ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十五手美装のゴールデンウィーク~sideB~

 

 

 カフェにて休憩と軽食を済ませたあとで、有紗とひとりは再びウィンドウショッピングを再開する。基本的に目的があるわけでは無く、また対象を服に限定していたりするわけでもないので、道中の店を眺めながら楽し気に言葉を交わす。

 

「……あっ、CDショップ」

「最近は数が減ってきましたね。時代の流れといえば、それまでですが、音楽を聞くのもサブスクや動画サイトが中心になりつつありますしね」

「でっ、ですね。実際私も、CDで聞くよりサブスクとかで聞きますね。あっ、そういえば、動画といえば新宿FOLTがオーチューブにアカウント作って動画配信してましたね」

「ええ、かなり順調なようですね」

 

 ふたりが話題に上げたのは、最近登録者数が伸びているオーチューブチャンネルのひとつで、彼女たちにとっても知り合いであるFOLTの関係者たちに関してだった。

 そもそも最初はヨヨコが自身のオーチューブチャンネルとしてオープンしたものだったのだが、現在では主にSIDEROSメンバー……さらにきくりや銀次郎も参加しており、ほぼ新宿FOLTの公式チャンネルと認識されていた。

 

「あっ、喜多ちゃんも大槻さんの歌ってみた動画が参考になるって言ってました。いっ、いろいろなジャンルを歌ってるみたいで、同じボーカルとして歌い方の勉強になるとか……」

「ヨヨコさんはカラオケが趣味のようですし、流行りの曲などもかなり練習しているのでしょうね。実際歌唱力や技術は現状の喜多さんより格上ですし、喜多さんにとっては学べる部分が多いのでしょうね……上手く行ったようでよかったです?」

「うっ、うん? どういうことですか?」

「ああいえ、実は以前……というかほんの2週間前ぐらいに、ヨヨコさんから相談を受けたんですよ」

 

 ひとりの問いかけに対して、有紗は当時を思い出すように話し始めた。

 

 

****

 

 

 4月中旬のことだった。自宅で髪の手入れをしていた有紗だったが、テーブルの上のスマートフォンが着信を知らせたために手を止めてスマートフォンを確認した。

 すると画面には「大槻ヨヨコ」と表示されており、なんとも珍しい相手からの着信に首を傾げつつ電話に出た。

 

「はい。もしもし?」

『そ、その……急に悪いわね。あ、えっと、大槻よ』

「こんばんは、ヨヨコさん。手は空いていましたので、大丈夫ですよ……それで、本日はどうされたんですか?」

『まぁ、大した用件じゃないわ……ああ、新しいMV見たわよ。なかなかね』

「ありがとうございます」

 

 ヨヨコが口にしたのは、最近追加で撮影した結束バンドのオリジナル曲のMVであり、グルーミーグッドバイに続いて撮影したギターと孤独と蒼い惑星のMVのことである。

 前回の物とは雰囲気を変えてカッコよく魅せることを意識したMVは、結束バンド全体の演奏レベルの上昇もあってかなり順調な伸びを見せていた。

 実際ヨヨコもそのMVを見て「まぁ、私のライバルを名乗るならこのぐらいはしてもらわないとね」と、なんとも彼女らしい素直ではない賞賛を口にしていた。

 ただ、今回の電話の用件がそれかと言われれば……そういうわけでは無かった。ヨヨコは少し悩むように沈黙したあとで、告げる。

 

『……その……なにかその……アイディアとか、ないかしら?』

「アイディア? なんのアイディアでしょうか?」

『……いや、バンドとして活動していくうえで動画サイトの宣伝効果は侮れないわ。当然私もそこを疎かにするつもりは無いし、最近は少々時間もあったから手を出してみたのよ。け、けど、再生数が伸びな……いえ、私も沢山アイディアはあるけど、客観的な意見も聞いてみたいと思って貴女に連絡したのよ』

「……ふむ」

 

 極めて回りくどく分かり辛い言い方ではあったが、有紗はほぼ正確にヨヨコの言いたいこと……言い辛いことを察して思考を巡らせる。

 

(つまりは、動画サイトにチャンネルを作ったけど思うように再生数が伸びないので助言が欲しいという感じでしょうか? おそらくプライドが邪魔をして他のSIDEROSメンバーには聞きづらいのでしょうね)

 

 回りくどいヨヨコの要望を察した有紗は軽く苦笑を浮かべつつ、要望通りのアドバイスを行う。

 

「そうですね。あくまで私の考えではありますが、ここは奇をてらうより堅実なものがいいかと思います。まったくの無名でのスタートなら別ですが、SIDEROSの大槻ヨヨコとしてチャンネルを開いたのであれば、必然的に見に来てくれる方はSIDEROSやヨヨコさんのファンが多くなるでしょう。そういった方たちは、普段とは違った皆さんの様子を見たいはずです」

『ぐ、具体的には?』

「そうですね。歌ってみたなどはいかがでしょうか? ヨヨコさんはカラオケが趣味と伺いましたし、普段のSIDEROSの曲とは違ったジャンルの曲を歌ってみるという感じですね。準備もほぼ必要ありませんし、普段とは違った雰囲気のヨヨコさんの歌を聞ければファンは喜ぶと思いますよ」

『な、なるほど……確かにそれなら私でも……』

「ただ、もちろん著作権があるので事前に音楽著作権管理事業者に使用申請を行う必要があります。一部の動画サイトであれば包括利用許諾契約を結んでいる場合もありますので、サイトによっては音楽著作権管理事業者ではなくサイト運営者に、インタラクティブ配信の許諾手続きを行う必要がある場合もあります……その辺りは、よろしければ簡単にまとめてロインで送りましょうか?」

