ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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五十九手再来のフリーライター~sideB~

 

 

 有紗を通じて届いた取材の依頼。幸い今日はSTARRYは休みということもあって、店内を使ってもいいと星歌から許可は出ており、現在結束バンドのメンバーは取材を申し込んできたフリーライターを待っていた。

 約束の時間の5分前ほどになったタイミングで、入り口のドアが開きライター……やみが店内に入ってくると、有紗とひとりを除いた3人は驚いたような表情を浮かべた。

 

「……久しぶりね」

「あっ、貴女は、あの時の……」

「たしか、ポイズンマミー」

「や、み! ぽいずんやみよ! ちょっとの違いでゲームの敵キャラみたいになってるじゃないの!?」

 

 少しだけ気まずそうに口を開いたやみだったが、リョウが変な名前の間違え方をしたせいですぐに神妙な空気は霧散した。

 なんとも微妙な空気にはなったが、少して苦笑しながら虹夏が口を開いた。

 

「取材に来るフリーライターってぽいずんさんだったんですね」

「……やみでいいわよ。今回は急な取材申し込みで悪かったわね」

「……なんか、前とキャラ違いません?」

「ぐっ、ま、前はライターとして生き残るためにキャラ付けに試行錯誤してた時だったから……いまのが素よ」

 

 以前の変に可愛い子ぶった様子ではなくどことなく落ち着いた雰囲気のやみをみて、喜多が不思議そうに尋ねると以前の様子はキャラを作っていたことを正直に話した。

 

「……まぁ、改めて、今回は貴女たちの取材に来たんだけど、そのまえに……ごめんなさい!」

「「「え?」」」

 

 取材の前にと頭を深く下げて謝罪の言葉を口にしたやみに、虹夏、喜多、リョウの3人は戸惑ったような表情を浮かべた。

 そんな3人と、有紗から話を聞いていたおかげで驚いていないひとりに対してやみは頭を下げたままで告げる。

 

「貴女たちのライブ、見させてもらった。まだまだ発展途上な部分や課題も多いけど、数ヶ月であそこまで成長しているのは本当に驚いたし、純粋に凄いと思った。ギターヒーローさんが凄いだけじゃなくて、他のメンバーもギターヒーローさんの才能に負けることなく一緒に輝けるって思った。だから、前の時の言葉は全面的に撤回させて……貴女たちは、十分にプロを目指せる……本当にいいバンドよ」

「……やみさん……あ、顔を上げてください! あの時に、やみさんが言ったことは私たちを奮起させるため、あえて厳しく言ってくれたって分かってますし、おかげで皆でもっと頑張ろうって気持ちになれたんで……むしろ感謝してます!」

 

 実際最初こそショックを受けたものの、やみの指摘は虹夏たちにとっても納得できるものであり、いつかは本気で向かい合わないといけない課題だった。

 実際あの時のやみの発言があったからこそ、結束バンドは大きく成長できたと言ってよく、有紗から真意を聞いていたこともあってやみに対して悪感情などは無かった。

 

「そう言ってもらえると、嬉しいわ……じゃあ、改めて取材をさせてちょうだい。今度はウケ狙いとかそういうのじゃなくて、未確認ライオットの有力候補のひとつとしてね」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 こうして無事にやみと結束バンドの面々は和解して、改めて取材を行うことになった。以前はひとりのラブダイブの話を聞いてネタ目的での取材ではあったが、今回は路上ライブや池袋でのライブを聞いた上で、やみは本心から結束バンドが優勝候補の一角であると判断した上での取材であり、その目には期待が見て取れた。

 そうして取材は始まったわけだが、しばらく結束バンドの面々に取材を行ったあとでやみは、笑顔を浮かべたままで口を開た。

 

「……うん。やっぱ、有紗さんがマネージャーってことでそっちに取材してもいい?」

 

 例によって取材の受け答えに結束感は皆無であり、やみは引きつった笑顔で上手く返答を纏めてくれそうな有紗に話を振った。

 そして、有紗のフォローもあって無事に一通りの取材を終えたやみは最後に「未確認ライオットは、1ファンとしても応援している」と告げたあとで、STARRYを後にした。

 

