破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なんですかね、あれ?」
バッキーは、広場の真ん中に設置されていく巨大なものを見上げている。
――なんか街頭モニターみたい?
「たぶん、国営放送の何かを見せるんだよ」
となりのマコネは準備に忙しい職人たちを見る。
どこか懐かしそうな顔で――
「ほうそう?」
「時々、何かの警報とかを魔力通信で流すだろ。あれの映像版みてえなもんかね。国全体で同時にやるって感じだろうぜ」
「ああ、それって……」
バッキーは、最近の新聞で読んだ記事を思い出す。
王太子がついに結婚――
「婚約者は決まっていたらしいけど、とうとうって感じですか。つまり、結婚式の様子を見せると」
「国を挙げての祝い事だからなあ」
「王子様も、お相手もきれいだとは聞いてますけど、実際どうなんでしょう? 王族のかたって……」
言いかけてバッキーは黙る。
マコネもピクリと反応した。
自分たちのごく身近――
まさに、その……。
王族の流れを組む者がいるのだ。
「リーダー、どう思いますかね?」
バッキーはカーシャの気持ちを考える。
「さあねえ。けど、ムカついたとすればもうとっくに何かしてるさ。それこそ、結婚式をやる前に。それがないってことは――」
どーでもいいんだろうよ。
そのほうが、平和でいいけどさ。
マコネはあっさりとした返事をした。
心の中で、青い髪の乙女に思いをはせながら。
――おいらだったら、どうかね?
嫌味な贈り物のひとつでもするのか。
――けどよ。わりと最近まで自分が婚約者で立場も上だったんだよなあ。それがこんなことになって、何であっさり〝切り捨てられる〟のかな。
それとも――
――あれだけ強くなると……。
何事にも寛容に、あるいは無関心・無感動になってしまうものか?
――何にしろ寂しい気がするな。
・ ・ ・
屋敷の庭でカーシャがお茶を飲んでいる。
最高級のテーブルに、最高級の茶器。
最高級の茶葉でいれた茶と、最高級のケーキを味わう。
――うん。確かに美味しいわ。
値段以上のモノがある。
――以前は似たようなものを食べたり、飲んでいたか……。いえ、あっちはもっと洗練されていたわね。お茶をいれた相手が良かったのかも。
公爵家ともなれば、メイドも一流。
身分もそれなりであり、色んな点でハイレベル。
――私も
何人か、使用人を雇うべきかしら?
カーシャはチラリと、庭を見回す。
テーブルから離れた場所。
小さなゴーレムが黙々と草むしりをしている。
バッキーが練習で造った半自律型ゴーレム。
――悪くはないようだけどね……。
「半自律型――精度はまだまだだが」
短期間であれぐらいできるってのは、なかなかのもんだ。
教えた甲斐がある。
そう言ったのは、金髪のエルフ。
「時間通りね」
カーシャは歩いてくるゴトクに、肩をすくめて微笑んだ。
「遅刻すれば後が怖いんでね」
「それで注文の品は?」
「明日には準備ができる。専門の職人を呼んだほうが早いが――」
「みんな怖がっていると」
「そうだよ。物はすぐに手配できたがね」
微笑するカーシャへ――
ゴトクは困った顔でため息交じりに頭を振った。
「職人の手配で困ってる」
カーシャは肩を揺すり、
「
「一流はほぼ
ゴトクは軽く空を見上げ、
「あんたなら、冒険者ギルドに依頼したほうが早い。その手の工事ができる工兵もいるしさ。腕は、まあ数と采配でカバーするしかない」
「なるほど、クエスト依頼ね」
カーシャは自身の髪をいじりながら……。
楽しそうな――。
表面上はそう見える顔で笑う。
ゴトクは嘆息して、
「俺も早くそう言えば良かったよ」
疲れた顔で言いつつ、お茶を飲む。
ミルクをいれてゆっくりと、味わいながら。
「良い茶葉だな。ミルクも」
「ええ。名産地の高級品よ」
「そりゃまたとんでもない贅沢品だ。しかし、あんたにはそれくらい浪費してもらわんと困るんだが」
「面倒なものね」
カーシャは背伸びして、立ち上がる。
「かと言ってだ……」
テキトーに金をばらまかれても困る。
そんな風に流された金は……。
ろくなことに使われないし、色んな意味で不健全だ。
そう語るゴトクに、
「ギルドマスターみたいな言いかたね?」
「だいたい同意見だからな」
ゴトクは、背中に向けて言った。
乙女の後ろで揺れる青い髪を見ながら――
淡々と。
「ま、それはそれとして?」
カーシャはゴトクを振り返った。
「言ったろ? 映写機と、スクリーン。その他必要な機材も資材も全部用意した。後は運んで工事するだけだよ」
「大変けっこう」
微笑するカーシャに、ゴトクは顔をしかめ、
「しかし、あんた何を考えているんだ……?
「おや、ひどい言い草ね。王太子の結婚披露」
実におめでたい、国を挙げての慶事――
「それをリアルタイムで鑑賞するというのは、良くないことかしら? いえ、少しミーハーすぎるかしら? ホホホ」
カーシャはコロコロと笑った。
「……あんた」
「正直試してみたくはあるのよ。実際、どんな気分になるのか。今まで興味を感じなかったから無視してきたけど、それはある種の逃げだったかもしれない」
「逃げ、ねえ」
あんたには似合わねえ言葉だよ。
ゴトクの意見にカーシャは肩をすくめた。
そして――
踊るようにクルリとターンしてから、
「だから知りたいのよ。
「ぶち切れて大量虐殺ってのはカンベンしてもらいたいね」
「正直なところ? 約束はできないかしら。もし不安なら遠くに避難してもいいわよ? あの3人も連れてね」
「あまり意味はない気がするけどな」
ゴトクはため息を吐き、
「ただまあ……。正直な予測を言わせてもらうのなら、何も変わらんと思う。そういう点では、安心だよ」
「へえ?
