真・女神転生オタクくんサマナー外伝 ~ナホトラマン奮闘記~ 作:貴司崎
『やる夫スレ本棚』様の第960話から967話。『やる夫まとめくす』様のその925からその930に纏められています。
「仮にベテルに保護された彼等が一人でも生きていれば私の仕込みは何一つ機能せずに終わったでしょうね。或いはそこから王としての自覚や誇りが芽生えたかもしれない。……最もそうはならなかったから彼は敵となったモノを全て殺す様なナホビノに成り果てたのだけれど」
「ふむ、まあ数少ない“誇り”となっていた守る事が出来た人間を失って堕ちたか」
セプテントリオンとの戦いが続く中で【魔人王 コンス・ラー】と【邪神 セト】は噛み合わないすれ違いを続けるヤマトとフィン達を遠目で見ながら、魔人王曰く『つまらない話』を続けていた。
「そう。……混沌の悪魔含めたナホビノになる事を狙った悪魔の軍勢がベテルが保護していた知恵を持つ人間を狙った襲撃事件、及び同時にテオゴニアのスパイとベテルの一部研究者がやらかした神造魔人によるナホビノ化実験の失敗で彼が守った戦う力のないクラスメイトは全員死んだからね」
「成る程、悪魔だけではなく味方にも守るべき者を殺されたのが堕ちた理由か」
「最も当時の彼にとって最も親しかったクラスメイト達を殺したのはアブディエル含めメシア教とベテルの過激派だったんだけどね」
それは自分達に敵対的な悪魔の知恵を持つ人間を混沌の悪魔達の仕業に見せかけて謀殺して、創世を成そうとするライバルを蹴落とそうとするメシア今日の天使達が行った策略であり、それをベテルの一部は知っていながら混沌の悪魔が創世を成す可能性を潰す為に見殺しにした。
その時点でヤマトがそんな裏事情を知る事はなかったが、それでも彼にとって嘗ての日常を象徴するクラスメイト達を守ろうと必死になって混沌の悪魔達と戦ったのだが……。
「ベテルに保護されていた戦う力のないクラスメイト達は全員死亡、更に神造魔人と合一して暴走した【白井夢結】およびそれを止めようとした【一柳梨璃】は彼の目の前であり死んだわね。ちなみにこの辺り私は直接的には何一つ干渉してないわ」
「“干渉”はしていないが“鑑賞”はしていただろうがなぁ」
「そうね、見ていたら勝手に私にとって都合の良い展開になって驚いたわ、……そうして自らを一人の人間として見てくれて、彼にとって辛い戦いの中で唯一見い出せた“誇り”と言える者達を失った彼の精神状態は一気に悪化した」
彼にとってダアトでの戦いは多くの悲劇を見せられてそれでも戦ったら自分の選択で仲間が死ぬ事になるだけの辛く苦しいだけのモノだったが、だからこそ自分が守れたと言えたクラスメイト達は唯一と言っていい人間としての心の支えとなっていた。
そんな彼等を失った事によりヤマトの心には致命的な傷を負わせる事となり、その傷付いた心を覆い隠す為に傷付いた強いナホビノとしての仮面をより強固に造り直してズタボロになった弱い人間の心を完全に覆い隠しながら仮面と本心の区別が付かないぐらいに“癒着”させていった。
「それからのもう誰も失わせない為にと自分に言い聞かせながらただひたすらに強さだけを求める様になったわ。まあ何も下手な事を考えずに“強いナホビノの仮面”の行動ルーチンに沿って動き続けないとこの時点で壊れていたでしょうからね」
「ストレスから目を逸らす様に仕込みをしていたからな」
「まあ私の仕込みが助長したのもあるけどストレスから逃げるのは人として当たり前の行為だから、本人の無意識下での防衛本能が一番大きいでしょうけど。……出来の良い仮面のお陰で周りには経験した悲劇を2度と起こさない様に奮闘する王の様に見えてたみたいだけど」
だが、誇りになり得たモノを失い傷付いてボロボロになった彼の心は仮面を外す事すら出来なくなっており、やがて自分が仮面を付けている事すらも認識出来なくなっていった。
「まあ、だからといって私が設定した御霊沸きポイントを割り出し、一週間ぶっ続けで悪魔退治しながら御霊狩り周回したりとかは予想外だったけど。あの時はダース単位で【万里の眼鏡*1】を要求してきたから陰で延々とメガネ内職するのが一番大変だったわ」
「お前が設定した御霊は耐性がランダム変化するよく分からん仕様だったからな」
「そういう仕様になってしまうんだからしょうがないでしょう。ベテルの一般職員として潜入しながら各種データを集めて、更に耐性やスキルまで看破出来るアイテムを作るのはやる事が多くて大変だったんだけど」