 その数日後にネットに結束バンドを含めた未確認ライオットの有力候補を紹介する記事が投稿され、ネット投票の大きな助けとなることとなった。

 

 

****

 

 

 やみの取材から数日、ネットに記事が公開された翌日。有紗とひとりは一緒にSTARRYを目指して歩いていた。今日は休日であり、現在はまだ午前中ではあるがそれには理由がある。

 

「あっ、えっと……中間結果の発表は12時でしたよね?」

「ええ、そのはずです。これで結果が決まるというわけではありませんが、今後の大きな指針になるのでやはり緊張はしますね」

「はっ、はい。どっ、どうなんでしょうね? あっ、有紗ちゃんから見て……」

「個人的な考えであれば、結束バンドの知名度は十分に上位を狙えるだけになってきていると思いますし、少なくとも通過ラインは越えている可能性は高いです。ただ、読めない浮動票などもありますし運も絡んでくるので予想が難しい部分もありますね。ただ、やみさんの記事なども含めて流れはいいと思います」

 

 実際ここ数ヶ月での結束バンドの成長は著しく、ライターとして様々なバンドを見てきたやみの目からも優勝候補の一角と認識されている様子であり、書かれた記事もかなりいい内容が多かった。

 まだまだ結成から浅めのバンドということもあって、未熟な部分や課題となる部分も指摘していたが、それ以上にメンバーたちの才能や成長を賞賛した記事だった。

 

「……ひとりさん」

「あっ、はい」

「大丈夫です」

「え? あっ……」

 

 少し不安げな表情を浮かべていたひとりの肩に手を回し、軽く抱き寄せながら有紗は優しい声で告げる。

 

「もちろんここでいい順位に居ることが最善ではありますが、そうではなかったとしても後半の1週間でどうすればいいかの課題は見えてきます。決して悪い結果にはなりませんし、させません……あと、個人的な考えですが、結束バンドはいい順位に居ると思いますよ」

「有紗ちゃん……はい。有紗ちゃんが、そう言ってくれるなら、安心です」

 

 優しく安心させるように話す有紗の言葉を聞いて、ひとりはホッとした表情を浮かべたあとではにかむ様に笑って少しだけ甘えるように有紗に体重をかける。

 仲睦まじいといえるその光景に対し、後方から心底呆れたような声が聞こえてきた。

 

「……いやいや、君らなに天下の往来でいちゃついてるの?」

「いっ、いい、いちゃついてないです!?」

「私とひとりさんの絆が深まってきた証拠ですね」

 

 振り返ると買い物袋を持った虹夏がチベットスナギツネのような顔を浮かべており、それを見たひとりは赤い顔で慌てて有紗から離れる。ただ例によって有紗はまったく動揺した様子はなく、むしろ誇らしげに微笑んでおり、虹夏は思わず苦笑する。

 

「有紗ちゃんは相変わらず動じないな~」

「こんにちは、虹夏さん。買い物ですか?」

「うん。飲み物とかお菓子だよ。皆で中間結果発表を待つわけだし、つまめるものとかあった方がいいかなぁ~ってね」

「なっ、なるほど……」

 

 中間結果の発表まではまだ1時間以上あるので、STARRY内で結果を待つことになる。気になって練習に集中できるとも思えないので、虹夏はこうしてお菓子などを買いに来ており、その帰りに偶然有紗とひとりを見かけたようだった。

 そんな虹夏の言葉を聞いて、有紗は優しく微笑みながら口を開く。

 

「……先ほどひとりさんにも言いましたが、大丈夫ですよ。皆さんが頑張って来た成果は、きっと結果に表れます」

「うっ……有紗ちゃんは、そうやってすぐに見抜くから困るなぁ……」

 

 実際のところ虹夏が買い物に出てきたのは、緊張からじっと待っていることが出来ず気を紛らわすためという側面も強かったのだが、有紗は一目で虹夏の緊張も見抜いていた様子だった。

