ぼっちな貴女に恋をして   作:ぬこノ尻尾

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六十一手誤想のロッキンジャポン?~sideB~

 

 

 未確認ライオットのネット審査結果発表から一夜明けた翌日、通過した喜びや前日のお祝いの楽しい思い出を胸に登校していたひとりは、通学の途中で偶然喜多と会って一緒に高校に向かうこととなった。

 道を歩きながら喜多は少し眠そうな表情を浮かべて口を開く。

 

「ふぁ~眠いわ」

「あっ、寝不足ですか?」

「うん。昨日クラスのグループロインで皆にネット審査の結果を報告したじゃない?」

「あっ、はい」

 

 ひとりと喜多のクラスメイトは、それこそ体育祭のようなTシャツを作ったりする程に一丸となって結束バンドを応援してくれており、今回の投票にも多くのクラスメイトが参加してくれていた。

 まぁ、ロックに興味がある者は限られていて、ノリで参加しているものが多いのも事実だが、それでも非常にありがたい話ではある。

 実際前日にグループロインに通過の報告をした際には、7位という高順位も相まってロインは大盛り上がりだった。

 

「そのあと個別ロインでもお祝いのメッセージがたくさん来て、返信してるうちに朝になっちゃった~」

「あっ、そっ、そうなんですね。私の方にも、何人かからお祝いはきましたけど、喜多ちゃんほど友達は多くないのでそんなに時間はかからなかったです」

 

 ひとりの元にも英子や美子を始めとしたよく話すクラスメイトから祝福のロインは届いていたが、流石に学校の人気者でもある喜多と比べると数は圧倒的に少ないので、夜更かしなどをすることは無かった。

 そんな話をしながら学校に行き、クラスに入るとそこでもクラスメイト達のテンションは高く祝福の言葉も多く投げかけられた。

 特に喜多が学校でも生徒教師を含めて交友関係が非常に広く社交的なことも相まって、生徒だけでなく教師にも話は広まっていくこととなり、それが誤解の引き金となった。

 

「へ~10代のバンドフェスの審査通ったんだ~喜多ちゃんたち凄いわね」

「クラスの皆で投票頑張ったんだよ~」

 

 1限目の授業では教師も正確に内容を理解しており、誤解などは無かった。

 

「喜多たちなんか夏フェス出るんだろ? 人気あるんだなぁ。先生も、毎年ロッキンには行ってるからロックにはちょっと詳しいけど、凄いよなぁ」

「いや、まだステージ審査があるので夏のファイナルステージに出れるかは分からないんですよ~」

「絶対出れるよ、大トリだって~」

 

 2限目の際にクラスメイト達がノリのままに冗談めかしたことを言い始め、それが徐々に尾ひれがつきまくった状態で広がっており、3限目を迎えるころには……日本最大の野外ロックフェスであるロッキンジャポンに大トリで出演するという風に誤解されていた。

 

「えっ、これ、大丈夫ですかね? 誤解を解いておいた方がいいんじゃ……」

「大丈夫よ。皆も冗談で盛り上がってるだけでしょ」

 

 話が大きくなっていくことに不安を感じていたひとりだったが、喜多があくまで冗談と分かった上で盛り上がっているだけだと告げたことで「そういうものか」と納得した。

 しかし、誤解はどんどん加速していき、昼休みに入るころには学校中に広まってちょっとしたお祭り騒ぎになりつつあった。

 

「……ひとりちゃん、えっと、確認なんだけど喜多ちゃんとひとりちゃんが出るのって、10代限定のロックフェスだよね?」

「……あっ、はは、はい。そっ、そのはずなんですが……」

「なんか、凄い騒ぎになってるよ。ロッキンに出るんだって……垂れ幕とか作ってるとか」

「あえ? えぇぇぇ……」

 

 どこか心配そうな表情で確認してくる英子と美子の言葉を聞いて、ようやく変な方向に状況が傾きつつあることに焦り始めたひとりだったが、陰キャでコミュ症の彼女に誤解を上手く解く方法は思いつかない。

