冬休みが制定された畜生界で、人間霊を管理する霊長園は人材派遣として、人間霊を動物霊たちに貸すようになった。今まで人間霊を護る立場であった杖刀偶 磨弓は、現在の霊長園の在り方に疑問を持つようになっていた。

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これはとある組織が秘密裏に開催している東方物書綴の第13回に出した作品です。

5ボステーマで出難そうなのと、鬼形獣が好きなのもあって杖刀偶 磨弓をチョイスしました。

「畜生界初めての冬休み」と世界観を同じくしていますが、そちらを読んでいなくても楽しめる作品となっております。


人材派遣は霊長園へ!

理性無き愚か者共が死後に行く所とされる畜生界。

究極の弱肉強食の世であったが、今は動物霊が徒党を組み、組織間で抗争が行われるようになっている。

畜生界で最弱の存在であった人間霊は、霊長園で動物霊に管理され、万能奴隷として散々な扱いを受けていた。

しかし、動物霊は埴安神袿姫による人間霊の暴徒化によって窮地に立たされる。

そこで、「鬼傑組」「勁牙組」「剛欲同盟」が一時的に手を組み、地上の人間の力を借りてこれを鎮圧させた。

これで元通りになる、と殆どの動物霊たちは安堵したが、鬼傑組の組長である吉弔八千慧は再発の可能性を考慮し、ある提案をした。

それは「年末年始の停戦期間を設けること」であった。

前までは毎日至る所で争っており、それに合わせて人間霊を使い倒していたのを、年末年始に休ませる事で暴徒化のリスクを軽減することが目的である。

初めは反発が強かったものの、停戦期間中は人間霊を働かさず、三組間の争いをしない代わりに「抗争や略奪が無ければ互いの縄張りで何をやってもいい」という条件で案が通った。

こうして畜生界の一部で初めて「冬休み」が制定された。

これは、そんな畜生界で繰り広げられる霊長園の奮闘を描いた物語である。

 

 

 

「団長! 鬼傑組への派遣、全て配置完了です!」

「団長! 剛欲同盟から帰還した人員のメンタルケアはどこで行いますか?」

「団長! 勁牙組へ向かわせた人員だけでは足りないというクレームが来ています!」

「ええい! 一気に言うんじゃない! 勁牙組への派遣はデカい奴を厳選しろと言ってるだろ! メンタルケアはあっちの突き当りのエリアだ! 鬼傑組への派遣はローテーションだから、次の人員確保を忘れるなよ」

 

現在、霊長園は年末の仕事の書き入れ時を迎え、埴輪たちが忙しなく働いていた。

「冬休み」が制定されたことにより、鬼傑組、勁牙組、剛欲同盟は冬休み前に少しでも利益を貪ろうと人間霊を使い倒す様になった。

その影響で、霊長園も忙しくなるのである。

 

(しかし、埴安神様はなぜ人材派遣というものを始めたのだろう……)

 

その中、埴輪たちのリーダーである杖刀偶磨弓は現状に疑問を持っていた。

本来、人間霊を守るためにここにいたはずなのに、逆に動物霊に引き渡してしまうようになってしまった。

折角定期的に休む時間が与えられたというのに、その分働きに出してしまっている。

そんな矛盾に彼女は悩んでいた。

 

一通り埴輪たちの話を聞いた後、磨弓はその辺の机で派遣中のリストや各種報告書の整理を始めた。

人間霊を管理し,保護するためには書類仕事も大事なのである。

 

「はぁぁ…… 書類仕事なんて得意じゃないのに」

 

剣術・弓術・騎馬などの武芸には秀でているものの,こうした文官のやる仕事には一切関わってこなかった彼女には,当然難しい仕事であった。

しかし,保護対象である人間霊にやらせるのは本末転倒であり,埴輪のハイエンドであったためにその仕事を割り当てられたのである。

 

「おい、団長がため息をついていらっしゃるぞ」

「我々の働きが足りない証拠だ。 もっと働いて埴安神様のお役に立つんだ!」

「オォォー!」

 

そんな磨弓を見て埴輪たちはより張り切って働き始めた。

 

(こいつらは単純でいいな……)

 

