ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十八手天望のスカイツリー

 

 

 御茶ノ水でのビラ配りは無事に終わり、ひとりさんと共に駅に向かって歩きつつ言葉を交わします。

 

「どの店も快くビラを貼らせてくれてありがたかったですね。やはり音楽店ということもあって、ロックバンドを応援してくれる店が多いのでしょうね」

「……あっ、いや、まぁ……ロックバンドを応援というか、顔面戦闘力の暴力というか……あっ、有紗ちゃんが頼んだからだと思います。見た目もそうですけど、交渉も上手かったですし……」

「これ、そもそもビラの写真に私が映っている必要は――」

「あります」

「――そうですか?」

「はい。絶対必要です!」

 

 元々は結束バンドが使っているアーティスト写真を宣伝用のビラにプリントする予定だったのですが、せっかくだからということで新しい写真を取り直しました。

 私は撮影係に回るつもりだったのですが、皆さんの強い要望もあって一緒に写ることとなりました。ただ、構図としては5人というのはなかなか綺麗です。リーダーである虹夏さんを中央に据えて、私とひとりさん、喜多さんとリョウさんが両側に並ぶというのは、綺麗な形でバランスがいいです。

 珍しく強めに主張してくるひとりさんに微笑みつつ、ロインで虹夏さんたちに連絡をしました。

 

「……あちらもほぼ終わったみたいですが、今日は現地解散にするみたいですね」

「あっ、じゃあ、言ってた通り、スカイツリーに行きますか?」

「そうですね。ただ、その前に軽く食事でもしますか? スカイツリー内にもレストランはあるでしょうが、混み具合も分からないですし……」

「あっ、なら、ファミレスかファーストフードにしましょう」

「そうですね。確か駅前にファーストフード店が……」

 

 夕食には少々早いですが、ここからスカイツリーに行って展望デッキを見学してという形でデートをすることを考えれば、先に食事をしておく方がいいです。

 駅前のファーストフード店に行くことに決まり、ひとりさんと手を繋いだままで移動します。

 

「あっ、そういえば、有紗ちゃんってファーストフードとか食べるんですか?」

「友人と一緒に数度行ったことはありますが、あまり頻度は多くないですね。ひとりさんはどうですか?」

「あっ、わっ、私はそもそも外食すること自体が少ないので……あっ、でも、ファーストフード店はたまに行きます。よく、セットメニューをポテトにするかナゲットにするか迷いますね。両方だと量が多いですし……」

「確かに、バーガーにポテトにナゲットとなると少々多いですね。ですが、今回は私も居るので、それぞれポテトとナゲットを注文してシェアすれば大丈夫ですかね?」

「あっ、はい。そうですね」

 

 他愛のない話をしつつ移動して、店が近づいたところで先にネットで注文をしておくことにします。その方がスムーズですからね。

 

「……あっ、えっと、私はこのバーガーのセットで、有紗ちゃんは?」

「私はこちらのセットと、サイドメニューのサラダを」

「なっ、なんでしょう? サイドメニューでサラダ……それを頼む発想すらなかった自分の女子力の低さを痛感します」

「別にサラダを頼んだ方が女子力があるというわけでは無いでしょう。変に意識せずに好きなものを頼むのが一番ですよ」

 

 それぞれメニューを選んで注文し、電子マネーで決済をしてから店内に入り、バーガーを受け取って席に移動します。窓際のカウンター席に並んで座り、バーガーを食べ始めました。

 

「久しぶりに食べると美味しいですね」

「あっ、わっ、わかります。なんか、久しぶりに食べるファーストフードって、妙に美味しいんですよね」

「ですね……おや? ひとりさん、少しジッとしててくださいね」

「え? あぇ?」

 

 ひとりさんの言葉に笑顔で答えるとそのタイミングで、ひとりさんの口元に少しソースが付いているのが見えたので、紙ナプキンを持って手を伸ばしひとりさんの口元を拭きます。

 ひとりさんは一瞬ビクッと体を硬直させましたが、特に抵抗などをすることはありませんでした。

 

