孤独なループの末。

もし、あの先を観測出来るなら。

願わくば、幸せな世界線を。




稚拙な文章・展開かもしれませんが、ご容赦ください。
※Pixivにもひっそりと上がってます。

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再帰性のデジャビュー

 

2010年8月13日。

 

「……行こう」

 

「ああ」

 

あたしたちはこれから、35年をかけて世界線を捻じ曲げる。

 

タイムマシンのハッチを開け、あたしと岡部倫太郎は中に入る。

 

岡部倫太郎を座席に座らせて、あたしは設定を確認する。

 

 

 

…移動先の時刻は……1975年…6月……。

 

 

……あとは…とりあえず、異常なし…かな…。

 

 

「…よし…」

 

設定を終え、あとは起動するだけ。

 

 

…その前に…。

 

あたしは、岡部倫太郎と向かい合う。

 

「岡部…倫太郎?」

 

「なんだ?」

 

「あの、さ……ちょっとだけ…目をつぶっててもらえる?…」

 

「…?あ、ああ…」

 

 

今しか、ないから。

 

 

ゆっくりと、顔を近づけて…。

 

 

そっと、岡部倫太郎の唇にキスをした。

 

 

「…っ…!?」

 

彼が驚いて目を開けようとしたから、咄嗟に手で彼の目を隠す。

 

…今のあたしの顔は…見られたくないや。

 

岡部倫太郎の目を隠したまま、あたしは口を開く。

 

「…おまじないだよ」

 

「あたしが使命を…君を…忘れない為の、ね」

 

「……鈴羽……」

 

…手を降ろして、

 

彼と視線を交わす。

 

「…君も、あたしのこと…忘れないでね」

 

「約束、だよ?」

 

「…ああ……約束する」

 

 

 

 

固い座席に座り、ベルトをきつく締める。

 

…彼と目が合った。

 

深呼吸して、口を開く。

 

「準備は…いい?」

 

「…ああ」

 

「…じゃあ、今度こそ…」

 

「…行くよ…」

 

「………」

 

そして、

 

あたしは、

 

タイムマシンの、起動スイッチを、

 

押した──。

 

 

***

 

 

 

「ぐッ……!」

 

強い頭痛。目眩。

 

目が開けられない。

 

世界が、歪む。

 

 

「うあッ……」

 

立っていられず、地面に膝をつく。

 

 

「はあッ……はぁ…ッ…」

 

…しばらくして、世界に色彩が戻っていく。

 

リーディング・シュタイナーは発動した。

 

世界線は変わった。

 

まずは、周囲の確認を…。

 

「………」

 

ここは…ラボか…?

 

俺以外には、誰もいない。

 

………。

 

携帯の連絡先を確認する。

 

「……ある…」

 

…『バイト戦士』。

 

つまり、この世界線でも…鈴羽は2010年に来ている。

 

…そうだ、タイムマシンは…!

 

「……な……」

 

ラジ館には…タイムマシンが突き刺さっていなかった。

 

突き刺さっていた痕跡すら、全く無い。

 

 

階段を駆け上がり、屋上への扉を開け放つ。

 

 

そこには…

 

綺麗なままのタイムマシンがあった。

 

 

「ん…誰…?…あ!岡部倫太郎じゃん!おっは~!」

 

タイムマシンの裏から、いつもの姿の鈴羽が現れた。

 

整備か何かをしていたのだろう。

 

すこしジャージが汚れていた。

 

………。

 

 

「どうしたの?あたしの顔に何かついてる?」

 

「い…いや…」

 

…ならば…。

 

「鈴羽?ダイバージェンスメーターを…見せてくれないか?」

 

「え?…うん…いいけど」

 

「えーっと…確か…」

 

そう言って、鈴羽はタイムマシンのハッチを開け、中に入っていった。

 

……。

 

「あったー!」

 

嬉しげな声がして、鈴羽がタイムマシンから出てくる。

 

「はい、これ」

 

 

3.805963

 

 

「なッ……」

 

かつて無い程に世界線が変動している。

 

「…ねえ…もしかして、この数字…変わったの?」

 

…ッ!?何故それを!?