魔人王本人がダアトで直接的な干渉をしなかったのはリスクを考えたりそうする必要がなかったのもあるが、そもそも単純に表向き真面目にベテルの職員をしながら裏で調査しながらアイテム内職するのが忙しかったからでもある。
「本来なら王としての適正がないナホビノを勝たせる為に下駄を履かせる仕込みの一つだったんだけど、彼が戦闘分野の才能があって仕様の裏を付けるぐらいに頭が回ったせいでダアトでは誰も勝てないぐらいに能力がバグったのよね。まあ強くなった理由はそれだけでもないけど」
「ああ、確か御霊なしでもレベル80代までは余裕だったのだったか。ボルテクス界中を走り回って悪魔を倒し続ければそうもなろうか」
「それもあるけどそれと御霊だけが理由じゃないわ。……彼がダアトで最も強くなった一番の理由は誰よりもダアトで王を決める争いに直接関わらなかった人間と悪魔から
彼は強さを求めてダアト中を奔走しながら自己強化に励む中でも、そんな中で王を巡る戦いに巻き込まれて踏み躙られる弱い者が助けを求めていれば必ずそれに応えて手を差し伸べ続けていた。
その結果として相手を救えずに更に心が傷付いた事も多かったが、少なくとも彼はどれだけ傷付いても助けを求められた声を聞き逃す事、そしてそこから背を向けて逃げた事は一度もなかったのだ。
「経験した悲劇から目を背ける為に強いナホビノとしての仮面による行動ルーチンで動いただけ、或いは守れなかったクラスメイト達への代償行為に過ぎなかったのかもしれないけど、それでも彼が助けを求める声に人間としての善意から答えて多くの人間を救ったのは事実よ」
「それが強さに結びつくのか?」
「ええ、だって純粋に善意から助けられたのなら相手に感謝するのが普通でしょう? そしてナホビノはそう言った自分に向けられた
守りたかった嘗ての日常の象徴であるクラスメイト達を失い、自らも仮面を着けて強いナホビノとして振る舞わなければ壊れてしまうヤマトであったが、それでも助けを求められたらどれだけ先に悲劇が待っていても手を貸したのは根底に“人としての善意”があったからなのだろう。
誰もが輝ける美しい王冠を奪い合っているダアトで彼だけは王冠には目を向けず、その足元で王冠を求めて争い合う者達により踏みつけられる何処にでもある草花の方が尊いと思って自らが代わりに踏みつけられてでも守り続けていたのだ。
「だからこそ彼は“最高傑作”なのよ。私の神造魔人と合一したナホビノは他にもいたけど大体この辺りで心まで悪魔になって他者のコトワリを踏み躙る方向に行ったからね。でも彼はコトワリには見向きもせずに人間としての善意のみで誰かを助け続ける道を選んだのだから」
「ふむ、だが最終的には他のコトワリを持つ王を皆殺しにしたのだろう?」
「それは彼の目にはコトワリという王冠はとても醜く悍ましいモノにしか見えなくなっていたからよ。その王冠をめぐる争いで踏み躙られていた多くの力なき者の嘆きを誰よりも聞き続け。時にはその代わりに踏み躙られた人間にとってその元凶となる王冠そのものに嫌悪感を抱くのは自然な事でしょう」
そして力を得た彼はベテルとメシア教穏健派の戦力として混沌の悪魔達とかヤタガラスの過激派などの敵対勢力との戦いにおける主戦力となった。実際に彼がいなければベテルとメシア穏健派が勝てたかは怪しく、勝てたとしても犠牲は大きいモノになっていた程度には奮戦した。
ただし、戦いの度に知人を失ったり裏切りにあったりで弱い人間でしかない彼の精神はすり減っていき、誰かを助ける毎に悲劇に遭遇していった事もあって強いナホビノとしての仮面の下の人間としての心は次第に追い詰められていった。
「特にこの時期から他人の個人名を認識出来なくなる精神障害も発症してたみたいね。人も悪魔も自分を『王』や『ナホビノ』としてしか呼ばれなかった事と、自分の人間としての名前を呼ぶ親しい者が居なくなった精神的な負荷が原因と思われるわ」
「まあ悪魔達はナホビノを見ればまずはそう呼ぶだろうな」
「それ以外にも複数の精神障害を患っていた節があるわね。まあその仮面の出来が良かったから傍目には辛い経験で精神が損耗して泣き言をこぼす様になった“程度”にしか見えない程度に取り繕っていたけど」
そこまで追い詰められながらも彼は誰かを助ける為に戦い続けるのをやめる事がなく、戦いを繰り返す内に戦闘能力だけは他を突き放す程に上がっていって当然の様にレベル99の成長限界まで到達した。