「口元にソースが少しついていたので……」

「あっ、ありがとうございます。ちょっと、ビックリしました……ゆっ、指でとってペロってするやつかと……」

「ああ、たまに見るシチュエーションですね」

 

 ……その手がありましたか。正直、その発想は無かったです。絶対に必要というわけではありませんが、恋愛物でたまに見る描写なので、それができる状況ながらしなかったというのは少し惜しく感じますね。

 かといって、ワザと口元にソースを付けてくれとも言えませんし……。

 

「ひとりさん、少しジッとしたままでお願いします」

「はぇ? 今度はなにを――!?!?」

 

 少し考えたあとで、私はひとりさんに断りを入れてから手を伸ばして、指で軽くひとりさんの唇を撫でた後でそれをペロッと舐めました。

 意味は無いですし、ソースなどが付いていたというわけでもないです。

 

「あっ、ああ、有紗ちゃん!? ななな、なにを……」

「いえ、せっかくのチャンスを逃したと思うと惜しかったので、疑似的にやってみました」

「いっ、今のやつは、なんか話してたのとちょっと違うシチュエーションじゃなかったですか!?」

 

 顔を赤くして告げるひとりさんの言葉を聞いて、確かに言われてみれば少し違ったかもとは思いました。しかし、特にその差が問題となるわけでもないですし、私としてはひとりさんと恋愛ドラマっぽいことができて嬉しいです。

 

 

****

 

 

 食事を終えたあとで、電車で最寄り駅まで移動してからスカイツリーにやってきました。

 

「ちっ、近くで見ると大きいですね。私、スカイツリーに来るのは初めてです」

「私も完成したばかりの頃に1度お父様に連れられてきたことがある……筈ですが、なにぶん10年も前の話なので、あまり覚えていませんね」

「あっ、えっと、チケットを買うんでしたっけ?」

「はい。チケットを購入して天望デッキに移動して、天望デッキでまた天望回廊のチケットを購入する予定です」

 

 通常の天望デッキももちろんいいですが、更に高い場所にある天望回廊も抑えておきたいポイントです。天望回廊を歩くのはロマンチックですし、是非ひとりさんと一緒に歩きたいです。

 

「あっ、えっと、天望回廊?」

「ガラス張りの回廊で、一番上の展望フロアに繋がる道ですね。景色を見ながら歩けるのできっと素敵ですよ」

「なっ、なるほど……」

 

 チケットカウンターでチケットを購入し、エレベーターにて天望デッキへ移動します。この時点で既に高い場所ですし、景色もかなりいいです。

 望遠鏡やカフェブースなどもあるので観光にも適したフロアですね。

 

「あっ、なっ、なんか思ったよりお洒落な雰囲気ですね」

「ここでも既に景色が綺麗でいいですね。カフェブースなどもあるので、後でまたゆっくり見学しましょう」

「あっ、はい。天望回廊っていうのは?」

「向こうですね」

 

 天望デッキに付いてすぐ天望回廊のチケットブースに向かい、当日券を購入して再度エレベーターに乗って移動します。日が沈みかけていることもあって、天望回廊には夕日が差し込んでおり非常に美しい光景です。

 

「あっ、すっ、凄いですね。本当にガラス張りで……景色がよく見えます」

「ええ、それにタイミングもよかったですね。夕日に照らされた町並みがすごく綺麗です」

「でっ、ですね。けっ、けど、やっぱり凄く高い……ちょっ、ちょっと、怖いですけど、綺麗ですね」

「はい。綺麗な景色をひとりさんと一緒に見れるのは、嬉しいですし幸せですね」

「うぐっ……まっ、また有紗ちゃんは、そうやって恥ずかしいことを……」

 

 手を繋いでゆっくりと歩きながら、天望回廊から見える町並みを堪能します。ひとりさんも楽しんでくれているみたいで、景色を見つつ口元には小さく笑みが浮かんでいるのが見えます。

 平日かつ遅めの時間ということで比較的空いているのもよかったですね。そこまで他の観光客の姿は見当たらず、のんびりと景色を楽しむことができました。

 

