真・女神転生オタクくんサマナー外伝 ~ナホトラマン奮闘記~ 作:貴司崎
『やる夫スレ本棚』様の第960話から967話。『やる夫まとめくす』様のその925からその930に纏められています。
「……ヤマトは眠ったみたいだな。とりあえずアイツの部屋に気配遮断と遮音の結界を貼っとくぜ」
「頼むミツヒロ、不眠不休で動ける合一神だろうが精神的な負担は掛かるって事だな。昼間色々と吐き出したから相応に疲れていたらしい」
色々あったヤマトのグランギニョル社での情報整理という名のメンタルケアが終わった後の夜、そのヤマトを除くDAT隊メンバーは彼に内密で拠点の会議室に集まっていた。
「さてと……色々と吐き出させたらヤマトの過去のトラウマとかメンタル、そこから来るアイツの反応とかが思ったよりもヤバそうなのでDAT隊緊急対策会議ー。何かおかしいと思った事があったら挙げてけ」
その目的はヤマトから聞いた話に色々とおかしい部分や疑問点があり、しかもその事に対して本人が不自然なぐらいに気付いていないと言う異常性に対して話し合う為であった。
……ヤマト自身を交えないのはDAT隊も異常性を具体的に把握していないので整理が必要としたのと、本人にこの異常性を気付かせた場合に何が起こるか分からないからである。
「とりあえず明らかに不自然な所としてダアト時代にヤマトだけが御霊を狩れたのは露骨に怪しいな。そんな事が出来ればアイツ以外にもレベル90代まで上げられるだろ」
「自分以外はレベル80程度なのに彼だけはレベル99まで上げられたってには作為を感じるわね。結梨ちゃんも恩恵受けてたからなのか気付かなかったみたいだけど」
「なんか便利なアイテムを売ってくれるヤツも居たって話っすから、これは魔人王がテコ入れしてたんじゃないっすかね?」
「ヤマトを意図的にバトルロイヤルの勝者にしようとしてたのか?」
普通に考えて経験値合一稼げてレアアイテムがドロップする御霊なんて都合のいい悪魔が定期的に発生するなどどう考えてもおかしく、恐らく魔人王がヤマトを援助していた可能性自体はDAT隊も以前から考えていた。
だが、その理由に関しては不明瞭で又聞きの話でもあったので今までは余り気にしてなかったが、今回ヤマトが吐き出した本音に感じ取れた違和感を含めるとかなり妙な話になっていると彼等は考えていた。
「後、ナホビノに対する警句に対する理解も彼はなんかズレてる気がする。創世やらコトワリやらについては伝聞だから確証はないが、そもそも世界を自分の思う通りに変えると言う事は他人や世界の不満な部分を変えたいと思う事じゃねぇかね?」
「彼って自己嫌悪しがちで自分自身に対する不満ばかりであって他人へ不満を抱いている事が少ないし、それで警句の解釈も内向きになってて根本的に勘違いしてるとかじゃないかしら?」
「嘗てのトラウマによる自分自身への不満とかが原因か。ただそうなるとヤマトはコトワリとか創世には不向きな人間な気もするな」
コトワリも創世も基本的には『他者や世界に不満があってそれを自分にとって良い方向に変えたい』と思う事が根底にあり、故に他者に不満をぶつけたり世界を良くしようと思う人間の方が適正があると言えなくもない。
DAT隊は王様でもなく情報も又聞きなので正確な所までは分かっていないが、それでも“創世を成して世界を変えたナホビノ”と“ヤマトという一人の人間”にはズレの様なモノがあるのではと感じ取っていた。
……そんな隊員達の反応を見たヘビクラ隊長は徐に一冊の『調査資料』を取り出した。
「ヤマトの異常性がちょっとだけ見えて来たからな。アイツの過去の事を少し念入りに調べてみた」
「隊長って過去周回の事まで調べられるんすか?」
「んな事出来るわけねぇだろ。……過去周回の事は調べられなくてもこの世界でのヤマトの過去、ナホビノとなってDAT隊に入る前の人柄とかは調べられるさ。アイツもこの世界での過去の事ぐらいは聞けば普通に答えてくれたからな」
この世界でのヤマトは過去周回から漂流して来た神造魔人と融合して合一神となり前世の記憶を思い出したので、当然ながらこの世界で人間ってして生きて来た過去もある。
彼がDAT隊に入った時点で素性ぐらい話調べていたが、ヘビクラ隊長は不満を吐き出した時に感じた違和感から改めてその人格や人間関係などを中心として調べ直していたのだ。
「まず高校時代のクラスメイトに話を聞いたんだが、八坂ヤマトと言う人間は余り自分から人に話しかける事がない内向的な性格であり、自分から意見を言う事は滅多にない人だったらしい。ただ困ってる人がいたら手を貸してくれるタチだったから友人はそこそこいたそうだ」
「資料によると高校受験のバイト先の人間曰くヤマトは余り自分から話し出さない物静かな人間だったが、挨拶はキチンと返したり仕事の手伝いは気を利かせてやってくれるタイプだったから頼りにはされていたと」
