破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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今回は番外編です
もう少し早めに出すべきエピソードだったかも……

こちらのほうもよろしく
ご意見をお聞かせくださると幸いです
https://syosetu.org/novel/387736/3.html


その115・5、番外:婚礼の日

 

 

「なんですかね、あれ?」

 

 バッキーは、広場の真ん中に設置されていく巨大なものを見上げている。

 

 ――なんか街頭モニターみたい?

 

「たぶん、国営放送の何かを見せるんだよ」

 

 となりのマコネは準備に忙しい職人たちを見る。

 どこか懐かしそうな顔で――

 

「ほうそう?」

 

「時々、何かの警報とかを魔力通信で流すだろ。あれの映像版みてえなもんかね。国全体で同時にやるって感じだろうぜ」

 

「ああ、それって……」

 

 バッキーは、最近の新聞で読んだ記事を思い出す。

 

 王太子がついに結婚――

 

「婚約者は決まっていたらしいけど、とうとうって感じですか。つまり、結婚式の様子を見せると」

 

「国を挙げての祝い事だからなあ」

 

「王子様も、お相手もきれいだとは聞いてますけど、実際どうなんでしょう? 王族のかたって……」

 

 言いかけてバッキーは黙る。

 マコネもピクリと反応した。

 

 自分たちのごく身近――

 まさに、その……。

 王族の流れを組む者がいるのだ。

 

「リーダー、どう思いますかね?」

 

 バッキーはカーシャの気持ちを考える。

 

「さあねえ。けど、ムカついたとすればもうとっくに何かしてるさ。それこそ、結婚式をやる前に。それがないってことは――」

 

 どーでもいいんだろうよ。

 そのほうが、平和でいいけどさ。

 

 マコネはあっさりとした返事をした。

 心の中で、青い髪の乙女に思いをはせながら。

 

 ――おいらだったら、どうかね?

 

 嫌味な贈り物のひとつでもするのか。

 

 ――けどよ。わりと最近まで自分が婚約者で立場も上だったんだよなあ。それがこんなことになって、何であっさり〝切り捨てられる〟のかな。

 

 それとも――

 

 ――あれだけ強くなると……。

 

 何事にも寛容に、あるいは無関心・無感動になってしまうものか?

 

 ――何にしろ寂しい気がするな。

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 屋敷の庭でカーシャがお茶を飲んでいる。

 最高級のテーブルに、最高級の茶器。

 最高級の茶葉でいれた茶と、最高級のケーキを味わう。

 

 ――うん。確かに美味しいわ。

 

 値段以上のモノがある。

 

 ――以前は似たようなものを食べたり、飲んでいたか……。いえ、あっちはもっと洗練されていたわね。お茶をいれた相手が良かったのかも。

 

 公爵家ともなれば、メイドも一流。

 身分もそれなりであり、色んな点でハイレベル。

 

 ――私も()()()()として、その手のことは学んでいたけれど。やはり、本気で修練を重ねた相手に及ぶわけもなし……。

 

 何人か、使用人を雇うべきかしら?

 

 カーシャはチラリと、庭を見回す。

 

 テーブルから離れた場所。

 小さなゴーレムが黙々と草むしりをしている。

 バッキーが練習で造った半自律型ゴーレム。

 

 ――悪くはないようだけどね……。

 

「半自律型――精度はまだまだだが」

 

 短期間であれぐらいできるってのは、なかなかのもんだ。

 教えた甲斐がある。

 

 そう言ったのは、金髪のエルフ。

 

「時間通りね」

 

 カーシャは歩いてくるゴトクに、肩をすくめて微笑んだ。

 

「遅刻すれば後が怖いんでね」

 

「それで注文の品は?」

 

「明日には準備ができる。専門の職人を呼んだほうが早いが――」

 

「みんな怖がっていると」

 

「そうだよ。物はすぐに手配できたがね」

 

 微笑するカーシャへ――

 ゴトクは困った顔でため息交じりに頭を振った。

 

「職人の手配で困ってる」

 

 カーシャは肩を揺すり、

 

竜を虐殺する者(ドラコサイダー)の屋敷に入るのはみんな嫌だと。それはまた、困ったことだわ。どうしましょ?」

 

「一流はほぼ一般人(カタギ)だからな」

 

 ゴトクは軽く空を見上げ、

 

「あんたなら、冒険者ギルドに依頼したほうが早い。その手の工事ができる工兵もいるしさ。腕は、まあ数と采配でカバーするしかない」

 