だが、その間にも仲間や知人を失ったりクラスメイトを失う原因になったテオゴニアのスパイだった裏切り者を始末したりなどを得て、彼の仮面の下の心は最早発狂寸前と言えるまでにボロボロに成り果てていた。
「それでも仮面のお陰で周りに程落ち込んでる様にしか見えず戦闘行動には一切支障がない辺り、自らを偽って仮面を被って戦う才能に関しては頭抜けていたわね。それ故に精神が追い込まれた時に仮面を外して本音を出すことすらも出来ない、そもそも自分でも外し方がわからなくなっていたんだけど」
「それに気付く者はいなかったのか?」
「仮面の出来が良かったのに加えてこの時期の彼はダアト中を駆け回っていたからね。そもそもベテルの拠点に居る機会が少なかったから、“アブディエルの知恵”や“カウンセラーの先生”との交流も殆どなかったから。候補者二人もそれぞれメシア教での活動や巫女様含めた女の子の相手で忙しかったし」
正確に言えばメシア教穏健派の一員として混沌の悪魔達敵対勢力への対策や情報収集などを行なっていたり、カウンセラーてして度重なる戦いで分かりやすく精神を病んでいる生徒達やストレスが溜まってる巫女様などの重要人物のメンタルカウンセリングを優先的に行なっていたのであるが。
そもそも危険地帯であるダアトをソロで走り回るヤマトに着いていくのは困難であり、それ故に彼とコトワリを掲げる候補者達との接点が少なくなってしまったのが後のすれ違いに繋がってしまう。
「混沌の悪魔達とかの大規模な戦闘中には接点あったけどそんな状態でまともにコミュニケーションが取れる訳ないしね。だから他の候補者もカレの異常には気付かなかった」
「仲魔や合一していた神造魔人はどうだったんだ?」
「仲魔に関してはそもそも彼が仮面を被るきっかけになったのが人間の自分に従わない悪魔を従える為だったから念入りに誤魔化してたし、彼の弱い人間としての顔を知っていた二人の神造魔人もその意思を優先していたしね」
そもそも
「善意で人助けをしていたのは分かったが、そもそもあのナホビノ自身の目的などはなかったのか?」
「彼の
合一神としての力を得ても彼は最初から最後まで『何処にでもいる普通の人間の学生』であり、得た力を人助けを行う事に使う事が出来ても王や為政者として力を振るう事は出来ずそのやり方も知らないままでしかなかったのだ。
ただ敵と戦い味方を助けるだけであればそれで問題はなかったかもしれないが、ダアトで起きていたのは王座を巡る争いであり彼は人助けを通じてそれによって踏みつけられる“自分と同じ弱い民衆”と接しつつけてしまっていた。
「そう言った者達と触れて、或いはダアト創造時にマガツヒとなった民衆の意思の影響も受けていた節があるけど、彼の考え方は王の横暴に不満を持つ民衆に近いモノになっていったのかしらね」
「ボルテクス界で戦い続ければ思考が純化していくからな」
「本来政治方針の話であるコトワリが妙な方向に飛ぶのはこの辺りも理由なのよね。まあ異常な環境のボルテクス界でまともな思考でモノを考えられる訳がないって話なんだけど。……そんな彼だったからこそ王を決める選択を行う権利が与えられたわ」
ダアトと呼ぶボルテクス界にて誰よりも戦い誰よりも強くなって、更に多くの王を巡る戦いで踏みつけられてきた者達を救ってきたが故、彼は王としての資質や資格が欠けていてもそこに生きる民衆の代弁者として王を決める選択肢を得たのだと魔人王は言う。
……最も民意によって王が選ばれたとしてもそれが常に正しい訳ではなく、何より度重なる戦いと悲劇で精神が損耗していた彼が選ぶ選択肢が良いモノかどうかと言うのはまた別の話なのだが。
「まあ、そんなこんなあって混沌の悪魔達とかヤタガラス過激派とか裏切り者を倒したんだけど、そうして敵が居なくなったらベテルとメシア穏健派でどっちが創世をするかで内輪揉めが始まった」
「そもそも掲げるコトワリが違うならそうもなるだろうな」
「ようやく敵を倒したのに彼の視点ではそんな“下らない理由”で争いを続けようとした周りへの失望が強まるのは当然ではあったのかもね。最も彼は決して愚かと言う訳じゃないから当時のベテルやダアトの状況を理解してなかった訳じゃないから、自分の影響力を生かして争いにならない様に動いたけど」
候補者達の掲げる法の元での天使による秩序と八百万の悪魔との共存、どちらも本心では悪魔を嫌悪している彼にとっては受け入れられないコトワリではあったが、それでも今のダアトよりマシになるならと本心をいつも通り仮面で覆い隠して出来るだけ下らない内紛で出る被害を抑えようとした。