「両親は既に死んでいるって話は本人から聞いたが面識のある親戚の話では小さい頃から大人しく、お化けを怖がる様な気の弱い少年であり怒られると過剰に落ち込んでしまう性格だったそうだ。家事の手伝いとかもしてくれる我儘を言わない“良い子”だったらしいな」
総じて『内向的だが善良な人間』と言うのが合一神になる前のヤマトの他人からの印象であり、これ自体は探せば何処にでもいる様な普通の人間の評価なのだが……。
「まあちょっと内気な普通の少年みたいな評価だったんだが、そんなヤマトが前世の記憶を取り戻してナホビノになったとは言え【魔丞 ヘカトンケイル】とか言う高レベル悪魔に拷問されたにも関わらず普通に悪魔と戦えたり仲魔にしたり出来ていたのは今考えると違和感がある」
「確かに最初に彼と会った時、それなら自分も戦うと言ってはいたがそこに何一つ恐怖と言った感情は読み取れなかったしな」
「普通の人間が悪魔業界に巻き込まれた時の反応としてはおかしいわね。合一神とか転生とか言う特殊な環境が原因だと思っていたけど‥……」
そんな普通の人間が合一神になったからと言って直ぐに悪魔業界で戦えるのは不自然だと言われれば不自然であり、ヤマトの異常性を感じ取れた今だからこそこれまでの彼の言動にDAT隊は強く違和感を感じていた。
「前世でも今と同じ性格だったとすればダアトの地獄の様な環境で戦えてた事自体がおかしいっすね。それでも無理矢理に自分を押し殺して無理に戦っていたから人格や認知に歪みが出たとか」
「アイツは戦闘中に自分の精神が行動に影響しないとかも言っていたが、改めて考えてると精神を無理に切り離して機械的な行動パターンで戦わなければならなかったのかもな」
「今までの彼の人格はある種のペルソナって事かしら。前世でも今でも強いナホビノとしての仮面を被ってずっと戦っていた、さながら戦地に無理矢理放り込まれて戦わされ続けてきた少年兵みたいな感じで」
つまりはヤマトが今まで見せてきた顔は嘗てのトラウマから生み出された仮面、或いは最早その在り方が側面になってしまったのかもしれないが、とにかく今までの彼の人格や態度はその一面でしかなく本来の人格から辛い経験をした影響で変わってしまったとDAT隊は考えていた。
……経験で人格が変わる事自体はそこまで珍しいモノではなく仕事場でのキャラ作りなどでやってる人は多いのだが、問題はそもそも今の世界の彼がナホビノになった時点でそんな性格だった事なのだ。
「それだけなら前世でクソみたいな目に遭って人格が変わったってだけの話なんだが、今のヤマトはこの世界で生きてたアイツに神造魔人が融合して前世の記憶を思い出した状態だからな」
「最初は前世の記憶自体が曖昧で齟齬や混乱が多かったと言ってた筈で、なら人間だった頃のヤマトの人格と俺達が見て来たヤマトの人格が始めから異なるのは不自然に過ぎるわね。前世の記憶が曖昧なままに前世で培った仮面を最初から付けてたって事になる」
「前世の記憶が戻った時に余りのトラウマから記憶を封印して、その影響でダアト時代の仮面を最初から被っていたとかかしら」
実際、アンヌの言う通り前世におけるダアト時代の経験がヤマトの人格に影響が出る程のトラウマであれば、それが原因で記憶を忘れたり認識などに影響が出るのは十分に考えられる。
それは先程吐き出させた不満から見た以上に彼のトラウマは根深いと言う意味でもあるとDAT隊は思っていたが、それとは別の懸念点もあるってヘビクラは考えていた。
「それだけなら当初の予定通りにこれから長期的なメンタルカウンセリングをさせるだけなんだが、そもそもヘカトンケイルに襲われて生き残ってそこに偶然前世の相棒であるアオビトが現れてナホビノになって窮地を脱した……と言うのは余りにも都合が良すぎるのでは?」
「まさか魔人王辺りが何かしたんじゃないかと?」
「まだ推測の段階だが可能性はあるだろ。ダアト時代でも裏で糸を引いてたみたいだし、あのヘカトンケイルも魔丞にしては妙な行動が多かったからな」
特殊な異界を作り誘拐して来た人間を拷問してマガツヒを集めると言う異質な行動を取った魔丞、それに誘拐された人間が偶然前世に縁があった神造魔人と融合して合一神となり魔丞を倒す……と言うのは今思うと流石に都合が良過ぎるとヘビクラは語る。
「つまりヤマトに対して魔人王が何か仕掛けてる可能性があると」
「ああ。ただアイツの異常性も何処から何処までが仕込みで何処から何処までが本人の意思なのかが分かりにくいんだよな。多分トラウマに沿う形で思考を誘導してるんだろうが」
「他人の心の傷を利用して暗示を掛けたり、人格を歪めて思う通りに動かすのは洗脳の基本っすからね。にしても魔人王の目的もはっきりしないっす」
「ゲヘナの連中は魔人王は習合によってヤマトを取り込むのが目的とか言ってたけど、それならやり方が回りくどい気もするがな」
