ショウが可愛いアークナイツ

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ログインできない間にイベントがあってあまつさえ衣装もあっただなんて行き場のない鬱憤をどこにぶつければいいんだ……。


まんまるヘーゼルナッツ

「それでですね──あっ、ちょっとイェン、ちゃんと()()()()()()?」

 

 手元に落としてていた視線を上げると、目と鼻の先に女性の顔があった。

 深い榛色の瞳をした女性だ。非常に小柄で、それでいて童顔。仄かに炒ったナッツの香りがする。

 

()()()()()

 

 ニュアンスこそ違うかもしれないが、嘘は言っていない。

 

「うぅん……? そう、なのですか……?」

「ああ」

 

 本に栞を挟んで閉じる。普段はあまり選ばないジャンルだが、たまに読むぶんにはいい刺激になるものだ。

 もっとも、この内容をユニークと感じられるかどうかはまた別問題である。実際、自分はこの本を読了後、棚に置いておくことはあっても、再び手に取ることはないだろう。

 

「怪しいものですね、本当に聴いていたのですか?」

 

 それにしても顔が近い。程度で言うと、彼女の吐息がかかるくらいか。

 あちらは無意識で(自覚なしに)やっているのかもしれないが。ここは往来・公共の場だ。

 自分たちにとってこの距離感がごく自然でも、見る人によってはそう思わなくて当たり前。

 近頃は市民の目も厳しい。ここらは人通りもあまりないが、かといってどこから見られているかもわからず、職場に苦情を入れられても困る。

 瓜田不納履。怪しく見られてしまう前に、肩を並べてランチタイムを過ごす二人組に戻る必要があった。

 

「バディに誓って」

 

 バディ、即ち彼女に誓う。じりりと目が合う。

 中性的で何かと性別を勘違いされがちな彼女だが、実のところ、こうして見るとまつ毛は長いし肌もきめ細やかで、龍門に住まう人々が思う何千倍も女性らしい。

 それが、この距離。互いの子供時代を知る幼なじみとて、ドキリとする場面がないと言えば嘘になるだろう。

 

「……まあ、いいでしょう。小官もイェンがつまらない嘘をつくとは思えませんから」

 

 何とか許してもらえたらしい。ふっとナッツの香りが離れ、可愛らしい圧迫感もなくなる。

 それで、何だったか。この冬は週末の自主パトロールの回数を増やしたい、という話だっただろうか?

 どうであれ、自分は彼女のしたいこと・やりたいことにトコトン付き合うのだろう。そういう決まりだ、自分自身との。

 

「そういえばイェン」

 

 ランチのピーナツバターサンドをハモハモと齧りながら、彼女はこちらを見上げる。

 

「それは新しい本ですね。表紙を見るにここ最近、龍門で流行っているという短編集でしょうか? あまりいい噂は聞きませんが……そもそもイェンがそういったジャンルを手に取るのは珍しいですね、ふむ。たしかブラック・ユーモアは趣味じゃないはず……えと、誰かにお勧めでもされましたか?」

「店員に勧められて、な」

 

 あそこの書店は行きつけであるため、いい意味で遠慮というものがない。疲れ知らずのセールストーク*1に、まんまと乗せられてしまった訳だ。

 ちなみに彼女もその店を知っている。なんなら店員とも顔見知りで、さらに詳しく言うと自分たちは同級生だった。互いの出身校が同じと知ったのは、顔馴染みになってからずっと後のことだが……。

 

「ああ、そうでしたか。あのお店なら納得です。それにしても、イェンが読書好きなのは知っていますが、こうして食事の時間を削るのは毎度のことながら感心しません。ええとその、つまり、ちゃんと食べていますか?」

「食べた」

 

 大玉の握り飯をふたつ。それから、保温瓶に入れた腸詰めと野菜のスープを少々。

 非番に彼女の自主パトロールに付き合っていると、こうして合間に手頃な場所で食事……というのはよくあることだ。必然的に内容もより持ち運びに最適な物になってくる。

 そして持ち運びに適しているということは、サッと食べられてパパッと片付けられるということでもある。特別早食いでなくとも、食事にかかる時間はそれだけ短くなるものだ。

 なんなら、これでも自分の食べる速さは彼女や他の同僚らと比べて遅い方と言っておこう。

 

「ならいいのですが……えと。あの、まだお腹が空いているようなら小官のピーナッツバターサンドをその、少し食べますか? あっ、もしかしてもうお腹いっぱいですか? もしそうなのだったら断ってくれても全然構わないのですが」

 

 もじもじ……。やや斜め下を向き、手元を見つめながら彼女は言う。

 好意は素直に受け取るべきだ。それが共に学び、並んで育ち、同じものを見てきた竹馬之友なら、尚更のこと。

 

「頂こうか」

「あっそうですか、そうですか。でしたら、はい、こちらをどうぞ……」

 