 

「やっぱり…」

 

「これを扱えるのは君だけだって事だよ…前にも言ったかな?」

 

「…あたしにとっては、初めからこの数字だったと記憶してる。変わった事は一度もない」

 

「でも…そうじゃないんだね」

 

「あ、ああ……確か…前に見た時は…」

 

「『0.337187』…だったはずだ」

 

 

「…そっか………」

 

鈴羽が、ぼそっと呟いた。

 

 

「……そうだ…!未来はどうなっている…!? ディストピアは!?」

 

「ディストピア…?…大丈夫、そうはなってないよ」

 

それを聞いて、肩の力を抜く。

 

「……そうか…」

 

「未来は結構平和なんだ」

 

 

「…えっと…」

 

鈴羽は、少し考える様に俯き…

 

やがて、ゆっくりと口を開いた。

 

「…岡部倫太郎になら…話しても大丈夫かな」

 

「一度、タイムマシンを巡っていざこざがあって…」

 

「戦争まで…始まろうとしてた」

 

「その時、最初にタイムマシンを作り上げた機関…」

 

「……」

 

 

「…”未来ガジェット研究所”が、全てのタイムマシンの権利を独占、管理したんだ。

 

「それで、何とか戦争にはならなかったんだって」

 

「…父さんが自慢げに言ってたよ…」

 

鈴羽が少しうんざりしたように言う。

 

 

…待て…未来ガジェット研究所が最初だと…?

 

「…SERNは…?SERNはどうなった?」

 

「SERNは…タイムマシンの開発を推し進めていた筈じゃ…」

 

「うん…そうだね。本当なら…SERNが最初にタイムマシンを完成させる筈だった。だけど…」

 

「2025年頃かな…父さんのメールアドレスに、あるメールが届いたんだ」

 

「……まさか…」

 

「うん…未来からの、2034年からのメールだった」

 

「…件名は、『未来の狂科学者達へ』 」

 

「………」

 

「送信者名は…『相対性理論超越委員会』 」

 

「メールの内容は厳重に暗号化されてたみたいだけど…」

 

「その暗号化処理が…父さんの考えた方法に似てたから、何とか解読出来たって」

 

「……」

 

「そのメールには、タイムマシンについての詳細な情報と、設計図まで描かれてた」

 

「おかげで、SERNをしのいで未来ガジェット研究所が先にタイムマシンを完成させられたんだ」

 

「…なるほどな…」

 

そのメールは…恐らく…。

 

 

 

「あ…それと、メールの最後に…

 

運命を司る女神作戦(オペレーション・モイラ)は、ここに果たされた。』

 

…って、書いてあったんだって。どういう意味か分かる?」

 

 

……。

 

 

「ククッ……」

 

「…岡部倫太郎?」

 

「…クククッ……フゥーッハッハッハッハ!!!」

 

俺は、高らかに声を上げる。

 

「俺は!…俺達は!! 使命を果たしたのだ!!」

 

「え?あたしも?」

 

「バイト戦士よ…覚えていないか?」

 

「え…?」

 

「…お前が、俺を救ってくれた、あの日を」

 

「……俺達が、共に過去へ跳んだ、あの日を」

 

「…え…?そんな、こと……あ…あれ……?」

 

鈴羽が頭をおさえる。

 

「……ぁ……まさ…か………っ…」

 

鈴羽の顔に、驚きや困惑の色が見えて…

 

そして、少し悲しそうな顔に変わった。

 

「……鈴羽…?」

 

「なっ…なんでも…ないよ!なんでも!」

 

「…あー…えと…あ、あたしっ…ちょっと用事が~…」

 

「ちょっ…待ていッ!」

 

咄嗟に鈴羽の腕をつかむ。

 

「ちょ、ちょっと…!……離して…よ…」

 

鈴羽が細々と言う。

 

何だか寂しそうな、その姿を見て。

 

俺は思わず、そのまま鈴羽を優しく抱き寄せた。

 

「わっ…」

 

「……ありがとう」

 

「……」

 

「俺は…お前に救われた」

 

「…ありがとう……」

 

「……うん…」

 

 

 

しばらくの沈黙の後。

 

「…岡部倫太郎……」

 

鈴羽が、小さな声で言う。

 

「君は……覚えてる…?あの…後のこと…」

 

「……すまない…俺は…タイムマシンが起動するまでの記憶しか…」

 

「…そっか…」

 

「………」

 

「…えっと…あの、後……あたし達……その…」

 

「……あの後…なんだ…?」

 

「………」

 

鈴羽が俺の胸に顔を埋めてしまう。

 

「…無理に話さなくても…いいんだぞ?」

 

鈴羽の頭を、恐る恐る撫でてみる。

 

「ううん……大丈夫…」

 

「…話して、おきたいから」

 

少し間が空いて、鈴羽の口が…

 

ゆっくりと、開かれる。

 

「……あの後…」

 

「…色々…あったけど…」

 

「…あたし達…は……結婚…した…よ…?…」

 

「…………そう、か」

 

鈴羽が目を潤ませながら、俺の白衣をぎゅっと掴む。

 

「…っ……でも……子供は…子供は…っ……だめ…で…っ……」

 

「……ッ………」

 

「…そ…それに…っ……君を、残して……あたしだけ…っ……」

 

鈴羽の目に、涙が滲む。

 

……ひどく、苦しそうに…。

 

「ごめ…っ…ごめん……ごめん……ごめん…っ…」

 