ダアト時代にヤマトを援助したのは彼に創世を成させた後に取り込むなり引き入れるつもりだったと言うなら理屈が通らない訳ではないが、ダアト時代の彼は死んでおり態々この世界でまた干渉する理由になるのかどうかが分からないとDAT隊は考えていた。
そもそもコトワリやら創世やらの情報が主にヤマトやアオビトや結梨からの伝聞で、彼等の認知が弄られてる可能性がある以上は魔人王が何処まで仕込みをしてるのかは想像と推測で考えるしかないのだ。
「情報が少ないし情報源も信用出来ないから魔人王の狙いがイマイチ分からんな」
「うーん、前にナホビノや創世の事を某所の覇道神に例えたけど、ヤマトって本人の性格的に求道神よりじゃない?そして求道神に覇道神のガワを被せて座に突っ込ませる話とかもあった様な」
「ケンジロウ中々冴えてるな。……コトワリや創世は世界を望む方向に変えたいとする行い、つまり自分以外への関心が最低限必要だが、それがなく自分自身にしか関心のない者が創世を行えば世界がどうなるかって話か」
つまりは王としての資格も責任も矜持も持たないナホビノが創世を行う、それによって生まれた世界かその行動自体が魔人王の狙いではないかと言う仮説である。
実際にヤマト自身の自己評価の低さや警句に関する解釈の齟齬、更には不満点も自分の事ばかりで創世した世界が滅びた事に関する関心そのものが薄い辺りがそもそも“世界を創世するナホビノ”に向いていない点だとも考えられる。
「つまり世界なんてどうなっても良いってナホビノに創世させて滅人滅相するのが魔人王の目的と?」
「以前にヤマトから聞いたアマラコンピューターとやらの情報では、魔人王は目的の為なら世界一つ使い潰すのも辞さないタイプみたいだから有り得なくはないな」
「はーマジでクソな相手だな。全く情報が入ってこない辺り多分干渉は必要最低限で結果出す黒幕レベルが高いヤツなんだろうが」
「直接仕掛けてくるならやり様はあるんだけどね……」
……とは言え、この考えは想像どころか妄想でしかないので固執するのも危険なので一旦置いておいて、まずは現状ヤマト達に関して明らかになってる事実からどう行動するかを決めるべきだと彼等は考えた。
「分かってるのはヤマトのトラウマはさっき吐き出した以上に根深い代物だって事と、魔人王が何らかの目的でヤマトやアオビトに仕込みをしている可能性が高いって事だな」
「想像や妄想ヘビクラ置いておいてまずは彼のメンタルをどうにかするべきね」
「何処に地雷が埋まってるか分からんからな、魔人王の仕込み含めてヤマトの精神状態を把握する事からやらんと」
「最善策はヤマトを前線から下げさせて長期的なメンタルカウンセリングしつつ、記憶の回復と暗示などがあるかを探りながら過去に向き合わせる事なんだが……セプテンさえ来なければなぁ」
真っ当にヤマトのトラウマをどうにかするなら長期的なメンタルケアでもすれば良い話なのだが、セプテントリオンとの決戦が近付いている現状ではそんな事をしている余裕はない。
彼を前線から話すにしてもセプテントリオンとの戦いでレベル90越えの戦力を手放すのは難しく、何よりトラウマを自覚出来ていない以上は結梨達が戦っているのに自分だけ戦わないのは彼自身が拒絶するだろう。
「一応グランギニョル側には俺達DAT隊だけで独立して配置して囮にする感じの配置にする様に言ってある。万が一俺達が何らかのトラブルで戦闘不能になってもグランギニョル側だけで戦闘を続けられる様にな」
「独自行動であれば機能していれば防衛が楽になるし、機能停止でも影響は最低限で済みますからね」
「ヤマトにどんな地雷があるかも分からないっすし」
ノリで新人隊員に迎えた人間が思った以上に厄ネタだった事に頭を抱えるDAT隊だったが、それでも彼等は“ウルトラマンの防衛チーム”を真似ている者として仲間を見捨てたりはしなかった。
「とりあえずセプテンが終わった後に時間を作って無理矢理にでもメンタルカウンセリングを受けさせるか。……やった事の責任は自分が取らねばならないのは正しい意見だが、それが分からないぐらいに傷付いた相手にならまずは責任に向き合える所まで導くのも大人の役割だろうよ」
「そうね。責任から目を逸らすのが正しい訳ではないけれど、責任を背負えば潰される様な子供に無理矢理責任を背負えと詰め寄るのはダメでしょうよ」
そんな隊長と副隊長の言葉に頷く他の隊員達。実は彼等も大概昔にそれぞれの理由で色々あって悪魔業界に嫌気がさしたりして、もういっその事全力でふざけるかってノリで防衛チームごっこをやっていたと言う面もある。
世界が終わる噂の中で活動を続けていたのも防衛チームムーブを優先しただけではなく、いっそ世界が滅びてもまあ良いかぐらいの気持ちで好き勝手していたと言う面もあったのだ。