『お願いするわ……その……あ、ありが……ありがとう』

「いえ、助けになれたのなら私も嬉しいですよ」

 

 そう言ったやりとりがあり、有紗が歌ってみた動画を投稿するにあたっての注意などをまとめたロインを送り、それを参考にヨヨコは歌ってみた動画を投稿するようになった。

 元々ヨヨコの実力は非常に高く、歌ってみた動画は順調に再生数を稼ぐこととなり……後日ヨヨコから有紗宛ての菓子折りが大量に届き、有紗は苦笑しつつ結束バンドのメンバーやSTARRYのスタッフにお裾分けをしていた。

 

 

****

 

 

 有紗の説明を聞き終えたひとりは、納得しような表情で頷いた。

 

「あっ、この前有紗ちゃんがひとりじゃ食べ切れないからって持って来た菓子は、大槻さんからだったんですね」

「ええ、無難なアドバイスしかできませんでしたが、上手く行ったようでよかったです」

「あっ、有紗ちゃんは頼りになりますからね。わっ、私もいつも助けてもらってますし……」

「ふふ、もっといっぱい頼ってくれてもいいんですよ?」

「あっ、あんまり、やり過ぎると、有紗ちゃんが居ないと駄目になりそうな……」

「私としては、将来に渡ってひとりさんとずっと一緒に居るつもりなので、駄目になっても大丈夫ですよ」

「もっ、もぅ、またそうやって恥ずかしいことを平然と……」

 

 相変わらずのストレートな愛情表現にひとりはどこか呆れたように呟いてはいたが……口元には小さく笑みが浮かんでおり、どうも喜色を隠せてはいなかった。

 ふたりは楽しく話しながらショッピングを続け、続いては服を取り扱う店にやって来た。

 

「ひとりさんの好みですと、パンツスタイルの服の方がよさそうですね」

「あっ、そうですね……あれ? いつの間にか、私の服を買う流れに?」

「ああ、いえ、購入する必要はないのですが……ひとりさんが試着する姿は見たいですね」

「すっ、凄くストレートに欲望を……まっ、まぁ、試着するぐらいなら……」

 

 気恥ずかしさはあったが、有紗が喜んでいるというのはひとりにとって大きな要因であり、有紗が望むのであれば試着するぐらいならという気持ちがあった。

 ひとりの了承の言葉を受けたことで、有紗は嬉しそうな表情を浮かべてひとりに似合いそうな服を選んでいく。もちろんひとりの好みを考え、可愛いよりはカッコいい雰囲気の服を選ぶ。

 

「皮のジャケットもいいですが、これからの時期ですと暑いので薄手の上着で……こんな組み合わせはいかがですか?」

「あっ、かっ、カッコいいですね。バンドマンっぽいというか……ちょっと着てみたいです。試着してみますね」

「はい」

 

 有紗が選んだ服を持って試着室に入り、少しして薄手のジーンズに白色のシャツ、黒色の上着を着たひとりが出てくると有紗は目を輝かせた。

 

「とても素敵ですよ、ひとりさん。可愛らしい服も似合いますが、そういったカッコいい服も似合いますね」

「えへへ、そうですか? でっ、でも、この服は結構好きなデザインです。あっ、有紗ちゃんも、こういう感じの服は似合いそうですね」

「そうでしょうか? でしたら、せっかくですし似た服を試着してみましょうか」

 

 有紗に褒められたことで照れつつも嬉しそうな表情を浮かべたひとりだったが、直後に有紗も同じ格好をと提案をしてみた。

 その言葉に有紗が頷き、似た組み合わせの服を持って来て試着をしてみると、その姿を見たひとりはどこか感動したような表情を浮かべた。

 

「あっ、有紗ちゃんはそういうカッコいい服も似合いますね」

「ありがとうございます。似た組み合わせを選んだこともあって、ひとりさんの服装とよく似ている感じですね」

「あっ、そっ、そうですね。お揃いですね……えへへ」

 

 図らずもペアルックのような形になったことを微笑みながら口にするひとりを見て、有紗も楽しそうに笑顔を浮かべた。

 結局ふたりともその服が気に入ったため購入することに決めた。あるいは、ペアルックという言葉が互いに決め手になったのかもしれない。

 

「こっ、この格好で楽器を演奏すると合いそうですね」

「確かにロックバンドらしい恰好と言えばそうかもしれませんね。ひとりさんさえよければ、今度一緒にこの服を着てセッションしてみますか?」

「あっ、しっ、したいです! 有紗ちゃんとのセッションは凄く好きですし、たっ、楽しみです!」

「そんな風に喜んでもらえると私も嬉しいです。まぁ、一先ず今日に関しては、買い物の続きを楽しみましょう」

「あっ、はい。そうですね……次はどこに行きましょうか?」

「それでしたら、小物などの店が多い向こうの通りに……」

 

 買い物袋を持って、空いた手を繋いで歩くふたりの姿は非常に仲睦まじく、幸せそうな笑顔からはどこか温かな空気を感じることができた。

 思い付きから始まったウィンドウショッピングではあったが、有紗もひとりも今日という日を心の底から楽しんでいた。

 

 

 




時花有紗:ひとりと一緒でウッキウキ。基本的にチート級に容姿がいいので、何着ても似合う。ヨヨコに動画のアドバイスなどをしていたらしい。

後藤ひとり:原作と比べてJK力が凄まじく高い気もする。有紗とセッションと聞くと、明らかにテンションが上がっているところが大変可愛い。

大槻ヨヨコ:原作では悲惨なことになっていたが、こちらでは有紗を頼ったことで路線を変更し歌ってみた中心でいい感じに再生数を伸ばした模様。滅茶苦茶感謝してて、大量に菓子折りを送って来た。
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