 

 

 

鈴羽が、布団に横たわって…。

 

俺の手を握ったまま…。

 

…ゆっくりと、息を引き取っていく。

 

 

そんな光景が、脳裏によぎった。

 

 

「………鈴羽…ッ…」

 

鈴羽を強く抱きしめる。

 

体温を感じたかった。

 

「……大丈夫だ…大丈夫だから…な…」

 

鈴羽を…自分を…安心させる様に。

 

ただ、同じ言葉を繰り返した。

 

 

***

 

 

「…大丈夫か?」

 

「…うん……ありがと」

 

鈴羽が、俺の胸に身体を預けてくる。

 

…鈴羽は…。

 

…この時だけは…。

 

少し、弱々しくて…。

 

…可憐で……。

 

………。

 

 

 

しばらく無言の時間が流れる。

 

 

「……ふぅ……。もう、平気だよ」

 

やがて、鈴羽が笑顔を見せる。

 

「…そうか…。ならいいのだが……」

 

「……ねぇ、一つ聞いてもいいかな……?」

 

「ん?なんだ?何でも聞くがいい」

 

鈴羽が俺の顔を覗き込んでくる。

 

「その…今の、君は…あたしのこと……どう思ってるの?」

 

………。

 

「…それは、勿論…な、仲間として…」

 

「そうじゃなくてっ……もう…分かるでしょ…?」

 

そ…れは……。

 

「………」

 

「…何とか言いなよ…岡部倫太郎」

 

「あ…ああ……」

 

………。

 

意を決し…。

 

ゆっくりと…ゆっくりと…口を開く。

 

「………好き…だ」

 

胸が痛いくらいにドキドキしている。

 

「うん……知ってる」

 

「……何ッ…!?」

 

「えへへ…こんなに優しく…抱きしめてくれるんだもん…。 あたしだって分かるよ…」

 

「ぐぬ……」

 

恥ずかしさに悶える。

 

 

「じゃあさ……今度はあたしの番だね……」

 

「え?…」

 

「おほん………岡部倫太郎…」

 

 

「…大好きっ!」

 

鈴羽は満面の笑みで答えてくれた。

 

その一言だけで……世界は光に包まれて見えた。

 

 

「……あ、ありが…とう……」

 

「うん…えへへ…」

 

 

また、少しの沈黙が流れ…。

 

「…あ…あのさ……もう一つだけ……」

 

鈴羽が、ゆっくりと口を開いた。

 

「なんだ……まだ何かあるのか?」

 

鈴羽は少し顔を赤くして、続ける。

 

「……キス、してほしいな~…?…君の方から…さ」

 

「なっ……」

 

それは……恥ずかしすぎる…!

 

「ふふ~ん…照れてるの~?」

 

鈴羽にからかわれて、思わず口を開く。

 

「そ、そんな事はないッ!」

 

「そう~?それなら~…ね…?」

 

上目遣いを使われ、胸がドキリとする。

 

「…ん……」

 

そのまま鈴羽は目をつむり…。

 

俺を…待っている。

 

「……」

 

……意を決して、顔を近づけていく。

 

……。

 

…鈴羽の吐息を感じる。

 

 

…そして…

 

…そっと、唇を重ねる。

 

「……!」

 

一瞬、鈴羽の体が震えた気がした。

 

すぐに離れて、鈴羽を見る。

 

「…えへへぇ……」

 

鈴羽は、笑っていた。

 

心底幸せだと言わんばかりの…

 

…花のような、笑顔だった。

 

 

******

 

 

…鈴羽が、おもむろに口を開く。

 

「あたしさ……」

 

「ずっと考えてたんだ…」

 

「もっと一緒に居たいって」

 

「一緒に、色んな所に行きたかった」

 

「同じ時を過ごして…思い出を作りたかった」

 

「…ただ、一緒に生きていきたかった」

 

鈴羽は…また、その目に涙をにじませて…

 

ぽつぽつと、言葉を放つ。

 

「でも…あの時は……使命があってさ…」

 

「それに…あたしは………っ…」

「………」

 

 

「でも…もう…いいんだよね…」

 

「あたしは……君と…っ…君と、一緒にいても…いいんだよね…っ…?」

 

大粒の涙が鈴羽の目からこぼれ落ちていく。

 

…今度は、微笑みの下で。

 

 

「当たり前だ…っ……!」

 

頬を流れる涙を拭う。

 

「…うっ……うん……うん…っ…!……ありがとう…っ……!」

 

 

俺達は、ただ抱きしめ合っていた。

 

お互いの存在を確認し合うように。

 

 

 

 

俺の…

 

俺達の、時間は。

 

 

今、ようやく…

 

ようやく、動き出した。

 

 

 

…これが、俺の選択だ。

 

 





最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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