだ。

 

「シグルドさん、ありがとうございます」

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

 

喪服から着替え終えた二人にシグルドは切り出した。

 

「……なぁ、見ず知らずの男の庇護下になるつもりはないか?」

 

「…シグルドさん?」

 

「いや……無理なら良いんだ」

 

当たり前だ、見ず知らずの男。

しかもシグルドは成人男性である。

それが高校生位の子供に……

 

「……シグルドさん、私強くなりたい。シグルドさんみたいに。誰かを助けられる〘正義の味方〙に」

 

その言葉はシグルドをえぐった。

シグルドのせいなのだ、シグルドが起こした事件なのだ。

 

「だから…お願いします!私を強くしてください!皆を助けられる〘正義の味方〙になるために!!」

 

シグルドは止められなかった、その目で見られると自分があさましく感じてしまう。

 

「……綾はソレでも大丈夫か?」

 

「お兄ちゃんがパパになるの?」

 

「…そう、なるか」

 

「……うん………わかった」

 

少女には酷だろう、涙を流しながらも頷く。

フリードは二人を抱き締めた。

 

「すまない……俺が守る、お前たちを……えの二人の変わりに」

 

「……お兄ちゃん、優しい匂い」

 

「シグルドさん……」

 

シグルドは涙を流しながら二人の父親となったのだ。

 

―――――

「ふぅ……飛行機というのはなれません」

 

「そうか?空の旅って良いじゃねぇか。俺達の時代には無かったろう?まぁ、俺と先生はその飛行機のしかも空の上で殴り合ったけどな!」

 

「……お前たちは馬鹿なのか」

 

アタランテはそんな雑談をする大英雄とその教師に呆れつつ、荷物を引いて空港を歩いていた。

 

「っと」

 

「ごめんなさい」

 

アタランテに少女がぶつかる。どうやら遊んでいたようだ。

 

「気をつけるんだぞ!」

 

「は~い!」

 

少女はアタランテに謝ると両親の下に戻る。

それを微笑みながら眺めた。

 

「アタランテ、我等も」

 

「あぁ…そうだな。ケイローン」

 

「おっ…車が沢山」

 

「駄目です、アキレウス。宝具を」

 

「え?先生??」

 

「…そういえば貴男の宝具は飛べたでしょう。私達を乗せたまま目的地まで行きます」

 

「え?先生、何かゴリ押す気じゃない?え?」

 

キャラじゃない言葉にアキレウスが呆れうす。

 

「寒いぞ」

 

「どうしたんだよ、姐さん」

 

「いや、何故か寒気がな。だが……今の我々には予算は必要な物だ。私はケイローンの案に賛成だ」

 

「良いぜ!なら最速の英雄の宝具!見せてやるよ!」

 

アキレウスは笑いながら戦車をだし、二人を乗せた状態で駒王町に向かった。

 

そして運命が交差したのだ。

 

シグルドは髪型、髪色、そしてイメージすら変えた。神父服を捨て去り伊達眼鏡をかけ黒いジャケットとジーンズを履き、赤いストールを巻いている。綾の姉であり、シグルドの家族である茜のコーディネートであり赤いストール曰く

「赤はヒーローの色だから」

とのこと。

 

「さて、良い仕事は……」

 

フリードはデビルハンター改めバウンティー・ハンターとして生活して1週間。何故か駒王町には勢力問わず賞金組が多く滞在しており、捕まえたり始末したりしながら生活費を稼いでいた。

 

「俺が言えた義理じゃねぇが……犯罪者いすぎだろ。まじで何してんだよ、グレモリー」

 

「こっ……殺さないで」

 

「はぁ……」

 

シグルドが怯える悪魔に銃口を向けていると急に矢が飛んできた。

 

「くそったれ!」

 

シグルドは持っていた剣でそれを弾こうとするが、逆に剣が折れてしまった。

 

「なんのマネだ!」

 

「それは此方の台詞だ、何故子供を殺す」

 

「子供?何を馬鹿なことを!!」

 

「子供を殺す貴様が!」

 

シグルドは弾丸を放つが目の前の女には効かなかった。それどころか、身体能力が違いすぎる。

 

「アタランテ、待ちなさい!」

 

シグルドの目に矢が突き立てられようとした瞬間、目の前の女は止まった。

 

「何故止めた!ケイローン!」

 

「話を聞きましょう、それからでも遅くはない」

 

シグルドは安堵した、

 

「アキレウス、縛りなさい」

 

だが、すぐに頭を痛めることとなる。

 

「…つまりはな、ここに居たのは悪魔なんだよ!民間人を30人!しかも子供ばかり殺してきたな!俺はバウンティー・ハンターとしてソイツを狩りに来ただけだ!」

 

「証拠はあるのか!」

 

「……姐さん、ソイツの言葉。多分正しいぜ」

 

「アキレウス?」

 

アタランテはアキレウスに促され押し入れの中を見ると人間の子供の死体があった。

しかも、どれも喰いかけである。

 

「……どうやら本当のようですね、外しますが暴れない様に」

 

シグルドは縄を解いて貰った事に感謝する。

 

「はぁ…ケイローンね?人馬だよなアンタ。それに…神速の英雄アキレウス、それに…伝説のアルゴノーツのメンバーアタランテかよ。あんた等…何もんだ」

 

「お前が詳しく知る必要はない」

 

「そうかよ」

 

シグルドが呆れていると電話がなる。

家族からの電話である、シグルドは躊躇わずに出る。

 

「お兄…ちゃん」

 

それは綾の声であるが、弱々しい物だ。

 

「へへっ…キヒヒヒ……灰色の賞金稼ぎの家族がこんな近くに居たなんてな」

 

「てめぇ……」

 

「良かったぜ、俺もお前のことは調べてたんだよ。でも…お前の拠点だけは掴めなくてな……まさか………家族が居るなんてなぁ………」

 

「てめぇ………」

 

シグルドは携帯電話にヒビが入るかの如く握りしめた。

 

「今夜12時だ、甚振って食ってやるよ……場所はお前のことだ、バイザーの姉御は知ってんだろ?ケケっ……良いか?今夜12時だ」

 

シグルドは血の気が引いた。逃したからだ、迷わず撃ち殺せばこんなことにはならなかったと。

 

「……おい、今の電話は」

 

「アンタらは邪魔すんなよ。おたくらの出る幕じゃねぇ!!」

 

「待て!あの子供の声」

 

「…娘さ、今度邪魔したらアンタ等を殺す」

 

シグルドはその場から駆け出した。

贖罪のために。

 

 

 

 

 

 

「……私のせいだな」

 

「いえ……それは」

 

「…あの青年は父親なのだろう。アキレウス、ケイローン」

 

「…えぇ」

 

「何とかしてみる、作戦は?」

 

「アキレウス、我々のクラスをお忘れか?」

 

「そうだったな、一番いい場所探してみるわ」

 

 

 

英雄と元狂人の運命はこうして噛み合った。

 

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