彼女は出生に秘密がある《ドドドチート個性持ちのレイドボスがA組で上方姉面をする話》 作:狐ヶ崎
モニターの用意された部屋で、プレゼント・マイクはモニターの青白い光を受けながら、湧き上がる嫌悪を隠そうともせず盛大に眉を顰めていた。
壁一面に取り付けられた大型モニターには、一つの部屋の様子が高所からの視点で映し出されている。
彼が見つめるモニターの前には、プレゼント・マイクの他にも雄英の教師たちが勢揃いして、映し出される映像を声もなく注視していた。
画面の中、中央に据え付けられたテーブルに着席する、二人の男と一人の少女。
角度的に男たちは後頭部しか見えないが、少女の顔はよく見えた。垂れ落ちる長い銀髪と、小さな造りの顔。目鼻立ちがすっとして、その造形は端正であり、口端には僅かに笑みを浮かべている。どこを切り取っても完璧な美少女だった。
しかし、一般的な感覚を持ち合わせているプレゼント・マイクの目には、少女のそれは随分と異様に映る。
彼女が人を殺したのは、たった数日前のことだ。それなのに、豪胆にも微笑んでいる。口元に余裕を侍らせて。
公安とプロヒーローを前にしながらも、先日多数の殺人を軽々と成してみせた少女は、怖気さえ感じてしまうほどに、ひどく落ち着き払っているように見えた。
モニターの映像は、部屋に隠された監視カメラからリアルタイムで中継されているものだ。別口から明瞭な音声も届けられており、これから行なわれる少女の尋問は教師陣にすべて筒抜けになっている。
何を聞かれ、何を喋り、どんな反応をしたか。モニターの前に集結した教師陣たちもまた、その様子を見定める手筈になっていた。
今日の雄英には、教師陣と公安からの人員と、それから該当の少女が所属する一年A組の生徒以外の人間は誰もいない。一年A組以外の生徒たちは、すべて秘密裏に休校の手配がされている。何百人もの生徒の貴重な一日を潰してでも、生徒の安全を確保したいという校長の判断がゆえのことだった。
それは、昨日校長が持ってきた、『死柄木那由多』という少女についての事実に端を発する。
昨日。
一斉休校となった雄英に招集された教師陣の前で、根津はその愛らしい顔に笑みさえも浮かべず、挨拶もなしに切り出した。
「今日集まってもらったのは他でもない、先日の襲撃事件に関わることなのさ。敵連合と名乗る集団の襲撃……雄英のセキュリティを突破しての戦闘行為。これはもはや雄英だけの問題ではなく、ヒーロー社会自体に真っ向から牙を剥く所業であると言わざるを得ない。早急に解決すべき由々しき事態だ。そう、由々しき事態であるが、けれど、それは一旦
ずらりと並んだ長机に着席する、雄英所属のプロヒーローたち。錚々たる面々を見回して、根津は一度手元の書類に目を落とした。
雄英への直接的な襲撃事件。その事の大きさを、この場にいる誰もが心の底から理解している。ヒーローの総本山とも言える雄英高校、むざむざとそこが襲われ、預かっている生徒に怪我までさせてしまった。下手をすればヒーロー社会を揺るがしかねない出来事であり、本来なら一刻も早い対策対処が必要となる大事件である。
それでも、根津はそれを敢えて後回しにすると宣言してのけた。
そんな根津の言葉に対し、異論がある者、眉をひそめる者、反応は多々にあるだろう。ここにいるのは確固たる矜恃を背負ってヒーローをやっている者たちばかりだ。
それでも誰も口を挟まずに根津の話を聞いているのは、ひとえに根津の人徳の篤さと信頼が礎となっているからに他ならない。
根津が敵連合を後回しにすると言った理由。
それは、あの襲撃事件を経て、それよりも更に重大な問題が、急遽浮上してきたからであった。
「そうだね、まず、簡潔に事件について整理しよう。敵連合の襲撃に遭ったのは、USJにいた一年A組の生徒たち、担任であるイレイザーヘッド、そして講師役であった13号とオールマイトだ。雄英側の死者はゼロ。負傷者は四名……教師三人と、生徒である緑谷出久くん。ここまでは世間に公表されている通りなのさ」
数人の教師が頷く。
怪我の程度までは公開されていないものの、教師三名と生徒一名が負傷、という見出しは今朝のニュースでも報道されていることだった。根津は含みを持ってそう告げる。
