ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十七手開始のネット投票~sideA~

 

 

 5月も中旬に入りいよいよネット投票もスタートしました。私自身も自分で投票するのはもちろん友人などにも投票を呼び掛けて協力して貰っており、結束バンドのメンバーの皆さんと一丸になって突破を目指しています。

 今日もSTARRYのお客さんや下北沢の方を対象にビラ配りなどをして、宣伝活動を行う予定です。

 

 結束バンドのMVもかなり順調に再生数を伸ばしており、知名度も確実に伸びてきています。楽観視はできませんが通過自体の可能性は高いと思っています。

 ただやはり上位に入っていればこの後のライブステージでも有利になるので、出来るだけ高順位を狙いたいものではあります。そのためには地道な宣伝活動ですね。

 

「このバンドJKの間で流行ってるんだけど、まじバイブスてんあげよ~。聴いてくれたらチョベリグー」

 

 高校から下北沢に行くため駅に向かって歩いていると、微妙にワザとらしいギャル言葉のようなものが聞こえてきて、反射的にそちらを振り返りました。女子高生というには妙に大人びた声といいますか、どこかで聞き覚えがある声だったような――お、おおお、お義母様!?

 

 振り返った先に見えたのは、制服に身を包み女子高生らしき人と話しているお義母様の姿でした。なんでしょうこれは、脳が理解を拒否しています。さすがの私も、未来の義母が女子高生のコスプレをしている姿を見て、どう反応すればいいかは分かりませんでした。

 しばし呆然としていた私でしたが、そのまま無言で踵を返してその場から立ち去ることにしました。

 

 見間違えです。アレは、間違いなく見間違えです。お義母様がひとりさんのものらしき制服を着ている理由も不明ですし、そもそもひとりさんの家からは相当離れているここに居るのも不自然です。

 バンドの宣伝のために女子高生に擬態して布教しつつ、ひとりさんにバレないようにあえて家から離れた場所で行っているとか、そんな想定は明らかに間違っています。間違っていてください……な、なんにせよ、今見たものは決してひとりさんには言えませんね。

 もし仮に私が当事者の立場で、お母様が女子高生の格好をして街をうろついているなどと他人から聞かされたら、その事実を受け止めきれる気がしません。

 

 ……忘れましょう。時には、見て見ぬふりというのも必要なのです。

 

 

****

 

 

 妙な気疲れを感じつつ下北沢に到着すると、ちょうど駅を出たところでひとりさんと喜多さんにばったり遭遇しました。

 

「あっ、有紗ちゃん。こんにちは……」

「こんにちは、ひとりさん、喜多さん」

「こんにちは~タイミングよかったね」

 

 ここでひとりさんと会えたのは幸運です。疲れていた心が癒されていくようです。軽く挨拶を交わしたあとで、ひとりさんは心配そうな表情で私に声をかけてきました。

 ひとりさんは感情の機微に鋭い方なので、私の精神状態を察してのことでしょうね。

 

「あっ、有紗ちゃん、大丈夫ですか? なっ、なんか少し疲れているような……」

「少々精神的に疲れることがありましたが、ひとりさんの顔を見たら元気になりました。それはそれとして手を繋いでもいいですか?」

「え? そういうのって、むしろ疲れてるから手を繋いでとか要求する場面じゃ……」

「あっ、いや、有紗ちゃんはそういう回りくどいことしません。いつも大体、正面からストレートに来ます」

 

 戸惑う喜多さんに対してひとりさんはどこか慣れた様子で苦笑をしたあとで、なにも言わずに私の手を取ってくれました。

 ひとりさんと手を繋いで歩くことで心が癒されていくのを実感していると、ふと喜多さんがなにかに気付いたような表情を浮かべました。

 

「……ふたりとも、あそこに居るのって先輩たちじゃない?」

「え? あっ、本当ですね」

「STARRYに向かう前にドリンクかなにかを買っているのでしょうね。コレはまた偶然ですね」

 

 喜多さんが指差した方向にあるコンビニの店内に、虹夏さんとリョウさんの姿が見えました。STARRYに向かう途中で全員が会うというのはとても珍しい事態です。

 喜多さんとひとりさん、虹夏さんとリョウさん、そして私と3つの高校に分散しているので、当然と言えば当然なのですが……。

 

「伊地知先輩~リョウ先輩~」

「あ、喜多ちゃん! それに、ぼっちちゃんに有紗ちゃんも、偶然だね!」

「はい。奇遇ですよね。これからSTARRYですよね? 皆で一緒に行きましょう」

「いいね。なんか、タイミングバッチリでいいことありそうな気がするね」

 

 コンビニから出てきたふたりに声をかけ、5人そろってSTARRYに向かいます。未確認ライオットの話などをしつつSTARRYに到着し店内に入ると……そこにはまた、何とも奇妙な光景が広がっていました。

 なぜか高校の制服を着ている星歌さんとPAさん、そしてきくりさんの姿がありました。なんというか、今日はよくコスプレをした知り合いに会う日ですね。

 

「こんにちは~あれ? 店長たち、なにかの罰ゲームですか?」

「おねーちゃん! なにやってんの!?」

 

 店に入って来た私たちを見た星歌さんたちは、なんとも言えない……なにかを悟ったかのような悲し気な表情を浮かべていました。

 

「や~やっぱ10代のフレッシュさには敵わないね。化粧もしてないのにこの透明感……」

「え? 何ですか!?」

 

 きくりさんに声をかけられて戸惑う虹夏さんを尻目に、状況が分からない私は近くに居たPAさんに声を掛けました。

 

「PAさん、これはいったい……」

「……その圧倒的な美貌で私の尊厳を叩き潰して楽しいですか?」

「え? あの? 私、PAさんになにかしましたか?」

「なにもされて無いです。けど、有紗さんを目の前にしているだけで、私の心はいま凌辱されている気分です……現在進行形で、これでもかというほど格の違いを思い知らされています。私だって……有紗さんみたいなレベルが違う美少女に……生まれたかったっ……」

「……えっと……その、よく分かりませんが元気を出してください」

 

 なぜか分かりませんが、声をかけるとPAさんは絶望した表情で涙を流し始めてしまいました。なにか琴線に触れてしまったのかもしれません。

 きくりさんに絡まれる虹夏さん、喜多さんの頭をぐりぐりしている星歌さん、私の前で涙を流すPAさん……なんとも混沌とした状態です。いや、本当になぜこんなことになったのでしょう?

