事の発端は俺と天にぃが言い合いになって、カッとなった俺が天にぃは簡単に家族を捨てたのにと言ったことだ。
言い訳をするなら、勢いでつい口をついてしまった言葉だったんだ。
言い合っている時は頭に血が上ってその言葉を受け止める天にぃの気持ちなんてちっとも想像していなかった。
その言葉を聞いた時の天にぃは目を見開いて、悲しそうな顔をして、今は俯いて黙っている。
「……。」
「天にぃ?」
黙っていた天にぃが少し顔を上げて、何かを口にした。
声が小さくて聞き取れなかったことが俺に焦りを産んだ。
「……さい。」
「天にぃ!」
「……うるさい!守られていただけの陸に、自分から家族を捨てる覚悟がわかるとでも言うつもり?ふざけないで。」
「天、にぃ?」
俺はまた天にぃを傷つけた。
思わず手を伸ばして、すぐに手を引いた。
俺にこの手を伸ばす資格はない。
天にぃは家族を捨てて何も感じないような冷酷な人じゃない。
天にぃだって辛かったはずなのだ。
それを分かっていながらあんなことを言った俺には、天にぃを傷つけた俺には、謝ることは出来ても許しを乞うことは出来ない。
ふと、このまま俺たちの関係にヒビが入ってしまうのではないかという考えが頭を過り、自分の意思とは関係なく視界が滲んでいく。
「っ!ごめん、そんな顔させたいわけじゃないんだ。」
「…天にぃ?」
「……。」
「天にぃ…」
天にぃはいつもそうだ。
家族じゃない、兄弟じゃない、と責めてくるのに最後には俺を心配している。
そして、自分のつらさには蓋をする。
優しすぎるよ、天にぃ。
そんな天にぃが大好きだから、俺は兄弟と胸を張って言えるようになりたいんだ。
でも、その願いが天にぃを困らせることも分かっている。
俺は七瀬陸で、天にぃはーー。
「大丈夫だよ、陸。僕は大丈夫だから…そんな心配そうな顔をしないで。…いいかい、僕と君は兄弟じゃないーー。」
「っ天にぃ!」
「待って、最後まで聞いて。僕達は兄弟じゃない。家族でもない。でも、お互いのことは誰よりもわかっている。僕達はライバルだから。」
「……天にぃ!」
家族じゃない、兄弟じゃない、でもライバルだ。
アイドルとして、IDOLiSH7のセンター七瀬陸として、TRIGGERのセンターの九条天の隣にいていいと認めて貰えた。
その事実が胸に染み渡っていく。
天にぃの顔がステージに立つ時のそれになる。
「負けませんよ、七瀬さん。」
「九条…さん。」
「いい顔になったね…じゃあ、また。」
そう言って去っていく天にぃの背中はやっぱり大きくて、優しくて、遠くて、偉大だった。
大好きだよ…俺の、俺だけのお兄ちゃん。