まるで、それ以外に死傷した人間はいないと言わんばかりの見出しであるが、それが巧妙に事件の多寡を隠していることに、この場にいる誰もが気づいていた。
事件当日、何名もの教師が根津とともに襲撃を受けたというUSJに急行した。その目で現場を確認し、ヴィランたちが去った後に施設内を巡回した者も少なくない。
だからこそ、多くの教師が『それだけではない』ことを知っている。
「しかし、これはあくまで僕ら雄英側の話だ。世間には決して知らされていないことだけれど、あの事件を今振り返ってみると真に被害が甚大だったのは、当の襲撃してきた敵側だった。何せ、君たちも知っている通り、敵側は実に四十八人もの死者を出している」
根津の低められた声を余韻として、部屋内は深刻な無言で以て静まり返った。現場を直接見た者もいれば事件の話を聞き及んだだけの者もいたが、改めて正式に聞かされると、その異様さが明らかになる。
殺されたのが、もし一般市民であったならば。四十八名もの人間を殺した犯人は、間違いなく全ヒーローに虐殺指名手配犯として情報が共有され、新聞を日夜騒がすことになるだろう。歴史に刻まれるほどの数の死。四十八とは、そのレベルの殺人だ。
それが未成年かつ命の危機に晒されての防衛行為だったとしても、許されざる罪であることは変わらない。
「ここで名前を伏せても仕方がない。──殺したのは、A組所属の死柄木那由多という女生徒なのさ」
根津の告げた名前に、空気が揺れた。波のような無言のさざめきがあり、いくつもの感情を含んだ視線が、名前の挙がったA組担任へと突き刺さる。
イレイザーヘッドは痛々しい包帯を晒しながら黙って頭を深く下げた。
「ひとえに私の監督責任です。如何様にも処分は受けます」
相澤の言葉を皮切りに、ざわりと教師陣の中からも次々に声が上がった。
「でも、相澤くんが悪いわけじゃないでしょう。敵の襲撃は想定外のものだった。不測の事態において、教師がすべてに対応できるわけじゃない」
「それでも該当生徒が、『殺人』という手段を選んだことは問題だろう。ここは雄英、ヒーローの育つ学び舎なんだぞ」
「確かに、教育の問題だと言われてもおかしくありませんな……」
「だが、まだ授業が始まって間もない一学期の段階だ。担任を責めるのも違うんじゃないか。責任を問うとすれば入試のシステムでは?」
「そう、入試の時にも確か議題に上がったはずです。他の受験生を傷つけ、演習場全域ごとポイントを力ずくで押し潰した少女。彼女を入学させるか否か……死柄木那由多は、やはりヒーローの卵足り得なかった!」
「それより主犯の男は死柄木と呼ばれていたと聞きましたが、死柄木那由多との関係性は?まさか襲撃は彼女が手引きしたのでは」
「苗字の合致は偶然とするには出来すぎています。まずは戸籍から洗ってみるべきだ」
「ええ、少女の処分より、死柄木弔とやらの対処が先でしょう。今この瞬間にも、再度の襲撃があってもおかしくありませんよ」
「そもそも事件の概要が世間に伏せられているのはどうしてですか?いくら生徒の罪とはいえ、隠蔽は悪手です!今すぐ公表すべきでは──」
「静かに」
根津が小さな手を打ち合わせた瞬間、口々に言い立てていた教師たちはぴたりと口を噤んだ。
「君たちの疑問意見はもっともだと、僕も重々思うよ。だが、それを踏まえて、これから僕のいうことを聞いてほしい」
静かになった会議室に、根津の声だけが粛々と響く。決して大きい声ではなかったが、すべてを黙らせるような緊迫感が、そこには宿っていた。
「──オールマイトがUSJに踏み込んだとき、死柄木那由多は、主犯・死柄木弔を未確認の個性で拘束していたという。黒い蔓か鞭に似た形状の、確実に個性由来だろう物体だ。不審な点がまずここにひとつ。彼女の個性は『重力操作』。戸籍にも学籍にも登録されているのは『重力を操る個性』……それだけで、彼女が他に個性を持っているなんて情報はどこにもない。勿論、他の生徒にも、類似する個性を持つ者は見つからなかった」
そうだよね、相澤くん。小さな鼻先を向けた根津に、A組担任である相澤は頷いてみせた。
戸籍に紐付いた個性届、そしてそれを踏まえて登録される雄英の学生情報にも、死柄木那由多の個性は『重力操作』であると明記されている。担任として、見て話して関わってきた日々においても、相澤は、少女が『重力操作』以外を使うところなんて見たことがなかった。
