破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――まあ、確かに厄介と言えば厄介であるかしら?
カーシャは走りながら、ふと思う。
赤い、獣の髑髏に似た頭部。
ラクシャサと呼ばれる怪物。
大小のサイズを持つ怪物の群れを潰しながら、カーシャは何度か手を握って開く。
妙な感触だった。
――ある種の防御魔法……に、似たものをまとっているのか。なるほど、一般的な物理攻撃や多少の魔法は効果が薄いわね。ドラゴンに近いのかしら。
とはいえ、
――さほどの脅威でもない、か?
例えば?
ヤオアムトの軍隊と戦えばどうなるのかは、わからない。
魔導技術で造られた、魔力を込めた弾薬。
そういったものならば、有効かもしれない。
ならば。
出費は痛いだろうが、対処可能なら敵ではある。
ただ――
魔導技術の遅れたこの『世界』では、滅亡の危機をもたらす存在なのだろうか?
「しかし……ここは、どういう場所なのかしらね?」
カーシャは肩をすくめ、近くのバッキーにたずねた。
「うーーーーーーん……」
バッキーは腕を組んで、考え込んだ。
「異世界にしては、大気の魔素というか、空気から感じる魔力にはさほど変化がないんですよね? 環境がだいぶ違うのはわかるんですけど」
言いながら、バッキーは空を見上げる。
赤いわけでもない、太陽が二つあるわけでもない。
ヤオアムトと、別に変らない空だ。
空気の違いは、文明や文化、後は行く当ても何もない現状ゆえの錯覚か。
そんな時だった。
「やあやあ。お互い無事だったね――」
紐をつけた酒瓶。
それを手にしたヘビィクが、手を振ってきた。
後ろには、『破壊』されたラクシャサの死体が複数。
「けっこうお金になったのは助かった。しかし、お姉さん強いね?」
「それはどうも……」
カーシャはそっけなく返す。
「まあ、こういう感じであちこちにラクシャサの残党がいて仕事には困らないんだよね。定住は難しいけど、まあええやろ」
ヘビィクは他人事にように言って、歩き出す。
「縁があったらまた会うのかもね」
「そうね。縁はありそうね」
カーシャは、ヘビィクを見送りながら静かに言った。
――縁か……。そうね、似たモノ同士ではあるから。
・ ・ ・
「何なの、これは……」
報告書を置き、ブルシーは頭を何度も掻いた。
「統率もされていない残党とはいえ、5体以上のラクシャサをひとりで? どういうことよ!」
「報告書に書いてあるまま……。としか言いようがないわね」
フォクネはあくまでも冷静な顔で言った。
ただし――
タバコを持つ手は微かに震えていたが。
「いったい、どういう人間なのかしらね? ガーディナーとしても、あまりに常識はずれすぎるわ」
「そうね……。でも、マウミちゃんたちなら、できないことはないわよ。いえ、みんなで協力すれば……」
ブルシーは少し睨むように、フォクネを見た。
「確かに――。倒されたラクシャサはいずれも数はあっても、圧倒的脅威というわけではないわね」
「ええ。だから……」
と。
ブルシーが言いかけたところへ、
「だけど、たった一体の守護霊で、これほどの戦果を出すことは非常に難しいわ。むしろ、あなたのような指揮官の立場でこそ、よく理解できるんじゃないかしら?」
フォクネはやや冷たい口調で言った。
「……。確かに、ちょっと混乱してたわ……。しっかし、どこの誰かわからないけど、ホントに惜しいわね。これだけの実力があるなら……」
「今になって惜しんでもしょうがない。時期がずれたとはいえ、このガーディナーが大きな戦力になるのは確実だわ」
「うーーーん……。だけど、どういう子なのかしらね。この資料だと若い少年……子どもってくらいしかわからないじゃない」
ブルシーは資料を指でつつき、やや苛立たしげに言った。
「世の中には、埋もれた天才というのはいるもの……らしいわ」
どこか皮肉めいた声で、フォクネは言う。
それから。
ゆっくりと、タバコを吸って、吐いた。
「どっちにしろ、仮にラクシャサの脅威が完全に去ったとしても、ガーディナーが有用なものであることには、変わりない。早急に」
「ええ。行動を捕捉するわ」
フォクネの声にブルシーはうなずいた。
・ ・ ・
ラギナという少女。
彼女について、ヘヴィクはいまだによくわからない。
妙な女の子。
マウミとはまた違う意味で、そういう存在だったと思う。
イメージとしては、ずっと父のそばに立っている――
あるいは控えている。
そういう少女だった。
並べて考えてみると、
――マウミとよく似ていたかも。
最初の印象がかなり違うので、わかりにくいがよく観察してみればそうだった。
そこがどうも妙だった。
他人の空似というには、あまりにも近すぎる。
ともかく。
ヘヴィクが慣れない生活、押しつけられる戦いや責務で四苦八苦している間――
ラギナとマウミは距離を縮めていったようだ。
そこは同性であるし、年齢もほぼ同じ。
別に不思議なことはない。
ただ。
横から見ていると、どうも不思議な感覚があったのは事実。
ヘヴィクにとって――
ラギナという少女はとっつきにくい相手だった。
ヘヴィク自身もひと付き合いが得意ではない。
まして、よく知らない少女とすぐに仲良くなれるキャラではない。
さらに――
ラギナの態度は、お世辞にも友好的と言えるものではなかった。
――自分は嫌われていたのか。
と。
軽く悩むこともあったが、どうやら基本他人にはそっけない態度だったらしい。
例外だったのは父くらいだろう。
――息子をほっぽり出して、他人の子どもを育ててるのかよ。
知った時は、暗い感情をおぼえたものだが、
――他人?
今になって思い返すと、違和感がある。
あるいは、
――まさか、隠し子だったわけでも……いや、ありうるのか? いやまあ、どうでもいいけど。
さて。
そんな中で――
マウミとラギナは、いつの間にか姉妹のようになっていた――
気づけば――
ヘヴィクは孤立していた。