 そして天望回廊を歩いて天望デッキに戻る頃には日も沈んでおり、天望デッキは暗めのライトアップに変わっていました。

 

「……あっ、凄く、綺麗ですね」

「ええ、この夜景は本当に素晴らしいですね。宝石を散りばめたかのような雰囲気です。このままここで眺めていてもいいのですが、ひとつ下のフロア340にちょっとした穴場のスポットがあるのでそちらに移動しましょう」

「あっ、穴場ですか?」

「ええ、ソファーシートが設置されていて座って夜景が見えるのと、このフロア350と違ってカフェやタッチパネルナビもなく、静かな雰囲気の中で落ち着いて楽しめるスポットです」

「なっ、なるほど……」

 

 もちろんスカイツリーに来るにあたって、事前に簡単ではありますがスマートフォンで下調べはしてあります。ひとりさんと共にフロア340に移動して、設置されているソファシートの中で、周囲に人が居ない静かな場所を選んで並んで座ります。

 

「……たっ、確かに人も少なくて、穴場って感じですね」

「今日が平日なのもありますが、静かでいいですよね」

「けっ、けど、有紗ちゃんはよくこんな場所を知ってましたね?」

「事前に調べましたからね。たしか……こちらのサイトです」

「あっ、えっと……なぁっ……おっ、オススメのデートスポットって書いてるじゃないですか!?」

 

 私が見せたスマートフォンのサイトを見て、暗い中でも分かるほど顔を赤くするひとりさんは非常に可愛らしいです。

 それはともかくとして、ひとりさんの言うように私が参考にしたのはデートスポットが特集されているサイトでした。

 

「デートですからね」

「あっ、はい……はっ!? なっ、なんか、あまりにも真っ直ぐに認めるのでつい頷いちゃいました」

「というより、私としては最初からデートのつもりでしたしね」

「そっ、そういえばSTARRYでもデートって言ってましたね……そう考えると、いつも通りの有紗ちゃん……ですかね?」

「はい。というわけでひとりさん、この写真のように肩を抱いてもいいでしょうか?」

「なっ、なにがというわけなんですか!? いまの話のどこに繋がりが!?」

「繋がりなどはありません。単純に私がひとりさんの肩を抱きたいだけです」

「潔すぎる!?」

 

 いちおうひとりさんが恥ずかしがったりしないように、可能な限り人目のない場所を選んで切り出したつもりですが、どうでしょうか?

 もちろん無理強いはできませんが、せっかくのデートスポットですし、肩を抱いて夜景を見るという素敵なシチュエーションは堪能したいものです。

 

「……ひとりさんが嫌なのであれば、無理強いはしませんが?」

「うっ、そっ、その言い方はズルいです。凄く……ズルいです。うぅぅ……」

 

 私の言葉にひとりさんは顔を赤くして、周囲の様子を伺うように視線を忙しく動かしてから……どこか諦めたような表情を浮かべました。

 

「……ちょっ、ちょっとだけ、ですからね」

「はい! ありがとうございます!」

「うっ、嬉しそう……滅茶苦茶嬉しそう……うぅ、そんな顔されちゃうと、更に恥ずかしく……」

「では失礼して」

「あっ、分かってましたけど、一切の躊躇なく即行動しましたね。本当に有紗ちゃんは……はぁ」

 

 許可も得られたのでひとりさんの肩を抱くと、ひとりさんはビクッと体を動かしたものの、すぐに力を抜いて呆れたようにため息を吐きつつ、体の力を抜いて私にもたれ掛かってくれました。

 眩しいほどに煌めく夜景を見ながら、肩に幸せな重みを感じるこの時間は……なんとも得難く、どうしようもないほど幸せに感じました。

 

 

 




時花有紗:デートなのでいつもより大胆……いや、いつも通りだった。

後藤ひとり:なんなら、もう、有紗がキスしたいとか言ってくれば恥ずかしがりつつも最終的にOK出しそうな感じではある。スカイツリーでデートしたりと、普通にリア充街道を爆進してる気もする。
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