がらんどうゆえに精神が単純な造りになっている他の埴輪たちをよそ目に書類整理していると――

 

「団長! 襲撃です!」

 

現在の霊長園は人間霊の利用に更なる手続きが必要になったため、それを嫌った動物霊からの襲撃も少なくない。

そういう動物霊を撃退するのは、この世に来てから今まで続けている埴輪たちの仕事である。

磨弓が現場に向かうと、埴輪たちがそれなりに大きな獣の霊数匹と戦っていた。

動物霊の前方と側面で埴輪たちが対峙している状況だ。

 

「ここからは私が指揮を執る! 今私と来た兵は前衛と交代!」

 

彼女指揮の元、動物霊を抑えようとしているものの、劣勢を強いられていた。

埴安神の弱体化によるところが大きい。

磨弓も弓矢で攻撃するが、あまり効果が無いようだ。

 

「おい、馬と矛を出せ! 私が出る!」

 

しびれを切らして陶器の馬に乗り前に出た。

馬の勢いを乗せた矛で動物霊の一匹を斬りつける。

 

(効いてはいるけど、こいつら強いな…… いや、私が弱くなったのか。書類仕事ばかりで腕が鈍ったか)

 

馬の機動力で動物霊の攻撃を躱しながら反撃するが、いまいち決定打に欠ける。

周りの埴輪も次々に攻めるが、少しずつ数を減らしている。

 

そんな状態が続き、とうとう磨弓が動物霊の体当たりをもろに受け、馬から落ちてしまった。

しかし、磨弓は杖刀を抜き、動物霊の空いた懐に突き刺した。

その動物霊はうめき声を上げながらその場に突っ伏した。

 

(やっと一匹か。これは後のことを気にしている場合じゃないな)

 

磨弓は号令をかけ、埴輪たちと一斉に残りの動物霊を攻め立てる。

どれだけ傷を負っても止まらず進む埴輪兵団には、巨体を持った獣でも対応しきれず、全て倒されてしまった。

しかし、埴輪たちの多くが傷つき、動くことができないほどであった。

磨弓も損傷が目立ち、運ばれていく埴輪の残骸と共に修繕を受けることとなった。

 

 

 

襲撃から時間が経ち、通常業務に戻ったころ、磨弓は創造主である埴安神袿姫に呼び出されていた。

 

「磨弓よ、なぜ呼び出されたかはわかっているね?」

「先程の襲撃で不甲斐ない結果になってしまい、申し訳ありません」

「それはいい、撃退はできたわけだからね」

「では……」

 

磨弓は分からずについ聞き返そうとしてしまった。

そのことに気付き、すぐに口を噤んだ彼女に袿姫は優しく言った。

 

「何か悩んでいることがあるでしょう? 話してみなさい」

 

磨弓は面食らいながらも、創造主に申し訳ないと思い拒否したが、袿姫に詰め寄られ、観念して話すことにした。

今の霊長園の在り方について思っていることを。

 

「人間霊を護るために居るのに、なぜ虐げる奴らに引き渡すのですか!」

 

そう訴えるも、袿姫は動じることもなく、磨弓に諭すように話し出した。

異変後に冬休みが制定されたことや、鬼傑組からの保護依頼から読み取れる、動物霊側の意識の変化。

メンタルを含めた管理を行うことで、少しずつ信仰を取り戻そうとしていること。

そうした袿姫の真意をひとつづつ飲み込んでいき、磨弓の中の絡まった糸も少しずつ解けていった。

 

「それに磨弓、この体制ができてから人間霊の嘆きが減っているのには気づいてる?」

「そうなのですか?」

「私の部屋には時々人間霊たちが祈りに来ているけれど、私を呼び出した時の慟哭のような祈りはないね。

寧ろ期間外労働を許さないあなたへの感謝の声もあるくらい」

 

袿姫は磨弓に歩み寄り、頬を撫でた。

 

「これはあなたが頑張って働いてくれているから。褒めて遣わすぞ」

 

磨弓は自分の行いが正しかったこと、既に報われてもいたことを知り、とても晴れやかな気持ちになった。

 

「ありがとうございます……! 先程の無礼をお許しください」

 

