オラリオに来たけど治安悪くない?   作:のん野のん太郎

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何故か続きます


第2話

「……はッ!?」

 

 意識と共に記憶も浮上して昨日のことを思い出して目をかっぴらいて飛び起き、その勢いで掛け布団と枕が吹っ飛んでいく。

 

「わっ!」

 

 そしてそれに驚いた女性の声が一つだけ聞こえる。この部屋の気配もその女性一人だけで窓は無い。

 久しく味わっていなかった布団の温もりを惜しんでしまうが、打刀を抜い……ないから仕込んでいる小刀……もない! というかなんだこれ西の国の服装に着替えさせられてる! 素手でやるしかない! 

 

 人を呼ばれる前にベッドとやらを強く踏み叩いて突貫し、突きを繰り出すように指二本を立てて喉に刺突しようとする。一応完全に声を失わない程度には加減しているが当たれば二日は声が出せないはず。それによく寝たからかキレは中々のものだ。

 そして指と喉の距離が30Cを切ったその時──

 

「んッ! ほっ、てやぁ!」

 

 渾身の一撃は間違いなく当たったと思ったのだが、完全に呆けていたはずの女性が喉の寸前で私の手をパシリと叩き落として凄まじい速度で脳天にチョップ……

 

「ガッ……」

 

 尋常ではない力のチョップにより、指を含めて全身が硬直した後脱力してしまう。

 

「あっ、やっちゃった……バレないようにもう一度ベッドに寝かせておこうかなぁ……」

 

「気絶は、してませんよ……」

 

 べシャリという擬音が聞こえそうな間抜けな体勢で地面に叩き落とされたが、なんとか意識は保てた。アニメや漫画ならば頭の上でヒヨコが回っているだろうが。

 そして幸か不幸か、寝ぼけてた脳みそは先程よりはちゃんと働くようになったのだ。

 身綺麗になっているところやちゃんとしたベッドで眠っている点、何よりも拘束されてないところを考えれば悪いようにはされなかったのだろうし、多分これからも悪いようにはされない……はず。

 

「あっホント! 良かったぁ〜。団長に怒られちゃうところだった。とりあえず聞くことあるらしいし、ちょっと休憩したら団長のところ行こっか」

 

 ニコニコと笑う女性は茶髪のポニーテールに素朴な顔立ちで何故か安心感のある見た目だった。

 それよりも謝らなくては。

 

「……はい。あと、いきなり襲いかかってすみませんでした」

 

「いいのいいの! 恩恵を受けてない子の攻撃ならあってないようなものだしね!」

 

 恩恵無しだから別に悔しくはないけど、その言い方はどうかと思う。別に悔しい訳では無いけど、いつか強めのチョップを喰らわせてやりたいとは思う。別に悔しさは感じてないけど。

 脇に手を通されてベッドまで運んでもらい、頭のてっぺんを擦りながら妙なことになったと思案に耽る。

 ここに来た理由は悪党が入り込みづら(安全)そうな場所だったからだし、オラリオに来た目的もお姉ちゃんを探しに来たのとファミリアに入るためだし何も問題無し! 

 まぁ本拠地? に武器持って入り込んだことはかなりの問題行動ではあるし()られちゃっておかしくないだろうけど、この待遇なら結構安心できそう。

 

「大丈夫そ?」

 

「はい、お気遣い感謝致します」

 

「いーのいーの! じゃあ行こっか」

 

「はい」

 

 廊下に出ると中庭が見えて今は二階にいることがわかった。

 

「あの……ここって、何処か聞いても?」

 

「え、知らないの? なら紹介! ここは【ロキ・ファミリア】の本拠地『黄昏の館』だよ! 流石に【ロキ・ファミリア】は知ってるよね?」

 

「いえ、今日……昨日の夜オラリオに来たばかりなのでファミリアがあるのとダンジョンがあるってことくらいしか」

 

 知ってるべきではあるのだけど、ぶっちゃけると治安の悪さを想定してなかったから現地で調べようとして本当に何も知らない。

 

「えー!? まぁでも来たばかりだものね! でもあなたを見つけた時ビックリしちゃった。何をする訳でもなくグッスリだもん。いけない、自己紹介を忘れていたわ。私はヨナ、レベルは3。よろしくね! あなたの名前は?」

 

「はい、私はゴジョウノ・葵羽と申します。極東出の田舎者ですが、どうぞよしなに」

 

