ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十七手開始のネット投票~sideB~

 

 

 未確認ライオットのネット投票が始まり、秀華高校のひとりと喜多が所属するクラスでも、その話題が上がることは多かった。

 人気者である喜多の元には休み時間にも多くのクラスメイトが集まって声をかけてくる。

 

「喜多ちゃーん。ネット投票入れといたよ~」

「私も入れた!」

「わ~みんな大好き~!」

 

 声をかけてきたクラスメイトに笑顔で応える喜多を、ひとりはひとつ後ろの席からぼーっと眺めていた。進学してから休み時間の度に見られる光景であり、もうある程度慣れたとはいえ陰キャかつコミュ症のひとりにとってあまり親しくない人が近くに多く居るというのはなかなか精神的なストレスがあった。

 

「動画サイトに上がってたMVも観たけど、どの曲もよかったよ~」

「ありがとう!」

「後藤さんも本当にギター弾けるんだね。カッコいいね」

「あっ……どっ、どうも」

 

 時折喜多の友人からこうして話を振られても、ひとりは視線を俯かせて小さな声で返答するだけであり、あまり会話が弾むことはない。

 

(……うぅ、喜多ちゃんの友達って優しいから、私に興味ないのにこうやって気を使って会話を投げてくれるけど、コミュ症が気の利いた返事なんてできるわけもなく、いつも気まずい感じで会話は終わるし……うぅ、助けて、有紗ちゃん……)

 

 実際のところ会話が弾まない原因はどちらかと言えばひとりの方である。陰キャかつコミュ症であるひとりは、基本的にあまり親しくない相手には心を閉ざしており、対応もおっかなびっくりである。今回の様に話を振られても、目に見えてビクビクした様子で、相手にも伝わるほどに緊張しながら返事をするので、話しかけてきた相手もそれ以上会話を続けられずに会話が途切れて気まずくなってしまうことが多かった。

 

 なんとも上手く行かないものだと感じつつ、ひとりはスマートフォンを取り出して保存している画像を見る。少し前のゴールデンウィークに有紗とカフェに行った時の写真である。有紗はひとりにとって心安らぐ相手なので、こうして写真などで有紗の笑顔を見るだけでも、少しは精神を回復させる効果があった。

 あとスマートフォンを弄っていれば、話しかけられにくいという思惑もある……とはいえ、もちろん例外は存在する。

 

「あれ? ひとりちゃん、なに見てるの?」

「あっ、Aちゃん……あっ、えっ、えっと、前に有紗ちゃんとカフェに行った時の写真です」

「へぇ、カフェに行ったんだ。ねぇねぇ、私も見ていい?」

「どれどれ、私も……」

「あっ、はい」

 

 クラスメイトの中でもひとりと親しく、かつ積極的に声をかけてきてくれる英子と美子に関しては、ひとりもある程度落ち着いて会話ができる。

 むしろこのふたりがクラスメイトでなければ、喜多の後方の席という重圧に耐えきれず、休み時間は別の場所に逃げていたかもしれない。

 

「いいな~凄くお洒落だし、美味しそう!」

「リンゴのパンケーキかな? これって、どこの店?」

「あっ、えっと……〇〇通りの……」

 

 美子の質問にひとりが当日のことを思い出しながら店名を告げると、先ほど話しかけてくれた喜多の友人であるクラスメイトが反応した。

 

「あ、その店私も気になってたんだよね~。私も写真見ていいかな?」

「あっ、はい。どっ、どど、どうぞ」

「ありがと~わっ、本当に美味しそう! パンケーキとスフレパンケーキかな?」

 

 写真を覗き込みながら話すクラスメイトの言葉を聞き、英子が首を傾げながら口を開いた。

 

「そういえば、パンケーキとスフレパンケーキってどうちがうのかな? いや、見た目とか味が違うのは分かるんだけど、具体的になにが違うとか知らないなぁって……」

「あっ、えっ、えっと、材料が違うらしいです。パンケーキは……」

 

 有紗との会話が印象に残っていたこともあり、ひとりは若干たどたどしくではあったが有紗から聞いたパンケーキとスフレの違いを説明した。

 それを聞いた英子は目を輝かせて感動したような表情を浮かべる。

 

「そうなんだ! ひとりちゃん凄い!」

「あっ、いっ、いえ、私も有紗ちゃんに聞いただけなので……」

「へぇ、その写真の有紗さん? って博識なんだね~」

 

 クラスメイトが告げたその言葉は何気ない一言ではあった。しかし、それはひとりに対するコミュニケーションにおいては、大正解の内容だった。

 ひとりはたしかにコミュ症ではあるが、ある程度親しくなった相手……喜多や英子や美子といった心を開いた相手となら、普通に会話することができる。特に最初のコミュニケーションで心を閉ざした状態のひとりとどう会話するかが極めて重要である。

 

 心を閉ざした状態のひとりは、ビクビクとしており相手にも伝わるぐらいに緊張しているので、通常では会話はほぼ成立しない上、ファーストコンタクトで上手く会話できなかったという記憶が残れば、2度目以降はさらに心を閉ざすため、それを突破するのは非常に難しい。

 だが、しかし、何事にも例外というものはある。ひとりにとってそれは、有紗の話題であった。

 

「あっ、そっ、そうなんです。有紗ちゃんは、本当に何でも知ってて、いつもいろんなことを教えてくれます」

「へぇ、Aちゃんとかから少しは聞いたけど、別の高校の友達なんだっけ? よく遊ぶの?」

「あっ、はい。この前のゴールデンウィークも……」

 

 有紗の話題に関しては、他の話題に比べればという前提こそ付くものの、ひとりは明らかに饒舌になり、心なしか楽しそうに話すことが多く、他の話題にある際のような怯えや極度の緊張がないため、話す側としても会話を広げやすくなる。

