ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六十手同行のスタジオ練習~sideA~

 

 

 未確認ライオットの中間結果発表は想像以上にいい順位でした。できれば最終まで維持するか順位を上げて、10位以内で終わればステージ審査の突破の追い風になります。

 ステージ審査は全国4会場で行われ、ファイナルステージに進むのは過去を見る限り概ね10組前後。つまり会場によって2組通過と3組通過がある可能性が高いです。

 この2組と3組の通過枠をどう割り振るかは、地域ごとの出場バンド数などもあるでしょうが、運営側の思惑も大きく関わってくるでしょう。

 

 もちろん審査は公平に行うでしょうが、慈善事業というわけではありません。当然運営側としてもファイナルステージに多くの集客が見込める人気バンドに通過してほしいという思いはあるでしょうし、上位のバンドが多く集まる会場は通過枠が広くなるでしょう。

 それに純粋に投票に関しても、やはりネット審査の順位が高い方がバイアスがかかるものですし、上位であればあるほど後の有利につながるでしょうね。

 とはいえ、別になにかができるというわけでもなくこれまで通り広報活動を頑張っていくだけですね。

 

 そんなことを考えていると、隣を歩いていたひとりさんが小さく笑みを浮かべながら口を開きました。

 

「……あっ、ぶっ、無事に買えましたね」

「ええ、なかなかドラム用品が置いてる場所は少ないものですね」

「でっ、ですね。結局渋谷まで来ることになりましたし……有紗ちゃんが一緒に来てくれて助かりました」

 

 現在私とひとりさんは渋谷に買い物に来ており、目的は5月29日の虹夏さんの誕生日プレゼントの購入ですね。私は別ですでに用意していて、今回はひとりさんが虹夏さんに贈るプレゼントを購入に来た形です。

 いろいろ相談した結果ドラム用のアクセサリーをプレゼントすることに決めたのはよかったのですが、ドラム用品は扱っている店が少なく、あっても駅から遠かったり品揃えがいまいちだったりと、少々探すのに手間がかかりましたが、最終的に渋谷の楽器店でよいもの……ドラマー用のカスタムヘッドホンを見つけて、ひとりさんはそれを購入しました。

 

「まだ時間はありますし、せっかくですからどこかに寄っていきますか?」

「あっ、そうですね。しょっ、食事にはまだ早いですし、どこか時間を潰せる場所で……」

「ほら! 早くしないとスタジオ遅れるわよ!」

「「うん?」」

 

 せっかく渋谷に来たので、少しひとりさんと遊んで帰ろうと提案してひとりさんもそれを了承してくれたタイミングで、なにやら聞き覚えのある声がしてひとりさんと一緒に振り返りました。

 するとそこには、ヨヨコさんとSIDEROSの方たちが居て、ほぼ同じタイミングで振り返ったヨヨコさんと目が合いました。

 

「あ、後藤ひとりに時花有紗……」

「ヨヨコさん? それに皆さんも、こんなところで奇遇ですね」

「あっ……こっ、こんにちは……」

 

 本当に珍しいところで会うものです。SIDEROSは新宿を拠点とするバンドですし、皆さん楽器を持っているということは渋谷のレンタルスタジオで練習でもするのでしょうか?

 そんなことを考えていると、ヨヨコさんは腕を組みながらどこか鋭さを感じる目で告げました。

 

「……結束バンドの中間発表見たわよ。やるじゃない」

「ありがとうございます。SIDEROSも2位で素晴らしい順位でしたね」

「1位じゃなかったのは不満だけどね。まぁ、そこは最終結果でひっくり返せばいいわ」

「ヨヨコさんはいつも高い目標を見据えていて素晴らしいです。その向上心と熱意は私たちも見習わなければなりませんね」

「……ふん! まぁ、私は絶対1番になるって決めてるからね」

「……くっそ嬉しそうな顔してるじゃないっすか、褒められて嬉しいのが丸わかりじゃないっすか……」

 

 ヨヨコさんはこうして会った際には、ややぶっきらぼうながらよく結束バンドのことを賞賛してくれます。なんだかんだで、結束バンドの成長を喜んでくださっているように感じられますね。

 するとそのタイミングで会話に入ってきたあくびさんが、ヨヨコさんに一言告げたあとで私とひとりさんの方を向きました。

 

「おふたりとも、ここで会ったのもなにかの縁ですし、ウチらいまからスタジオ入るんですけど、よかったら一緒にどうすか?」

「わ~楽しそう! 来て来て!」

 

 一緒にスタジオに行かないかと誘ってくれるあくびさんの言葉に、楓子さんも明るい笑顔で賛成します。さて、どうしますかね。私とひとりさんも特にこれといった予定があるわけでもありませんし、悪くない提案ではあります。

 

「ひとりさん、どうしますか?」

「あっ、えっと、私は別にいいですけど……有紗ちゃんは、楽器とか持ってないですよね?」

「ああ、それでしたら大丈夫です。連絡すればすぐに届けてもらえますし、せっかくの機会ですし一緒させていただいて私たちは私たちでセッションしましょうか?」

「あっ、はっ、はい!」

 

 ひとりさんは現在ギターを持って来ていますが、私はキーボードを持っていません。スタジオによってはレンタルなどもあるでしょうが、渋谷であれば比較的私の家とも近いのでじいやに連絡を入れれば、すぐにキーボードを届けてくれるでしょうし、問題はありません。

 

「ヨヨコ先輩もそれでいいっすか?」

「構わないわ……まぁ、せっかくだし、ふたりのスタジオ代は私が奢ってあげるわよ。時花有紗には、前に世話になったからね」

「ありがとうございます。では、ご厚意に甘えさせていただきますね」

 

