香織「いやー!!南雲君!!光輝君!!」
奈落に落ちゆくふたりに取り乱す香織
その後ろでは雫が地面に両膝をつけ過呼吸を起こしていた
雫「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ(そんな!…光輝が!南雲君が!……落ちて行った…消えて行った!)」
過呼吸を起こして苦しんでいる雫の横では香織があとを追うと奈落へと近づき、それを勇輝が取り押さえた
香織「離して! 南雲君の所に行かないと!!光輝君が!!」
勇輝「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」
浩介/雫「「!?」」
過呼吸を起こしていたが話を聞いていた雫とハジメと光輝の落下で放心状態になっていた浩介はそれを聞き自身の耳を疑った
雫「(南雲君はってどういうことよ!実の弟の生存は諦めてないのに南雲君のことは諦めているの!?)」
浩介「(アイツ自分がこの戦争にクラス中を巻き込ませた癖に、皆救うとか抜かしていたくせにいざハジメが落下したら早々に見捨てやがった!)」
勇輝と龍太郎に抑え込まれつつもそれでも無理して抜け出そうとする香織
そこへ
カズマ「はぁ…はぁ…なにが…あった…」
息を切らせた様子のカズマとアクアが合流した
カズマはすぐに周囲の様子と人数の確認をした
カズマ「幸利、手短に伝えてくれ」
幸利「!、ベヒモスが出てきてハジメと天之河が応戦して最後にクラス中が放った魔法の雨の中でふたりに命中してベヒモスと一緒に奈落へ」
カズマ「……そうか」
一瞬カズマの表情が暗くなった
だがすぐに切り替え
カズマ「幸利、使役することができた魔物で肉壁にしながらクラスメイト達を守れ」
幸利「わ、わかった!」
カズマ「恵里はすぐに技能を使って周りのクラスメイト達の精神状態を安定させてくれないか?少しの間だけでいい、できるか?」
恵里「や、やってみる!」
カズマ「浩介は幸利が肉壁に使った魔物が空きを作った所を見計らって攻撃してくれ。出来れば急所、それが無理なら足とか動きを遅くできる箇所を狙って欲しい」
浩介「り、了解!」
カズマ「アクアはクラスメイト達の回復と掩護の両方だ」
アクア「任されたわ!」
いつもつるむメンバー達に指示を出し奈落のそばで暴れている香織と過呼吸を起こしている雫に近づき
カズマ「『スリープ』!」
眠りの魔法でそれぞれの意識を眠らせた
龍太郎「さ、佐藤!」
カズマ「……詳しいことは地上で聞く、引くぞ」
そう言い両肩に香織と雫を乗せ運ぶ
なにかいいたそうにしていた勇輝だったがメルドに止められ、クラスメイト達に向けて声を張り上げる
勇輝「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」
こうして最初の実践訓練は、ふたりの犠牲を出しながらも無事帰還を果たしたのだった
檜山「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。キモオタのくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんなキモオタに……もうかかわらなくていい…天之河だってそうだ!…あのキモオタのそばにいたアイツが悪いんだ!…俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」
ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。 そんな中、檜山大介は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。
だが実際には醜い現実逃避と自己弁護をしていただけだった
檜山は以前からハジメの事が気に食わなかった
それは自身の想い人である白崎香織が彼に好意を抱いていた事に対してだった
地球にいた頃からハジメをバカにしてきた彼だがハジメはそれに対し全く相手にはせず、むしろバカにする自分を小馬鹿にして煽ってきた
これにより檜山の中でハジメに対する殺意が高まってきた
そして今回の大迷宮
階段への脱出とハジメの救出。それらを天秤にかけた時、ハジメを見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。今なら殺っても気づかれないぞ? と。 そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した
バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球をハジメに着弾させた。流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。まして、檜山の適性属性は風だ。証拠もないし分かるはずがない
ただ光輝まで当たったのは想定外だった
しかし檜山は光輝の事も内心では気に食わなかった
人嫌いでいつも孤高であり、不良のレッテルを貼られながら勉強も運動も自分よりも遥か上に立ち、自分以上のルックスも持っていた
そして度々自分が南雲や佐藤に絡んだりすると蹴り飛ばしてきたり睨んできたり、あまつさえ自身を見下すような目を向けたりと、そのたびに腹が立っていた
目障りだと思っていたやつがふたりも消えてくれたのは本当に嬉しい
そう思っていると罪悪感なんてものがなくなっていくのを感じていた
「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」
その時、不意に背後から声を掛けられた
檜山「ッ!? だ、誰だ!」
慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。
檜山「お、お前、なんでここに……」
「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」
その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。
檜山「……それが、お前の本性なのか?」
呆然と呟く檜山のそれを 馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う
「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」
「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」
「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」
檜山は追い詰められる。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える
「でもまあそうだね…君が僕の手足となって従ってくれるなら見返りとして黙っておいてあげるよ……それともう一つ」
檜山「そ、そんなの……」
実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に、躊躇する檜山。当然断りたかったが
「白崎香織、欲しくない?」
その言葉で断ろうとしていた気持ちが止まった
檜山「ッ!? な、何を言って……」
驚愕する檜山に
「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」
檜山「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」
あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげる
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、強いて言うなら欲しいモノいや、欲しい人がいるとだけ言っておくよ……それで? 」
あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。
檜山「……従う」
「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」
楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は『ちくしょう……』と小さく呟いた
「………」