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視線がぶつかる。
覚悟を示すという強い意思を持った目と、この男は何なんだという戸惑いと恐れを含んだ目が交差する。
雌雄一対の剣。それまで一度も見た事がない二振りの剣。
魔剣の様な気も感じなければ、聖剣の様な気も感じない異質の双剣。
「――――――」
冷たい風が、公園を吹き抜ける。鎖の様な緊張が、その場を走る。
悪魔は理解した。目の前に立つ男は、確実に自分を仕留める気だ、と。
雌雄一対の剣を以て、首を獲ろうとしてくると、確信する。
それは事実。今の架競天治に、躊躇などという感情は存在していない。
「………!」
先攻は、天治が取った。
雌雄一対の剣を握り締め、目を開いて敵を捉え、獲物を狙う動物が如く真っ直ぐに駆け出した。
体が軽い。苦しさがない。まるで、あらゆる柵から解放されたかの様な、そんな自由感を覚えながら、懐へと入り込む。
余計な事も思い浮かばない。ただ、目の前に立っている悪魔を殺す事だけが、考えついている。
ヒュッ―――と。鋭い爪を持った悪魔の腕が、瞬速の域で喉元へと振るわれる。
喉を掻き切り、鮮血を零す恐ろしい凶器。自分を殺すかも知れない死神の鎌―――だけれども。
今となっては、その瞬速の刃があまりにも鈍く見えていた。亀の様に、のろまだと感じていた。
彼の喉元に突き立てられる筈の爪は空を切り裂き、肉に突き刺さる事はなかった。
彼は悪魔の攻撃を躱し、一瞬にして悪魔の懐へと入り込み―――
「…」
「がっ……!?」
干将で悪魔の腹を斬り上げ、莫邪で悪魔の胸を切り裂く。悪魔の体は、まるで豆腐の様に呆気なく斬られた。
「が――――――がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!?!?!?!?」
悪魔の絶叫が、夜の世界に響き渡る。今まで味わった事のない激痛が、悪魔の全身を喰らい尽くす。
宝具。それはサーヴァントにとっての切り札であり、そのサーヴァントがサーヴァントたるある種の象徴。
サーヴァントが持つ武器は、その殆どが歴史に名を残す名器か伝説の武器であり、この干将・莫耶もまた、その例に漏れぬ双剣である。
雌雄一対の剣―――干将・莫耶。魔除けの文句が刻まれた剣。揃えて装備する事によって対魔力と宝具のランクがアップすると言われている宝具。
宝具としてのランクは決して高い訳ではないが、しかし投影の際のコスパは良い上に非常に取り扱いやすい構造をしている為、英霊エミヤに連なる者の殆どが必ずと言って良い程に、この剣を愛用している。
原典の二振りは、破魔の剣としての側面を持っている。それ即ち、魔性への特攻効果を持つ事に他ならず、それが指す意味は―――悪魔にとっての天敵であるという事。
英霊エミヤが投影しただけの干将・莫耶であったならば、そんな事は出来なかっただろう。投影した宝具のランクが下がってしまうという仕様上、それは仕方がない。
だが―――この剣を共に投影したのは、本物の刀鍛冶。幾千もの剣を造り出し、無限の剣ではなく究極の一を手に入れる事が出来た、唯一無二の男。
そんな彼が共に投影したのであるならば―――少しとは言えど、破魔の効果程度ならば付与出来る。
ランクが高くないと言えども、それは宝具。歴史に名を残した宝剣だ。
そんな代物に、ただの悪魔が耐えられる訳もなく。
悪魔は、ただ無様に嘆き、哭き叫ぶ事しか出来なかった。
「……」
だが―――止まらない。叫び声を聞いても、涙を見ても、架競天治は止まらない。
右手に持った干将を逆手に持ち替え、振り上げた腕を今度は悪魔の脳天へと振り下ろす。
振り下ろされた陽剣は悪魔の頭蓋を砕き、脳味噌の中心を捉えて深く突き刺さる。
もうその時点で、悪魔の命は枯れていた。朽ち果てていた。だが、天治は止まらなかった。
深々と突き刺った干将を手放し、左手に持った莫耶を心臓へと投げて突き刺し、空いた右手で拳を形作り、顔面へと重い一撃を叩き込んだ。
意思と命を失った悪魔は、まるで人形の様に軽々と吹き飛ばされ―――起き上がる事はなかった。
「かっ……た………?」
『上出来だ(まぁ、流石に脳天に突き刺すとは思わなかったがな…)。ちゃんと経験も扱えるたぁ、意外と扱い熟せてるじゃねぇか。まだ完全じゃあねぇがな。』
「むらまさ…」
『良くやったよ。まぁ、問題が無くなったって訳でもねぇが…今の手前なら、多少の事は大丈夫の筈だ。
もう守られるのは止めだ。憧れるだけなのもな。今度は手前から儂等に近付け。』
その一言を受けると共に。
架競天治は―――歓喜したまま、眠る様に倒れた。