 

 

****

 

 

 少し妙なことはあったものの、改めて今日のビラ配りの打ち合わせです。予定では下北沢の駅前、普段路上ライブなどを行っているエリアで配る予定でしたが、ここで虹夏さんから提案がありました。

 

「下北沢で配るのもいいと思うんだけど、せっかく5人居るんだしある程度散っていろんな場所で配った方がよくないかな?」

「確かに、幅広いファン層を獲得するという意味では有効ですね。下北沢以外では新宿、御茶ノ水辺りもロックファンは多そうですし、票の獲得に繋がる可能性はありますね」

 

 虹夏さんの提案はなるほどたしかに効率的です。下北沢は普段路上ライブを行っていることもあって、結束バンドの名前を聞いたことがあるという人の手にビラが渡る可能性が高く効率的ではありますが、他の場所で配るというのも新規のファンを獲得するという意味ではかなり有効です。

 もちろん下北沢以外では、インディーズで活動歴の浅い結束バンドは知名度が低いという問題もあるので、興味を持ってもらえるかどうかは賭けになる部分もあります。

 

「ありだと思う。リターンは大きいし、リスク自体はそこまで多くない」

「下北沢駅前は最寄りですし、別のタイミングでのビラ配りはできますから、時間のある今日は足を延ばしてというのはいいですね」

 

 リョウさんと喜多さんも虹夏さんの提案に賛成な様子です。投票で上位を狙うのであれば、広いファン層の獲得は急務でもありますし、確かに時間のある時に大きく動くべきですね。

 

「……で、有紗ちゃんが言ったみたいに、下北以外で配るなら新宿か御茶ノ水がいいと思うんだよ。せっかく5人いるわけだし、2チームに分かれてビラを配ろう」

「チーム分けはどうするんですか? 2人チームと3人チームになりますよね?」

「ビラを配るって関係上、そういうのに強そうな……コミュ力高い喜多ちゃんと有紗ちゃんは別のチームになって欲しいね。で、ぼっちちゃんは有紗ちゃんとセットじゃないとまず無理だろうし……」

 

 どうやら話し合うまでもなく虹夏さんの中では既にチーム分けは終わっている様子でした。この口ぶりだと私とひとりさんは同じチームになりそうなので、喜ばしいことです。

 少し溜めるように沈黙する虹夏さんに、リョウさんが尋ねます。

 

「……つまり、チーム分けは?」

「バカップルとそれ以外で!」

「「異議なし」」

「だっ、だから、カップルじゃないです!? あっ、有紗ちゃんもなにか言ってください」

「ひとりさんと、ふたりペアなのは嬉しいですね。配り終わった後、どっかに寄って帰りましょう」

「そういうことじゃなくて!?」

 

 ひとりさんと2人ペアで行動できるというのに、私に異論があるわけもありません。むしろ虹夏さんの采配には感謝するばかりです。

 御茶ノ水を私たちが担当することになったら。乗り継ぎ合わせて15分ほどで押上に行けますし、一緒にスカイツリーに行くというのもいいかもしれません。

 

「特に希望が無ければ私たち3人が新宿、ぼっちちゃんと有紗ちゃんが御茶ノ水でいいかな? ……あっ、ぼっちちゃん。いちゃつくのはちゃんとビラ配り終えた後にしてね」

「だっ、だから、いちゃついたりとか、そういうのは無いですから……」

 

 虹夏さんの言葉に顔を赤くして反論するひとりさんですが、虹夏さんはその反応を楽しんでいるようでニヤニヤとした笑みを浮かべていました。

 なんとも微笑ましいやり取りに私も笑顔を浮かべつつ、ひとりさんに声を掛けます。

 

「ひとりさん、ビラを配り終えたあとでスカイツリーの展望台で夜景を見ましょうね」

「え? あっ、はい……有紗ちゃんが行きたいなら、私は構いませんけど……」

 

 ひとりさんの了承も無事取れたので、楽しみですね。スカイツリーの展望台は夜の8時まで入場できたはずなので、十分間に合うはずです。

 

「……さすが、有紗は全く動じてない」

「それどころか、デートする気満々だよ。いや、煽ったの私だけどね……」

 

 

 

 




時花有紗:さすがの有紗ちゃんでも、未来の義母(推定39歳前後)の制服姿は受け止めきれなかった模様で、見て見ぬふりをした。

後藤ひとり:カップルでは無いし、イチャイチャもしていない……だけど、スカイツリーの展望台に行くという話に関しては二つ返事で了承……いやもうそれ、完全にデートなのよ。

後藤美智代:原作でもマジで制服を着て渋谷とかに言っていた剛の者。3巻で制服なんて21年ぶり~と発言していて、公式設定で誕生日が4月3日なので、おそらくこの時点では39歳と予想される。極めて若く見えるが、作中の発言でさすがに顔に皴などはある模様。
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