「そんな俺達でも防衛チームとかやってる内に気持ちの整理が出来て過去の因縁に決着を付けたりしたからな。過去に向き合うって責任を取るのに時間が掛かる人だって当然いるのさ」
「私達は趣味で防御チームやってる割と碌でもない連中だし評判もそんなに良くはないけど、それでも仲間を見捨てずにキチンと過去に向き合うまで面倒を見るぐらいはするわ」
「ヤマト達もどっかの滅人滅相と違って善人ではあるからな。多分ダアトでは環境とか状況とかが何もかもが噛み合わなかったんだろう」
だからこそ、そんな自分達でも仲間達同士で色々やってる内に今ではそこそこ真面目に社会人やれてるぐらいには真っ当になったので、例えヤマト達がどれだけトラウマがあって過去に罪を犯したとしても立ち直るまでは面倒を見ようと普通に思っていた。
「とりあえず長期的なメンタルケアは必要としてセプテン戦はどうするっすかね。戦闘中で闇堕ちは勘弁っすよ」
「ヤマトも戦闘には問題ないと言ってはいたが出来るだけフォローするしかあるまい」
「余り厳しい戦場に連れて行くのは避けた方がいいかもな。正直言って闇堕ちフラグ地雷が何処に埋まってるか分からないから」
「レベル90越えの味方がいきなり敵になるイベントは勘弁だしな。どうも世界の命運賭けて戦うのがトラウマみたいだし最前線は無理か」
「何処に地雷があるか分からないからヤマトに事情を説明するのもリスクがあるのよね。本人が自分で気付くのが一番良いんでしょうけど」
とりあえず差し迫った問題であるセプテントリオンとの戦いを闇堕ち地雷を抱えたヤマト達と共に乗り越えなければならないので、どうにか彼のメンタルに負担を掛けない方向でフォローしながら凌げる様にDAT隊は極秘の作戦会議を夜通し続けていったのだった。
──────◇◇◇──────
『久しいな、我が王よ』
『幻魔、フィン・マックール』
『俺の、仲魔だった男……』
そうして密かに色々な準備をしてセプテントリオン戦に臨んでいたDAT隊だったが、ヤマトの嘗ての仲魔である【幻魔 フィン・マックール】の奇襲により食い縛りすら許されずに討ち倒されて地面に倒れていた。
そして唯一倒されなかったヤマトは彼自身の罪と罪悪感の象徴である嘗ての仲魔達を率いた【合一神 ダヌ】と相対する事となっていた。
「……やりたい事とやろうとしてる理由は分かるし、お前達にその権利がある事はまあ理解はできるんだが……やり方とタイミングが悪すぎる。やっぱテオゴニアとか言うアポイントメントもTPOも知らない野蛮人共は怖いね、戸締りしとこう」
そして、その光景を都内にある適当な建物の一室に
そんな彼女の後ろに一人の異様な雰囲気を漂わせる男──魔人王の仲魔である【邪神 セト】の人間態が姿を現した。
「……確かあのナホビノはお前が色々と手を加えた者であったな。現状はどうなっているのか解説してくれんか?」
「セトか、事情は大体知ってるでしょうに」
「あの【ダアト】と名付けた世界で私は寝ていたから詳しくはないぞ。……なにぶん周りで闘争が続いているのにこうして待機しているだけだと暇で仕方ないんだが」
「それで私の“つまらない話”が聞きたいって? ……まあ良いわ、どうせアイツらの会話なんて大した意味もないし」
相手の事を理解していないカミサマと相手の事が理解出来ない人間が話をした所でまともな会話になる筈ないでしょ、そうつまらなさそうに宣う魔人王を見てセトは暇つぶし程度にはなりそうと楽しげに嗤った。
「アレは私が『自らが望んだ創世を成せないなら同じ望みを持ったナホビノを創って仲間にすればいい』と考えて作った神造魔人と融合した合一神、その中でも最も私の望みである“この繰り返す世界の破壊”と言う目的に近い創世を行えるかもしれなかった“最高傑作”だよ」
「ほう?」
嘗て失われた大切なモノを取り戻す為、或いは大切なモノを取り戻すことすら出来ない挙句にソレを犠牲にして尚醜く繰り返すだけの世界を壊す為に暗躍を続ける魔人王、そのもの幾つかの計画の内『世界を壊せるナホビノ』を作るプランによって生まれてしまったのがヤマト達である。
その計画は世界や座を壊して終わらせるのは世界を己のコトワリで塗り替えたいと思う者なら絶対にやらない。何故なら世界を変えたいとは世界や他者を重視していると言う意味でもある故、逆を言えば世界を滅ぼせるのは世界や他者に価値を見出さない“王としての資格なく創世を成す”者が必要である。
……と言う考えを実現する為にそれが出来る人間に巡り会う事を期待して様々な世界に改修した神造魔人をばら撒くプランだった。
「最も、こんなナホビノ生産計画が上手くいく筈がないと試算してたから早晩打ち切って、研究で得られた神造魔人の技術だけを各周回で現地勢力に取り込む様の技術ってして転用した上でオマケでブラックボックス部分にちょっとした仕込みをしてただけ」
「だが、アレが最高傑作なのだろう?