まず自分の実力からどちらも自分を味方に引き入れようとしていた事ぐらいは彼も理解していたので、とりあえず話し合いと少数による決闘で解決しようと提案して大規模な衝突を牽制しつつ、自分は敢えてどちらにも付かない事で大規模な衝突が起きない様に牽制したのだ。
「自分が決闘で蹴りを付けようとでも言えば自らを味方に付けたいと思う連中であればそれを無視したり話しないだろうと言う考えね。実際に下手に彼の言葉に逆らえば最強のナホビノが敵に回る以上はベテルもメシア教も大規模な戦闘には二の足を踏んだわ」
「メンタルボロボロの割に中々頭を働かせている様だな」
「彼は別に地頭がそこまで悪い訳じゃないもの。出来る限り最小限の犠牲で済む様にこの後に及んで内乱しようとする周りへの失望を隠しながら頭を悩ませた結果だけど」
加えて他の候補者もヤマトの意見に同意した事もあって大規模な争いが起きる事はなかった。この辺りは二人も被害が酷くなる大規模な争いになるのは避けたかったので彼の提案に乗った部分もあったのだが。
だが、その結果として彼が選んだ方の候補者が実質的な勝利者になってしまう事になったが、どちらの候補者もダアトで最も多く戦って多くの人を助けて来た彼が選んだならば仕方ないとある程度は納得していた。
「最も彼にとっては創世やら王を決める戦いとかはどうでもよくて周りの人間を守れればそれで良いと考えていたから、何方だろうが今より状況が良くなるなら構わないとしか思ってなかったのだけど」
「王を決める選択肢を得た者が王への嫌悪感しかなかったとはな」
「まあ本人の本質は弱い人間だからそのまま行けば弱者保護の理念があるアブディエル側に付いていた可能性が高かったでしょうね。……そこで私がアブディエルとベテルの一部が共謀して彼の友人含めて複数の生徒を事故に見せかけて謀殺した情報を証拠付きで渡さなければだけど」
これまで戦い続ければ悪魔の居ない元の生活に戻れると言う願いに縋って進んできたヤマトだったが、王となる候補者を擁立した組織が何処も信用出来ないと分かり、蓄積していた王を巡る争いへの嫌悪感が加わって完全に心が折れて他者を信じられなくなってしまう。
そして度重なる悲劇ですり減っていた彼の人間としての心はこの最大の裏切りが引き金となって発狂、これまではまだ共に戦う者達を信じて来たからこそ動けたのだがその信頼が失われたので、これまでの戦いを得て造られた設定された目的を達成する機械に様な仮面によってのみ動く事となってしまった。
「後はそこに『悪魔が存在しない世界の創世』『創世の為に鍵を持つ者を皆殺しにすれば』と言った事を信頼できた人間の皮を被って吹き込めば勝手に皆殺しの道を進んでくれたわ。悪魔がいない日常こそが彼の本当の願いだったからね」
「最後に最低限の一押しで他者を動かすのは相変わらず上手いな」
「ちょうど良く彼と信頼関係を築けていて巫女としての資質を持った少女のマガツヒを回収出来たから、それと使ってナホビノを導く至聖女の模造品になる神造魔人を造るぐらいは私にとっては難しくない。それを彼の味方として接触させておけば私にとって都合のいい情報を流す事も難しくない」
或いはここでヤマトが大切な人を殺された復讐に走るとかならまだ救いはあったかもしれないが、この時期の彼は最早『周りが望む強いナホビノてしての仮面』が完全に癒着していて、結果としてただ望まれた目的の為に“敵”を鏖殺する機械の様な何かに成り果てる事になった。
説得に来たアブディエルとその知恵の言葉も彼にとって守らなければならない人間の代表者でありある種の心の支えでもあったクラスメイト、そんな彼女達を謀殺しておいて弱い人間でも生きられる世界とか悪魔と共存を選べる世界などとほざく連中を信用など出来ずその言葉が届く事はなかった。
「結果としてアブディエルとその半身は彼を止める為に戦いを挑んだが、誰よりも力を得ていた最高傑作に勝てる筈もなく敗北して死亡。ベテル側に関しても謀殺や非人道的実験に関わった連中を形だけの処分で済ませたから彼からの信用が無くなったわ」
「全員処刑して誠意を示した方が良かったのではないか?」
「まあ非人道的実験含めて関わった人間がベテルの中枢メンバーだったから処分していた場合は内乱になって、疲弊の極みにあったベテルに甚大な損耗を受けて今後の復興に大きな支障が出たでしょうけど」
