彼岸花と天邪鬼   作:暁桃源郷

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Enlistment mission

リリベル襲撃から二日が経過した。

既に二回、零は千束と一つ屋根の下で過ごし一つ分かった事が分かったことがある。

それは朝の事だ。

零は千束の三つあるセーフハウスの一つであるセーフハウス一号の上にあるダミーの部屋を借りて暮らしている。

そして部屋に入った瞬間、零が驚いたことは先ず部屋に何も無いことだった。

ミニマミストだってこうはならない。

そしてもう一つ驚いたのはこの部屋のつきあたりにある掛け軸を押すと下へ続く階段があることだった。

 

「おはようございまーす」

 

まぁ、そんな驚きはすべて初日で済ませて寝坊気味の千束を起こすために零は下へ続く階段を降りて千束の部屋に入っていた。

そして、初日が過ぎて二日目の朝になって驚いたことは・・・・。

 

「・・・・・・やっぱり」

 

千束はTシャツとパンツだけで寝ている事だ。

これは思春期真っ盛りの零にとっては由々しき事態でありもしかすると何か間違いが起こる危険性すら孕んでいた。

 

「はよ起きんかい!」

「イタッ!」

 

・・・・・・筈だった。

元々零は孤児であり、今の今までまともに零を育てる育ての親すら居なかった。

つまり、今の零は情操教育が著しく欠場しており、思春期真っ盛りのお年頃に性のあれこれすら知らぬ純粋無垢な状態なのだ。

 

「も~う、もうちょっと優しく起こせない?」

「昨日それしたら抱き枕にされた」

「なぬ!?と言うことは貴様、こんなぷりちーな下着姿の女の子に抱き枕にされて昨日あんなに白っとしてたのか!」

「いや、別に抱き枕で死ぬわけでもあるめぇし。つか早よ着替えて飯を食え。じゃなきゃ俺も出勤できないんだよ。ほら早よ」

「ちぇ~・・・・」

 

千束が起き上がり服を着に行くのを見て零はとりあえず千束のご飯を作ろうとキッチンに赴く。

そんなときだった。

キッチンに置いてあった千束の携帯が鳴り響く。

 

――――零~。出て~。

 

部屋から千束の声が聞こえ悪態をつきながらも零は千束の携帯を手に取る。

 

「はい、もしもしこちら錦木千束ですけど」

『仕事だ』

 

ミカの声だった。

思わず零も「マスターか?」と聞き返す。

 

「まだ出勤まで時間あるだろ?今千束着替えてっから・・・・」

『我々だけの仕事だ』

「・・・・千束急かしてくるわ」

『いや、今日は君と別のリコリスで仕事してもらう。何、彼女もまた優秀なリコリスだ。既に近くに居る筈だから合流してくれ』

 

零も少し考えてその後に一言「了解」と言って電話を切る。

そのまま零は上の自分の部屋に戻り木刀を持って部屋を出たのだった。

 

「おっまたせ~!千束さんが着替え終ったよーっと。・・・・・あれ?」

 

それからしばらくして部屋から出てきた千束が大声を上げても何の反応も無いことに疑問に覚え、部屋中を探し回り急いでミカに連絡をするのはまた別の話。

 

 

 

時間は少し遡って零がちょうど部屋を出たときだった。

鍵を閉めて下に下りようと振り返えると千束と同じ制服(紺色バージョン)の少女が零の視界に入ってくる。

すぐさまその少女は銃を零の眉間に合わせて零を睨み付ける。

 

「千束はどうした?」

「着替え中」

「お前は誰だ?」

「風切零、十三歳。錦木家の居候」

 

しばらくの間、木刀を腰にさした零と銃を構えた少女がにらみ合う。

そしてその緊張状態を先に解いたのは木刀を腰にさした零だった。

 

「で、お前が今日の任務の相方なんだろ?名前は?」

「・・・・・・・フキ」

「フキか。よし、行くぞ」

 

零がフキの横を通り過ぎてしたに下りる階段に向かう。

 

「待て!何処に行くのか分かってるのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

零が立ち止まってフキを見ずに深呼吸をする。

そしてゆっくりとまるで自信満々のような顔でフキに振り返ってこう言った。

 

「何処に行けばいいんだろう」

 

