その中の一つの席替え。今回こそはあの美少女の横になりたいとみんなが全力でくじを引いている。
最初は前半だけでしたが、最近読んでいた養われ小説の展開を後半に入れてみました。
高校生のイベントと言ったら何があるだろうか。
文化祭? 体育祭? 入学式や卒業式も立派なイベントになるだろう。でもそれよりももっと身近なイベントがある。席替えだ。
「今回こそは必ず引いてやる」
「絶対に負けない」
「はぁ・・・ふぅ・・・」
どいつもこいつもあの席を本気で狙っている。このクラスで、いや。この地域で一番の美人二人の隣を。
一人の名前は香月瑠唯。香月家という日本一大きい家の一人娘にして黒髪ロング、おっとりした顔、大きい胸で和服がとても似合う大和撫子を体現したような人なんだ。そんな美少女の隣になりたくない人がいるだろうか。普通ならいないと答えるべきだろうが、このクラスにはもう一人、隣になりたい美少女が居て、その人と人気を二分にして争っている。
もう一人はアリサ・彩月。帰国子女でハーフ。金髪をツインテールにしていて、体つきは香月さんに劣るけど、その整った体系は女子みんなの憧れ。そして彩月さんはアイドルである。デビューと同時に人気爆発し、今や売れっ子のアイドル。そのおかげで学校に来ることは少ないけど、でもアイドルがお休みだと学校に来てくれているらしい。
その二人の隣になるかどうか。席替えはもはや、クラス全員(香月さんと彩月さんを除く)にとっての戦争である。皆ライバルで、命がけなのだ。
二枚目気取りの秀才や、いやな悪党番長でさえ、胸を弾ませて待っている。隣になれば横顔が見られる。後ろであれば、黒板を見るふりをして後ろ姿が目に入っても仕方がない。男からも女からも人気の彼女たちの姿が見られるなんて、授業中天国だ。
席替えのくじが回ってきた。勉強する気もしない気もこの時に掛かっているんだ。もし駄目だったらぐれてしまうかもしれない。だから運命の女神様、一度だけでも、この僕に微笑んで。
結果は、まあまあだった。彼女たちの2列後ろの席。まあこれなら近くで見れないけど、視界の中に彼女たちがいる。勝利共敗北とも言えない、微妙な席だった。
とはいえ、今日はまだ二人とも来てないから、まだ見えないんだけどね!!
にしても、二人の間は不登校のよくわからん男じゃないか。あんな滅多にいない奴より、僕達の誰かが座ってもいいだろうに、もったいない。って、今日は来てるんだな。そいつが机に突っ伏して寝てる。
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なーんかただの席替えだって言うのに、みんなが熱を燃やしている。よくわからん、普通の二人だろ。
俺、香月睦月はみんながくじの結果に一喜一憂する中、どうでもいいとばかりに席に突っ伏して半分寝ていた。
苗字の香月からわかる通り、俺は瑠唯の親戚である。具体的にはいとこ。んでアリサは家が近い幼馴染。だからかわからないけど、みんなが二人の隣や後ろの席を欲して一喜一憂するのがよくわからない。まあどうでもいいや。別に絡みがあるやつらでもないし。
俺ははっきり言って、不登校である。だって学校に来て既知識を追走するより、家で自分の興味のある研究をしている方が有意義だろう。しかし、学歴社会であるこの世の中。実績は持っておけということで無理矢理在籍させられている。出席率が単位に影響しない学校であるため、基本は試験の時しか出てこないが、今日はどうしてもの用事があって出席したらこれである。あー、早く来ねぇかなぁ。来たらさっさと帰るのに。
と、教室の扉が開いた。
「おはようございます」
「みんなおっはよー、いや時間かかっちゃったね」
お、来た来た。俺の目的が。
みんなから返される挨拶に更に返しつつ、新しい席の場所を教えてもらった二人は、俺の隣に座った。
「おはよう、睦月くん」
「あんたまた夜更かししたの? すごく眠そうだけど」
「ああ、色々やることがあってね・・・。本当は今日も寝てるつもりだったんだけど、二人が来れないって言ってたからな。貰ったらさっさと帰って寝るさ」
「いつも通りですね、はい、今月のお小遣いですよ」
「あんたいっつも瑠唯にばかりたかるんだから。たまには私も頼りなさいよね」
「おぉ、ありがとう、二人共。これでまたしばらく生きていけるよ」
俺が二人から貰った封筒にはお金。一万円札がたくさん。
「もう帰るんですよね? 今日は夕方から会議があるので、夕飯は作れなさそうです」
「私もよ。夕方から収録とかほんっと信じらんない」
「あー、仕事なら仕方ないよ」
よいしょ、っと爺臭い掛け声をしつつ早退しようと席を立つと、睡眠不足が響いたのか軽くよろける。
「ちょっと、あんた本当に大丈夫?」
「おぉう、アリサ、ありがとう。流石に睡眠時間削りすぎたか・・・」
よろけた側にいた有咲が腕を掴んで支えてくれた。
「それじゃ家までも怪しそうですね。タクシーを呼びましょう」
「じゃあ瑠唯が呼んで。私はこいつを玄関まで連れてくから」
「そうですね、どうせならそのまま帰って睦月くんの看病しましょうか」
「良いわね。途中でコンビニ寄ってもらって、色々買って行くようにしましょう。こいつの事だから、どうせここ数日で作り置きのお惣菜食べつくして冷蔵庫空なんでしょうし」