故に八百万のコトワリを掲げた“カウンセラーの先生”も面倒を見ている生徒や巫女様の身柄が危なくなる理由があってベテル主要人物の処分には賛成出来ず、どうにか暴走を始めたヤマトを説得しようとした。
「まあ彼女達を優先して彼の心を切り捨てた以上は信用を失うのは当然だし、生徒からの信用を失った先生の言葉なぞ届くはずもなく潰された訳だけど」
「結局あのナホビノに言葉を届かせられる者はいなかったと」
「そうなるわね。……と言ってもあの先生は最後の辺りでは彼の仮面の下の内心やそれを誘導してる者の存在も勘付いていた節があるけど。まあ手遅れになった状態で気付いても何一つ意味がないし、責任云々言ってもそれと向き合って背負い込める様な精神状態でないなら“責任と言う凶器”で殴りかかるのと変わらないわよ」
魔人王の認識阻害自体はそこまで効果が高い訳ではなく、例えばあの時のヤマトであっても心から信用出来る人間の言葉であれば届いていただろう。或いは助けを求める声であれば届いたかもしれない。
だが、信用出来る人は既に誰もおらず自らを犠牲に進み続けてしまったが故に自分を心配する者の言葉が届かなくなってしまった彼は今まで付けていた強いナホビノとしての仮面のまま目の前の敵を全て滅ぼして最後まで与えられた
「信じられる人間は誰一人としておらず、仲魔の言葉もそもそも根底では悪魔に恐怖するだけの人間である彼には届かない。最初の仲間で彼の人間としての在り方を知るアオガミとアマノザコの2人も彼の意思に従うだけだったしね。まあ彼にばかり負担を押し付ける周りに対する不満もあったみたいだけど」
「話を聞くに周りはそもそもあのナホビノの本質に気付いていなかったのだろうが」
「そうね、仮面を被り続けて本音を出さずに戦い続けて限界を迎えたら途端に暴走して殺戮マシーンだから周りからすれば訳が分からなかったんでしょうね。あの先生は最後辺りで察してた節はあったけど」
そして彼は誰の話を聞く事もなく他のコトワリを持つ者を全て倒して鍵を集め、辿り着いたカグツチも作業的に始末して彼自身が元の日常と思う悪魔がいない世界の創世を成し遂げた。
「……最も、この世界が悪魔が居なくなった程度で滅びないのであればここまで醜く繰り返す事はなかったでしょうけどね」
「お前にとっては狙い通りだろう?」
「そうね、私が欲しかったのはコトワリをもって創世を成しながらもそれを投げ捨てる者、創世への強い嫌悪感を持ちながら仕方ないと言う機械的な理由で与えられたコトワリを元に創世を成した彼はそういう意味で最高傑作だったわ」
単にコトワリを否定するだけならばら撒いた神造魔人に適合した例であったみたいに悪魔堕ちでもさせれば良いけど、世界を終わらせる程に世の中と創世に絶望する様なナホビノになるなら人間としての心を持ったままでなければと魔人王は言う。
……そんな事を平然と語っている様に見える魔人王だったが、その目には未だに尽きぬ“憎悪”が宿っている事を見てセトは笑った。
「そうして王としての意識もなくただ善意だけで機械的に創世を成したナホビノであれば、その後に滅びた世界を見て完全に壊れるだろうから、そうすれば彼を繰り返す世界と座を壊す事の出来るナホビノとしてこちらに引き入れる事が出来る……と言う予定だったんだけど」
「まああのナホビノがこの世界にいると言う事は上手くいかなかったのだな」
「ええ、殆ど発狂していた彼を憐れんだのかアオガミが彼のダアト時代の情報を纏めて奪い取って、代わりに人間の因子が使われた神造魔人である自分の人間としての情報を与えてナホビノではない唯の人として、更には私の干渉を察したのか自らは抱えたナホビノとしての情報毎自壊しようとしたのは流石に想定外だったわね」
彼等を纏めて回収出来れば私の同志になれたかもしれないけど人間の彼は早期に死亡し、神造魔人の方も希少な生命の種子を使って何とかロストさせずに済んだけど修繕にはかなり時間が掛かってしまったのだ。
総じてダアトでの魔人王の暗躍は非常に上手くいったのだが、最後の最後で目的の達成が出来ずに結果としては投資分を取り返せなかった大損と言った所である。
「彼等は成功する筈がない計画から偶然が重なって生まれた、こちらの想定を上回る最高傑作だったから破損してもどうにか再利用出来ないか色々と悩んだんだけど、とりあえず神造魔人の方に修復と記憶修正を掛けて“仕込み”を入れた上で現周回の彼の同位体と合一させてもう一度最高傑作を作るプランにしたわ」
「後少しで上手くいったからもう一回と言う事か」
