6月に入りましたが、未確認ライオットのステージ審査まではまだ1ヶ月以上あるため、じっくり練習を積んでいくことになります。
幸いネット審査を好成績で通過したこともあって、皆さんのモチベーションも高いのでいい感じですね。スタジオ練習の様子を眺めつつ、物販の収支を纏めていると練習が終わったみたいです。
「よし、今日の練習終わり!」
「お疲れ様です~」
皆さんが片づけを始めたので、私もテーブルの上に置いていた物販関連の品をしまって帰る準備を行います。今日はスタジオの予約の関係で、夕方の6時と休日としては比較的早い時間に練習が終わりましたね。
「あ、伊地知先輩いいカフェ見つけたんですけど、この後……」
「リョウ、貸した漫画絶対明日持って来てよ!」
「……善処する」
簡単に片づけを終えた私は、同じくギターを片付け終わったひとりさんに声を掛けようと近づきます。
「……あの、皆でカフェ……」
「ひとりさん、まだ早い時間ですし、どこかに寄って帰りませんか?」
「あっ、そっ、そうですね。どこか……」
するとひとりさんに話しかけたタイミングで、喜多さんが何かを言いかけた気がしたので、首を傾げつつ喜多さんの方を振り向いて声を掛けます。
「喜多さん? どうかしましたか?」
「……女子高生感が足りない」
『うん?』
喜多さんが呟いた言葉に私とひとりさんだけでなく、帰ろうとしていた虹夏さんとリョウさんも首を傾げます。とりあえずそのまま喜多さんの言葉を待っていると、喜多さんはグッと拳を握り噛みしめるように告げます。
「毎日毎日、学校練習バイトの繰り返し! たまには女子高生っぽいことしましょうよ!!」
「……あっ、こっ、これ、キラキラ欠乏症では?」
「そういえば、前もありましたね」
ひとりさんの言葉に、春前の一件を思い出しました。言われてみればここの所、ネット審査の呼びかけを行ったりといった作業もあり、喜多さん的にはキラキラが足りていない状況なんでしょうね。
「たまには練習終わりに皆で意味のない街歩きとかしたいんですよ! 夢に向かって頑張るためには、人並みの青春も犠牲にしなきゃいけないんですか!? この一瞬プライスレスですよ! キラキラきららしたくないんですか!?」
「……したい!」
「……ちょっと、虹夏?」
熱く思いの丈を語る喜多さんに、意外にも虹夏さんが反応しました。リョウさんが戸惑いの表情を浮かべていますが、虹夏さんは喜多さんと同じようにグッと拳を握って口を開きます。
「……私ね。最近気づいたんだ……正直、私、最近さ……ぼっちちゃんに女子高生力負けてない!?」
「えっ、えぇ、そっ、そこで、なんで、私?」
「いや、99%有紗ちゃんのおかげだってのは知ってるけど、それでもぼっちちゃんはプリクラ撮ったりカフェ行ったり、女子高生っぽいことしまくってるじゃん! それに比べて私は……」
「伊地知先輩、分かります! そうなんですよね。最近ひとりちゃんのキラキラが凄いんですよね! 9割9分9厘有紗ちゃんのおかげですけど!!」
「……あっ、すっ、凄く馬鹿にされてる気がしますけど……否定できないです」
まぁ、言われてみれば虹夏さんはバイトに家事に練習と忙しく、あんまり遊んでいる感じはありませんね。いえ、もちろんリョウさんと遊んだりはしているのでしょうが、本人的にはキラキラが足りていない様子です。
リョウさんはなんとも面倒臭そうな表情を浮かべていますが、虹夏さんが喜多さん側に回ったことでもう流される覚悟を決めたのか、どこか諦めている様子でした。
「……とりあえず、落ち着いて話を纏めましょう。つまり、おふたりの希望としては?」
「街歩きしましょう!」
「喜多ちゃんに賛成!」
「なるほど、でしたら遠出する時間はありませんし、下北沢を軽く回りますか? ひとりさんとリョウさんもそれでいいですか?」
「あっ、はい」
「……はぁ、しょうがない」
元々私とひとりさんはどこかに寄ろうと話していたところでしたし、リョウさんもしぶしぶといった感じで同意してくれたので、皆で下北沢を周ることに決まりました。
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下北沢を周ることになり、いつも向かう駅とは違う方向に移動してきました。主に下北沢の地理に明るい虹夏さんとリョウさんが案内してくれる形です。
最初は喜多さんの要望もあり、カフェに向かうことになりました。
「下北沢は音楽、演劇、アート、サブカルチャーの発信地。店も個人経営が殆どだから、自分好みの店に出会えると思う」
「若者多いですけど、渋谷とかとは違ったタイプの人たちですよね」
リョウさんが軽く説明を入れながら歩き、喜多さんが楽し気に頷きます。リョウさんはそう言ったサブカルチャーに造詣が深いので、普段より口数が多く説明をしています。
「有名バンドを輩出したライブハウスも沢山あるし、バンドマンにとっても憧れの街」
「サブカル好きなら一度は住んでみたい場所かもねぇ」
リョウさんの言葉に虹夏さんも同意しつつ話すのを聞きつつ、私は自然とひとりさんと手を繋いで歩きます。あまり頻度は高くないとはいえ、実はこちらの方の通りにも何度かひとりさんと一緒に来たことがあるので、多少は知っています。
「あちらの洋食店には前に行きましたね」
「あっ、そっ、そうですね。ハンバーグが美味しかったです」
「……え? ふたりとも結構こっちの方に来てるの?」
「たまに練習終わりにデートしていますので、ある程度は知ってますね」
「でっ、デートじゃなくて! 練習終わった後、一緒にご飯に行ったり、かっ、買い物したりしてただけです!」