「だって神造魔人をばら撒いて条件を満たす確率なんて1%にも満たないし、その上で狙った通りに成長させるなんて無理があるプランだった。……その筈だったのに偶然に偶然が重なって上手くいったのがあの“ダアトのナホビノ”よ」
そう言いながら魔人王へ虚空から嘗てのダアト時代のヤマトの事を記録した資料を取り出す。ダアト時代から魔人王は自ら作った神造魔人によりナホビノとなった彼の情報を可能な限り集めていたのだ。
「彼【高松ヤマト】……この世界では【八坂ヤマト】と呼ばれている様だけど、ダアトと呼ばれるボルテクス界を発生させた世界では悪魔業界に関わる事はない何処にでもいる普通の高校生であり、内向的な性格で人に話しかけるのが苦手、自分から何か意見を言わずに他人に合わせるタイプの人間だったみたいね」
「ふむ、あのナホビノの人格とは大分差異がある様に見えるな」
魔人王が語るヤマトの人格評価はDAT隊が調べてこの世界での元々の彼の人格と凡そ同じであり、本来ならごく普通の人間として悪魔業界に関わる様なタイプの人間ではなかった。
だが、過去周回の彼は不幸にもダアトと名付けられた超大型ボルテクス界に巻き込まれて、そこで偶然にも魔人王が生み出した神造魔人の知恵として合一神になってしまう。
「そんな合一神になったヤマトだだけでは本人の性格からか初めは悪魔を怖がってまともに戦う事すらも出来てなかったわ。ダイモーンを倒す時も悲鳴をあげていたし、最初に交渉したピクシー相手にも舐められて魔石を持ち逃げされるぐらいにはダメだったし」
「ますますあのナホビノとは印象がかけ離れたな」
「一応私の神造魔人から生まれた合一神だったから見てたけど、この有様だったから私も最初はこれはダメかなと思ってたわね」
だが、悪魔が蔓延る地獄の様なダアトの環境で怖いから戦えないとは話がいかず、更に彼自身も恐怖に震えながらもガキに囲まれる
それ故に学校が壊滅したせいでダアトで彷徨っていたクラスメイト達と遭遇した時、彼等を助ける為にどうにかして戦おうとしたのだ。
「そこで彼は仮面を被る事にしたのよ、戦闘で悪魔を恐れる事などなく悪魔との交渉でも怖気付かない強いナホビノと言う仮面を」
「成る程、それでか」
「私が作った神造魔人には戦闘・悪魔交渉補助用の精神調律システムやマニュアルもあったから、それを参考にして優秀なサマナーの振りをするぐらいは出来るだろうとアオガミ側からの助言もあったしね」
そんなヤマトの強いナホビノと言う仮面を被っての活動は上手くいき、神造魔人のサポートシステムの恩恵もあって戦いには向いていない彼であっても悪魔との戦闘や交渉も問題なく出来る様になった。
「つまり元の自分では戦えないから戦えるキャラを作っていたと」
「俗っぽい言い方をすればその通り、仕事場と自宅でキャラを変えてる人と同じ事。……ただし、ダアトと言う異常な環境でそれが出来たのは神造魔人の補助だけでなく、彼に仮面を被ってキャラを演じる才能が
だが、合一神一人だけでどうにか出来る程にダアトと言う環境は甘くはなく、加えて合一神になった当初は仮面の出来にも綻びがあったので完璧に『強いナホビノ』として振る舞えず人間としての弱さをどうしても出してしまう事も多かった。
そして合一神に成り立ての実力は多少強いサマナー程度であった事もあり、彼が人としての弱さを見せる度に守ろうとした戦う術のないクラスメイト達が死んでいった。
「悪魔に慈悲を見せて見逃せばその悪魔が人を喰らい、人間の話を聞こうとすれば狂人であったそいつらが人を殺す。敵を倒す事を僅かに躊躇えば共に戦っていた仲間が死ぬ。……そんな経験を幾度も味わった彼は『弱い人間としての心は悪魔との戦いでは価値などない』と思い込む様になった」
そして度重なる悲劇を経験したヤマトはその度に“強いナホビノとしての仮面”を修復して造り替える事を何度も繰り返し、そんな歪に造り替えられた仮面で傷付いた“弱い人間としての心”を無理矢理覆って戦い続けた。
その果てに完成したのが味方に被害が出る前に敵の事情など一切気にせず早急に倒す、相手の話を聞いて慈悲など見せる必要などない、凡ゆる手段を使ってでも強くなってどんな相手にでも戦える今の強いナホビノとしての戦闘用人格である。
