勇輝「なぜだ…なぜ彼女を殺した」
そう震える声で光輝に詰め寄る勇輝だったが
光輝「……フン」
光輝それを無視しながら来た道を引き返す
勇輝「あ、おい!待て!!」
アクア「ふう…これでもう大丈夫よ…傷も深かったけど即死じゃなかったから助けられたわ」
その声にクラスメイト達は振り返る
そこにはいつの間にか来ていたアクアがメルド達騎士団の治療にあたっていた
香織「ア、アクアちゃん!?」
恵里「!!」
谷口「い、いつ戻ってきてたの!?」
アクア「さっきよ…全く、私居るのに先に行っちゃって…」
そう不貞腐れるようにいうアクア
香織「アクアちゃん…メルドさんを助けてくれてありがとう。それにハジメ君も光輝君も…私達のことも……助けてくれてありがとう」
ハジメと光輝にお礼を言う香織
それに続き檜山グループ以外の面々も光輝とハジメに礼を言った
香織はハジメと光輝の変わりように激しいショックを受けはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。 そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した
香織「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」
クラスメイトのうち、女子は香織の気持ちを察していたので生暖かい眼差しを向けており、男子の中でも何となく察していた者は同じような眼差しを、近藤達は苦虫を噛み潰したような目を、勇輝と龍太郎は香織が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている
鈍感主人公を地で行く勇輝と脳筋の龍太郎、雫の苦労が目に浮かぶ
が、その雫本人はというと
光輝「……」
雫「待って!!」
この場を去ろうとした光輝に雫が止めた
光輝「……」
雫「貴方が…南雲君と貴方があの後何があったのか…私にはわからない……今までどこで何していたのとか……なんであんなにも強くなったのとか……どうしてそんな姿になったのとか…色んなこと…聞きたいことがあるわ………」
光輝「……」
黙っている光輝に雫は顔を光輝の胸に押し付ける
雫「光輝…私はあの日…貴方と南雲君が転落したあの時から…ずっと心にぽっかり穴が空いたような虚無感を覚えたわ……でも香織は南雲君と貴方が生きていることを信じていたわ……あの時…もしかしたら助けられたかも知れないのに…助けられなかった……自分の力の無さを恨んだわ……きっと貴方のことだから…何があったのか…答えてはくれないと思う……でも…でもね……答えてくれなくていいの…わ、私は……私は!!
あ゛な゛た゛が!……生゛ぎ゛で゛!…こ゛う゛し゛て゛ま゛た゛!……か゛え゛っ゛て゛き゛た゛だ゛け゛で゛!!」
光輝「!」
光輝が転落し、心に深い傷を負った彼女は…オルクスでの一件以降、一時期塞ぎ込んだ
しかし、ハジメと光輝が生きていると信じる香織の言葉に、雫も信じて今日まで生きてきた
そして、その光輝が生きて自身の前に現れ、守ってくれた
それによりずっとこらえていた雫の目から大粒の涙が流れだし、光輝の胸元を濡らす
この時、ハジメや香織を含めた地球にいた頃の光輝を知る者は、近づく者に対し拒絶する光輝が最も拒絶する相手である雫のことをまた突き放すと思っていた
しかし
光輝は突き放さなかった
いや、突き放せなかった
普段光輝の表情は無表情
だがこの時、ユエだけは光輝の表情が一瞬動揺したように見えた
涙を流しながら自身から離れない光輝は最初は無言だったがやがて
光輝「………奈落に落ちたあと、生き延びるために魔物を殺して殺して喰らって喰らって生き延びた…身体は魔物の毒素の後遺症だ…脱出後は、他の大迷宮を攻略するために旅をしていた」
雫「!」
ずっと無言だった光輝が初めて答えてくれた
雫「そ…そんな…」
光輝「別に…俺にとってあそこは地獄でもなんでもない……生きることに必死に喰らいついたら生き延びた…ただそれだけだ」
それをなんともないよう振る舞う光輝
ハジメ「まあな 俺もそいつも生き延びたんだ…まあ俺なんか片目と片腕無くしちまったけどな……とにかくだ八重樫に白崎……頼むからあんま泣かないでくれないか?」
クラスの2大女神達の流す涙にハジメは苦笑気味に言った
勇輝「……ふぅ、香織と雫は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺そうとして光輝は殺した!話し合う必要がある。もうそれくらいにして、ふたりから離れた方がいい」
しかし空気の読めない自称勇者の言葉にクラスメイトの一部から『お前、空気読めよ!』という非難の眼差しが勇輝に飛んだ
この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに、そして雫の光輝に対して向ける深い情に気がつかないらしい
何処かハジメと光輝を責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を、光輝にくっつく雫を引き離そうとしている
単に、香織と雫に触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない
龍太郎「いや待てよ勇輝! 南雲に光輝は、俺達を助けてくれたんだぜ? そんな言い方はないだろ?」
勇輝「だが、彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。こいつらがしたことは許されることじゃない」
勇輝の物言いに、龍太郎が反論する
更にクラスメイト達もそんな龍太郎に加勢する形で反論したが、檜山達は元々ハジメと光輝が気に食わなかったこともあり、勇輝に加勢し始める
ユエ「……くだらない連中。ハジメ、光輝、アクアもう行こう?」
ハジメ「あー、うん、そうだな」
絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、勇輝達を〝くだらない〟と切って捨てたのはユエだ
その声は、小さな呟き程度のものだったが、勇輝達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた
一瞬で、静寂が辺りを包み、勇輝達がユエに視線を向ける