 相変わらず鋭い有紗に苦笑しつつ、虹夏はふたりと一緒にSTARRYに向かった。

 

 

****

 

 

 STARRYの店内で椅子を並べ、虹夏が手に持つスマートフォンを覗き込む結束バンドの面々。

 

「……そっ、そろそろですよね?」

「あと5分ですね」

「緊張しますね~まだ、あくまで中間発表なのに凄くドキドキしてます」

「喜多ちゃんの気持ち、凄くよく分かるよ。私も本チャンかってレベルで緊張してる」

「スマホ持つ手がプルプルしててウケる」

 

 中間順位の発表が間近に迫り、ともかく落ち着かない様子だった。カウンター付近に居る星歌やPAもチラチラと虹夏たちを見ており、かなり結果を気にしている様子だった。

 なんとも言えない緊張感の中で時間は過ぎていき、ついに12時となった。

 

「き、きた! えっと、結束バンドは……中間――9位!!」

『ッ!?』

 

 虹夏がその言葉を告げた瞬間、緊張していた顔は喜色を強く含んだものに変わり、ひとりは思わず隣に居た有紗に抱き着いた。

 

「あっ、有紗ちゃん! こっ、これって……」

「ええ、もちろんまだ油断はできません。これからも宣伝を頑張る必要はあります……ですが、この結果は……ネット審査通過はほぼ確定といっていいぐらいの成果だと思います!」

 

 抱き着いてきたひとりを抱きしめ返しつつ、有紗も嬉しそうに告げる。もちろん最初の対策会議で話したように10位以内を狙って頑張ってはいた。だが実際に届く可能性はそこまで高くはなかった。

 最近出したMVややみの記事によるブーストなどいろいろなものが噛み合った結果、10位の壁を破った。

 

「凄いですよ! 本当に10位以内に入ってますよ!!」

「……ふっ、来たか、私たちの時代」

 

 喜多とリョウも非常に喜んでおり、思わずハイタッチを交わすぐらいにははしゃいでいた。そして、虹夏もカウンターの星歌の元に駆け寄って思いっきり抱き着いた。

 

「お姉ちゃん! 見てみて、やったよ! 私たち9位だよ!!」

「……まだ、中間発表だろ……けどまぁ、よくやったな」

「うん!」

 

 もちろんまだ中間発表であり本発表まではさらに1週間の投票期間がある。それでも、ひとまず結束バンドにとって最良といっていい結果になった。

 メンバーたちの喜びはしばらく続き、落ち着くまでには少々長めの時間がかかった。

 

「……中間結果は最高の形だったけど、油断せずにこれからも頑張ろう! ってのはいいとして……そこのバカップルはいつまで抱き合ってるの?」

「どっちかというと、有紗ちゃんが抱きしめててひとりちゃんが離してもらえてないような……」

「あ、ぼっちが体から力抜いた。諦めた顔してる」

 

 テンションが上がっていることもあり、抱き合って喜んでいた有紗とひとりだが、流れとは言えこういうシチュエーションになったのならしっかり堪能するのが有紗であり、しばらく経ったいまもひとりを抱きしめたままだった。

 最初は恥ずかしさから離れようとしていたひとりも、流石に長い付き合いで有紗の性格はよく分かっているのか、途中で諦めた様子で大人しく有紗に抱きしめられていた。

 

 

 




時花有紗:一度ひとりを抱きしめるとなかなか離したくない派であり、ハグが実行されると抱きしめている時間は長い。本人はとても幸せそうな表情を浮かべていた。

後藤ひとり:周りに虹夏たちも居たことで恥ずかしさで離れようとしていたが、途中で諦めた。なお、周りに虹夏たちが居なければそもそも離れようともせずに有紗が満足するまで抱きしめられていた可能性が高い。

ポイズンマミー(14):序盤の難敵、毒を吐いてくるので状態異常対策は必須。結束バンドの成長が著しいこともあって、原作よりかなり早い段階で和解。

中間結果発表:原作48位→9位の大躍進。ちなみにSIDEROSは原作3位→2位とこちらも順位を上げている。
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