「幸いというか彼には戦いに関する才能に関しては十分にあったわ。元から私の神造魔人には戦闘補助プログラムとかもあったけど、それを元により効率的な戦闘方を編み出して実戦で使用できる程度には」
「確かに戦闘技術は相当に洗練されている様だが」
「私も御霊湧きポイント作ったりアイテムの販売したりなど色々と贔屓してはいたけど、それがなくても普通にレベル80代までは行けたし、多分最後に彼が8割方勝ち残れたと試算出来る程度には戦いの才は秀でていたわね」
最も、どれだけ戦う才能があって強いナホビノの仮面は創れてもその下にある人間としての心は弱いまま、むしろ多くの悲劇で傷付いてしまったが故に重度のトラウマを抱えたボロボロのメンタルになってますます悪化していった。
彼は悪魔と戦う才能はあっても悪魔と相対出来るほど心に強さがない、有り体に言えば余りにも悪魔との戦いに向いていない“普通の弱い人間”でしかなかったのだ。
「それでも彼は仲間を守る為に周りに殆ど内心を悟られないようにしながら必死になって戦い、余りにも仮面を被るのが上手すぎたせいで自分自身すらも仮面こそが本当の自分だと思い込む様になっていったわね」
「弱音を吐き出すような事はなかったのか?」
「幾度の悲劇を得た後は殆ど強いナホビノの仮面を被ったままになってたわね。まあそうでもしないと戦えなかったんでしょうけど。……けれど、彼の仮面の下が“弱い人間”である事は変わらず、それ故に彼の精神には無意識の内に歪みが出てきてしまった訳だけど」
当たり前の日常を壊した悪魔への恐怖、そんな悪魔と戦う為に仲魔にしなければならない嫌悪感、それでも戦わなければ人が死ぬから無理矢理動かねばならない不満、そして戦いで活躍した“強いナホビノ”としての自分にのみ向けられる信頼と信仰。
……そういった要因が重なったせいなのか、いつしか彼は仮面の下で『弱い人間としての自分など誰にも必要とされていない』と思う様になってしまったのだ。
「誰しも強くて責任を背負えて格好いい
「中々言うじゃないか」
「少なくともダアトにおいて人間から称賛を受けるのも悪魔から興味を持たれるのも“強いナホビノ”としての彼であって“弱い人間”としての彼ではない、むしろ弱い人間をしての面を出せば次々と悪意が襲いかかるのだから弱い人間としての自分など必要ないと思うのは仕方のない事だったんでしょう」
その事に加えて仮面でしかない強いナホビノだけを崇める周りに対して心の奥底では不満と強いストレスを感じる様になっていて、だからこそ彼を『強いナホビノ』『王としてのナホビノ』として扱うだけの人間や悪魔の事を心から信じられなくなっていた。
そして内心の不満を仮面で無理矢理押し殺して目を背けながら戦う事を強いられ続けていた彼の精神は歪んでいき……そこに魔人王が神造魔人のブラックボックスに仕込んでいた“細工”が機能し始めた。
「まあ、細工といっても大したモノではないのだけど。戦闘用の精神調律機能にある戦闘時のストレス除去の為の認識操作機能の一部に『過度なストレスが掛かっている時に心的負荷が掛かる言葉、特にナホビノや王としての責任やそれに関わる言葉から目を逸らす』様なフィルターを設定しただけ」
「ああ、それでイマイチアイツらの会話が噛み合ってないのか」
「ストレスからの逃避は人間として当たり前の精神行動、故に目を逸らすのは彼自身が望んだ事で私の細工はそれをほんの少し後押ししているだけだから、状態異常に高い耐性を持つ合一神であっても十分に有効な暗示となり、王としての責任やそれを望む他者が目に入らないナホビノが出来上がる」
そんな目的で仕込んでいただがそのフィルター自体はそこまで強力な暗示ではなく心的負荷が掛かっていない状態であれば基本的に機能せず、機能している状態でも信用できる人間からの言葉ならば掛かるストレスが少ないので通じる程度のモノである。
王としての責任から目を逸らす機能も己のコトワリで世界を変えたいと思う者には良かれ悪しかれ王としての自覚はあり、その場合は王に纏わる言葉は聞いてしまうのでコトワリを得た者には意味のない機能ではある。
「まあ、実際には王としての責任やコトワリを持たず過度なストレスを受けてる者にしか効果はなく、ナホビノになってボルテクス界での戦いに巻き込まれれば良かれ悪しかれ世界を思う通りに変えたいと願ってコトワリに目覚めるから使えない機能ね。だからこの計画は無理があると廃棄されたんだけど」