「しかも、話はそれだけじゃないのさ。あの襲撃事件のあと、簡単に事情を聞いた生徒の話だと、死柄木那由多はあの脳無とかいう改人に、腹部を貫通するほどの怪我を負わせられたのだという。確かに彼女の服は激しい損傷があったし、USJからは彼女のものである多量の血痕が検出されている。……それでも、直後の検診では、死柄木那由多は
「まさか……再生の個性……」
「そう。ここまでの事実を踏まえると、彼女は少なくとも『重力操作』、『拘束』の個性、『再生』個性と、三つの個性を有していると考えざるを得ない。しかし複数の個性を持つ人間なんて、こう言っては何だが教科書に載るレベルの稀少さなのさ。そんな普通にいていいものじゃない。そもそも、どうして彼女は隠していた? 知られたくない何かがあったのか……偽るべき理由が存在するのか。ここまで考えて、僕の頭脳は、一人の人物を導き出した」
根津の小さな指が流れるように動いて、手元のデバイスをタップした。ふっと部屋の照明が翳り、代わりに部屋のモニターがパッと青白い光を放つ。
映し出されたのは不鮮明な画像だ。かなり遠方から撮ったもののようで、解像度が荒く、ぼやけているが、それが一人の人間を撮影したものだということは分かる。
見渡す限りの瓦礫の山が広がっている。
街だ。破壊された街並みのなか、平然として立つ一人の女。
その顔を見て、誰かが息を呑んだ。
不鮮明でもはっきりと分かる、宙に靡く銀色の長髪。美しく端正な顔立ち。薄く浮かべられた無情な笑みを。
「遡ること三十年前。アメリカで、三十二名のヒーローと、およそ二十五万の民間人を殺傷し、ヒーロー史に敗北の文字を苦い筆致で刻ませた……前代未聞の超級ヴィラン」
それは光と闇の過渡期の話である。
数多のヒーローと数多のヴィランが生まれては散っていった激動の時代。個性というものがまだ世の中と重なりきっておらず、その接触面で様々な火花が散っていた頃の話。世界史にもアメリカ史にも詳細な記録が刻まれていない、ヒーロー敗北の歴史である。
三十年前、ヒーロー大国であったアメリカは、自国を訪れた一人のヴィランを制圧しようとし、そして失敗した。その場所には秘密裏に八十名のプロヒーローが集められたが、その内の三十二名のヒーローが命を落とす結果となった。しかし、その事件全体の死者数を思えば、三十二名などほんの些細な数字に変わる。
歴史は斯く語る。ヒーローたちの一斉襲撃を受けた標的のヴィランは、すぐさま応戦態勢に入ったという。先制攻撃に長けた個性の集中攻撃を受けてなお無傷の姿で立ち上がった彼女は、そのまま戦闘へと移行すると、事もなげに名だたるヒーローたちを虐殺した。
戦闘は激しく、そして被害は甚大だった。戦闘の余波で、アメリカの街は当ヴィランの個性の力によって、二つほど瞬間的に壊滅した。
街並みは一瞬で灰燼に帰し、そこに住んでいた人間もろとも瓦礫の山になった。単純で純粋な破滅の景色だ。それが凄惨にも見渡す限りに広がっていた。累計の死者数は二十万を越したとされるが、今もなお行方不明とされる民間人のリストは果てなく長く続いている。
二都市の壊滅と、トップヒーローたちの死。この圧倒的な敗北を受けて、アメリカは当ヴィランへの追撃を諦めた。ランキング上位のヒーローたちの死体の山は、アメリカという国に敗北の文字を呑ませるだけの威力があった。死者の名が並ぶビルボードチャートは無言のうちに一新され、政府は苦い沈黙を選ぶこととなった。
淡々とした事実だけが連ねられた事情は各国のヒーロー協会にのみ公開されたが、民間には公開されなかったために、アメリカの政治はしばらく荒れた。それでも薄暗い時代の最中、人々が個性絡みの事件なのだと察するのは早く、やがて世論は不自然なほど静かになっていった。
ヒーロー史に刻まれた、超級ヴィラン。
およそ二十五万の民間人を殺傷し、ヒーロー史にて異様な筆致で語られる殺戮者。
それが、このモニターに映し出されている女である。
アメリカは、彼女の個性を知り、こう名付けた。
神のあとに生まれいずるもの。
神の果て。
「──《アフターゴッド》。それが、ヒーロー史における禁忌の名前だ。彼女の個性は『
