スレッタにキスしようとしたら「ちゅーしたら赤ちゃんできちゃうからダメです」って拒まれて宇宙猫の顔になるミオリネのお話。

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Why Don't You Kiss Me, Baby?

 ※捏造、ご都合主義、謎時空を含みます。

 ※百合要素を含みます。

 ※アホです。

 

 

 

 

 

「だ、ダメ、ですっ!」

 

 思いのほかに強い拒絶に、ミオリネは鼻白んだ。

 ぐい、と体を引き離すように、肩をつかんだ手に腹も立った。

 初心にもほどがあると面と向かって文句も言いたくなった。

 

 ミオリネがスレッタを部屋に連れ込んだのは別に仲良くパジャマ・パーティなどするつもりではなかった(それはそれで別の機会にしたいと思う)。花婿のほうでは割とそういう感じだったが。

 しっかりと仕事を片付け(押し付けたともいう)、綺麗に部屋を片付け(当社比というのは便利な言葉だ)、ちょっといい夕食も共にして(さすがに経費では落とさなかった)、シャワーも浴びて(実はこの時が一番ドキドキしていた)、さあいざ同衾という時だったのだ。

 

 友だちとパジャマ・パーティ!やりたいことリストがまたひとつ埋まりました!と間の抜けたことを言う花婿(とてもかわいい)の、同じソープの香りがする襟元を引っ張って、下から見上げるように頬に手を当ててやれば、透き通るようなターコイズブルーがキョトンと見開いた(きれいだ)。

 少し間の抜けたような表情が距離の近さにか不意に頬を染め、こらえきれず背伸びして唇を寄せれば、冒頭の拒絶である。

 

 ここまで丁寧に準備を整えてからの、かなりはっきりきっぱりとした「待て」に、当然ミオリネは不満を抱いた。

 こういうときかわいらしく膨れるのではなく、露骨に眉をしかめて目つきがきつくなるのがミオリネの悪い癖だった。ミオリネ本人にとってそれはちょっとした感情の発露に過ぎないが、臆病な花婿はひいと人聞きの悪い悲鳴を上げて縮こまってしまった。

 

「…………何が不満なのよ」

 

 ミオリネは六秒間、意識して呼吸を整えた。

 感情は長続きしない、という話を思い出して、冷静さを保とうとしたのだ。

 でも六秒もあったら三回くらいキスできたかもしれない。

 

 スレッタはええと、あの、その、とどこにもつながらない声をいくつももらして、それから丸っこくかわいらしい眉をへにゃりと下げた(かわいい)。

 言葉を考えているためか、それとも行き場のない手のやりどころに困っているのか、ミオリネの肩をつかんだままの指先がさわさわとうごめいて、結局きゅうっと頼りなさげに掴みなおした。

 

「ちゅ、ちゅーは、ダメ、ですっ。ま、まだ早い、っていう、か」

「かわいい」

「えっ」

「じゃなくて、なによまだ早いって」

「だ、だって、あの、でも、ちゅー、だし」

「私は花嫁で、あんたは花婿。まだまだっていうなら、いつまで待てばいいのよ。あんたのペースに合わせてたら私はあっという間におばあちゃん。そりゃあおばあちゃんになったって、きっとキスしたいと思うし、キスしてほしいと思うけど、それはそれとしていまなのよ、いま。十七歳のキスは十七歳にしかできないのよ。逃げたらキスはできないけど進めば私はあんたとキスできるしあんたは私とキスできて二つ手に入るのよ。もしかしたらもっと手に入るかも」

「あ、赤ちゃん!」

「は?」

 

 ヒートアップしかけたミオリネを制すように、スレッタが突然赤ちゃん発言を繰り出した。

 別にスレッタが赤ちゃん言葉で話し始めたわけではない。なんだそれ。むしろ見てみたいが。ミオリネ的には全然見てみたいが。今度やってもらえるか聞いてみようか。

 そうではなく、突然飛び出てきた「赤ちゃん!」に、ミオリネは困惑した。

 それは、ハニーとかダーリンとかに並ぶベイビー的な意味での発言だったのだろうか。

 私の可愛いベイビー、と笑いかけてくるスレッタはとんでもなくパチモノくさかったが、それはそれとしてスレッタに赤ちゃん扱いされるのはとてつもなく複雑な刺激が脳を破壊しそうだったので今度やってもらえるか聞いてみようか。

 

 ミオリネの困惑をよそに、スレッタは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「ちゅ、ちゅー、したらっ、あ、赤ちゃん! できちゃ、います! から!」

「録音するからもう一回言ってもらえる?」

「えっ」

「違う」

 

 ミオリネは何事もなかったかのようにリテイクした。

 

