花畑の林檎の木の下に、赤い林檎の形のモンスターと1人の女性がいました。

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林檎の木の下で

1.好きな物は林檎

 

 そよそよと心地好い風が吹いている広い花畑に、遠くからでもよく見える『赤くて林檎のような形をした不思議なモンスター』がいた。

 そのモンスターは、広い花畑に立つ林檎の木の下に座って、木から落ちているのを拾った林檎を黙々と食べていた。ずいぶんと夢中になって林檎を食べているようなので、よほど林檎が好きなモンスターなのかも知れない。

 

「ふわぁ~……。」

 

 そんな夢中で林檎を食べているモンスターの隣に、執事服を着た女性が腰を掛けていた。薄い紫色の髪を持った女性だった。

 女性はふんわりと眠たそうに欠伸をして目元を擦っている。眠そうに欠伸をするその姿には、見ている此方まで眠くなってしまうようなふわふわとした不思議な雰囲気がある。

 

「ねむい……。」

 

 モンスターの隣。しばらく目元を擦ってうとうとと眠そうにしていた女性は、なにか用事を思い出したのか其処からゆっくりと地面に手をついて立ち上がった。

 そんなゆっくりと立ち上がる女性の姿を隣に座っていた林檎のモンスターが、食事の手を止めて顔を上げ不思議そうに眺めている。眺めるモンスターの短い尻尾はふらふらとのんびり揺れている。

 ぴったりと食事の動きを止めたモンスターを本物の林檎だと勘違いしたのだろうか?何処からか飛んできた蝶々がモンスターの頭の上に止まった。モンスターは頭の上に止まった蝶々に気付いていないのか『女性がなにをしているのか?』をボーッと眺め続けている。

 

「そう~ですね……。」

 

 眺められている女性の方は、自分の動きを見て食事を止めたモンスターに気付かないまま木の下に置いていた彼女の物であろう鞄を開けてなにかを探していた。彼女は鞄の何処に探し物を入れたのかを忘れてしまったようで「どこでしたかね~……?」と困ったように独り言を呟いている。

 静かな花畑にガサゴソガサゴソと女性が鞄の中身を動かす音だけが響いている。

 

「……?」

 

 林檎のモンスターは探し物を続けている女性をしばらく眺めていたものの、やがてそれを眺めるのに飽きてしまったのか、再び林檎をシャリシャリと食べ始めた。

 食事を再開し動き始めた林檎のモンスターの頭の上から、慌てたようにひらひらと蝶々が飛び立っていった。

 

 

2.体を丸めた姿はまるで林檎

 

 林檎のモンスターは林檎を食べ終えて、頭の上の木になる林檎の実を眺めていた。ジッと眺めているので林檎が食べたり無かったのかも知れない。

 その隣に座る女性は、鞄からやっと見付けたらしい林檎のジュースをゆっくりと飲んでいた。花畑に咲く花を眺めてたまに鼻歌を歌いながら、のんびりと楽しそうに飲んでいる。

 

「……。」

 

 女性の隣。大人しく座ってジッと木を眺めていた林檎のモンスターだったが、キョロキョロと辺りを見渡し始めたかと思うと丸い体を前後に揺らして立ち上がった。

 

「ど~しましたか……?」

 

 隣で立ち上がった林檎のモンスターの気配に気付いた女性が、不思議そうに林檎のモンスターに尋ねた。尋ねられた林檎のモンスターはというと、女性の方へ一瞬だけ目を向けて首をかしげた。

 

「……!」

 

 モンスターは首をかしげたあとに女性から目を離すと、なにを考えたのか突然ゴロゴロゴロゴロと林檎の木の周りを回転して移動し始めた。

 

「……はて?」

 

 突然始まったゴロゴロゴロゴロと林檎の木の周りを横回転して移動するモンスターの奇妙な行動に、女性は飲みかけのジュースを忘れてきょとんとした顔になった。このモンスターの回転はなんの意味があるのか?女性には分からない謎の行動だった。

 それにしても、ゴロゴロと体を丸め転がって移動する林檎のモンスターの姿はその大きさを注意して見なければ、ただの林檎が地面を転がっているようにしか見えない。『広い花畑を転がる大きな林檎』にしか見えない。

 

「おいしそう……。」

 

 林檎が好きなのか、女性はそんな林檎にしか見えないモンスターの姿ににこにこと笑顔を浮かべて呟いた。

 

『おいしそう』

 

 その女性の呟きが聞こえたのか、ハッとしたように林檎のモンスターはピタッと回転の動きを止めた。

 動きを止めた林檎のモンスターは、ぴょんぴょんと林檎の木の下まで跳ねて移動した。そうして林檎の木の下までたどり着くと、そこへちょこんと座ってまたジッと林檎の木の実を眺め始めた。

 木の緑の葉っぱを風がさらさらと揺らしている。その間から真っ赤な林檎の実が見える。風にのって甘い林檎の香りがする。美味しそうな甘い香りだ。

 

「おいし~ですね。林檎……。」

 

 座ったままジッと林檎を眺めるモンスターの姿に、女性は笑顔のまま優しく声をかけた。林檎のモンスターは、尻尾をぱたぱたと動かしてその声に答えた。

 


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