 

 

そうして現在二人はミズキが運転する車に乗せられて任務を行う場所に向かっていた。

もちろん最初からそんな予定ではなかったため既に計画はずれていた。

 

「初っぱなから計画外とか前代未聞だぞ・・・。分かってんのか?」

「人生何があるかなんて分かんないだろうが。ちょっと計画ずれたくらいでグチグチ言ってんじゃねぇよ」

 

銃の手入れをしながら零への不満を垂れるフキを横目に木刀を手入れしている零がため息混じりに言い返す。

 

「これが人間が立てた計画ならここまで言わねーんだよ」

「あ?どういう意味だよ?」

 

零がフキに質問するとバックミラー越しに二人を見ていたミズキが喋り出す。

 

「アンタ、この前教えたでしょうが!「ラジアータ」。日本が誇る最強の秩序維持AI」

 

ラジアータと言う言葉に零が二日前の事を思い出す。

国のあらゆるインフラと直結し、起こる事件を未然に察知することもできる。

しかも、アフターケアも完璧である。

 

「事件は事故に、悲劇は美談になる、ね・・・・」

「覚えてんじゃない」

「人間ってのは罪な生き物だな・・・・」

 

皮肉紛れにそう言いながら零は車の外を眺める。

平和な日本。

それを享受して道を歩く大半の民草。

しかしこの民草は知らないのだろう。

この平和が仮初めであると言うことに・・・・。

その嘘は優しく、しかしそれ以上に残酷なものだ。

 

「孤児集めて戦わせる時点で今さらって感じだけどね」

 

車が急停車し、「さて」とミズキが切り出す。

 

「着いたわよ」

 

零がドアを開き前の建物を見る。

白が基調の清潔感のある建物だ。

 

「ここは・・・・・」

「杉並ナノマシン研究所。ナノマシン研究の第一人者、良珊方座九之助(リョウサンガタザクノスケ)の研究所だ」

「なんでそんなとこで任務なんだよ?」

「知るか。私らはリコリスだ。上の命令に従えばいい」

 

零はそれ以上フキに質問することはなく研究所の門の近くに歩いていく。

それを不審に思ったのかフキが零の肩を掴み歩みを止めると零が再びフキの方を振り向いた。

 

「なんだよ」

「任務の内容も分からずにどこ行こうとしてんだ!」

「だーいじょうぶだよ。ジオン軍だろうが地球連邦軍だろうがまとめてぶっ飛ばすから」

「大丈夫じゃねぇだろそれ!何一つ分かってねぇだろうが!作戦説明するから一回車に戻るぞ」

「おい、あんま作戦とか言うなよ、バレるだろ。バカだなぁ・・・・」

「誰のせいだよ!」

 

そして再び零とフキはミズキが待っている車に戻り、零はフキが操作しているタブレットの画面を覗き込んだ。

タブレットには研究所のマップや研究所にある機械などが表示されている。

 

「いいか?今回はステルスミッションだ。私らの存在を知られること無く、任務を達成する。決して、さっきまでみてぇなアホな事はするじゃねぇぞ!」

「へーい」

 

フキが画面をスライドして更に任務の説明をしていく。

 

「今回は破壊工作だ。私らには二つずつこのC4が用意されている」

 

そう言ってフキが取り出したのは四つに区切られた粘土が入った箱だった。

 

「そんなに威力はねぇが、機械一つ破壊するには事足りる。これを今表示されている機械にひっつければ後は時間経過で爆発する仕様だ」

「DAもやけに物騒なもん開発するわね~」

「DA・・・・。「DirectAttack」だったか、正式名称は?」

「本当に何も知らねぇ奴だな・・・」

「今の今まで社会的弱者だった俺に何を求めてんだよ・・・」

 

零は車に置いてあったカルピスを手に取って口に含む。

カルピスを気に入ったのか、最近は一日で業務用ペットボトルのカルピスをたらふく三本は飲み干している零だが、やはり五百ミリリットルのペットボトルでは数秒ともたない。

しかし、零がカルピスを飲み干した時にそれは突如訪れた。

車の窓ガラスがコンコンと叩かれて驚いた三人は車の外を見る。

 

「すいませーん。研究所の警備の者なんですけども、ちょっとお話宜しいでしょうか?」

 

