彼女のいるところだけ、時が止まった。
少年は見たいと思ったのだ。彼女の視線の先を。
もしかしたら明日死んでしまうかもしれない。
そう考えたのはいつの頃だっけ。
母さんが言ってた。生きたくても生きれない人がいるんだから、生きなさいって。俺は別にそんな正論が欲しかったわけじゃない。母さんに愛されているかどうか知りたい一心で死にたいと言ったんだけど。
いつの日か、こう考えた。別に死んだって良いじゃないかって。
だってそうだろう。明日死ぬかもしれない。この世の絶対的な理の一つが“盛者必衰”なのだから。
結局この人類も、生命も、地球も、宇宙も。
いつかは終わってしまう。永遠なんてこの世にはない。
だから終わらせてしまおうって考えたんだっけ。
死んでしまえばいいじゃないかって、そんな言葉だけ浮かべてた。__浮かべてただけだった。
あの日。彼女が余命を宣告された日。
時間が止まったかと思った。いや、そうであって欲しかった。この事実が1秒たりとも存在しないことを望んだ。
秒針の急かす音だけが不気味なほどに白い部屋に響いて。
その日から、会いに行けなくなった。
それだけが生きる希望であったのに、それが終わってしまう。それが怖かった。
何日も、何日も。何もない部屋で過ごして。どうして外へ出たのだったか。きっかけは覚えていないが、とにかく外へ出たその日。
彼女は笑ってた。まるで死の宣告を知らされていないかのように。そうでないとおかしいくらいに。
訳がわからなかった。どうして笑ってるんだ。あと7日で死ぬんだぞ。そんなことは心が裂けても言えなかったけれど。
もしかして、彼女は死の恐怖を感じていないのではないか。そう思いすらした。
そんな日々が続いた後のことである。
他愛のない話は俺の頭には入らなかった。ただただ、不安も恐怖も感じさせない笑顔が、1週間もすれば光を失うことが怖かった。
言いたいことはたくさんあるはずなのに、胃がむかむかして、言葉が出てこない。
「……俺くんさ。どうしてずっと私の顔を見てくれないの?」
突然にそう問われた時、喉が締まった。
その言葉に何かを感じた。
顔をあげると、そこには涙を浮かべた彼女がいた。
後書き
この原稿を書き終えたのはずいぶんと前のこと、二年ほど前だと思います。本当は連載小説として投稿するつもりだったのですが、なんとなしに書いているとSSになっていました。悪くないとは思いましたが、僕が目指していたのは長編小説。それにこのままじゃあ、感動しにくい。私が書きたいのは、長編で、笑いがあって、ところどころに不穏な何かが隠れている、そんな小説でした。しかし、それも二年前のこと。すっかりこの作品の意図も忘れてしまいました。適当に手を付けるのも、かといって電子の海に捨てるのももったいない。とりあえず後書きで埋めて投稿するという、なんともインチキ臭い方法で投稿しようと思ったのです。
真の後書き。
ある日、いつものようにネット徘徊をしていたら、偶然イラストと出合ったのです。何処か物悲しそうに遠くを見つめるその女性のイラスト。私は何かにとりつかれたのでしょう。
芸術はやはり人の心を動かすのです。タイトルだけがずっと決まっていました。『俯く君のその先に。』このタイトルは、主人公のセリフのようでありながら、その実僕のセリフだったりするのです。