 ペコリと腰を折るとヨナも慌てたように頭を下げてよろしくねと言った。

 

「それにしてもなんで屋根にいたの?」

 

「……思っていたよりも治安が悪くてですね、寝場所に困って安全そうな場所がないかなぁと探していたら、その、丁度良さそうだったので」

 

「え? ……ぷっ、あははははは! そ、そうなるんだ!? あっはっはっはっは!」

 

 隠すことなく正直に言うと、驚いた表情をした後に噴き出して笑い転げてしまった。

 それに対して私は顔が熱くなるのを感じながらもムッとした表情で言い返す。

 

「しっ、仕方ないじゃないですか! 世界の中心なんて言われてるこの街がこんな有様だなんて……!」

 

「ははは……ご、ごめんごめん! でも言われてみればそうだよね。これでもマシになってて、私がここに来たときはもっと酷かったんだよ」

 

「え? 今よりですか?」

 

 へんたいふしんしゃさんが大量発生する今の治安より悪いとか、相当だぞ……? 

 

「そう。私が来たのは五年前でね、まだ……あ、着いちゃったね。この話はまた今度!」

 

 話しながら数度曲がって階段を昇ったり降りたりしていると廊下の奥の扉に辿り着いた。どうやらここで話は終わりのようだ。

 

「失礼します! あ、ちょっとそこで待っててね〜?」

 

「え? は、はい」

 

 まぁ、ここで逃げてもしょうがないし待っておくが、一応捕虜って立場なはずなんだけど……流石にこれはどうかと思うなぁ……? 

 会って一時間も経たないけどヨナは優しくて、それ以上に抜けてる。私が恩恵無しのヒヨコだからだろうが、監視する気も警戒する気も感じられない背中は少し心配になる。

 気を使ってゆっくり歩くけど、警戒心ゼロで色々話してくれる。演技だとしたら相当な役者だが、多分何も考えてないんだろう。

 そして数分経ってヨナが部屋から出てきた。

 

「はい、はい! では失礼します!」

 

 元気な声とともにヨナが出てきて、私にニッコリと笑顔を向ける。

 

「じゃあ、部屋にどうぞ! 私たちの団長、一番偉い人だから礼儀正しく、ね?」

 

「はい、承知致しました。ご案内感謝致します」

 

 もう一度、今度は心から感謝を込めて礼を言うとヨナが嬉しそうに笑った。

 

「ふふっやっぱり葵羽は悪い子じゃないよね。攻撃してきた時はどうなることかと思ったけどね?」

 

「そ、それは本当に申し訳無く思っています……」

 

「ふふふっ、それじゃあまたね!」

 

 ヨナはそう言って走り去っていった。だからここで去るのはマズイだろうに……

 少し元気が出たことを自覚しつつ、この扉の向こうでロキ・ファミリアの団長が待ち受けているということに緊張を感じ始めてきた。戦闘技術は叩き込まれたけど、こういう状況の訓練はやったことがない。ヨナを見るに、逆立ちしても敵わないし逃げられない相手……

 目を閉じて息をひとつ吐き、覚悟を決める…………よし。

 ノックをしてから入室すると、シンプルな机に団長様が腰掛けていた。

 

「よく来てくれたね。僕は【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナ。いきなりで悪いが、名前とここに来た理由を簡単に教えてくれるかな?」

 

 爽やかに笑みを浮かべているが、私にはわかる。これはビジネススマイルというやつで、本心からのものではない。

 だがそんなことを言えるはずもないし、言っても仕方がない。

 

「はい。名前はゴジョウノ・葵羽と申します。治安が悪かったので安全に眠れる場所を探して参りました」

 

 心底緊張しながら答えると、団長様はその返答で少しだけ眉を動かしたような気がした。気の所為かもしれないと思うほど少しだけ、一瞬のうちに。

 

「じゃあどうしてオラリオに?」

 

「姉を探しに来たのと、ファミリアに入って冒険者になる為に」

 

「なるほど、では次の質問だ」

 

 それからヨナに言った事と同じ質問や姉の名前、出身、年齢、どこで誰に鍛えてもらったかなどを質問された。尋問のように連続して問われたが、姉の名前を言ったあたりで雰囲気が柔らかくなった気がする。

 そしていい加減面倒くさくなってきた頃。

 

「それじゃあ最後の質問だ。君はゴジョウノ・輝夜が所属する【アストレア・ファミリア】に加入すると決めているのかい?」

 