「なるほど、クエスト依頼ね」

 

 カーシャは自身の髪をいじりながら……。

 楽しそうな――。 

 表面上はそう見える顔で笑う。

 

 ゴトクは嘆息して、

 

「俺も早くそう言えば良かったよ」

 

 疲れた顔で言いつつ、お茶を飲む。

 ミルクをいれてゆっくりと、味わいながら。

 

「良い茶葉だな。ミルクも」

 

「ええ。名産地の高級品よ」

 

「そりゃまたとんでもない贅沢品だ。しかし、あんたにはそれくらい浪費してもらわんと困るんだが」

 

「面倒なものね」

 

 カーシャは背伸びして、立ち上がる。

 

「かと言ってだ……」

 

 テキトーに金をばらまかれても困る。

 そんな風に流された金は……。

 ろくなことに使われないし、色んな意味で不健全だ。

 

 そう語るゴトクに、

 

「ギルドマスターみたいな言いかたね?」

 

「だいたい同意見だからな」

 

 ゴトクは、背中に向けて言った。

 乙女の後ろで揺れる青い髪を見ながら――

 淡々と。

 

「ま、それはそれとして?」

 

 カーシャはゴトクを振り返った。

 

「言ったろ? 映写機と、スクリーン。その他必要な機材も資材も全部用意した。後は運んで工事するだけだよ」

 

「大変けっこう」

 

 微笑するカーシャに、ゴトクは顔をしかめ、

 

「しかし、あんた何を考えているんだ……? ()()()()()をわざわざ放送で、リアルタイムで()て面白いのか?」

 

「おや、ひどい言い草ね。王太子の結婚披露」

 

 実におめでたい、国を挙げての慶事――

 

「それをリアルタイムで鑑賞するというのは、良くないことかしら? いえ、少しミーハーすぎるかしら? ホホホ」

 

 カーシャはコロコロと笑った。

 

「……あんた」

 

「正直試してみたくはあるのよ。実際、どんな気分になるのか。今まで興味を感じなかったから無視してきたけど、それはある種の逃げだったかもしれない」

 

「逃げ、ねえ」

 

 あんたには似合わねえ言葉だよ。

 

 ゴトクの意見にカーシャは肩をすくめた。 

 そして――

 踊るようにクルリとターンしてから、

 

「だから知りたいのよ。()()()()()()

 

「ぶち切れて大量虐殺ってのはカンベンしてもらいたいね」

 

「正直なところ? 約束はできないかしら。もし不安なら遠くに避難してもいいわよ? あの3人も連れてね」

 

「あまり意味はない気がするけどな」

 

 ゴトクはため息を吐き、

 

「ただまあ……。正直な予測を言わせてもらうのなら、何も変わらんと思う。そういう点では、安心だよ」

 

「へえ? 根拠(エビデンス)は?」

 

 カーシャがからかうように言えば、

 

「あんたの性格上、本当にそんな()()が残っているのなら」

 

 ジッとしているはずがないからさ。

 その気だったら、冒険者稼業なんかしてねえ。

 王都に殴りこんで……。

 皆殺しにしているさ、関係者全員な。

 

 と。

 ゴトクはひと呼吸に言った。

 その後。

 カーシャの顔、水色の瞳をまっすぐに見る。

 

「そうかしら?」

 

「そうだよ」

 

 カーシャは即答したゴトクに一瞬キョトンとしたが……。

 

「そうねえ。そうかもしれない」

 

 つぶやくように言って、空を見上げた。

 空はもう冬の景色。

 風は冷たい。

 時どき、刃物みたいな木枯らしが吹いている。

 

「もうすぐ今年も終わりか」

 

 カーシャは(うた)うように言った。

 

 青い乙女が石もて王都を追われ―

 ―ネビズに来たのは6月。

 初夏の頃だ。

 

「結婚式の後には、再誕祭」

 

 再誕祭。

 太陽の女神が新たに再生する神話にちなんだ祭り。

 日本で言うなら正月にあたる期間。

 贈り物をしあい、家族で過ごす時だ。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

「とても素敵ですわ……」

 

 うっとりとした侍女たちの声。

 それをリーンは聞くともなく聞いている。

 

 鏡に映る自分の姿は、

 

 ――母様。

 

 幼い日に見た母の姿に重なり、思い出を浮かび上がらせる。

 ヤオアムト王族伝統の花嫁衣裳。

 

 まさか、自分が着ることになるとは、

 