 ラップに包まれたピーナッツバターサンドが、彼女のウエストポーチから取り出される。

 ……どこかで『そっちかよ?!』と、珍妙な声が聞こえた気がするが、まあ自分の気の所為だろう。

 

「感謝する」

「いえ、遠慮せずどうぞ食べてください。少ないですし、味の保証もなにもできませんが……」

 

 自分の掌にも満たない、しかし彼女の片手には収まりきらないそれを受け取ると、思いのほかひんやりとした感覚が伝わってきた。

 これはきっと、保冷剤と一緒に詰め込まれていたのだな。少し手の中で温めてから食べた方がよさそうだ。

 

「……あの、食べないのですか?」

「少し、温めている」

「あっそう、そうですよね、何だか急かしてるみたいでその、すみません……」

 

 いつになくそわそわとしている彼女に深く踏み込むことはせず、頃合いを見てラップを取り除きひと口。

 ほどよく溶けたピーナッツバターの香りと、間に挟まれた果物の甘味を口の中で感じながら、ふと、そういえばこうして彼女が自らの手で調理した何かを食べるのは初めてだったな、と何気なく思い至る。

 彼女に料理の腕前がどれだけあるのか、自分は知らない。それは逆も然り、だ。

 そうか、そうだったか。こんなところで意外とお互い知らないこと・やっていないことがあったものだ。

 

「ど、どうでしょうか? 口に合えばいいのですが。イェンなら当然知ってると思いますが小官、誰かに手作りのものを食べてもらうという経験は初めてで……」

「ん……」

 

 彼女がやたら不安そうにするのも無理もない。

 揃って実家を出て数年。職場にほど近いアパートに住まう自分たちは、はっきり言って自炊というものを殆どしていなかった。

 なかなか時間的リソースをそこに割けないでいるという言い訳はさておき、交替前にとりあえず近所の定食屋でだとか、当番明けに反省会も兼ねて食べて帰るだとか、何かと外で済ませることが多い。

 たまに、ごくたまに実家から仕送りが届くと思い出したかのように自炊してみたりもするが、そこからお裾分けという発想には至らなかった。──今日までは。

 

「……うまい」

 

 経験不足。つまりそういった経緯で、彼女はこのピーナッツバターサンドを過小評価していたわけだが。

 なんてことはない、普通に美味だった。

 

「そ、そうですか。よかった……」

 

 ほっと胸を撫で下ろして、彼女は口元を緩める。

 そもそもピーナッツバターを塗って果物を挟むだけの料理をどうやって不味くするんだ、なんて無粋なツッコミはテラの彼方に捨て置いて、幼なじみの贔屓目を抜きに太鼓判を押せる味なのは間違いない。

 

「ここ最近、イェンは外でも家でもあまり甘い物を食べていないようだったので、ひょっとしたら口に合わないのではないかと不安だったのです。その、つまり昔と違って甘い食べ物が苦手になってしまったのではないかと。大人になるにつれ、好みがガラリと変わる人もいますから……」

「苦手になったわけじゃない」

 

 言われてみればそうかもしれないが、自分の場合たまたま食べなかっただけだ。

 

「そうみたいですね。……あっ、と、そろそろパトロールに戻りましょう。ちょっと待ってください、小官もすぐに食べてしまいますから……むぐむぐむぐ……」

「焦って喉に詰まらせるなよ」

「はいほうふへふ!!」

「……そうか」

 

 次の週休は彼女を連れて、どこか甘味処に足を運んでみようか。

 頬をまんまるに膨らませた彼女の横顔を眺めつつ、そんなことを考える。

 

 自分たちバディにロドス・アイランドへの出向辞令が下るのは、まだ少し先のことである。

 

 


 

『初めまして、上官。自分は龍門消防署所属のイェンであります。どうぞよろしくお願いします。』

 

プロファイル

 

特殊(SPECIALIST)

イェン

 

【コードネーム】イェン

【性別】 男

【戦闘経験】 なし

【出身】龍門

【誕生日】 1月3日

【種族】ウルサス

【身長】 205cm

【鉱石病感染状況】

 メディカルチェックの結果、非感染者に認定。

 

能力測定

 

【物理強度】卓越

【戦場機動】標準

【生理的耐性】優秀

【戦術立案】普通

【戦闘技術】優秀

【アーツ適性】優秀

 

個人履歴

 

 龍門出身のイェンは龍門消防局の消防員である。厳しい災害現場で培ってきた様々な経験を実践に応用し、ロドスの戦術の幅を広げた。現在は消防署勤めから引き続き、バディシステムのパートナーであるショウと共に消防安全技術の方面の業務もこなしつつ、ロドスの特殊オペレーターチームの任についている。

*1
ちゃんとオススメはしていたのだがその実、問題になる前にさっさと在庫を捌いてしまおうという魂胆が見え見えであった……。


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