それは墜ちた教会の戦士であった。
だが……いま彼は自分の正義を再び取り戻す。
「……くそったれがぁ!!!!」
シグルドは人通りのないトンネルの中で拳を壁に打ち付ける。
「……邪魔さえ…ちげぇ……俺がさっさと殺せば、昔みたいに甚振らず一撃で仕留めればこんなことにはならなかったんだ!」
それは捨て切れない狂人としての生き方、それを続けてしまった為にフリードは壊れて行った。
「フリード・セルゼンは死んだんだ!そうだ、俺はシグルド・フリードセルだ」
シグルドはセーフハウスの一つに向かう。
昔から裏で生きるに当たりセーフハウスを作ってきた彼だ。ここには多数の武器がある。
「……今更だ。派手にやってやる」
光剣も聖なる力を宿した銃もいらない。
シグルドは銃火器をバッグに詰め込む。
「悪魔共も血は出る……なら、殺せるはずだ」
意味を成すかは判らないがシグルドは十字架を聖銀のナイフで掘る。
「……少しは役立てよな」
聖剣もなく、あるのは人間の破壊の叡智。
クレイモア、M4アサルトライフル、M82バレット。
他にも多数の武器をシグルドはジープに詰め込んだ。
そして、よる23時。シグルドはかつてバイザーと呼ばれたはぐれ悪魔が拠点にしていた廃墟に居た。生々しい惨劇の爪痕は未だに残り、シグルドに嫌悪感を見せる。
「……くそ、ライトがねぇな」
シグルドは遺伝子を弄られても人間だ。
暗闇では光が必要なのだ。
だが、ソレでもM4ライフルを構え廃墟を進む。
当たりは不自然に静寂が支配している。
濃厚な悪魔の匂いが充満し、鼻が曲がりそうだ。
「綾か!!」
シグルドは構えていたM4ライフルを背中に寄せ、綾の首に手を当てる。
脈があることに安堵するがその目はすぐに狩人の物へと変わった。
「クソ野郎」
M4ライフルを構え綾の頭を破壊する。
「ケケっ……同胞が一人死んじまったぜたく」
「てめぇ等…」
シグルドは綾から成人女性程に変わった遺体を見る。そして確信した、殺せると。
別に特殊な物はいらない、人間の力だけで悪魔は殺せると。
「ケケケッ……これ以上てめぇ見たいなデビルハンターに居られちゃ困んだよ!お前ら!!!」
はぐれ悪魔がそう叫ぶと縛られた綾が連れてこられた。
「お兄ちゃん!!」
「綾!!!」
はぐれ悪魔は綾を抱き寄せる。
「美味そうだよな……実に旨そうだ、俺達は人間の……子供の肉が大好きなんだよ」
「てめぇ等!!!!」
シグルドは動けない、動けば何をされるか判らない。
「今からてめぇの足と腕を斬り落とす」
「そして…お前の醜い顔を見ながらこのガキを犯して……喰ってやるよ」
「早くしろ」「遅えぞ!」
何人居るかも判らない、だが……シグルドはM4ライフルを構えた。
「へぇ…そんなので何が出来るんだよ」
「さぁ…だが……てめぇらは許さねぇ」
シグルドの四股を狙うように魔力による斬撃が迫る。シグルドは引き金に指をかけ、
「おっとぉ……?悪魔ってのは下衆だな」
「えぇ…しかし…」
「私達を怒らせた」
アキレウスはいつの間にか綾を奪っていた。
それはシグルドすら見ることができなかった。
「きっ…貴様等!何者だ!!」
「人類最速の大英雄!アキレウス」
「サーヴァントアーチャー、ケイローン。アキレウスの師をしていました」
「貴様等下衆を殺すのだ、名を教える必要はない」
3人の英雄にシグルドは言葉を無くすが、すぐに1体のはぐれ悪魔に引き金を引いた。
「お前ら……生きて帰れると思うなよ」
「殺せ!!コイツラを…殺せぇぇぇぇ!!!」
それは大軍だった、市街地で1体何処に隠れていたのか。濃密な悪魔の匂いにシグルドはむせる。
「なぁ、アタランテだったよな」
「なんだ」
「綾を頼む。それに…お二人さんもだ。俺の仕事だ、邪魔するな。俺よりも綾を……ったく。綾、目を瞑れ。ここからは先はR指定だ」
シグルドは手榴弾のピンを引くと迫る悪魔に投げた。そしてM4ライフルで一寸違わず撃ち抜く。
空中で破裂した手榴弾は破片をばら撒き、数多の悪魔の肉体を破壊した。
「ライフルじゃぁ…小周り効かないな!」
シグルドはライフルから二丁の45口径に持ち帰ると弾が尽きるまで悪魔達を撃ち続ける。
「っと…次はこれだ」