 そして一度ある程度まともに会話ができたという成功体験を得れば、次回以降は少し心を開いてくれるので親しくなりやすい。ひとりと上手くコミュニケーションを成立させるコツは、有紗の話題を多目に振ることであった。英子や美子などは無意識にそれを実践していた。

 

「ゴールデンウィークといえば、ひとりちゃん有紗ちゃんの家に泊りに行った時の写真も見せてあげたら、アレすっごく可愛かったし」

「え? あっ、はい……これです」

「きゃー! 可愛い!」

「怪獣のパジャマ? こんなのあるんだ~」

「仲の良さが伝わってきて微笑ましいね!」

 

 そこに元々コミュ力の高い喜多がさり気ないアシストを入れれば、簡単にひとりが話題の中心になり、自然と会話の輪に入ることができた。

 

(……あっ、あれ? 私なんか、結構クラスメイトと打ち解けられてるような……喜多ちゃんの手助けや、Aちゃん、Bちゃんが私の言葉を補足してくれるおかげってのもあるけど……過去一クラスに馴染めてるような……まさか、心を落ち着けようとして見た有紗ちゃんの写真が切っ掛けでこんな流れになるなんて……うぅ、ありがとう、有紗ちゃん)

 

 長年ぼっちだったひとりにとって、明らかにクラスメイト達の輪に加われている状態というのはかなり嬉しいものがあり、休み時間の間それなりに楽しく会話を行うことができた。

 もっとも、余裕で人と会話するキャパ越えではあったため、次の休み時間には教室から逃げて人気のない場所に隠れていたため、脱コミュ症はまだまだ先になりそうではあったが……。

 

 

****

 

 

 2チームに分かれてのビラ配りで有紗と共に御茶ノ水にやって来たひとりは、ある程度ビラを配ったあとで有紗とジュースを飲みながら休憩しつつ、学校の話をしていた。

 

「なるほど、そんなことが……切っ掛けができたのは凄くいいことですね。一度楽しく会話したという経験があると、互いに声をかけやすくなりますしね」

「あっ、はい。まっ、まぁ、あんまりにいっぱいの人と喋ったので……嬉しかったですけど、正直疲れました」

「人付き合いというのは、どうしても気を遣う部分が多いですからね。それでも、ひとりさんがよく言っていたコミュ症を治すという目標に、着実に近付けていますね」

「えっ、えへへ……まだまだ、全然ですけど、ちょっ、ちょっとは成長出来てますかね?」

 

 クラスメイトとの会話には気疲れしていたひとりではあったが、彼女にとって有紗との会話はまったく疲れないものであり、むしろ気持ちが穏やかになるものであり、疲れた心が癒されるような気持だった。

 嬉しそうに笑うひとりを見て、有紗も優し気な笑みを浮かべつつ口を開く。

 

「……覚えていますか、以前に結束バンドがSTARRYで初ライブをした際も、一緒にビラを配りましたよね?」

「あっ、はい。覚えてます。路上ライブをした時ですね」

「図らずも同じ組み合わせですが、あの時とは違ってひとりさんもビラを配れていました。確実に成長している証拠ですね」

「えへへ、本当に少しの枚数だけですけどね」

「それでも、自分を変えるというのは本当に大変ですし、この成長は凄いことです。誇ってもいいと思いますよ」

「もっ、もぅ、有紗ちゃんは褒めすぎですよ。けっ、けど、そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」

 

 有紗の真っ直ぐな賞賛の言葉に少し照れた様子で顔を赤くしつつも、それでもひとりは嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

(……やっぱり、有紗ちゃんと話すのは楽しいな。褒めてくれるのも嬉しいし……有紗ちゃんの優しい声、好きだなぁ……)

 

 少しくすぐったいような、それでいてまったく不快ではない不思議な気持ちを感じながら、ひとりは気を取り直すように口を開く。

 

「……えっ、えっと、休憩が終わった後はどうしますか? また、ビラを配りますか?」

「それもいいですが、せっかくの御茶ノ水なので次は楽器店に行ってみませんか? ビラを店内に貼ってもらえないか交渉してみるのいいと思うんです。楽器店に訪れる方は、音楽に興味のある方が多いでしょうし、票数の獲得にも繋がるでしょうしね」

「なっ、なるほど……」

 

 ひとりの質問に答えたあとで、有紗は飲み終わった空き缶をゴミ箱に捨ててから優しい笑顔で手を差し出した。

 

「それでは、もうひと頑張りしましょうか」

「あっ、はい!」

 

 それがごく自然なことのように差し出された手を取り、ひとりも笑顔を浮かべる。内気なひとりにとってはビラ配りも大変なことではあるのだが、それでも有紗と一緒なら大丈夫と……そう思えることを、本当に幸せだと感じながら有紗と手を繋いで歩き出した。

 

 

 




時花有紗:ぼっちちゃんにとってはすっかり心の支えで癒しとなっている。1話の頃から考えるととんでもなく距離が縮まっているどころか、距離感ならもう余裕で恋人を越えてそうな感じである。

後藤ひとり:とりあえず有紗の話を振っておけば、ある程度は話ができる。有紗の影響で精神が原作より安定しており、更に追加効果として精神的に負荷を感じた際に、有紗のことを思い浮かべたり写真を見たりしてメンタルを回復しようとするため『突発的な奇行に走らない』という副次効果があり、おかげでクラスメイトから引かれたり、休み時間ごとに姿を消したりはしておらずかなりクラスに馴染んでいる。ただ、やはりコミュ症が完全に治ったわけでもなく、あんまり多く話すとキャパ越えするのは変わらず。有紗との会話ではまったくストレスを感じていないので、もう有紗は家族の枠に分類されていそうですらある。
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