「だが見た限り機能はしてる様だが?」
「だって彼はダアトでの戦いにおいて一度たりともコトワリを得た事はないもの」
魔人王の視点を借りてヤマトとダヌ達の会話を見ていたセトがそう言うが、それに対して魔人王はヤマトが王としてあった事は一度もない以上は機能するだけと述べた。
「仮面を被るのが上手い辺り元々彼は他人や世界に自分を合わせる方が得意なタイプ、だからこそ世界を自分の思う通りに変えようと言う悪く言えば“自分勝手”なタイプではない」
「まあ王とは自分勝手な人間の方が向いていると言えなくもないか」
「そんな彼だからこそ殆ど全ての悪魔や人間の強者が世界を己の思う通りに良くしよう王を目指して争っていたダアトで、唯ひたすらに目の前の虐げられる弱者を守る為だけに余計な二心を抱く事なく戦い続けた」
或いはそれは『
そもそも彼の本質は悪魔と戦う事が怖くて元の日常に帰りたいと思っている弱い人間なので、英雄の仮面を被って戦う事に必死で世界の事なんて考える余裕などなかったのだが。
「だからこそ彼に対して王としての責任やら警句やらを言った所で本質的には理解できない。そもそも王として在った事などない普通の人間なのだから」
「話が通じていないのはそう言う事か。しかし、王としての資質がない事にあの元仲魔達は気付かなかったのか?」
「さぁ? まあ彼の仮面は出来が良かったからね。周りの悪魔が王としてのナホビノを求めていたからそれに合わせて振る舞ってたし、その方が悪魔ウケがいいからねぇ」
そう皮肉げな笑みを浮かべながら王ではない只の人間に王としての責任を問うと言う無意味で愚かな行為を繰り返すフィン達を見る魔人王。彼はただそうしなければならないから王に見える薄っぺらな仮面を着けていただけなのだ。
悪魔のいない日常からダアトに突き落とされた彼にとって、そこにいた八百万の悪魔達は戦って倒すか仲魔にでもしなければ自分を含めた弱い人間を……敵であれ味方であれ悪魔に
「それに加えて彼自身の内心では王になって世界を思う通りにしたいと言う“下らない願い”によって他者を虐げる者達の事を嫌悪していたからね。そう言った連中が彼にとっての大切な人達を殺していったんだから」
「世界を変えようとする事を下らないとするか……哀れだな」
「更に強いナホビノとしての仮面を付けて地獄の様な環境で戦いを続けてきたストレスから、彼は自分を『ナホビノ』『王』として見る者達を心の奥底では信じられなくなっていたわ」
そう言った事情があって彼はナホビノでありながら王として在らずに王としての在り方すら嫌悪する様になり、そこに魔人王の認識フィルターが合わさって王にとって必要な警句や情報を不快なストレスと無意識のうちに判断して切り捨てる様になってしまったのだ。
……とは言え、ベテルに合流した直後の彼はまだ心的負担がそこまでではなかった事、そして元の彼を知っていたクラスメイトとの交流もあったのでコミュニケーションに問題が起きる事はなかった。
「ストレスが少なければフィルターは殆ど機能しないからね。特に生き残ったクラスメイトとの交流は彼のメンタルを維持するのに貢献していたわ。彼にとってクラスメイト達は元の日常を象徴する存在であり、自らが必死で戦って守り抜く事が出来た証拠でもあったから」
「だが、最後には皆殺しになった訳だがな」
「まあそうね。……彼は確かに弱い人間で自分をナホビノとしか見ない者達に不満を持ってはいたけど、それでも守りたい当たり前の日常、その象徴だったクラスメイトがいたのなら彼等を守る為に最後まで戦えたでしょうね」
当時のヤマトにとって生き残った聖華学園のクラスメイト達は彼が仮面を被ってまで恐ろしい悪魔と戦う事になった理由であり、弱い人間として振る舞った代償として死なせてしまった罪の象徴であり、それでも生き残った者達は戦い抜いて守る事が出来た“彼にとって唯一戦いで得られた誇り”であった。
「特にデビルバスターではないクラスメイト……嘗ての自分と同じ戦う力がない弱い人間を僅かでも守れた事は彼にとって何より“誇り”となっていたわね。そう言った子達との交流は彼にとっても数少ない精神が安らげる時間だったんじゃないかしら」
「まあ戦いそのものが目的な異常者でもなければ誇りや達成感がなければ戦いなどやってられないだろうな」
