無間の剣製   作:全智一皆

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第八話「天から墜ちた者」

 

 

■  ■

 あれから、一ヶ月もの時間が経過した。

 自分自身としては、あの経験は、まるで数週間前に起こった出来事の様に鮮明に思えるけれど、もう一ヶ月だ。

 時間が過ぎるのは早いものだな、と思うと同時に、平和な日々が続く事も無かったなとも感じる。

 この力が有能である事をリアス・グレモリー一行に知られてしまったが故か、俺は彼女達の悪魔狩りに付き合う事となっていた。

 

「だが、決して嫌とは思わない。その狩りが、俺の憧れた未来への糧になるのかもしれない」

 

 彼は、正義の味方になろうとした。

 夢を継いで、一生懸命にその夢を為そうと努力していた。

 自分を犠牲にしてでも、誰かを助けようとするその在り方に、俺は憧れた。

 どんなに茨の道を歩んでも、痛みを耐えて夢へと駆け出せるその精神に、俺は憧れた。

 誰かの為に自分を費やす。自分を費やして誰かの為になる。

 そんな歪な正義に、そんな傲慢な偽善に、その本人が嘲った。

 けれど、それは間違ってなどいないと青年は言った。決して間違いなんかじゃないんだと、青年は断言した。

 歪だが、とても美しいその夢を間違っているとは、青年は言わなかった。それを認めなかった。

 そんな彼らを、その道を歩んで手に入れた彼らの力を、俺は選んだ。

 何もしていない半端者が扱っていい力ではない。そんな事は承知だ。

 だが―――それを扱えないまま、野垂れ死にする事は彼らに失礼だ。

 村正は俺の背中を押してくれた。なら、俺はそれに答えなければならない。

 その為の糧に、はぐれ悪魔を狩るこの仕事がなってくれるかもしれない。

 

「―――やると決めたんだ、曲げる訳にはいかないだろ。」

『架競さん、敵が飛びました。狙えますか?』

「あぁ。問題ない」

 

 切り替えて、弓の弦へと剣を掛ける。

 回路を開ける。溢れる魔力を目へと回し、遠くの獲物に向けて目を見張る。

 視界が遠く、拓けて見える。粒にもならず見えなかった獲物が、鮮明に視界に映る。

 弦を引く。ぎりぎりと、魔力を込めた諸刃の剣矢を、力強く。

 そして、彼らの力である事を忘れない為に。

 自惚れてしまわない様に、おまじないの言葉を独り言の様に呟く。

 

「―――――I am the bone of my sword.(我が肉体は歪に狂う)

 

 ひゅん、と。

 空を翔ける鳥の様に軽やかに、その矢は真っ直ぐ空を走る。

 悪魔の顔が、悪魔の最期が、この目に映る。

 何が起きたのか。何が飛んできたのか。

 自分がどうなってしまったのか、何も分からないまま―――心臓に深々と突き刺さった剣の矢に触れていた。

 

 剣が光る。流し込んだ魔力が、荒々しい波の様に迸る。

 心臓から体全体へと流し込んだその魔力は、深々と刺さった剣を起点として―――悪魔共々、爆発した。

 

 『壊れた幻想』―――ブロークン・ファンタズム。

 それは、魔力の詰まった宝具を爆弾として相手にぶつけ、破裂させる技能。

 『無限の剣製』を持つエミヤだからこそ得意とし、何度も何度も扱う事が出来る強力な技だ。

 

「……はぁ」

 

 緊張が解れ、安堵の息をつい洩らす。

 何ら問題なく狩れた。投影した際の激痛も、だいぶ薄れて耐えられるものになってきた。

 力が馴染んできたのかもしれない。だが、まだその段階だ。

 彼らに恥じぬ様に、この力を使いこなせる様になるんだ。その程度では止まれない。

 熱が冷めていくのが分かる。力んだ体が、少しずつ楽になっていく。

 

 その瞬間、背後から降る鋼を見据えた。

 

「―――!」

 

 弓を消す。剣を呼び込む。

 魔力を右腕だけに叩き込み、体を明後日の方へと向ける勢いを利用して剣を振るう。

 鋼を弾く。

 剣が壊れる。

 まるで鴉を思わせる黒い翼を持った女性の姿が、俺の目の先には有った。

 

「あら。仕留めたと思ったのに」

「…」

「まるで、後ろに目でも付いているみたいだったわ。貴方、人間じゃないのかしら」

「……」

 

 誰かは知らない。全く分からない。

 だが、目の前に居る存在が敵である事だけは、すぐに理解した。

 再び、剣を呼ぶ。陰陽一対の双剣を構えて、呼吸を整える。

 放たれた槍は、おそらく彼女から造られたもの。

 つまり、得物は無くなっていない。武器は失われていない。

 そして、姿から察するならば、悪魔というよりは天使。おそらくは、堕天使の類だろう。

 防戦に回ればこちらが不利。かと言って、相手をそうさせる程の技量を、こちらは未だ持ち合わせていない。

 だが―――だからといって、尻尾を巻いて逃げる訳にはいかない。

 

「―――投影、開始」

 

 稲妻に打たれたかの様な痛みが、体を奔る。

 回路が開く。魔力が迸る。

 記憶が、体を変える。

 その武器に宿った、戦いの記憶が肉体そのものを変化させる。

 戦いの記憶、その投影。剣に宿った戦士の技術を我が肉体に投影する事で、高度な技量を一時的に得る事が出来る技術。

 エミヤの記憶。幾度の戦場を経験してきた、霊長の守護者の役目を担い続けた英霊の記録。

 英霊の力。

 俺が憧れた人の―――技量を振るう。

 

「―――!」

 

 コンクリートを蹴って、加速する。

 驚愕する表情が微かに映る。

 ただの人間が、ここまで速く為るとは考えなかったのだろう。

 一気に彼我の距離を詰め、敵の懐へと入り込み、その腹へと剣を突き立てる。

 

「生意気な!」

「っ…!」

 

 剣が空振る。

 刃翼がはためく。

 大きく振り上げられた断頭の剣。一切を無情に斬り捨てる堕天の翼は、死神の鎌に等しい。

 

 腰を落とし、体を下げて何とか躱す。同時に、近くにあった脚の脛へと双剣で斬り込む。

 鮮血が跳ぶ。敵の体勢が僅かに崩れる。

 抗おうとする意思が顔に浮ぶ。だが、その抵抗も虚しく天使は呆気なく脱力する。

 剣を逆手に、左脚を振り抜いて顔面へと蹴りを叩き込む。

 後頭が地面に強打する。黒い頭が、ぐらりと揺らぐ。

 動かぬ天使は、翼を折られた鳥も同然。

 食われるか、踏まれるかを待つだけの肉塊。死を待つ憐れな子供。

 誰も助ける事のない、そんな敵の首筋へ―――

 陽剣の鋒を、容赦なく突き立てた。

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