MP5、本来両手にサブマシンガンを持てば反動でまともに当たらない。しかし、シグルドは鍛え上げられた肉体がそれを可能とする。
「イヤッホー!!」
喰らいつこうとする悪魔の胴体を蹴り飛ばし、弾が切れたMP5を鈍器として振るう。
光剣も無い、今あるのはその身一つと数多の銃火器。
「こんなのはどうだい?」
シグルドは瞬時に持っていた手榴弾を残り一つになるまで投げる。そしてニヤリと笑うと最後の手榴弾のピンを抜いて投げた。
「隠れないとなぁ!」
連鎖爆発、あたり一面が火の海となる。
焼夷手榴弾も紛れていたのだろう、当たりに火が飛び散り火災が起こる。
「……やりすぎたか?」
「貴様ァァァ」
シグルドに迫る最後の悪魔、シグルドは懐から拳銃を取り出そうとするが何処にも無い。
「やべ」
取り敢えず蹴り飛ばし、どうにか考える。
武器はついに己の身一つになってしまった。
外に出れば武器はあるが出られるかは賭けになる。
「……なら、その身一つでやってやるまでだ」
シグルドは拳を構えると逃げるのではなく悪魔に迫った。
「何処だァァァ人間ンンン」
「トァア!」
怒りに我を忘れている悪魔に上空からシグルドのキックが炸裂する。
「グォぉ…貴様がァァァ」
「どうすっかなぁ……」
悪魔の攻撃は単調なものである、魔力を使うことすら忘れ肉弾戦だ。
当たればシグルドも不味いが、当たらなければどうという事はない。
「……」
シグルドが当たりを見る、既に火の手が回っている。行は暗くて分からなかったが、鉄パイプの存在を確認したのだ。
「来いよ…悪魔!俺を殺したいんだろ!かかってこい!」
「野郎…ぶっ殺してやあ」
悪魔は怒りに任せて走り出す、しかし…シグルドはそれを簡単に回避すると落ちていた鉄パイプを拾う。
「バイバイ!デビル!」
シグルドは悪魔の肉体に鉄パイプを突き立てると、そのまま火の中に吹き飛ばした。
「殺す前に……俺はシグルド、あばよ」
「熱い…熱い……熱いィィ!殺してやるぞ!殺してやるぞ!!!シグルドォォォォ」
爆炎の中に消えた悪魔を振り返る事もせず、シグルドは廃墟から歩き出した。
「アッ!お兄ちゃん!!」
「よっと!元気だな!綾!!」
シグルドは微笑みながら綾を自分の肩に乗せる。
「感謝する、まさか………本物の英雄だとはな。まさか………まだ居たのか」
シグルドは敢えて聞こえるように言う。
「ほぉ、何か知っているので?」
「ジークフリート、ジャンヌ・ダルク、アストルフォ、ヴラド3世、ジャック・ザ・リッパー、フランケンシュタイン」
「…何故か聞き覚えのある名前ばかりです」
「この街で生きてる物本の英雄様だ。何処に住んでるかは知らんがな」
「感謝する、私達はそいつ等と」
「お姉ちゃん…いっちゃうの?」
離れようとしたアタランテの裾を綾が引っ張る。
いつ肩から飛び降りたのか、シグルドは苦笑いだ。
「ぐっ…いや、我々には」
「お姉…ち……ゃん…遊んでくれるって……言ったのに」
「ぐっ…」
アタランテは幼子に弱い、アキレウスも、ケイローンも安請け合いしてしまったアタランテ何も言えない。
「いや…しかし……」
「……なぁ、綾。お姉ちゃん達、今日家に泊まってもいいかな?」
「本当?!」
「おいおい……」「貴方は」
アキレウスとケイローンは呆れるがシグルドは綾をアタランテに任せ、話し合う。
「休息は必要だろ?家にもう一人居る、その娘が家主だが……まぁ、幸いに部屋は有るからな」
シグルドも申し訳ないと理解しているが綾をどうにも出来ない。
「……すまんね」
「良いさ、子供のためだからな」
「えぇ……」
「お姉ちゃん高い!!お家にゴーー」
「よぉし!もっと跳ぶぞ!!ごーーー!!!」
「「「待て!!」」」
綾と浮かれるアタランテという見たことのない姿を見た英霊二人と、保護者一人は急いでアタランテと綾を全速力で追いかけるのだった。
「へっ…へへ………足が………死ぬ」
「くそ……何で……姐さんも………あの子も元気なんだよ、最速が聞いて呆れるぜ」
「途中から人馬になったというのに………ハァハァ」
男3人。
一人は素で身体がボロボロ、
一人は息切れ、
一人はプライドを砕かれたのだった。