 

「ひとりちゃ~ん。なんか、校長室に来てだって」

「はえ? こっ、校長室?」

 

 そして、喜多と一緒に校長室に呼ばれて校長から激励の言葉と……今日の放課後に臨時集会を行い、そこで一曲披露してほしいという話を受けた。

 あまりの急展開に青ざめるひとりではあったが、喜多が明るいノリで了承してしまったことで、状況はさらに悪化していく。

 

「お~い、喜多。なんか、ガチでロッキン出るって話になってきてない?」

「……やっぱ、さっつーもそう思う? これ、冗談で盛り上がってる感じじゃない……よね?」

「うん。割とヤバ目じゃない? 全校集会までやるんしょ……え? ふたりだけで演奏とか行けるん?」

「……えっと……ひとりちゃん? 行ける……かな?」

 

 教室に戻ったタイミングで次子に冗談ではなく本当にロッキンに出場すると誤解されていると指摘され、ようやくそこで浮かれていた喜多も誤解に気付き始め、状況があまりよくないことを察した。

 特に放課後の集会での演奏に関しては、ドラムもベースも不在の状況で果たしてまともな演奏ができるのかという問題もある。

 若干焦りつつ、ひとりに確認を行うと、ひとりは涙目でスマートホンを取り出していた。

 

「あっ、有紗ちゃん……たっ、助け、助けて……」

 

 この大ピンチともいえる状態でひとりが頼る相手は間違いなく有紗であり、お願いだから電話に出てくださいと祈りながら電話をかけると、数度のコールの後に繋がった。

 

『もしもし?』

「あっ、ああ、有紗ちゃん、たっ、たた、助けて……」

『ひとりさん? いったいどうしたんですか?』

「……あっ、あの、なっ、なぜかロッキンジャポンに出るって誤解されて、ほっ、ほほ、放課後に全校生徒の前で演奏することに……」

『……なぜ、そんな状況に?』

 

 有紗が電話に出てくれたことに、心底ほっとした表情を浮かべたあと、状況を知らない有紗に対しひとりはたどたどしくことの経緯を説明していく。

 上手いとは言えない説明ではあったが、そこは流石有紗というべきかすぐに正確に状況を察してくれた。

 

『……なるほど、話は分かりました。ひとりさん、喜多さんに変わってもらえますか?』

「あっ、はい。喜多ちゃん、有紗ちゃんが喜多ちゃんに変わってって……」

「もしもし、有紗ちゃん……えっと、これ、不味いわよね?」

『かなりよくない展開ですね。いいですか、文化祭ステージとは違い全校集会の場、盛り上がる土台ができていませんし、空気も違います……そのままおふたりだけで演奏をしても高確率で失敗します。ですがおそらく話を聞く限り、広まってしまった誤解をすぐに解くのは難しいでしょう。幸い放課後まではある程度時間があるので、いまから言うことを実行してください』

 

 喜多も有紗のことはかなり信頼しており、その有紗が「高確率で失敗する」と断言したことで、状況が本当によくないことを察して顔を少し青くした。

 そんな喜多に対して、有紗は対策を説明していく。

 

『場所は、文化祭ステージに使った場所とのことですから……プロシェクターは間違いなくあるはずです。まず、生演奏に関してはすぐに先生方などに話して断ってください。ドラムとベース不在では満足な演奏ができないとか、生演奏は本番にとっておくとか、そんな感じで……そして、代わりにプロジェクターに接続できるノートパソコンもあるはずなので、最近撮ったばかりの星座になれたらのMVがありますよね? 動画サイトに公開されていますし、それを流す形でお願いしてみてください』

「わ、分かった。とりあえず生演奏は避けて、動画を見てもらう感じにするのね……」

『ええ、星座になれたらは文化祭ステージでも演奏した曲ですし、馴染みやすいのでしょうし、一先ずはそれで乗り切ってください。とにかく生演奏はほぼ確実に失敗するのでそれだけは絶対に避けてください。誤解に関しては、後でゆっくりといても大丈夫です』