「じゃあ私がタクシー代出すので、買い物はアリサちゃんということで」
「OK。荷物、お願いしていい?」
「ええ、わかりました」
俺はふらふらとする体をアリサに支えてもらったまま教室を出ようとする。瑠唯は電話でタクシーを呼びつつ、俺とアリサの荷物を持ってくれる。いや、二人がいてくれるお陰でほんと助かるわ。働かなくていいしね。と、俺たちの目の前を数人の生徒が遮った。
「おう待てやごらぁ。てめぇ、香月さんと彩月さんにたかるとか、何様だ?」
「そのお二人にたかるのを見過ごすことはできませんね」
「いや誰だお前ら」
そもそも不登校かつクラスメイトなんかに興味は全くない俺が、クラスメイトの名前なんて覚えているわけがないだろう。見た目、悪党番長と二枚目の秀才って感じのやつらだが。
「くっ、クラスメイトの名前も覚えていないとは・・・」
「それよりもだ! 香月さんと彩月さんが金を貢ぐわけがないだろ! 二人に何しやがった!!」
ぐっ、大声が頭に響く。こちとらそろそろ二桁に到達しそうなレベルで寝てないんだぞ、労われ。
「俺は何もしてないがな。と言うか早く退いてくれない? 帰りたいんだけど」
「そうよ、早く退きなさいよ!」
一方的に俺が責められてるのを見ていたアリサが俺に加勢する。
「何かあったんですか?」
タクシーを呼び終わった瑠唯も参戦してきた。
「こいつらがどかないのよ。私達が睦月に何かされたと思ってるみたいで」
「・・・? 私達は何もされてませんよね?」
「んなはずがない!!」
今度は秀才君が叫ぶ。だから頭に響くんだけど。
「と言われても・・・。許嫁が生活費渡すのなんて当然ですよね?」
『許嫁ぁ!?』
教室の全員が叫び声をあげた。やばい、頭痛が凄くて倒れそう。
「それを言うなら私だって、睦月の婚約者だし」
『婚約者ぁ!?』
うっぷ、頭痛で吐きそう・・・。
「いや、いや、でも! 婚約者や許嫁だからって男が養われるのはおかしいだろ!」
「そもそも、そういうのって親が決めるもんだろ? 香月さんも彩月さんも、こんな養われるクズの相手で嫌じゃないのか?」
番長と秀才が煩い。
「私は全く? と言いますか、許嫁は渡りに船でしたね。元から睦月さんの事は好きなので。養わせてくれるのも好きなところですし」
あれ、なんか教室にいた半数のやつが倒れた。
「私も睦月の事は好きだし。こんなダメな奴だからこそいいんじゃないの。と言うか、私がアイドルやっているのだってこいつの為だもの。睦月がクズじゃなかったらアイドルなんかやってないわよ」
あれ、残りの半分の魂が体から抜けてる。
と、また教室の扉が開いた。
「にぃに、まだぁ?」
あ、そう言えば一緒に学校に来てたんだっけ。
教室に入ってきた白い髪に小さいロリ体型で、目の下に隈があるダウナーな顔つきと声は俺の妹の香月雪羅。俺の義理の妹である。正確には香月一族の傍系の方の娘だったんだが、事故で雪羅の親族が一気に死んでしまい、俺の両親が引き取ったのだ。
その儚い印象から天使と呼ばれてクラスでは人気らしいが、よく知らない。儚いというか、俺と一緒に居ることからの生活習慣の乱れと引きこもりの結果だしな。そして瑠唯とアリサに養われる二人目。
「あら、雪ちゃん。雪ちゃんも学校に来てたんですね」
「どうせこいつについてきただけでしょ。まあいいわ。雪ちゃんも一緒に帰りましょ」
「うん、そうする。今日はるいねぇとリサねぇがいるから、美味しいご飯が待ってる♪」
「あ~、残念ながら今晩は二人共仕事だそうだ。あきらめろ」
「・・・残念、でも仕事なら仕方がない。頑張って雪とにぃにの生活費稼いできてもらう」
「ふふ、頑張ってお小遣い稼がないとですね」
「そうね、私が頑張ればこいつと雪ちゃんが幸せになって私達もそれで幸せ。言うことないわね」
そうこうしている間にHRの時間が終わったのかチャイムが鳴る。
「あら、もうこんな時間。早く行きましょう、アリサ」
「そうね、瑠唯。はいはい、邪魔だからあんたら退きなさい」
雪羅を見て固まっている番長と秀才をどかし、俺はアリサに支えられてもう片方を雪羅に掴まれつつ教室を出る。後ろからは鞄を持った瑠唯が続く。そして下駄箱で靴を変えた俺達は、そのままタクシーに乗って家へと帰った。
なお四人が消えた後の教室は静寂に包まれ、次の授業の先生が入ってきて教室内の惨状を見て一歩引いた。
「あの、みなさん、どうかなさったんですか?」
瑠唯とアリサが睦月を好きな事、養っていること、下のクラスの雪羅が睦月の妹という事などを知って色々と睦月に持っていかれている事を見せつけられたクラスの面々が口から魂が抜けて真っ白になって燃え尽きていた。
彼らは暫くの間、復活できなかったという。
そんなことは知らず。睦月は家までタクシーで送り届けられ、家に帰ったら瑠唯とアリサにお世話されつつ雪羅とお昼寝。起きた頃にはもう二人は出かけていた。
「あー、雪羅。夕飯何か食べに行くか」
「いいね、にぃに。お小遣い貰ったんだし、回らないお寿司行こ」
「よし、じゃあさっさと出かけようぜ。んでついでに夜通しカラオケもだ」
「じゃあ仕事帰りの二人も呼ぼ。カラオケは人が多いほど楽しい」
「いいな、それ!」
「えへへ、にぃに、好き」
「おう、俺も好きだぞ、雪羅」
こうして睦月と雪羅は今日も瑠唯とアリサに養われ、お世話されて。これからも年を取ってもお世話され続けていく。