 ひょんな流れではありましたが、SIDEROSの皆さんと一緒にスタジオで練習することになりました。まぁ、こちらは演奏メンバーはひとりさんだけなので、ひとりさんの練習に私が付き合う様な形ですが、ひとりさんは嬉しそうにしてくれているので問題はありませんね。

 じいやに連絡を入れてキーボードを持って来てもらえるように手配すると、そのタイミングであくびさんが話しかけてきました。

 

「ああ、そういえば有紗ちゃん、前に教えてもらったシャンプー凄くいい感じでした。値段はちょっと高いっすけど、自分の髪色だと結構傷みやすいので質のいいシャンプーの方が長期的に見るとよさそうなんで、今後も使っていこうと思います」

「髪質に合ったようならなによりですね。あくびさんの髪は私と似ていますので、シャンプーの相性も近いのかもしれませんね」

「いや~でも、有紗ちゃんの髪艶には敵わないっすよ。やっぱり、かなり時間かけて手入れとかしてるんすか?」

「特別時間をかけてというわけではありませんが、一通りの手入れはしていますね」

 

 あくびさんは比較的私と似た髪の色ということもあって、シャンプーやトリートメントについて質問されたことがあったので、私の使っているものを紹介しました。

 たしかにそれなりに値段は張るものですが、一度傷んだ髪を元に戻す手間を考えると、あくびさんのように質のいいものを使っておいた方がいいでしょう。

 

「あ、そういえば、ぼっちさんとはあんま話したことなかったすよね? 前のクリスマスの時もテーブル違いましたし……」

「あっ、はっ、はい。そうですね」

「自分結構動画とか見るんすけど、ぼっちさんのギター動画も見てますよ。テクすげぇっすね」

「あっ、ええ、えと、あっ、ありがとうございます。えっ、えっと……」

 

 突然ではありますが、私のひとりさんへの愛は日々高まっています。それに応じて愛の力もまた強くなるのも必然でしょう。

 かつてとは違います。いまの私はひとりさんの思考を読み取るだけではなく、行動を先読みすることも可能となっています。

 ひとりさんは現在「せっかく話しかけてくれたのだから会話を広げなければ……」と考えています。それ自体は問題ないでしょうが、ここで重要なのはひとりさんが会話の広げ方をどうするかというものです。

 

 いまひとりさんの頭の中では、喜多さんかあるいは私といった比較的コミュニケーション能力の高い相手を思い浮かべており、それを参考にしようと考えています。

 ですが、得てしてそういう付け焼刃は上手く行かないものです。ひとりさんが意を決したように行動しようとしたタイミングで、私は軽くひとりさんの肩に手を置きます。

 

「ひとりさん、落ち着いてください。確かに相手を褒めるというのは、会話を広げる目的においては有用です。しかし、慣れない状態で無理をすると逆に不自然になってしまうものですよ」

「……う、うん? 有紗ちゃん、どうしたんすか、急に?」

「ああ、いえ、ひとりさんがあくびさんの肌が白くて綺麗だと褒めようとしていたみたいでしたが、そういう会話に慣れていないようで緊張気味だったので……」

「あっ、はっ、はい。そっ、そそ、そんな感じです」

 

 私の愛の力をもってすれば、ひとりさんがなにを言おうとしていたかまで正確に分かります。間違いなくあくびさんの肌艶を褒めて、化粧水などの話をして、ロインのIDを交換という流れを想定して動こうとしていました……残念ながら、ひとりさんがその流れを上手く会話で持っていけるとは思えませんが……。

 

「あれ? そんな話してましたっけ……まぁ、いいか。いや、白いのは休日とかに部屋でゲームばっかりしてるせいもあるんすけどね。けど、ありがとうっすよ」

「あっ、えっ、えと、化粧水がその……」

「化粧水などはどんなものを使っているのでしょうか?」

「えっとですね、乳液とメーカー合わせてるんすけど……」

 

 ひとりさんがなにを言いたいかは手に取るようにわかるので、私が適時サポートすることでひとりさんも問題なくあくびさんと会話が弾んでいました。

 そこに楓子さんも加わり、幽々さんが時折ボソッと会話に入ってきて、更にヨヨコさんも加わって、なんだかんだで6人でワイワイと楽しく会話しながらスタジオを目指しました。

 

 その道中で、ひとりさんはそっと私の手を握って、周りの皆さんには聞こえない小さな声で話しかけてきました。

 

「あっ、有紗ちゃん……助けてくれてありがとうございます」

「ふふ、任せてください。私はいつだって、ひとりさんの味方ですからね」

「あぅ、えへへ……その、なんか、そう言ってもらえるのは嬉しいですね。えっ、えっと……その、いつも、凄く頼りにしてます」

 

 

 




時花有紗:ひとりに対する愛の力はさらに高まっており、既に限定的な未来予知の領域にまで到達している。流石愛の力……。

後藤ひとり:やはり精神面の成長が著しく、ある程度は落ち着いて会話できる……ただコミュ症が治ってるわけでも、コミュ力が急上昇しているわけでもないので、事故る時は事故る……が、有紗が近くに居る場合は心配ない。

ヨヨコパイセン:原作と違ってへんな対抗意識が無く、純粋にライバル兼後輩としてひとりや結束バンドを見ていることもあり落ち着いている……というか、登場する度に遠回しに結束バンドを褒めていたり、スタジオ代を奢ってくれたりと……ただのいい先輩である。
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