ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十九手再来のフリーライター~sideA~

 

 

 ある日私はとある高級ホテルに来ていました。理由は出資しているレストランの試食会があったからです。そういったものにすべて参加するわけでは無いですが、今回のレストランに関してはそれなりに多く出資していたこともあって参加しました。

 滞りなく試食会は終わり、この後はSTARRYに向かう予定です。今日はスタジオ練習の日ですし、時間的に考えて到着するころにはある程度練習して一休みという様なタイミングのはずなので、差し入れになにか甘いものでも買って行くことにしましょう。

 そう思いつつエレベーターで一階に降りて歩いていると、ホテルの前に見知った方が居るのを見つけました。

 

 ホテルの前に居たのはヨヨコさんで、ホテルの中に入ったりするわけでもなく、スマートフォンを操作してなにやら青ざめた表情を浮かべていました。

 不思議に思いつつ近づいてみると、ブツブツと呟く声が聞こえてきました。

 

「……え? 嘘……こんなに高いの? 4人分だと3万円近くに……あ、でも、ネット会員になれば1000円引き……事前に全員会員登録させる? 無理、そんなの切り出せない……けど、いまあんまり余裕は……」

「ヨヨコさん? こんにちは」

「ッ!?!? と、とと、時花有紗!?」

「ええ、こんなところで会うなんて奇遇ですね」

「な、なな、なんでここに?」

「こちらのホテルに私用がありまして。終わって帰るところだったのですが、たまたまヨヨコさんを見つけたもので……ヨヨコさんはこちらでなにを?」

 

 できるだけ驚かせないように声をかけたつもりでしたが、飛び跳ねるほど驚かれてしまいました。よっぽどスマートフォンに集中していたのでしょう。

 そして、明らかに慌てた様子のヨヨコさんにできるだけ穏やかに微笑みつつ尋ねます。

 

「……わ、私は、その……し、下見にね」

「下見、ですか?」

「ええ、その、今度SIDEROSの打ち上げで、スイーツビュッフェに行こうって話になったから、リーダーとして場所の選定をしていたのよ。ほ、ほら、私はなにごとも万全の備えをして臨むタイプだからね」

「なるほど……」

 

 ここまでの話の流れと呟き、ヨヨコさんの性格を考えておおよその状況は察しました。おそらくですが、なんらかの話の流れでヨヨコさんがSIDEROSメンバーにスイーツビュッフェを……それもそれなりに高価な場所でご馳走するという話になったのでしょう。

 4人分と呟いていたので、ヨヨコさんが出すのは間違いないでしょう。そして、ヨヨコさんの性格上見栄を張って奢るという話になったものの、値段を調べてみれば想定より高額で悩んでいたという感じでしょうかね?

 

 ヨヨコさんは精神的に優位に立っていたいタイプ……というよりは、ある程度余裕のある状態じゃないと落ち着かないタイプなので、下見というのも事実でしょう。事前に他の3人を連れていく予定の店に一度先んじて行っておきたいと考えて足を運んだはいいものの、ホテルに入る前に値段を調べて尻込みしていた感じではないかと推測しました。

 絶対に当たっているという自信があるわけではありませんが、それなりに当たっているのではないかと思います。

 

 さて、ここで変に助け舟を出したとしても、ヨヨコさんはプライドが高い方なので「必要ない」と見栄を張って突っ撥ねる可能性が高いです。

 となると、さりげなく手助けするには……。

 

「それでしたら、丁度よかったです」

「丁度いい? なにがかしら?」

「いえ、実は、このホテル内の店にはそれなりに出資しているので度々割引券などが贈られてきたりするのですが、使う機会が無くて腐らせているものも多くて困っていたんですよ」

「そ、そうなの?」

 

 嘘は言っていません。実際に株主特典なども含めて、あちこちから割引券や食事券などは贈られてきますし、使いきれずに期限を過ぎたら処分しているものも多いです。

 本人でなくとも使用できる類のものに関しては、知り合いに差し上げることも多いですし、丁度このホテルのスイーツビュッフェの割引券も複数所持していますし、使用する予定もなかったです。

 

「ええ、それでこのホテルのスイーツビュッフェの割引券、ひとりに付き1枚使用できて、半額になるものがあるのですが……私は期限内に使用できそうにないですし、期限切れになってしまうのも勿体ないので、よろしければヨヨコさんたちが使ってくれませんか?」

「……は、半額……ま、まぁ、そうね。まだどのホテルにしようか決めていたわけじゃないし、別にこのホテルのスイーツビュッフェでも問題ないわね」

「では、後日送らせていただきますね。期限切れにしてしまうのも忍びないと思っていましたので、助かります」

「え、ええ、構わないわ」

 

 どうやら上手くヨヨコさんのプライドを傷つけずに助け舟が出せたようで、ヨヨコさんの表情は先ほどまでより分かりやすく明るい感じになっていました。

 

「それでは、詳しい話は後ほどロインを送りますね。それでは、私はこれで……」

「ええ……あっ、ちょっと待って!」

「はい?」

 

 そのまま立ち去ろうとしたのですが、呼び止められて振り返ると、ヨヨコさんはなにやら言い出し辛そうに視線を彷徨わせた後で、意を決した表情で口を開きました。

 

「…………その、あ、ありがとう。本当はちょっと、値段高くて厳しいなぁって思ってたから……助かったわ」

「いえいえ、私としても助かりますので、お気になさらず」

 

 気恥ずかしそうにお礼を告げるヨヨコさんに微笑んだあと、改めて挨拶をしてからその場を去りました。

 