「……いや、それ完全にデート……まぁ、いいや、いつものことだし」
どこか呆れたような表情を浮かべつつ虹夏さんがため息を吐くと、丁度そのタイミングで目的のカフェに辿り着きました。
キラキラに飢えていた喜多さんは、目を輝かせて本当に楽しそうです。
「お洒落な店内、可愛い店員さん……テンション上がるわ~! 店内のインテリアもセンスありますし、お店の中に雑貨屋さんも入ってるのが素敵ですよね!」
「喜多ちゃん楽しそうだね~」
輝くような笑顔で写真を撮っている喜多さんを見て微笑ましく感じつつ、私はひとりさんと一緒にメニューを見ます。
「ひとりさんは、どれを食べますか? 私はこの辺りが気になるんですが……」
「あっ、有紗ちゃんオレンジ好きですもんね。わっ、私はベリーのケーキにします。まっ、また一口交換しましょうね」
「ええ、是非」
「……いちゃついてるのはいつもの事として、予想外にぼっちちゃんがカフェ慣れしてる感じがするんだよなぁ。そこそこ有紗ちゃんと一緒にカフェ行ってるな、この子……」
実際虹夏さんの予想の通り、ひとりさんとカフェに行く機会はそれなりに多いです。一緒に買い物などに出かけたりして時間がある際や、食事をするほどお腹が空いているわけでは無い際などに、カフェがあれば立ち寄ることが多いですね。
ゆっくりと会話を楽しみながら、ひとりさんとの時間を堪能できるのでとても楽しい時間です。
注文を終えてケーキと紅茶が届くと、やはり喜多さんは写真を取り始めました。何度も角度を変えつつ、納得のいく1枚を撮影しようとしている様子です。
私たちはそこまで拘りはないので、さっそく食べ始めます。私はオレンジのレアチーズケーキを注文しました。爽やかな味わいがとても美味しいです。
「ひとりさん、はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……あっ、美味しいですね。有紗ちゃんも、どうぞ」
「ありがとうございます。ベリーのケーキも美味しいですね。甘酸っぱいソースがいいですね」
「えへへ、ですね。美味しいですよね」
ひとりさんと互いに一口ずつケーキを食べさせあって微笑みます。もちろん普通に食べても美味しいケーキですが、こうしてひとりさんと美味しさを共有できるとより一層美味しく感じるから不思議です。ひとりさんの方も同じように考えていてくれたら嬉しいですね。
「……こっ、このふたりは、本当に数秒目を離すと……」
「虹夏、このタルトも頼んでいい?」
「なんで私に確認? 明らかに奢らせようとしてるよね?」
「……ありがとう。虹夏は、優しい、好き」
「……」
ひとりさんとケーキを食べていると、なぜかリョウさんが虹夏さんに関節技を極められていましたが、いったい何があったのでしょうか?
写真を撮り終えた喜多さんも、少し困惑している様子です……まぁ、虹夏さんとリョウさんは仲がいいので、じゃれ合っているようなものではありますが……。
「喜多さん、いい写真は撮れましたか?」
「うん! やっぱりお洒落な店は映えるわ~」
「それならよかったです。とはいえ、出発の時間も遅めだったのであまり時間をかけると他を周る時間が無くなりますよ?」
「あ、そうだった。この後も古着屋とか回る予定だし、時間をかけすぎても……うぅ、雑貨屋とかもじっくり見たかったんだけどなぁ」
「その辺りは次の機会の楽しみにとっておきましょう」
なにせ今回は散策開始が夕方6時だったので、そこまでたくさん時間があるわけではありません。特にひとりさんは家が遠いので、遅くまでというのは難しいでしょう。
まぁ、それに関してはいざ遅くなった場合は私の家に泊ってもらえれば問題はありません。幸い明日も休みですし、それも手としては有りです。
とはいえ、なんの準備もなく宿泊も大変でしょうし、普通に帰れるのが望ましいのは事実です。もちろん私の気持ちとしてはひとりさんに泊って欲しいですが、それはまた次の機会でも問題ありません。
「あっ、有紗ちゃん? どうしました?」
「ああ、いえ、あまりに遅くなるようなら家が遠いひとりさんはうちに宿泊しても……と思いましたが、さすがにそこまで遅くなることはないでしょうし、準備無しで泊まるのも大変でしょうから、次の機会にと考えていました」
「あっ、そっ、そうですね。着替えとかいりますしね……でっ、でも、いざ終電に間に合わなくても、そんな風に有紗ちゃんが家に泊めてくれると思うと安心感があります。あっ、迷惑かけちゃうのは申し訳ないですけど……」
「ひとりさんがうちに来ることを迷惑などと感じることなど、ありえませんよ」
「えへへ、そっ、そう言ってもらえると、ちょっと照れますけど……嬉しいです」
こうして些細な会話でもすぐに互いに笑顔になれるのは、本当に幸せなことですね。ひとりさんと顔を見合わせて笑い合い、美味しいケーキと共にしばしの雑談を心から楽しみました。
時花有紗:結構スタジオ練習終わりとかにぼっちちゃんとデートしているので、割と下北沢の店には立ち寄ってたりする。
後藤ひとり:JK力が高まっているというか、有紗とよくデートしているおかげかカフェ慣れしていたりと、女子高生らしいことをよくしている。本当に数秒目を離すと有紗といちゃつき始める。
伊地知虹夏:原作では喜多の要望に渋々従ってた感じだが、今作ではぼっちちゃんのキラキラ具合に、なんとも言えない敗北感を覚えていたこともあってむしろ乗り気だった。頻繁にチベスナ顔を披露しているが、なんだかんだで、結構リョウといちゃついてる気もする。