「我ながら安直だけどね」
とりあえず魔人王はその辺にいた魔丞ヘカトンケイルを唆して現周回の八坂ヤマトを拷問に掛けて、そこにアオガミ人式を合一させてダアト時代の記憶を呼び起こしつつ悪魔に対する恐怖と言うトラウマを再発させて当時と同じ状況を再現しようとした。
「レベルが下がった状態でこの世界に放り込めばトラウマから来る強迫観念から勝手に強くなり、前の様に“誰かを守る”と言う曖昧な理由で戦ってすり減っていくだろうからそこを改めて確保……する皮算用だったんだけど上手くいかなかったんだよね」
「ふむ、確かに話が通じていないだけでそこまで精神を病んではいない様だが」
「この世界は思った以上に彼の精神に負担を掛ける様な事が少なかったのよ。合一時の記憶の継承も仕込みも上手くいかなかったし」
まずダアト時代に“何も知らない人間”と“心的損耗が酷いナホビノ”に別れたと言うかなり無理がある方法で分割されて、加えて過去を思い出したくない本人達のトラウマもあって再び合一神となった後も記憶の継承にかなりの不備があった。
その結果として一番最初に記憶を取り戻した時に記憶違いや認知の歪みが起きてしまい、その影響で過去のトラウマを思い出せずに精神的な消耗が殆どなかったのだ。
「あのDAT隊に彼が保護されたお陰でダアト時代とは違って“頼れる大人達に守られた状態”で“世界の危機とか身内が死ぬ様な厳しい状況”にならず戦えた事により、ただ『少しでも仲間が死なない様に人間としての心を押し殺して必死に戦う』と言う以外の戦いを経験出来たのも大きいわね」
「環境がボルテクス界と比べてだいぶマシだった訳だ」
「まあボルテクス界なんて言うクソ環境で経験積んでまともなコトワリが開ける筈もないし」
これらの事により魔人王が目論んでいた彼に対する過剰なストレスを掛けると言う狙いが大きく外れ、ナホビノになった後も当たり前の普通の生活を送らせた事で徐々に“強いナホビノ”の仮面が緩んで本来の弱い人間としての面を出せるぐらいにメンタルは回復していった。
「嘗ての様に世界の命運を左右する様な戦いに赴けば何処かで切れる、或いはナホビノのまま戦いから遠ざかっても自責の念で潰れると見てたけど、特撮のヒーローごっこの様なぬるま湯の様な戦いにだけ行かせて強いナホビノではなく一人の人間として悪魔と向き合って戦う経験を得させるとはね」
「何処まで狙い通りだったのだろうな」
「さあ? それでも彼の心を癒すには一つの最適解、実際に記憶が戻っていった時も仮面が外れて不満を吐き出せてたみたいだからストレスは思ったより掛からず、そこから彼の異常性にDATも気付いた様だしこのままなら私の狙いは頓挫してたかしら」
実際、魔人王の思考誘導はヤマトを王として扱わず信用している人間からの言葉を普通に届くので、このままDAT隊が心を病んだ人間にする様な当たり前のメンタルカウンセリングをして徐々に過去の責任と向き合わせられる様にしていけば暗示は機能を失い彼を利用する計画は上手くいかずに終わっていただろう。
「前に偶然上手くいって最高傑作が出来たから今度も上手くいくかなと思ったら駄目だったんだよね。そもそもこのプランは出来たナホビノをごく普通の人間として扱って接する人間がいるだけでも頓挫しかねないから上手くいく事ないだろうって考えてたヤツだし」
「この国の諺だと二匹目のドジョウを狙ったが上手くいかなかったと」
「正直DAT隊が上手くやってたから“損切り”も視野に入れていた……そう思っていた所に仲間が殺される事に特級のトラウマを抱えてる彼の目の前で信用してる人間を皆殺しながら現れて、ナホビノとして王としての責任だけを追求してくる騎士モドキが現れたから一周回って呆れてるのが今よ」
魔人王はそう言いながら己の天眼の先で噛み合う筈もない話をしているテオゴニアのダヌとフィン達を見て溜息を吐く。
彼は悪魔に恐怖する唯の人間として自分の命と大切な友人を守る、ただそれだけの為にしか戦ってこなかったのだからナホビノとしての自覚や王としての誇りなど持っている筈が無いと言うのに。
「むしろ王として世界を思う通りに変えると言う創世の為に多くの人を殺して踏み躙ってきた者達に対してはつよい嫌悪感すら感じているでしょうね」
「善意と義務感はあったが戦いや相手に対する誇りや理解はなかったのだな」
「そうね。だからこそ嘗てのダアトでの戦いは彼にとっては単なる殺し合いであり、故に戦いに対して試練やら誇りやら王権神授云々といった“綺麗事”なんてないただの殺し合いとしか思えない」