「つまり……キス、ううん。ちゅーしたら赤ちゃんできるから、まだ早いって、そういうのね」

「そ、そうです!」

「あんた、私との子供が欲しくないっていうの?」

「そ!……ういうこと、では、なくって、あの、」

「きっとかわいいわよ」

「……ぜ、絶対ミオリネさんに似て可愛いとは、思いますっ、けど!」

 

 スレッタはふたりの特徴を受け継いだイマジナリー・ベイビーを寸時夢想したのか、すこし呆けたような顔をしていたが、すぐにそれをふりはらって、真剣なまなざしでミオリネを見下ろした。

 何度か呼吸を整えて、そしてまっすぐに言葉を紡いだ。

 ミオリネはどんな言葉であってもしっかり受け止め反論してやろうと、それを待ち受けたのだった。

 

「高頻度で低重力環境下での活動を行いながらの妊娠・出産は母体に大きな負担になるだけでなく、胎児の発達に重篤な障害が生じ、最悪の場合母子ともに生死にかかわる危険があり、ます。えと、それに妊娠中だけでなく出産後最低でも一年は安定した重力下での療養が推奨されて、ます。株式会社ガンダムはまだ安定してないですし、エアリアルの船外活動とかもあると思うので、しばらくは難しい、って思う、んですけど……」

「想像してた百倍くらいIQ高くするのやめて?」

 

 キャベツ畑とコウノトリを信じてる子供だと思って優しく諭してやろうと構えていたら、バチクソ大真面目に妊娠出産について論じられた上に、本当の本当の意味で「まだ早い」を提示されてたしなめられてしまった。

 これでごり押ししたらミオリネは完全に悪者である。

 

「よくまあそんな知識あったわね」

「お、お母さんが、思春期のこどもはケダモノだからって」

「お義母様~~~~~~」

 

 姑の怪しすぎる仮面を思い出して、ミオリネは露骨に舌打ちした。

 だが忠告そのものは極めて真っ当なのでケチもつけられない。

 しかし、その真っ当すぎる、というか科学的すぎる教えとかみ合わないスレッタの幼い主張に気づいて、ミオリネは首を傾げた。

 

「……あんた、じゃあ保健体育は問題ないのよね」

「え、あ、はい、たぶん……」

「じゃあその、こう………おしべとめしべとか、めしべとめしべとか」

「あ、はい。セックスですね」

「セックス」

「そういうのもあるってお母さんに習いました。で、でも、無理はしなくていいし、若いうちからすると頭がパーになるから、ダメです、って」

 

 ミオリネは膝をつきそうになった。

 きちんとした科学的知識と、ファンシーでメルヘンなお花畑を両立させようとする無理にくじけそうになった。

 いつか伴侶となるべき人が正してくれるだろうとでも信じていたのだろうか。いや絶対娘を馬の骨になんぞやるものかという断固たる意志だろうこれは。

 ミオリネは、その知識は誤っているとは言えなかった。あんたの母親はサイコで娘を支配下におこうとする毒親だとは言えなかった。たとえどれだけその知識に問題があったとしても、母親への否定となる言葉を、スレッタはきっと快くは受け止めてくれないだろう。

 

 だがミオリネは言いたかった。

 言ってやりたかった。

 パーになりたいのよと。頭パーになるくらいしたいのよと。二人して頭パーになるんでしょと。

 しかし言えなかった。なけなしのプライドがそれを口に出させなかった。私はケダモノですとは言えなかった。

 

 でもせめてちゅーしたかった。

 枕元に用意したフィンドムとかは隠し通すとして、それはそれとしてちゅーだけでも勝ち取りたかった。

 

 だからミオリネは、進むことを選んだ。

 スレッタの知識を否定することではなく、新しい二人の道を作っていくことを選んだ。

 

「スレッタ。わかったわ。確かに、私たちにまだ子供は早いわね」

「で、ですよね!」

「そういう人のためにも、世の中には経口避妊薬っていうのがあるの」

「えっ……?」

「大丈夫よ。これはパイロットや長期の低重力下活動、いいえ、日常の苦痛を緩和するためにも用いられる安心で安全のお薬だから」

「あ、あの、でもお薬は……」

「私から逃げないでよ。任せてくださいって、私に言ってよ!」

「ひぇえ……」

 

 後日、スレッタの疲れた様子を気にかけた地球寮の面々に、「ピル飲めば大丈夫だからって、ミオリネさんの押しが強くて……」「私はピルも絶対じゃないし、ダメですって言ったのに……」「でも一度されたら、私もその……拒めなくて……」「頭がパーになっちゃいます……」などと食堂でぼやいた結果、社党の株が大暴落したのだがそれはまたどうでもいい話。

 

 

 



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