袿姫は笑って頷く。それに安心した磨弓は礼を言ってパタパタと部屋を出て行く。

 

(埴輪は単純でいいねぇ)

 

袿姫は造形の道具を出しながら、磨弓の後ろ姿に微小な声で言った。

 

「これからも私の信仰の為に頑張りなさい、磨弓」

 

 

 

磨弓が仕事場に戻る途中で一体の埴輪が彼女を呼び止めた。

 

「団長! また襲撃です!」

 

その埴輪について行くと、前に襲撃してきた奴等より更に大きい動物霊が埴輪たちを蹴散らしていた。

どうやらあの動物霊たちの親玉のようで、部下が帰ってこないため、乗り込んできたようだ。

 

「お前らは下がれ! ここは私1人でやる!」

 

杖刀を片手に親玉の前に立つ。

親玉が脚を振り上げ、磨弓の頭上から振り下ろす。

大きな地響きを起こしたその脚には、固いものを踏み潰した感覚が無かった。

 

「私はここだ!」

 

磨弓は親玉のもう一本の脚を深く斬りつけた。

親玉は怒り狂い、磨弓を潰そうと暴れた。

しかし一本、また一本と脚を斬られ、脚以外にも、その短い刀の刃が通り抜けていった。

もう創造主への疑念があった彼女では無い。

袿姫への忠誠心が高まっている磨弓にとって、無名の組織の長など敵では無い。

最後に磨弓は親玉の頭に乗り、その刀を深々と突き刺した。

親玉はもう動かなかった。

 

オォォォォォ!

 

埴輪たちの歓声が響き渡る。

 

(袿姫様、私はもう迷いません。あなた様の望みの為、誠心誠意働く所存です……!)

 

そう磨弓は心の中で誓うのであった――

 

 

 

数日後、その日の仕事がほとんど片付き手が空いた所で、磨弓は再び袿姫に呼び出された。

部屋に入ると、袿姫は何かを後ろに隠しながら磨弓に寄ってきた。

そして、後ろに隠していたものを彼女に見せた。

 

「これは、新しい鎧ですか? 今使っている鎧はまだ使えますが……」

 

袿姫は頭を横に振る。

確かに鎧にしては少し色が綺麗で、仕事をする為に着るものではなさそうだった。

磨弓が首を傾げていると、袿姫は口を開いた。

 

「冬休み前日の仕事終わり、あなたこれ着てライブに出なさい」

「……へ?」

 

 

 

冬休み前日の夜。

いつも薄暗い畜生界、それも霊長園に一箇所、眩い光が灯った。

そこには広い壇が用意され、その下には無数の人間霊がひしめき合っていた。

急にここに連れてこられた人間霊たちは困惑した様子でいたが、壇上に彼らの信仰の対象が出てきたことでそれは払われた。

 

「人間霊たちよ、集まってくれて感謝する。今宵はささやかながら催し物を用意した。存分に楽しんでくれ!」

 

声を聞いた人間霊たちが湧き上がる。

埴安神を称える声がこの場を包み込んだ。

 

「主役は汝らを護ってくれている埴輪兵団の長、杖刀偶磨弓だ!」

 

そう言って袿姫は壇上から姿を消す。

代わりにいつもより少し明るい色の鎧を着た磨弓が姿を現した。

彼女が前振りを話し始めると、それに合わせて人間霊が反応する。

終始恥ずかしそうな顔でいたが、人間霊の一部は普段見ることの出来ないその顔に見惚れていた。

前振りが終わっても、恥ずかしさで少し間が空いてしまったが、磨弓は意を決した。

 

「ハニワー 進め!」

 

ゴォォォ!

 

他の埴輪たちも壇上に現れ、一緒に踊る。

それに合わせて人間霊たちも腕を振って盛り上げる。

この異様な状況に磨弓は助けを求める視線を袿姫に送るが

 

「磨弓が歌って踊る姿を見て熱狂する。これぞ今時の偶像崇拝ってね」

 

と親指を立てながら言われてしまう。

 

(ど、どうしてこうなった……)

 

人間霊の歓声が響き渡る中、磨弓は新たな仕事を遂行するのであった――


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