貴女との毎日は、私のかけがえのない宝物。このたわいもないようないつも通りが、私には特別で、大切なものなんだ。
あの日教室の隅で縮こまっていた私を見つけて、幸せな毎日に連れ出してくれたひまりちゃん。貴女は、私と違ってキラキラしている女の子だ。
そんな子が、どうして私に? と思うけれど、ひまりちゃんはそんなことも気にせず、誰にでも笑顔で手を差し伸べてくれる。そんなところが、素敵だなって思う。そんな貴女が、好きだなって思う。
だから私はそれ以上を求めることはないの。貴女の、ひまりちゃんの隣で幸せな日々を抱きしめていられたら、これ以上何も望まないの。
「ねえ、由奈ちゃん」
「どうしたの? ひまりちゃん」
「……私たち、ずっと友達でいようねっ!」
そう。私たちは、ずっと友達だから。ひまりちゃんからもらったその言葉は、確かに私を私をたらしめるものにしてくれたから。
だけど、私見ちゃったの。見知らぬ男の子と歩いている貴女を。私に見せない表情で彼を見つめている貴女を。
ねえ、ひまりちゃん。ひまりちゃんは、私と話している時「恋もいいけど友情が一番だよね」って言ってくれたじゃない。「由奈ちゃんといる時間がすっごく楽しいよ」って言ってくれたじゃない。そんな貴女は、どこに行ってしまったの?
あなたは、友達を大切にしてくれる子。だからこそね、どんな時でも私が一番だと思ってた。ねえ、先週忙しかったのは、もしかしてその子といたいから?
いつもはひまりちゃんを見るだけで胸が弾むのに、今はなんだか胸に錘がついたように苦しくて、辛い。私は吸い寄せられるように二人に駆け寄り、ひまりちゃんにこう問いかける。
「その男の子、誰」
「もお〜っ! 誰も何も、この人は私の彼氏だよ! そんなことも忘れちゃったの? 由奈ちゃんっ!」
ねえ、ひまりちゃん。私、そんなの聞いてない。ひまりちゃんに彼氏がいるとか、なんだとか。仮に聞いていたとしたら、忘れるわけないじゃない。それは貴女にまつわる大切なことなんだから。
それじゃあ、ひまりちゃんは私に何も言わずに彼と付き合ったの? 隠し事はしないで、なんでも相談するって約束はどうなったの?
正直、ひまりちゃんに聞きたかった。でも、私は臆病だ。そんなことが、聞けるわけがない。すると、ひまりちゃんは急に焦ったような顔をして。
「ごめん、由奈ちゃんにはそのこと、言ってなかった……ちゃんと伝えなきゃって思ったのに、すっかり忘れてたよ〜〜〜! 蘭たちには伝えてたけど、由奈ちゃんには伝えられてなかった……」
「ったく、そう言うとこだぞ、ひまり」
「うぅ、卓くん冷たい……」
そっか、美竹さんたちは知っていたのね。……まあ、もう、それはどうでもいい。ひまりちゃんの幼馴染でもない私が、知る権利なんてないのだろうから。私は、きっと、ひまりちゃんの親友ではないの。
でも、貴女の隣にいる彼よりかはひまりちゃんを知っている自信はある。ポッと出の貴方が、ひまりちゃんに、知ったような口聞かないでよ。すぐるクンだかなんだか知らないけど、虫唾が走りそうだわ。
なんでひまりちゃんは、こんな彼の顔を見て幸せそうな顔をしているの? 私の方が、彼よりもっと貴女を笑顔にできるのに。
いや、何を言っているの? 私は、ひまりちゃんの友達でしょう。友達と恋人じゃ、そもそも土俵が違うのよ。ああもう、普段の私ならこんなこと考えないのに。きっと、どこか気がおかしくなっているのね。
「でも、すごい優しそうな子だな、ひまりちゃんの友達」
「えっへへ〜、そうでしょ? 由奈ちゃん、すごく優しくて面倒見も良くて、すっごく大好きな友達なんだ! それこそ、由奈ちゃんの彼氏になる人は、幸せなんだろうな〜。ふふっ、いつかダブルデートしようね、由奈ちゃん!」
すっごく大好きな友達なんだ! 普段は嬉しいはずのひまりちゃんの言葉が、今はナイフのように私の胸に突き刺さる。
違うの、そうじゃない。私は彼氏なんていらないの。ダブルデートなんて望んでないの。私が隣にいて欲しいのは、私が欲しいのは。
──ひまりちゃん、貴女なの。
気づけば私の唇はそう動いていて。でも、ひまりちゃんは鈍感だから、気づいてくれない。
ああ、私もすぐるクンみたいな好青年に生まれたかったな。それで、ひまりちゃんと出会って恋して、幸せになるの。だってひまりちゃん、少女漫画が好きでしょう? だから、たくさんロマンチックな恋をしましょうね。
でも、わかっている。わかっているの。私が男の子になったところで、ひまりちゃんは別の誰かと恋することぐらい。
だからこそ、溢れそうになる衝動は抑えなきゃいけない。近い距離にいるように見える彼女が、本当はどうやったって触れられない存在であることを、自覚しなければいけない。
そう。貴女は、手の届かない星。近くて遠い、大切な人。弱虫な私がそんな貴女にかける言葉は、ひとつだろう。
「お似合いね、二人とも」
恋って、本当に残酷ね。だって、貴女の笑顔のためなら心にないことだって言えてしまうんだから。