研究所に侵入してから約三十分。
既にフキは研究棟へと侵入していた。
目的は研究棟にあるナノマシンを管理するデータベースの破壊。
零には話さなかったがデータのコピー、可能であれば幾つかのナノマシンの回収だ。
既に零も研究棟に侵入しているだろうと予想を立てながら曲がり角を歩いている警備員が通りすぎるのを待つ。
しかし、一つ、零の身体能力が異常なこと以外に疑問に思うことがあった。
ここの警備員の装備が明らかにおかしいのだ。
普通警備員がライフルを担いで練り歩くだろうか?
答えは否。
普通にアウトだ。
「おい!」
大きく上がったその声にフキは出していた顔を引っ込める。
「どうした?」
「研究所の鍵を盗まれたらしい!」
「何!?」
「とにかく探せ!あれがなけりゃ管理室に入れん!下手をすれば俺たちが消されるぞ!」
警備員二人が奥に向かって走っていき、ようやくフキが身体をだす。
「盗まれた?まさかアイツじゃねぇよな?」
・・・・・・・・いや、アイツならやりかねない。
心の中でそう思ったフキが耳に入ったインカムに指を当ててインカムを押さえる。
「こちらアルファ。ベータ、応答しろ」
『えー、こちらベータ。どうした?これじゃないな』
「どうやら何者かが鍵を盗んだらしい。お前じゃないよな?」
『あ?バカなこと言ってんじゃねぇぞ。ステルスミッションだぞ?これでもない。んなバカな真似するか』
「だ、だよな。お前もさすがにそんなバカじゃねぇもんな」
『そうだよ。だが、鍵泥棒が居るなら子供の不法侵入くらい見逃して貰えるかもな。・・・ッチ。これでもねーや』
「・・・・・・・・つかよ、お前さっきから何やってんだ?」
先ほどから時たま挟まれる零の小言に疑問が浮かびフキがインカム越しに話しかける。
『あ?今やってること?』
「食堂の鍵探してます」
『見逃さねぇよ!だって鍵泥棒そこにいるもの!』
「え!?どこどこ!?」
零がしばらく辺りを見渡すと急に恥ずかしくなり、顔を赤らめながら目の前にいないフキに弁明する。
「い、いや、違うんだよ・・・。俺朝食ってないから腹減っててさ・・・・」
『携帯食は?』
「持ってない」
再び食堂の鍵を探し始めて鍵穴に差し込み始める。
一個、二個、三個と差していき、その度に鍵の山が積み上がる。
ついに最後の一個となりゆっくりと鍵を差し捻ろうとする。
捻れない。
「・・・・・・・これでもないか。いったい何処にあんだ?」
「もしかしてこれじゃねぇか?」
「お、マジ?」
零が鍵を受け取り鍵穴に差し込む。
ゆっくりと捻ると扉からカチャッと音がなる。
「開いた!サンキュー」
零が振り返りしばらくしてならインカムを押さえる。
「・・・・・こちらベータ。ごめん、囲まれちった」
『・・・・・・・こっちもだ』
零とフキの周りにいたのは研究所を歩いていた警備員、ではなく青いつなぎを着たグラサン集団だった。
「おっさん達、誰?」
「ひでぇな。俺はまだお兄さんって呼ばれる歳だぜ?」
「お兄さんって呼ばれたきゃその散り散りの髪と目元のクマ直してこい」
カチャっと音を鳴らしながら零に鍵を手渡した男、真島が零に銃口を向ける。
「年上は敬えって学校で習わなかったか?」
「そっちこそ、子供は宝物て言葉聞いたことないの?」
一瞬だった。
一瞬で零は木刀で真島の銃口を反らす。
しかし、真島も一瞬で引き金を引き、零の額を銃弾が擦った。
「人間の反射神経越えてんな、お前」
零は真島を蹴り飛ばして食堂の扉に突っ込む。
ガラスが割れて零の体にも刺さるが構わずに置くまで走りテーブルを倒して盾にする。
「すげェな!やっぱ人間のバランス保ててねぇわ」
「悪いが俺は人間の社会的弱者でやらして貰ってんだわ。変なこと言うの、何かやめて貰っていいッスか?」
真島が何を言っているのか分からない零だったが、一つだけ分かることがあった。
真島は零を人間としては見ていない。
人間と言うよりは、人間を越えるために作られた人造人間に対してのような言い草で、少なからずその言い回しには不信感を覚える。
「だいたい人間の反射神経越えてるだのバランス保ててねぇだの人をまるで人外のように言いやがって」
「人外だろ。ナノマシンウイルスを身体に仕込まれてんだからさ」
カツカツと近付いてくる真島の足音を聞きながら零は腰に隠していたある物を手に取る。
すぐさまテーブルから飛び出して真島に向けて発砲する。
そう、ある物とは零がミカからもらった拳銃だ。
だが真島はその銃弾すら交わし零に発砲する。
「ハッシュパピー?」
肩を撃ち抜かれ零の手からこぼれ落ちた拳銃を見て真島がハッと笑い拾い上げ、そのまま弾を抜き取る。
「しかも麻酔銃に改造してんのか」
「これでもゲームが好きでね。まさか銃弾すら交わすとは予想外だった。いやぁ、恐れ入ったよ」
でもな・・・・・、と今度は懐にしまっていたスタングレネードを投げ捨てる。
「!?」
「流石にコイツは交わせねぇだろ!」
スタングレネードが炸裂すると共に零は立ち上がり木刀を握りながら出口へと突撃する。
怯んだ真島の部下を殴り倒し、そのまま走り去った。
スタングレネードの光が止み、耳と目を塞いでいた真島がようやく動き出す。
そこには既に零はおらず出口を見れば部下が倒れている。
「ハハ、スゲェなアイツ。やっぱ人間じゃねぇよ」
真島は笑いながらハッシュパピーを見た。
食堂から離れた零が次に来たのは目的地である機会が置かれている良珊方座九之助のラボだった。
「こちらベータ。ターゲットのある部屋に到着した」
通信機で零がフキに呼びかけると見つかったと言っていた割に直ぐに声が聞こえた。
『こちらアルファ。機械に爆弾を取り付けて離脱しろ。私も直ぐに離脱する』
「敵は?」
『全員始末した』
「わーお」
爆弾を取り付けながら零はフキと通信を続ける。
「なぁ、やっぱりこの研究所変だぜ」
『あぁ、ただの研究所にしては警備の装備がPMCと同等かそれ以上だ』
「研究データ盗んだ方が良いんでねーの?」
『私達の任務はあくまで破壊工作だ。余計なことはするなよ』
それだけ言うとフキは通信を切り零は再び一人の作業へと戻る。
ようやく爆弾を機械に貼り付け終わり一息ついて零はその場を離れようとするが近くにあった書類が視界に入る。
その書類には風切零と書かれている部分があった。
「俺の資料?」
自分の名前が書かれていた事に疑問を覚えて資料を手に取る。だが、今は悠長に資料を読んでいる時間はない。
零は急いで部屋を出て外に向かって走る。警備の大体は既に零とフキが殲滅したのか見当たらず脱出にそれほど時間は掛からなかった。
「全員いるわね?」
「あぁ!」
車が動き出ししばらくすると爆発音が鳴り響き研究所辺りから煙が上がっていた。