 ――考えていなかった。いえ、考える余裕もなかったけれど……。

 

 こうなってみると、浮き立つ自分に気づく。

 

 しかし、リーンにとって……。

 正式な王太子妃となること。

 それは、より厳しい道への始まりでもある。

 

 王子様と結婚して幸せに暮らしました。

 

 で、終わるのはおとぎ話の世界だ。

 

 現実には――

 王族、特に嫡子の正妻となれば、やるべきことは山のごとし。

 

 優雅な貴族たちの宴。

 貴婦人たちの集うお茶会。

 過酷な仕事の一環であり、その本質は血で血を洗う戦場。

 

 敵どころか味方ですら油断はできない。

 裏切り、離反。

 いや――それよりも問題なのは、無能な味方の暴走である。

 

 亡き父の派閥。

 今はリーンの派閥となっているが、

 

 ――どこまで()()にしていいのか、わからない……。

 

 のだった。

 

 

 

 ・  ・  ・

 

 

 

 そして――

 

 カーシャ邸に設置された映写機と、映像を映す大型のスクリーン。

 その画面内には、

 

「いやあ、きれいなもんですねぇ?」

 

 王族専用の礼服を着こなした王太子と。

 白いウェディングドレスをまとった花嫁リーン。

 

 これにボロンは率直な称賛を述べていた。

 

「あなたも着てみたい?」

 

 カーシャはからかうように言った。

 最高級茶葉からいれたお茶を飲みながら。

 

「着れますか?」

 

 ボロンが聞き返すと、

 

「そりゃ所詮は服だもの。着ようと思えば子供だろうと100歳のおばあさんだろうと着れるわよ。他人からの反応はまあ別して」

 

「おお、わーたくしはどのような……」

 

 反応をいただけますかね?

 

 ボロンは興味津々の素直な表情で語り……。

 テーブルの茶菓子に手を伸ばす。

 

「あ、こら美味い。こらけっこう」

 

 茶菓子をがっつくボロンに、

 

「花嫁になる前に、行儀作法をキッチリ仕込んだほうがいいんじゃね、こいつ……」

 

 横から見るマコネはため息。

 

 そこにバッキーが、

 

「でも、こないだのお店ではきちっとしてましたよ?」

 

「そういえば、そっか」

 

 マコネは首をかしげた。

 

 数日前、カーシャたちはサキュバス街にある高級料理店に足を運んだ。

 とったのは、個室。

 料理も酒もハイレベル。

 あまりマナーを考えなくてよい場所やメニューだったのだが、

 

「こいつがなあ?」

 

 マコネは思い返す。

 

 ――おいらやバッキーの『練習』ってことでもあったみてえだけど、姐さんはともかくとして……。

 

 ボロンの食べ方はきれいだった。

 

 これにカーシャは、

 

「へえ。ずいぶんときちんとしたモノを身につけているのね? どこでおぼえたのかしら?」

 

「え、これはいけませんか?」

 

「いえ。むしろ良いのだけど」

 

「デァハハ。いやあー。そのようにお誉めいただけると、快いですねえ。何やら照れくさくって、デハハ……。あなたも罪なかたですねえ。ムホホホ」

 

「意味わかんない」

 

 と。

 このような半分喜劇の1シーンであり、バッキー(いわ)く、

 

「変な漫才みたい」

 

 な、会話をふたりはかわしていた。

 

 さて、ボロンが茶菓子を食べる横で、

 

 ――やはり、ゴトクの意見は正しかったわけか……。憎むべき仇敵の晴れがましい、幸福な姿。だけど。

 

 何も感じない。

 

 いや――

 

 完全なゼロではない。

 だが。

 せいぜい。

 街で見かけた野良犬。

 そいつが()()()で歩くのを見かけた程度。

 

 ――そんなところかしら。

 

 結局、無意味な結果。

 

 ――けれど、それはそれでいいか。この部屋も機材も、そのうち別な使い道ができるかもだし。

 

 カーシャは内心で苦笑した。

 

 そして。

 熱めにいれたお茶へ――

 やはり最高級クラスのブランデーを注ぐ。

 何も感じないアルコール。

 

 だが、

 

 ――こうやって飲むと、美味しさを感じられる、か……。こうなるともう調味料ね。

 

 この日……。

 カーシャは王太子の結婚式を(さかな)に、ブランデーいりのお茶を楽しんだ。

 

 世は全てこともなく――

 

 少なくとも?

 その時ネビズの街は平和だった。

 

 

 

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