 そして、ホテルの前で待ってくれていた車に乗ってSTARRYに向かおうとしたタイミングで、今度は意外な方から電話がかかってきました。ただ、以前に連絡するかもとは言っていたので、おそらくはその話だろうと思って、私は電話に出ました。

 

 

****

 

 

 途中で買い物をしたあとでSTARRYに到着し、スタジオに向かうと結束バンドの皆さんは演奏中のようでした。ただ、曲の終盤部分を演奏しているので、予想していた通り一区切りのタイミング……休憩前に一度通して演奏をといった感じでした。

 少しして演奏が終わると、ひとりさんが明るい表情を浮かべてこちらに近づいて来てくれました。

 

「あっ、有紗ちゃん。こんにちは」

「こんにちは、ひとりさん。練習お疲れ様です」

「なんか、尻尾振って駆けてく子犬が見えた気がする」

「反応早かったですね」

「……やっぱり、チワワぼっちでは?」

 

 ひとりさんに続いて虹夏さん、喜多さん、リョウさんも近づいて来て軽く挨拶を交わします。やはり休憩のタイミングだったみたいで、丁度よかったですね。

 

「丁度いいタイミングでしたね。差し入れにケーキを買ってきましたので、休憩の際にいかがでしょうか?」

「……有紗のそういうとこ、本当に好き。有紗のおかげで、私は草だけじゃなくて済んでる。本当に感謝」

 

 むしろなぜ定期的に草を食べる状態になっているのかという疑問もあるのですが、虹夏さん曰くリョウさんはとにかくお金があれば全部使ってしまう性格みたいなので、いっそ虹夏さん辺りがリョウさんのお小遣いを管理した方がよさそうではありますね。

 

「ああ、それと、虹夏さん」

「うん?」

「フリーライターの方から取材の申し込みがありました。未確認ライオットに出場している中で、有力候補を取材して特集記事を作りたいらしくて、許可が出るようなら今日の夕方に取材に来たいとのことです」

「え? そうなの! 凄いじゃん! 私たち、有力候補ってことでしょ……あれ? でも、なんで私じゃなくて、有紗ちゃんに取材申し込みが?」

「個人的にそのライターと知り合いでして、電話で先ほど連絡を貰いました」

 

 というか、皆さんも知り合いというか……取材を申し込んできたのはやみさんです。取材と合わせて、以前の発言についても謝罪したいとのことで、出来れば自分が行くというのは内緒にしておいてくれと言われたので、少しだけぼかして説明しました。サプライズ感も重要だとか、もし取材拒否されたら3日はへこむ自信があるとか言っていましたが、おそらく後半の理由がメインでしょうね。

 

 やみさんの認識として自分は厳しく毒を吐いたライターで、結束バンドのメンバーからは嫌われていると思っているみたいです。まぁ、実際はそんなことはまったく無く、やみさんの発言の思惑については別に口止めされなかったので、皆さんには説明済みなので誰も誤解していたりはしませんし、むしろ感謝しているのではないかと思います。

 

「そうなんだ。うん、大歓迎だよ! いや~私たちも評価されてきたってことだね!」

「ですね!」

「大丈夫? 前みたいなことにならない?」

「今回は大丈夫だと思いますよ」

「ふむ……まぁ、有紗がそう言うなら、大丈夫か」

 

 喜ぶ虹夏さんと喜多さんに対して、リョウさんは少し訝し気な表情を浮かべていましたが、私が大丈夫だと伝えるとどこか安心した表情で頷きました。

 ひとりさんは、少し考えるような表情を浮かべたあとで、アレコレ話をしている3人に聞こえないように、私に小声で話しかけてきました。

 

「……あっ、えと……前のライターさんが来るんですか?」

「ええ、ただ、今回は前の発言を謝罪したいという名目での取材申し込みなので、問題ないと思いますよ。実際、路上ライブにも毎回来てくれていたので……」

「あっ、そっ、そうなんですね」

「しかし、よく分かりましたね。流石、ひとりさんは鋭いです」

「あっ、えっと、だっ、だって、その……ライターさんのことはよく分からないですけど、あっ、有紗ちゃんのことなら……よく知ってるので……その、顔を見ればわかります」

 

 私の隠し事はひとりさんには通用しなかったようで、ひとりさんはやみさんが来ることを見抜いていました。その洞察力に感心していると、ひとりさんははにかむ様に微笑みを浮かべ、私も釣られて笑みを溢しました。

 

「ひとりさんに隠し事はできませんね。でも、ひとりさんがそうやって私のことをよく分かってくれているのは、なんだか嬉しいですね」

「えへへ、有紗ちゃんも私の考えてることはすぐ分かりますし……そっ、その、私もそれは嬉しいので……一緒ですね」

 

 そう言って笑うひとりさんの笑顔からは、互いに心が通じ合っているかのような温かさを感じて、なんとも言えない幸せな気持ちになれました。

 好きな人が己のことをよく分かってくれているというのは、本当に嬉しいことですね。

 

 

 




時花有紗:とにかく察しがよくて優しいので、陰キャやコミュ症に特効がある感じである。流れるようにぼっちちゃんといちゃつく様はまさに熟練。

後藤ひとり:チワワなぼっちちゃん。実は過去の話も含めて、有紗がSTARRYに来た際にぼっちちゃんが居ると、必ず一番初めに有紗に反応して声をかけている。有紗に関してだけは非常に鋭いのは、愛の力だろう。

ヨヨコパイセン:徹底的に下調べしとかないと不安なタイプ。偶然有紗と出会ったおかげで財布へのダメージは半分に抑えられた。
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