そこにいたのはいかにも警備員と言うような青を基調とした制服の男二人だった。

零の視界の端っこで抑声器(サプレッサー)を付けた銃をゆっくり構えるフキが写る。

ため息をつきながらも零が車の窓を開ける。

 

「はーい、何スか?」

「君たち何処の子供?ダメだよ。子供は学校に行かないと」

「すいませ~ん。実はこの子達風邪気味で。今病院に連れていく所でして」

 

ミズキが運転席から首を出して笑いながら頭を下げる。

 

「君母親?にしては若くない?もし母親だとしたら君何歳で産んだの?」

「え?母親に見えちゃった?実は・・・・、二・十・二♡」

「ウォロロロロロロロロロロロロロ」

 

ミズキがウインクすると警備員が吐き始める。

急いで後ろにいたもうは一人の男が背中を擦る。

 

「ちょっと!失礼じゃない!?」

「いや、今のは仕方ない。あんなんされたら男は皆あぁなるわ」

「気張ってけー。ミズキの未来は明るいぞ」

「ちょっと!アンタ等も何男が皆アンチミズキみたいな言い方してんのよ!」

 

ガミガミと怒鳴るミズキを傍らに零は少しずつ笑い出す。

それを不審に思いフキが零の顔を覗き込む。

そして息を飲み込んだ。

とうてい普通の人間が出せるような笑顔ではない。

例えるのなら、越後屋からまんじゅう(賄賂)を貰う悪代官の笑顔。

それの上位互換に位置していると言っても過言ではない邪な笑顔を浮かべていた。

 

「おい!ガキども!もう許さねぇ!何処の学校だ!?担任に付き出してやる!」

 

背中を擦っていた警備員が警棒を抜きながら車に近付いていく。

フキもこっそりと銃を構えて襲ってくるのなら撃ち殺す態勢を整える。

一方ミズキは先ほど周りから散々言われ続け、ハンドルに顔を押し付けて「なんで私には男が寄って来ないのよ~」と泣き言を漏らす。

そして、未だ警戒しているフキとは裏腹にまだ笑い続けている零。

 

「ちょっと!何時まで笑ってんのよ!そんなに男が出来ない事がおかしい!?」

「悪ィ悪ィ。でも、ミズキのおかげで一人減らせた」

「おいガキ!何言って・・・」

 

るんだ!

そう言いかけたところで警備員に木刀が襲いかかる。

警備員が宙に浮き、そのまま門へと叩きつけられて気絶した。

それを確認した零がゆっくりと車から降りて木刀を直す。

 

「さ、侵入するか」

「あ、あぁ・・・・」

 

唖然としていたフキが零の声に我に戻り零の後を追いかける。

フキは紺色の制服、つまりはセカンドリコリスである。

リコリスやリリベルには階級があり、一番下のサードは白、セカンドは紺、ファーストは赤と言う感じに分かれている。

千束は赤い制服なので、ファーストリコリスとなる。

そして、もちろん階級が上がれば人数も少なく、それでいて優秀と言うことだ。

セカンドリコリスだってもちろん優秀な者しかなれない。

セカンドであるフキもある程度は自分が優秀であると言う自負はある。

だと言うのに、見えなかったのだ。

何時木刀を動かした?いや、その前に何時木刀を抜いた?

そんな疑問が頭を駆け巡る。

一方その頃零にも一つ疑問が生じていた。

警備員が言ってたように確かにミズキは未成年にしか見えない。

だと言うのに、飲んでいた。

え?未成年だよね?この前完全に飲んでなかった?え?

いくら考えたって答えは出ない。

次第に零はミズキの歳を考えるのを止めた。

 

 

 

「こちらアルファ。潜入に成功。これより任務を開始します」

『了解した。念のためベータにも通信機を持たせておけ』

「アルファ了解」

 

研究所に入ったところで零を止めたアルファことフキは零にインカム型の通信機を投げ渡す。

零もそれを受け取って耳にはめる。

 

「いいか、今からお前は風切零じゃない。ベータだ。私もフキじゃなくアルファだからアルファと呼べよ」

「えー、せっかくのステルスなんだし俺スネークがいいんだけど・・・」

「我慢しろ!」

 