そして余りにも話が通じないヤマトを見て『何故自らの王のコトワリの元でこの様な悍ましい邪悪が生まれるのか』などと言うダヌだった後、その光景を見た魔人王は呆れを通り越して失笑を浮かべる。
「彼がそうなったのは大体私が原因だけどお前達のコトワリも無関係じゃない。八百万の悪魔と共存するコトワリは要するに悪魔との共存を選べない弱い者はさっさと死ねってコトワリだからね」
「曲解ではあるが一面でもあるな」
「まあそうだけど、彼はそんな悪魔と共にある事を選べなかった弱き者の一人で、お前達のコトワリが切り捨てて救えなかった何処にでもいる人間の一人なのだから。それをただ切り捨てるだけならそのコトワリは長続きしないのよね」
仮に万人が満足する楽園の様なコトワリがあるのならそれによる創世は永遠に続くだろう。創世とは世界に不満がある人間がより良い世界へと変えようとするから起こる事なのだから、そもそも不満がない世界であれば誰も世界を変えようとはしないのだから。
無論そんなコトワリを示す事なぞ絶対に不可能であるので、どんなコトワリによって成された創世もそれによって救われぬ者・切り捨てられた者・不満を持つ者・より良い世界を望むものにより必ず否定されて潰えるのだと魔人王は言う。
「創世において本当に重要なのがコトワリから切り捨てられた者にどう手を差し伸べるか。彼に対しても一人の人間として扱って文句をいうとかであれば十分に話は通じたんだけど、どっかの裏切り者な戸田琴陽とかも話自体は出来てたし」
「嘗ての仲魔の信用が裏切り者以下なのか?」
「うん、だって忙しいときに奇襲した上で信用してお世話になってたDAT隊を目の前で皆殺しにするって言う、彼のトラウマを全力で踏み躙る所業をしたんだから当然信用度は下がるでしょ」
彼と話したければ王様や神様に対するモノではなく一個人として見て話し掛けて接する、そんな覚醒などしていない何処のでもいる愚者でさえ出来る事をすればいいだけの簡単な話なんだけど、目的の為に彼と同じ弱い者達の多くを切り捨てて来た
「まあ私には連中の事なんて興味ないしどうでもいい事か。そもそも連中が彼に対して臣下として接する事自体も彼に『王』としての仮面を強制する一因だったしね。それを繰り返すだけなら何言ってもダアトの繰り返しになって話は通じないよ」
「仮面を被っていたとは言え王として動いていたのなら王として扱われるのは道理ではないのか?」
「まあそれはそうだしそこは彼が昔の仲魔に対して明確に非がある所だね。……確かに王ならば自らが倒した敗者の意思を背負って先に進むべきと言うのは正しくはあるが、周りから仮面を付けて殺しを強制させ続けられた子供にお前に殺された人間の意思を背負い続けろと言うだけなのが正しいかは人によると思うけど」
ヤマトも最初は善意で目の前で困っている人や悪魔を助けようとしていただけだった。だがいつしか請われて先へと進む王たちの戦いに踏みつけられた弱い人間ばかりを助け続ける事を幾度も続ける事になってしまった。
そして己が望む未来と世界の為に戦う王達、それに今現在踏みつけられる弱者を救いながらも経験した多くの悲劇によって彼はすり減り、多くの弱者に願われるまま今目の前で傷つけられる者を守る為なら未来や世界を考慮しない者に成り果てた。
「良くも悪くも何処までも一般市民で王や指導者としての能力や視野は得られなかった人間なのよね。それだけで終わってれば良かったんだけど王を目指す戦いに巻き込まれて、その上で王や戦いに関して嫌悪感しか抱かなかったから結果として不出来な革命家になってしまった」
「王としては視野が狭かった、狭くなってしまったと」
「指導者が悪政しててムカつくからって学のない市民が指導者層を皆殺しにしたらその後の政治が上手くいく筈がないみたいなモノよ。革命するなら最低限国の運営方針を理解出来ていなければ当然失敗するわ」
そもそもコトワリとは政治方針みたいなものであり、どの様な方針であれ恩恵を得る者と切り捨てられる者は出てしまうのでその事について非難する事自体は別に間違ってはいない。
だが、コトワリがあるからこそ世界は運営出来て恩恵を受ける大多数の人間は守られているので、それで踏み躙られる人間がいるからと言って代案もなしにコトワリを否定すれば踏み躙られた人間や恩恵を受けていた人間を含めて被害を受けるのも当然であるのだ。