「仮にベテルに保護された彼等が一人でも生きていれば私の仕込みは何一つ機能せずに終わったでしょうね。或いはそこから王としての自覚や誇りが芽生えたかもしれない。……最もそうはならなかったから彼は敵となったモノを全て殺す様なナホビノに成り果てたのだけれど」
ヤマトが己を犠牲にしてでも守り抜く事が出来たクラスメイト達、そんな彼等だったが戦う力を持たない弱い人間を“ダアトの悪魔達”は当然の様に踏み躙ったのだ。
……ベテルに保護されていた彼等が
あとがき・各種設定解説
DAT隊:裏では色々と頑張ってた
・ヤマトの異常性に気付いてからはどうにかメンタルケアしようと裏で話し合っており、可能な限り彼のメンタルに負担が掛からない様にしつつ魔人王の干渉がどの程度なのか把握する為に動いていた。
・ダアト時代の御霊関係の事を話さないのもどこに魔人王げ仕掛けた地雷があるか分からないかで、セプテントリオン戦でもヤマトが暴走しないかとか魔人王が干渉してこないかを計画しながら動いていた。
・テオゴニアには『お前達の気持ちは分からんでもないが頼むから時期と接触方法を考えてくれ! 今メンタルカウンセリング的に重要な時期だから! ちゃんとアポ取ってくれれば話を仲介するし!』と思ってる。
・実際、ヤマトから信用されていて事情を知ってる彼らが仲介していればヤマトとフィン達はすれ違いなく話を進められた公算が高く、見ていた魔人王もそれが分かってたのでセプテン戦で忙しい時に仕掛けて初動で彼等を全滅させた事を『アホかアイツら』と思っていた。
魔人王:大体コイツのせい
・セプテントリオン戦ではどこの味方をする理由もないので完全に傍観の姿勢で観戦の構え、ヤマトとフィンの相対以外は結果がどうなっても自分には関係ないので無意味な干渉はせずに潜伏している。
・と言うか現世のレベルが高くて迂闊に動いたら潰されるので目立った行動話控えており、東京受胎アゲイン含めて複数のプランを考えているがどれも無理そうだなって考えて一旦凍結しつつ隠密に全振りしてる。
・ダアト時代のヤマトに対する直接的な干渉はダアトと言うボルテクス界が出来た原因である事を除けば仕込み付き神造魔人技術をばら撒いた事、御霊やアイテムの援助をした事、そして“最後のひと押し”をした事のみ。
・この世界ではヤマトに対してDAT隊がグッドコミュニケーションを取り続けてメンタルケアされてたのでどうしようか様子見しつつ悩んでいたんだが、そんな信用できる人間を皆殺しにした上で闇堕ちバッドコミュニケーションを連打するテオゴニアが現れて一周回って呆れている。
ヤマト:重度の精神病患者
・普通の高校生がいきなり悪魔蔓延るボルテクス界に放り込まれてまともで居られる筈がない、それでいきなり力を得ただけで悪魔と戦ってボス倒すとか出来るのは
・周りは金色のガッシュ的な感じで王を決める戦いやってるけど、彼の視点ではホラーが超苦手な人に無理矢理超高難度ハードコアホラーアクションデスゲームをやらされてるみたいな感じだったのがダアト時代。
・アクションゲームが得意だったのでデスゲームに巻き込まれた友人達を助ける為に必死でプレイして、クリアに必要だったから悍ましい悪魔と話す為にキャラ作ってイベントや会話はクリアに必要な情報以外スキップしてメンタルを保ちつつ誰よりも頑張った。
・でも友人達は全員死んでしまってそれでもクリアだけはと必死になって、友人達を殺した“裏切り者達”を全員皆殺しにした上でようやくクリアしたので『もうやらんわこんなクソゲー』と投げ出してトラウマものの記憶を封印した……例えるとそんな顛末。
・世界を自分の思う通りに良くしようとは一度も思わずただ友人達の様な弱い人間を助ける為だけに戦ったので善人である事に間違いはないのだが、世界や他者を良い方向に導こうと言う『王』への適正や誇りが致命的に欠けていた。
・彼自身が仮面を被っていた事もあるがその『人としての優しさ』には価値があると言ってくれる人や、彼が後を託せると思える程に信じられる“優しい王様”はダアトには居ませんでした。
読了ありがとうございました。
本家様とはパラレルワールドなので各種設定には齟齬がある場合もありますがご了承下さい。次回は魔人王解説後編(バッドエンドまで)予定です。