「……わかったわ」

 

 喜多に対して一通りの指示を終えたあと、電話は再びひとりに戻される。

 

『ひとりさん、不安に感じる気持ちは分かりますが、まずは落ち着いてください。いまから、対策を説明するので、その通りにやれば大丈夫です』

「……あっ、有紗ちゃん」

『まず絶対にしてはいけないのは、場の空気を盛り上げようとすること、ボケに走ろうとしたり空気を変えようとしたりするのはNGです。その辺りは喜多さんに任せて、ひとりさんは基本的に話を振られた際だけに発言するようにしてください』

「あっ、でっ、でも、私……事前に文を用意してないと、まともには……」

『大丈夫です。おおよそ、ひとりさんに対してどんな質問が振られるかは想像できますので、ロインで質問と回答例を送っておくので、その通りに答えれば大丈夫です』

 

 有紗の言葉を聞いてひとりはようやく表情を明るくした。絶望的だった放課後の集会に微かな希望が見えてきたように感じられたから……。

 

(やっ、やっぱり、有紗ちゃんに相談してよかったぁ。有紗ちゃんが解答例を用意してくれるなら、それを放課後までに暗記すれば答えられるし、全校生徒の前で演奏とかって事態も避けられる感じで……たっ、助かったぁ。うぅぅ、本当に有紗ちゃんは頼りになるし優しいし……好きだなぁ)

 

 

****

 

 

 結果を語るならば、臨時全校集会はなんとか上手く乗り切ることができた。プロジェクターを用いて流した曲も好評であり、ひとりも緊張しまくってはいたが、事前にしっかり有紗のアドバイスを受けたおかげで無難にコメントを行うことができた。

 大盛り上がりとまではいかなかったが、それでも事故のような雰囲気になることもなく、誤解されつつも無事に乗り切ることができた。

 

 そして、その日の夕方、STARRYに有紗が顔を出すとひとりが勢いよく飛びついてきた。

 

「あっ、有紗ちゃん!」

「ひとりさん……とっ、今日は大丈夫でしたか?」

「あっ、有紗ちゃんのおかげで、なんとか乗り切れました……ほっ、本当にありがとうございます。おかげで、学校生活が終わらなくてすみました」

「上手く行ったようなら、本当によかったです」

 

 人見知りのひとりにとって、地獄のようなイベントだったこともあり、それを無事に乗り切れた解放感から有紗に甘えるように抱き着いており、有紗は微笑みながらひとりを抱きしめて軽く頭を撫でる。

 

「……ただ、喜多さん。ロッキンに関する誤解は、早めに解いておいた方がいいと思いますよ」

「うん。クラスメイトにも協力して貰って、早めに解いておくわ……本当にありがとう。最悪全校生徒の前で大スベりしていたかと思うと、ゾッとするわ」

 

 喜多も全校集会の空気を思い出し、あそこで大失敗していたらどれほど冷めた空気になっていたのかを想像して、思わず身を震わせた。

 ともあれ、有紗のおかげでひとりと喜多が大きな事故を起こすこともなく、概ね学校全体からは好意的に応援されることとなった。

 

 なお余談ではあるが、勢いで抱き着いたひとりを有紗が簡単に離すわけもなく、そのまましばらく抱きしめて頭を撫でており、やって来た虹夏がキツネ顔を披露していたのは言うまでもないことである。

 

 

 




時花有紗:的確なフォローで大事故を回避。それはそれとして、ひとりが抱き着いてきたのは役得なのでしばらく堪能した。

後藤ひとり:即有紗に電話というファインプレー。おかげで、原作であった台風の日より冷めた空気の全校集会は回避された。ちなみに、原作では祝福の個別ロインは無かったのだが、ABコンビを始めある程度クラスメイトとも交流があることで、結構お祝いの言葉は貰っていたりする。

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