しんと、不気味なほどに場は静まり返った。
誰もが何も言えないでいる。しかし、ここにいるすべてのヒーローが、その危険性を心の底から理解していた。
雄英は子どもが学ぶ場だ。これからヒーローとして花開く子どもたちが未来に向けて準備をする揺籃の蕾。そんな未熟な生徒たちに混ざって、かつて何十万もの人間を虐殺したヴィランが、平然と肩を並べて生活している。その恐ろしさ。
「これはもう、雄英だけの手に負える話じゃない。正直言って、死柄木弔なんかは二の次だ。僕は速攻で公安にコンタクトを取り、アフターゴッドの危険性をつぶさに共有した。死柄木那由多のヴィラン殺害をマスコミに報告しないと決めたのは当の公安だ。世論が下手に彼女を刺激をしてしまう可能性があったからね、彼女の力が未知数である以上、そんなリスクは犯せない」
広がる重い沈黙を見て、根津は小さな鼻先を振った。
「下手に退学にして野放しにするよりかは、雄英の監視下に置いた方がいい。これは公安との共通認識だ。勿論、可能ならば拘束したいところだけど、それで逃げられても困るのさ。彼女の実力は米国の折り紙付きだ。慎重に対処するべきだと、僕は判断した」
「……。……正気とは思えませんな。生徒を人質に取られているようなものでは?」
死柄木那由多は、言わばいつ爆発するとも知れない核爆弾のようなものだ。今はどうしてか一生徒として学生生活を楽しく謳歌しているようだが、いつ気が変わって周囲の生徒を虐殺して回るようなことになってもおかしくはない。
そんな人間を生徒たちの傍に置くなどということは、つまり生徒の保護よりも、死柄木那由多との軋轢を生まないことを優先しているとも取れることであった。
疑念の声を上げたセメントスに続いて、集まった教師たちも口々にさざめきを上げ始める。
「セメントスの言う通りです。それじゃあ何も知らない生徒たちを危険に晒すことになる。もし、アフターゴッドが今後生徒を殺めでもしたら、もう取り返しがつきません。教育機関である以上、それは到底許されないことでしょう」
「しかし、米国のプロヒーローたちが束になってかかっても適わなかったヴィランなんて……オールマイトも負傷しているのに、どう対処をする?」
「国外からヒーローを呼び集めてでも排除すべきじゃないでしょうか。彼女が本当にアフターゴッドだというのなら、そのままにしておくのはあまりにも危険だと、国連の大多数もそう判断するでしょう」
「しかし、オールマイトがこんな状況の今、日本のヒーローがもしアメリカの二の舞を演じでもしたら、本格的に国力の低下を招くぞ。死柄木弔とかいうヴィランも気掛かりなことだしな」
口々に言う教師たちの視線は、結局は根津へと集まる。彼は腕を組むと、重たげな口を開いた。
「……そうだね。僕としても、かなり悩んだのさ。……だが……死柄木那由多はUSJの事件の際に、生徒たちを守るような行動を見せたという。僕はね、そこには意味があると思っている。少なくとも無意味に攻撃を加えるようなことはしない、と僕は確信しているよ」
「タチの悪い性善説だ。生徒に被害が出てしまったら、もう言い逃れができない」
「当然、僕も可能なら今この瞬間にでも捕縛するべきだと思っているのさ。だが、彼女は複数の個性を自在に操る……何をするにおいても、イレイザーヘッドの協力は不可欠だ。しかし、残念ながら相澤くんは、今、戦闘を行える状態ではない」
イレイザーヘッドは包帯だらけの顔で沈黙を保っている。
彼の怪我は程度が凄まじく、いくつもの治癒個性を用いた治療が行なわれた後であっても、まだ包帯が取れる状態ではない。個性の大元である眼球周りは特別優先的に治癒されたものの、対アフターゴッドの戦闘に加われるかといえば不安が残る。
『抹消』が不可欠という根津の言葉は、皮肉にもヒーローたちに満場一致で苦い納得をもたらした。個性戦において抹消の果たす役割は大きい。複数の個性を操るというアフターゴッドが相手だというのなら尚更のことである。
口を開く者がいなくなったことを確認して、根津は鼻先をゆっくりと決意の形に巡らせた。
「だから、死柄木那由多を拘束するのは、抹消ヒーローが完璧に回復したタイミングだ。──僕としては、その機会を林間学校に定めたい」