カーシャがからかうように言えば、
「あんたの性格上、本当にそんな
ジッとしているはずがないからさ。
その気だったら、冒険者稼業なんかしてねえ。
王都に殴りこんで……。
皆殺しにしているさ、関係者全員な。
と。
ゴトクはひと呼吸に言った。
その後。
カーシャの顔、水色の瞳をまっすぐに見る。
「そうかしら?」
「そうだよ」
カーシャは即答したゴトクに一瞬キョトンとしたが……。
「そうねえ。そうかもしれない」
つぶやくように言って、空を見上げた。
空はもう冬の景色。
風は冷たい。
時どき、刃物みたいな木枯らしが吹いている。
「もうすぐ今年も終わりか」
カーシャは
青い乙女が石もて王都を追われ―
―ネビズに来たのは6月。
初夏の頃だ。
「結婚式の後には、再誕祭」
再誕祭。
太陽の女神が新たに再生する神話にちなんだ祭り。
日本で言うなら正月にあたる期間。
贈り物をしあい、家族で過ごす時だ。
・ ・ ・
「とても素敵ですわ……」
うっとりとした侍女たちの声。
それをリーンは聞くともなく聞いている。
鏡に映る自分の姿は、
――母様。
幼い日に見た母の姿に重なり、思い出を浮かび上がらせる。
ヤオアムト王族伝統の花嫁衣裳。
まさか、自分が着ることになるとは、
――考えていなかった。いえ、考える余裕もなかったけれど……。
こうなってみると、浮き立つ自分に気づく。
しかし、リーンにとって……。
正式な王太子妃となること。
それは、より厳しい道への始まりでもある。
王子様と結婚して幸せに暮らしました。
で、終わるのはおとぎ話の世界だ。
現実には――
王族、特に嫡子の正妻となれば、やるべきことは山のごとし。
優雅な貴族たちの宴。
貴婦人たちの集うお茶会。
過酷な仕事の一環であり、その本質は血で血を洗う戦場。
敵どころか味方ですら油断はできない。
裏切り、離反。
いや――それよりも問題なのは、無能な味方の暴走である。
亡き父の派閥。
今はリーンの派閥となっているが、
――どこまで
のだった。
・ ・ ・
そして――
カーシャ邸に設置された映写機と、映像を映す大型のスクリーン。
その画面内には、
「いやあ、きれいなもんですねぇ?」
王族専用の礼服を着こなした王太子と。
白いウェディングドレスをまとった花嫁リーン。
これにボロンは率直な称賛を述べていた。
「あなたも着てみたい?」
カーシャはからかうように言った。
最高級茶葉からいれたお茶を飲みながら。
「着れますか?」
ボロンが聞き返すと、
「そりゃ所詮は服だもの。着ようと思えば子供だろうと100歳のおばあさんだろうと着れるわよ。他人からの反応はまあ別して」
「おお、わーたくしはどのような……」
反応をいただけますかね?
ボロンは興味津々の素直な表情で語り……。
テーブルの茶菓子に手を伸ばす。
「あ、こら美味い。こらけっこう」
茶菓子をがっつくボロンに、
「花嫁になる前に、行儀作法をキッチリ仕込んだほうがいいんじゃね、こいつ……」
横から見るマコネはため息。
そこにバッキーが、
「でも、こないだのお店ではきちっとしてましたよ?」
「そういえば、そっか」
マコネは首をかしげた。
数日前、カーシャたちはサキュバス街にある高級料理店に足を運んだ。
とったのは、個室。
料理も酒もハイレベル。
あまりマナーを考えなくてよい場所やメニューだったのだが、
「こいつがなあ?」
マコネは思い返す。
――おいらやバッキーの『練習』ってことでもあったみてえだけど、姐さんはともかくとして……。
ボロンの食べ方はきれいだった。
これにカーシャは、
「へえ。ずいぶんときちんとしたモノを身につけているのね? どこでおぼえたのかしら?」
「え、これはいけませんか?」
「いえ。むしろ良いのだけど」
「デァハハ。いやあー。そのようにお誉めいただけると、快いですねえ。何やら照れくさくって、デハハ……。あなたも罪なかたですねえ。ムホホホ」
「意味わかんない」
と。
このような半分喜劇の1シーンであり、バッキー
「変な漫才みたい」
な、会話をふたりはかわしていた。
さて、ボロンが茶菓子を食べる横で、
――やはり、ゴトクの意見は正しかったわけか……。憎むべき仇敵の晴れがましい、幸福な姿。だけど。
何も感じない。
いや――
完全なゼロではない。
だが。
せいぜい。
街で見かけた野良犬。
そいつが
――そんなところかしら。
結局、無意味な結果。
――けれど、それはそれでいいか。この部屋も機材も、そのうち別な使い道ができるかもだし。
カーシャは内心で苦笑した。
そして。
熱めにいれたお茶へ――
やはり最高級クラスのブランデーを注ぐ。
何も感じないアルコール。
だが、
――こうやって飲むと、美味しさを感じられる、か……。こうなるともう調味料ね。
この日……。
カーシャは王太子の結婚式を
世は全てこともなく――
少なくとも?
その時ネビズの街は平和だった。