零はとりあえず角から顔を出して誰も居ないことを確認して前に進んでいく。

 

「ま、待て!」

「アルファ、悪いが別行動だ。リコリスはツーマンセルが普通らしいが、俺はリコリスじゃない」

「さっきアホな事はするなって言ったばかりだろ!?それに、お前は地図を持っていない!その状態でどうやって目標までいくつもりだ!」

 

零はフキの方を振り返らずに「ん」とだけ言って自分の頭を指で小突く。

 

「ま、安心しろよ。場所も目的も把握は出来てる」

 

そう言って零は奥へと姿を消していった。

 

 

 

杉並ナノマシン研究所のとある一室。

そこは照明が一切ついておらず、ぼんやりと光るパソコンや、機械の明かりだけでかろうじて辺りが見えるくらいだ。

そこに二つの人影があった。

一つは一眼のゴーグルを着けた初老の男。

もう一つは緑色でちりぢりの髪型をした若い男だ。

 

「ナノマシン ・・・・・。それは0.1 - 100 ナノメートルサイズの機械装置を意味する概念だ。ナノとは10−9を意味するSI接頭語であるため、原義では細菌や細胞よりもひとまわり小さいウイルスサイズの機械と言えるよう」

 

初老の男が自分のパソコンを操作しながら己の研究するナノマシンの説明をまるで我が子の自慢話をするように語り始める。

 

「長い。もっと簡潔に言え」

「つまりじゃ、これを人体に埋め込ませれば毒にも薬にもにもなり得ると言うことじゃ」

 

初老の男がようやくパソコンの操作を終えて最後にEnterキーを強く押す。

そして、椅子を回転させ若い男へと向き直る。

 

「例えば、猛毒を散布するナノマシンを埋め込めば完全犯罪。筋肉を刺激する微弱な電流を流すナノマシンを埋め込めば容易に身体能力は向上する。そしてワシはついに廊下を完全に止めるナノマシンを発明した!」

 

興奮して身体を揺らしたため初老の男は体勢を崩してしまう椅子ごと盛大に転げ落ちる。

 

「いつつ・・・・。まぁ、そのナノマシンが完成したのは今から十三年前の話じゃ」

「あ?だとしたら何で発表しない?人類の夢だろ不老ってのは」

「もちろんすぐに学会に発表しようとした!だが、握り潰された・・・・」

「・・・・ま、んな生物のバランスを崩すような話普通は受け入れられねぇわな」

 

鼻で笑いながら若い男が立ち上がる。

 

「君に頼みたいのはその時に使ったモルモットの処分だ」

「モルモット?」

「そうだ。あれがDAなんぞに渡れば平気でワシの研究を解析し、流用するだろう。ワシにはそれが我慢ならん。もし、流用されれば君の言うバランスもきっと崩されるだろう」

 

若い男が初老の男を上から見下ろす。

しばらくして再び若い男はハッと鼻で笑い部屋の外へと出る。

 

「待て。何処にいく?」

「爺さん、アンタの言うモルモットの前にこの研究所に入り込んだネズミ二匹を片付けるのが優先だろ?」

「何?」

 

初老の男が椅子を回転させてパソコンに振り返る。

パソコンをカタカタと音を立てながら操作し始めてすぐに画面に小学生くらいの子供が二人写し出された。

 

「こやつ・・・リコリスか!?クソッ!もう嗅ぎ付けよったか!それにもう一人は・・・・ッ!?」

 

初老の男がもう一人の映像を見て言葉を失う。

しかし、それはすぐに笑い声へと変換された。

 

「ウヒ、ウヒヒ、ウェヘヘヘヘヘヘヘ!!!運命じゃ!これは運命じゃ!」

「あ?」

「真島!こやつじゃ!こやつが今言ったモルモットじゃ!さぁ、今すぐこやつを殺しに行けィ!」

 

初老の男が真島と呼んだ若い男がパソコンに映る黒髪の少年を見る。

何の変哲もない、何処にでも居そうな少年。

だが、真島にはそんなことどうでもよかった。

子供だろうと誰だろうとバランスを崩すのならバランスをとるために殺す。

真島は少し笑いながら画面に映る少年、本名風切零を殺すため部屋を出るのだった。




使い勝手の言いアイテム、ナノマシン。
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