根津の声は重く響く。
「市街地が遠く、大規模な戦闘になっても民間人に被害が出にくい場所が好ましい。荒地か、山間部……A組だけ隔離するような形で林間学校を行ない、その最中でヴィラン《アフターゴッド》を捕縛する。彼女には決して気取られないよう、国内外を問わず、ヒーローたちを集めるんだ。……アメリカの例を振り返れば、かなり凄まじい戦いになるだろう。けれど、この土地を、この国を──かつて栄えていた中国の上海、あるいは滅び去った中東のカタールの……その二の舞には、決してさせない」
この世界に生きる人間なら誰だって知っている。
上海は、チンゾンジャオという一人の人間の個性によって、誰も近づけない死の地と化した。カタールの地では、深い断裂が国中を引き裂き、国家として存続ができなくなった。
そう、個性は恐ろしい。一人一人に発現した能力が、さながら緑が芽吹くように、成長し、肥大し、膨張していくこの現代、破壊というものは簡単に為されることができるようになった。銃と爆弾で殺しあっていた旧時代よりも、よほど簡単に、甚大に。
「相澤くんには苦労をかけるけど、それまで死柄木那由多の監視を頼みたい。来たるべきアフターゴッド戦には決して欠かすことのできない君を彼女の傍に置くことは、諸刃の剣と同様だが、万一の時、瞬時に彼女を止められるのは君しかいないのさ。イレイザーヘッド──君には彼女を止めてほしい。ヒーローとして、そして彼女の道を教え導く教師として」
簡単に人が死んでしまう時代だ。
だからこそ、ヒーローがいる。人を守り、社会を守り、人の歴史を繋いでいく、善なるものの象徴が。
根津は人の善性というものを信じている。この世の幼い子どもたちが、勝って笑うオールマイトに憧れたように、いつだって正義が勝利することを愚直に、ひたむきに、信じている。
「アメリカのビルボードチャートが塗り変わったとき、アメリカでは都市がふたつ、地図から消えた。死者は二十五万人とも三十万人とも言われている。日本でそれを繰り返すことは許されない。……アフターゴッドの存在は、決して公にしてはいけない、というのが公安と僕の意見なのさ。事がすべて終わったら、死柄木那由多は死亡扱いにする。USJ襲撃の際に死んだヴィランたちも、アフターゴッドというヴィランのことも、歴史の闇に葬られることとなる。しかし、もしそれ以前にこの問題が公になってしまった時は……僕は退任する覚悟を持っているよ」
胸にヒーローの矜恃がある。
人を守るのに、平和を守るのに、特別な理由は何ひとつだって要らないのだ。
そして、場面は銀髪の少女へと戻る。
彼女は微笑み、ゆっくりと睫毛を上げて答えた。
「ああ、何でも聞くといい。公安の君も、相澤先生も──わたしは正直に答えよう」
◆
・個性《因子創造》
体内に個性因子を組成し、個性を創造する。とはいえ何でも簡単に創れるわけではなく、どんな因子の組み合わせがどんな効果をもたらすのかは、実際に確かめてみなければ分からない。たまたま組み合わせたものが暴発し、幼女になってしまうこともある。トライアンドエラー、つまりそういうこと。
→重力操作
視認した範囲の重力を操作できる。視界に入れている瞬間が最も効力が大きく、目を離してからの経過時間によって効力が落ちていく。範囲や対象の質量にもよるが、およそ数時間で対象範囲外となる。
→超再生
細胞の自己再生能力を強制的に促進することで、事象の巻き戻しにも似た再生を可能とする。
→拘束
対象を視界に収めながら、発動キー『Grab』と宣言することで、対象を硬直させることができる。効果時間は五秒から十秒ほど。
→収斂
一秒以上、触れた物質を無へと圧縮する。効果は掌大の範囲、かつ静止している物に限る。
→黒蔓
蔓のような形をした実体のある黒い影を自在に操る。個性由来の直接的な攻撃には強いが、物理的攻撃には脆いという弱点がある。
気づいたら、前話からめちゃくちゃ時間が経っていました。読んでくださっている方はありがとうございます。上海とカタールにお住まいの方はすみません。この小説はフィクションなので、好き勝手あちこち破壊しても許されると思っています。
ドドドチート個性持ちであることはちゃんと明らかにできたので、あとはレイドボスになるだけですね!