 正直一番聞かれたくないことを聞かれた。正確に言うとその手前の質問なのだが。

 

「そう、ですね……そのつもりはありません」

 

 本当のことだ。私はお姉ちゃんのことが大好きだが、多分お姉ちゃんは私の顔を見るだけで嫌な事を思い出す。

 出ていく時に悪くないって何度も言ったし、私も出てきた。だけど自責の念(後悔)は消えないだろう。私を見て辛い顔をされるのが嫌、というのも十二分にあるけど。

 だから私は同じファミリアには入らないつもりでオラリオに来た。

 

「…………そうかい。ならひとつ提案があるんだ。【ロキ・ファミリア】に加入しないかい? ロキの賛成も得ているよ」

 

 団長様が突然で驚愕の提案をしてきた……と思いきやロキって聞いてた神ロキ!? 

 弾かれるように団長様の目線の先を向くと赤毛で糸目の露出度が高い女の人がいた。

 こんな特殊な気配に気づかなかったなんて、自分が思っていたよりも緊張していたようだ。

 

「ウチは大賛成! やっぱり黒髪パッツンロリはええな! それに嘘はゼロやし、文句なんかあらへんよ」

 

 嘘はゼロ、というところで背筋が冷える感覚が走る。神は嘘を見抜くというのは知っていたが、サラリと告げられるその言葉は結構恐ろしい。

 

「はぁ……ロキは一度置いておこう。すまないがもう一度問わせてもらう。ロキ・ファミリアに加入しないかい?」

 

 …………どうするべきか、オラリオに来てすぐのこの提案は決めるには早い気がする。ファミリアの見学なんて一回もしてないのに。

 だがファミリアに加入すること自体が難しくなってそうな治安の悪さ。

 

「……待遇はどうなるのですか?」

 

「他の団員と変わらないよ。ペナルティも無いが特別扱いをすることも無い」

 

 少し悩んだ後に、決めた。このファミリアに対する心象もかなり良かったし、他の団員と変わらないのは心の底から有難い。

 

「……………………是非、よろしくお願い致します」

 

「よっしゃ! じゃあ早速恩恵刻むで〜? ほらこっちおいでおいでー!」

 

「程々にするんだよ、ロキ」

 

「任せときー! ってせや、加入するんやし、ウチにアレくれへん?」

 

「あの、アレとは?」

 

「ロキ?」

 

「えーやんえーやん! ほら、封がしてある小さい瓢箪、アレって酒やろ?」

 

 封がしてある瓢箪……和酒はオラリオでは珍しさ故にかなりの額が付くらしく持たされていたのだった。足がつくから極力売るなとのお達しだったが。

 一応高級な和酒だから美味しいはずだが。

 

「あぁ……それなら別に構いませんが、強めの筈なので少しずつお飲み下さいね」

 

「よっしゃ言質とったで! さぁ行くで〜!」

 

「あっ……」

 

 神ロキに手を取られて慌ただしく部屋から出る。

 そしてロキの鼻歌を聞きながら中央にソファがある部屋に入った。

 

「じゃあ葵羽たんのはじめての恩恵もらうで〜? ほら、上脱いで脱いで」

 

「えっ、は、はい!」

 

 神の言うことは絶対という刷り込みがあり、戸惑いつつも言うことを聞いてしまう。でもあの言動はどうなんだろうか。

 神は威厳があって高貴で上品で偉いという認識があるのだが、その像がどんどんと崩れていく……

 皆が皆(神が全員)アマテラス様のようでは無いということか……

 そして促されるままにうつ伏せになって背中を見せると何かが背中に垂れて背中全体が熱くなってくる。

 

「なんや変わった魔法があるけど、まぁ初回やからな。こんなもんやろ」

 

 そう言ってロキは私にステイタスの刻まれた紙を渡した。

 

 

 ゴジョウノ・葵羽

 

 Lv.1

 

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 

《魔法》

【シカイ】

 無詠唱魔法

 納刀時に発動可能

 

《スキル》

 

 

 

 

 

「これが私の……」

 

「まぁ色々あったけど、ウチの【ファミリア】にようこそ。歓迎するで!」

 




ヨナはオリキャラです。二度と出ないかもしれないし、次話で普通に出るかもしれない。
そして葵羽たんの転生設定、ぶっちゃけると表現をやりやすくする為だけの要素なので元人格がーとかはないです。なので精神年齢はそこまで高くありません。
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