ハジメは、元々浩介から話を聞いて、恵里や(勇輝や檜山共を除く)クラスメイト達に香織への義理を果たすために来ただけなので用は済んでいる
対して光輝は今のクラスメイト達の実力を見る為に来た
実は誰よりも早く来ていた光輝は勇輝が覚醒しカトレアを追い詰める寸前まで見ていた
そんな彼らに勇輝が待ったをかけた
勇輝「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲に光輝の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」
ユエ「……はぁ…」
勇輝が、またズレた発言をする言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、『自分の胸に手を置いて考えろ』と言いたくなる有様だ
ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。 ユエは、既に勇輝に見切りをつけたのか、会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない
というか内心勇輝のことを『こいつ本当に光輝と兄弟なのか?…実は顔そっくりの赤の他人何じゃないのか?』と思っている始末
勇輝は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとしたが無視された
勇輝「くっ!光輝!!お前はなんで彼女を殺した!!殺す必要なんてなかったはずだ!どうしてだ!!」
ハジメやユエとは話が通じないと思った勇輝だったが今度は光輝に突っかかった
光輝はそれに対し侮蔑を込めた眼を勇輝に向けながら一言呟いた
光輝「貴様のせいだ」
勇輝「なっ!?」
光輝「貴様があの魔人族を殺さなかったからこうなったんだよ…後は……南雲がトドメを刺すのに手間取っていたからだ」
ハジメ「言っておくが手間取ったんじゃねえ!そこの臆病者が殺るのを邪魔したからだ」
勇輝「なっ!?俺が臆病者だと!?」
ハジメ「事実だろ?天之河兄、存在自体が色んな意味で冗談で面倒なお前に、いちいち構ってやる義理も義務もないが、しつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」
勇輝「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」
ハジメ「誤魔化すなよ 。お前は、俺があの女を殺そうとした事や天之河が殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけたあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の・・・・相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」
勇輝「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」
ハジメ「敵を殺す、それの何が悪い?」
勇輝「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」
光輝「甘ったれた事を言うな!!」
その時、光輝から大きな怒鳴り声とともに魔力が溢れ出し大迷宮が揺れた
それにクラスメイト達は驚きのあまり皆が動けずにいた
光輝「これが戦争だ!互いが互いの命を奪い合う。生きるか死ぬかを決める戦いだ!俺達がやっているのは、ガキの喧嘩ごっこやゲームじゃねえんだよ!!相手が殺そうとしたら身を守るため戦い殺す。それが戦争の歴史だ!……その戦争に参加すると最初に言い出したのは貴様だ…にも関わらず、その貴様がこのザマ……これが人類の希望となる勇者だと思うと、情けなさ過ぎて頭が痛くなるな…」
勇輝「な!?」
ハジメ「そもそも最初に俺達にいっていたあの言葉…なんだっけか?『人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!俺がみんなを守る!!』だったか?……できもしない事を簡単に言うな」
勇輝「い、いや!出来もしないことじゃない!!実際、誰も死んでないじゃないか!!」
ハジメ「『俺がみんなを守る』……なあ、お前がいつ誰かを守ったか?そもそも俺達が転落した時点でお前の言っていたあの言葉は嘘でしかねえんだよ。あまつさえあの魔人からお前らを救ったのも、トドメを刺したのも俺達だ……もう一度聞くが、お前がいつ誰を守ったか?」
勇輝「そ…それは…」
光輝「そもそも貴様があの魔人族を殺していれば、こんな事態にはならなかった……あの魔人族を始末したのは俺だ…お前達を奴らから救ったのも俺達だ…貴様の不手際が招いたことだ。間違えても貴様に俺達を責める資格などない……自分の失態を俺達の人殺しの罪を責める形でなかったことにしようとする……貴様は度し難いな」
勇輝「!ち、違う!!俺は!」
光輝「貴様が本当にクラスメイトの誰も死なせずに皆地球に返すと言うならば……俺達に人殺しがいけないことだと言うのなら…俺達を戦争に参加せざるを得ない状況にした…貴様が率先してその汚れ役をやるべきだったはずだ………最も…貴様には手を汚す覚悟も己の言葉を実現させるだけの力もなかったようだ…」
勇輝「!!」
光輝はそんな自身の兄に対し侮蔑の気持ちを込めた言葉を吐き捨て、今度こそ上へ向かうために歩き出した
カトレア「なんなんだい……これは?」
カトレアは…自身の置かれている状況に驚きを隠せなかった
勇者と同じ顔をした白い髪にトドメを刺されたように感じていたが、なぜか身体は斬られておらず、周りの者達がまるで自分の事が見えていない様子だった
カトレア「(どうなっているの?……あたしは確かに斬られたはず…でも周りはあたしが見えていない……どうして?)」
そう考え込んでいるカトレアに一人の男が近づいてきた
それに気づいたカトレアは腰に付けていた短剣を取り出そうとした
???「おっと、武器は置いてもらえるか?……安心してくれ。俺はアンタの敵じゃない……大切な話があるんだ…この世界とアンタの種族を含めた全ての人類にまつわる重大な話がな……ま、立ち話も何だし、場所替えしようか」
そう男が言うとカトレアと自身を魔法陣が包み込むとやがて消えていった