「総じて彼は周りの事が理解出来てなかったし、周りは彼の事が理解出来ていなかった。その果てに拗れに拗れて間が悪かったからああなったって所かな。長くなったけどつまらない話をしたね」
「中々辛辣だなぁ」
「ん? 全ての原因で邪悪な黒幕の私がこんな話をしたって、聞いている人間からすれば『お前が言うな』の一言で感想が済むぐらいにつまらない話だったでしょう。話ってのは何を言ったかではなくて信用出来ている誰かが言ったかの方が重要だしね」
そう言いながら魔人王は目をヤマトとフィン達に向けると、そこでは両者がまるで話になっていないので戦闘態勢に移行している所だったので予想通りだったとは言え溜息を吐いた。
「お互いに信用と理解がなければ結局力押しになると。ここからは私の話と同じぐらいつまらない戦いが始まりそうね」
「戦力的には中々の好カードになりそうだが?」
「そもそも戦わずに話し合いで解決するのが最上なのに戦いになってる時点であの騎士もどきの失策でしょ。さっきも言ったけどDAT隊を初手で殺した上に周りが戦闘中だから、表面は取り繕ってても彼の内面と言うか無意識は“敵を排除する”って思考で固まってるわ」
目の前で仲間を失うと言うのは転生を得てなお拭えない彼のトラウマであり、先日過去のトラウマを吐露した事とフィンのやらかしたせいでその思考は『目の前の敵をいち早く倒してDAT隊を助ける』と言う嘗てのダアト時代で最も酷かった頃に近い形で固まっている、
故にフィン達にとっての最善手は『ヤマトだけだと話は通じないので第三者を交えて話し合う事』であったのに、それを初めから投げ捨てている以上はどれだけ嘗ての王に話しかけても結局は単なる殺し合いにしかなり得ない。
「根本的にお互いが思う『王』としての在り方が違い過ぎるからその分野で話しても分かり合えないだけなのよね。だから王とか関係ない話をすれば普通に話が成立するするんだけど、あの騎士もどきに出来るかしら」
「クク、まあお手並み拝見と行こうか」
「まあ、どちらが勝つにしても戦いと言う形になった時点で何も残らない無意味な戦いになるでしょうけど」
そうどうでも良さそうに言う魔人王と嘲笑いながら語る邪神の見る先で、
あとがき・各種設定解説
魔人王:真の邪悪
・彼女の暗躍は基本的に技術をばら撒いたり現地組織に潜り込んで表向き真面目に働きながら情報を集めるのが主で、直接的な干渉は最低限に抑えてリスクを出来るだけ減らすのが基本。
・尚、ダアト時代に最低限の干渉でヤマトを闇堕ちさせたのは事実なのだが、実際の所は事前の計画が失敗した結果がダアトなのでその後処理やデータ収集を優先していたので最低限の干渉しか出来なかっただけである。
・ダアト時代もベテルの技術者系職員として表向きは真面目に働いており神造魔人の技術を提供しつつ合一出来たヤマトのデータを集めてもいたが、本人は彼に負担が集中していると意見書を上に提出したりしていたので疑われなかった。
・本人はヤマトも精々悪魔堕ちぐらいかと思って期待せずに監視と援助だけしていたが、周りが何故か都合が良過ぎるぐらいに自分の思った通りに動いてくれたので最後に一押しした。
・大切なモノを取り戻せずそれを踏みつけて先に進んでいる世界が憎いのが動機で動いているが、自分のやってる事が目的も手段も一般的な道義からすれば邪悪だと思ってもいて、自分とやってる事が大して変わらないのに正義面する連中を嫌っている。
ヤマト:最初からずっと善意で動いていた
・ただしずっと弱い者達を助け続ける中で壊れて歪んでいき、次第に争い続ける王達の事を『弱者を踏みつけて前に進むモノ』としか思えなくなった果てに背中を押されて皆殺しの道を歩んだ。
・血まみれの王冠よりもそれを巡って争う者達が踏みつける有りふれた花々の方が尊いと思い、それを守る為だけに動いて代わりに踏みつけられ続けて何処か壊れた人。
・その果てに無言で争ってる者達を殴り倒して穢らわしい王冠を投げ捨てた……のだが、その王冠は花々を守る為に必要な花壇を誰がどう作るかを決める権利を手にした者が得るって代物だったので当然守ろうとした花々は全て枯れてしまった。
・花々を守ろうとした事そのものは間違ってなかったのだが、嫌いな相手であっても無言で殴り掛かるのではなくてまずは花を踏むのを止めろと怒って注意するべきだった。
読了ありがとうございました。
本家様とはパラレルワールドなので設定の齟齬などはご了承下さい。次からようやく戦闘シーン予定だけどどう書こうかめっちゃ悩む。